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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


時間を売る男
▼オープニング 草間興信所にて
−依頼者−
木村もとか

−依頼内容−
娘のさやかがもう1ヶ月、家に帰ってこない。普段から夜遊びが激しく、帰らないことが頻繁にあったので、はじめの数日は放っておいたのだが、いくらなんでも・・・と思い携帯に電話をしたが、電源が切れているらしく全く繋がらない。
唯一証言したのは、さやかの親友あゆみで、最後に会った日、さやかは渋谷駅を黒いタキシードの男と歩いていたという。
警察に捜索願いは出したが、まったく動いてもらえない。どうかさやかを探し出して欲しい…

「そういえば…」
依頼者の話をまとめた用紙を見ながら、草間はつぶやいた。
「最近、渋谷駅に現れる『時間屋』ってヤツがいるって聞いたな…」
草間が聞いた噂によると、渋谷駅近辺でタキシード姿の若い男が『あなたは時間が欲しいですか?お望みならば、私があなたに時間を差し上げましょう』と声をかけてくるのだと言う。
そして欲しいと答えると、時の狭間に連れ去られてしまうらしい――。
「まさかとは思うが、何人か調査に向かわせるか…」

▼調査開始〜キーパーソンはあゆみ
「草間はん、おる?」
草間興信所の扉を勢いよく開けて、赤毛の若者が顔をのぞかせた。
「獅王(しおう)。いつも言ってるが、もうちょっと静かに入ってこい」
「ははは、堪忍な!」
もう新しくない建物なんだから、と文句を言う草間武彦に、獅王と呼ばれた若者は豪快に笑った。
若者の名は、姓を獅王、名を一葉(かずは)という。
背は高く、髪も短い。全体的にスレンダーで、着ている服も男性ものをメインに売っているメーカーのものだ。
一見して男性に見えるが、一葉はれっきとした女子大生である。
「で、何の用だ?」
「今日は、予定よりもだいぶ早く実験が終わってん――せやから顔出してみたんや」
疲れたようにソファに腰を沈め、タバコをくゆらせている草間の正面に、一葉も腰を下ろした。
一葉は某国立大学の薬学部の2回生である。
普段から授業を真面目に受けているのだが、その中でも何より実験が大好きなのだ。
「ったく、今日は来客が多いな…」
運がいいのか悪いのか、と草間はうめくように低くもらす。
当然、それを聞き逃す一葉ではない。
「ん?なんか依頼が入ったん?」
「まぁな…人手は多いほうがいい、獅王も行くか?」
「まぁ内容にもよるけど…」
草間から依頼内容のメモを受け取り、ざっと目を通す。
読み終えて、一葉は膝を叩いた。
「よし、うちも行くわ。このあゆみって娘に聞いてみる。さやかはんの写真とか、あらへん?」
「それなら直弘が持っていった」
「ああ、榎真も動いてるんや」
知人である直弘榎真(なおひろ・かざね)の名を聞いて、口の端に笑みをのせる。
「なら携帯で連絡とりながら、調べるとしよか」
そうして、一葉は草間興信所を出発したのだった。

