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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


極問島【攻防編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『極問島』――。
 旧家である木藤家に『今夜、木藤真早紀(きとう・まさき)の娘を殺す』という文面の脅迫状が届いたことを知り、各々情報収集に向かった一行。ある者は木藤家へ、またある者はその他の場所へと。
 木藤家では未亡人、木藤巴(きとう・ともえ)が一行を出迎えた。座敷に上がり、3姉妹から事情を聞くが、肝心の脅迫状は長女の春奈(はるな)が燃やしてしまっていた。
 一方木藤家以外へ向かった者も、各々情報を得ていた。有益無益は分からないが。
 民宿『海龍』へ戻った一行は、得た情報を交換し合う。その時、空には黒い雲が広がり、急速に発達した低気圧が接近しつつあった。春の嵐だ。
 それでも時間は容赦なく過ぎてゆく。そう、犯行予告の時までさほど時間はなかった――。

●紙くず【1A】
 早苗が2階に上がった隙を見計らって、十三はゴミ箱に手を突っ込み丸まった紙くずを取り出した。先程早苗が捨てていたあれだ。
 破らぬよう慎重に紙くずを開いてゆく十三。その間に慶悟と沙耶が十三のそばへやってきていた。
「うん? おめぇさんも読みてぇか? 俺ゃあ構わねぇがな」
 十三は振り返りニヤッと笑った。どうやら3人とも、この紙くずが気になっていたらしい。
「まさか特売のチラシってことはないよな?」
 煙草を取り出しくわえる慶悟。
「まだその方が……」
 『いいです』、沙耶がそう言葉を続けようとした時、十三が声を上げた。
「こりゃあ……」
 十三の背後から、慶悟と沙耶が紙くずを覗き込んだ。しわくちゃになった紙に、新聞の文字を貼り付けて作った文章が書かれていた。
『再三申し上げていた通り、貴女の出生についてお話があります。前回指定した時刻、指定した場所へお越しください』
「痛いな」
 ぼそっと慶悟が漏らした。早苗が誰かに呼び出されているらしいことはこの文面でも読めるが、相手はともかく肝心の時間と場所が分からないのが痛かった。
「……でも。今こうして捨てたということは、今日明日という可能性が高いんじゃありませんか?」
 じっと紙を見つめつつ、沙耶が言った。
「かもしれねぇな。ちっ……やっぱあの嬢ちゃんにゃ、何かしらの秘密があったか」
「秘密だけならいいんだがな