ところ変わって、S高校の正門前。
門のあたりを一望できる電柱に寄りかかり、一葉はあゆみを待っていた。
探し人の顔も学年もわからなかったが、そのへんを歩いていた美少女を捕まえて聞いてみたら、運のいいことにあゆみのクラスメイトだったので、連れてきてくれるように頼んだのである。
先程からジロジロと視線を浴びせられているのは、気のせいではないはずだ。
目立つ容姿をしているし、女子校の前なので『彼女が出てくるのを待つ美少年』くらいのことは思われているに違いない。
もっとも、慣れているから気にしない一葉なのだが。
しばらくして、派手な黄色に髪を染めた少女が一葉に近づいてきた。
「アタシを探してるのって、あんた?」
警戒心をむき出しにして、睨むように一葉に視線を送っている。
「そや。うちは獅王一葉いうねん。あんたがあゆみはん、やね?」
「っていうか、何?」
あくまで態度を変えることなく、厳しい口調であゆみは訊いた。一葉は肩をすくめ、
「木村さやかって娘のことで、聞きたいことがあるんやけど」
「…さやかのお母さんに頼まれたか何かッ?」
さやかの名を出したとたん、少女の顔がさらに険しくなった。
「ちゃうちゃう。さやかとはクラブで知り合ったんやけど、風のうわさでいなくなったって聞いてな」
冷静に一葉は口から出任せを言う。話の前後のつじつまは合わないが、あゆみなら気付かないと咄嗟(とっさ)に判断した。
「ああ、池袋の『ブラスト』ね。あたしもさやかも、よく行くんだ」
予想通り、あゆみはいくらか落ち着いた様子だ。
「なに、さやかのお母はんがどないしたん?」
「…さやかのこと、探偵か何かを雇って探してるって聞いたから」
一葉の質問にも、先程より素直に答えるようになった。ここぞとばかりにいろいろ情報を引き出そうと、一葉が口を開きかけたとき、携帯が鳴った。
「なんやねん、タイミング悪いな」
小さく舌打ちして、一葉は通話ボタンを押す。もちろんあゆみに断るのも忘れない。
携帯を耳に当てると同時に、草間の声が流れてきた。
『すぐこっちに帰ってこい』
「は?草間はん、話が見えへんねんけど」
『直弘が渋谷駅で消えた』
「待ってや、こっちは今…」
一葉は、傍らで自分の携帯を取り出してメールしだしているあゆみを見て、逡巡(しゅんじゅん)する。
せっかく話を聞いてくれそうな雰囲気になったのに、ここでほったらかすわけにはいかない。
だが見ず知らずの娘よりも、知人であり友人でもある榎真がいなくなったことの方が、自分の中で大きなウェイトを占めた。
「わかった、すぐ戻る」
言って、あゆみには丁寧に謝罪し、一葉は草間興信所へと急ぐ。
途中、榎真の携帯に電話をしてみたが、何の音もしなかった。

▼行方不明の人々
草間興信所には、3名の女性と2名の男性が集まった。
木村さやかの家の調査から呼び戻されたシュライン・エマ。
さやかの通っていた高校の調査から呼び戻された獅王一葉(しおう・かずは)。
渋谷駅にて聞き込みをしていた四宮杞槙(しぐう・こまき)とボディーガードの佳凛(かりん)。
そして所長の草間武彦である。
「榎真がいなくなったっちゅーのは、どういうことやねん?」
友人の身を案じてか、苛立ちを隠せない一葉を、シュラインがなだめた。
「おちついて、一葉」
「あ、ああ…悪かったわ」
「あの…榎真様とは渋谷駅でお会いして、二手に分かれて『聞き込み』をしていたのです。でも、落ち合う約束の時間をすぎても、全然いらっしゃらなくて」
おずおずと杞槙が口を開いた。
それを聞いて、一葉は腕組みする。
「おかしいな。あいつ、時間は絶対守るはずやねんけど」
「それから大上も消息を絶ってる」
草間はため息とともに大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)の名を吐き出した。
大上は合コン好きな大学生で、今回のこの調査に参加していた1人である。
「いっぺんに2人も連絡が取れなくなるなんておかしいわよね」
シュラインも眉間にしわを寄せた。
ふたりとも携帯電話が全く反応しない。
呼び出し音や電話局のアナウンスが流れるのではなく、無音なのだ。
「いなくなったんは渋谷駅やゆうてたな。時間屋ってヤツの仕業ちゃうんか?」
「私も渋谷駅にいましたけど、それらしい人はどこにも…」
「それに、共に行動すると決めたあとでした。単独行動をなさるとは思えません」
暗い顔で杞槙は首を振った。それを佳凛が横から支える。
「大上さんも渋谷駅にいたのかしら」
「わからん。あいつは話を聞いたらさっさと出ちまったからな」
「とりあえず…わたしたちはわたしたちに出来ることをしましょう」
シュラインが一同を見回して言った。
「せやけど、シュラインはん」
「早いところさやかさんを見つけて、それからゆっくり時間屋とやらに会いに行けばいいわ」
「さやかがどこにいるか、わかったのか?」
草間の問いに、シュラインは目を伏せる。
「いいえ。でも、時間屋は関係ない可能性も大きいと思うの」
シュラインは、木村家で聞いてきたことを簡単に説明した。
母子家庭で、最近では全く親子の会話もないこと。
それどころか顔すら会わせない日々が続いていたこと。
「そら、家に帰りたくもなくなるわなぁ」
呆れたように肩をすくめる一葉。
「たしかに、あゆみも母親のことを警戒しとった。あゆみが匿ってる可能性もあるな」
「なるほどな。それで、居場所は?」
「たしか、池袋の『ブラスト』っちゅうクラブに、よく行っとるらしいわ」

▼エピローグ
一葉の情報を元に、シュライン、杞槙、一葉の3人は『ブラスト』へ向かった。
そこで運良くさやかを見つけ、家へ帰るように説得したが、少女は応じなかった。
「なんだか後味の悪い事件ね」
クラブを出たところでシュラインがため息をつくと、あとの2人も無言で同意する。
「ま、調査結果はありのままを伝えるしかないでしょうね」
母と娘がもう一度やり直せるかどうかは、今後の本人達次第だというわけだ。
しかしシュラインが、母親が会社を休んで、体調を崩しながらもさやかの帰りを待っていることを伝えたとき、ほんの一瞬だがさやかの表情が変わったように見えた。
まだチャンスは残されているのかもしれない。
「結局、時間屋さんは関係なかったんですね」
ポツリと杞槙がつぶやいた。
『時間屋』の噂には続きがあって、心の底から時間を欲している人しか、時間屋には出会えないのだという。
ティーン向けの雑誌で、おもしろおかしく紹介されていたのを覚えていたあゆみが、とっさに嘘をついたらしい。
「私はどう頑張っても会えないでしょうね」
シュラインは苦笑を浮かべた。今持っている時間だけで十分だと考えるシュラインは、決して時間屋に会うことはないだろう。
「せやな。過去も未来も、もちろん現在も、大事な自分だけのもんや。他人にどうこうしてもらう気はないわ」
「そうですね。私も、現在がいちばん大事ですから」
一葉も杞槙も、笑顔で続けた。
「さて。行方のわからなくなった男性陣を探すとしましょうか」
どちらが依頼人で探偵なのかわからない、と苦笑しつつ、3人は歩き出す――かけがえのないの現在を…。

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■      登場人物(この物語に登場した人物の一覧)     ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0365 / 大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)
                    / 男 / 300 / 大学生 】
【 0294 / 四宮杞槙(しぐう・こまき)
                 / 女 / 15 / カゴの中のお嬢様 】
【 0115 / 獅王・一葉(しおう・かずは)
                   / 女 / 20 / 大学生 】
【 0231 / 直弘・榎真(なおひろ・かざね)
             / 男 / 18 / 日本古来からの天狗 】

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■              ライター通信             ■
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お待たせいたしました。『時間を売る男』担当ライターの多摩仙太です。
今回の依頼は、冒頭の草間のセリフが、皆さんを惑わす結果となったのではないでしょうか。
ただ、その中でも的確に事件の中枢を見抜いているカタがいましたので、興信所のお仕事としては成功だと言っていいと思います。
今回はそれぞれの個別パートが大部分をしめています。
ですので他の方の作品に目を通していただけると、また発見があると思います。お暇なときにでも読んでみて下さいませ。
それでは、また別の依頼で会えることを願いつつ、今回はこのあたりで失礼させていただきます。

▼獅王一葉様
初めてのご依頼、どうもありがとうございました。
関西弁はまったくわからないので、きちんとした言い回しになっているかどうか不安ですが、気に入っていただければ幸いです。
もっと榎真くんと絡ませたかったのですが、それはまた次の依頼で。
個人的に、一葉のようなタイプのキャラは動かしやすいので、すごく気に入ってしまいました。
それではまた、次の依頼でお会いしましょう。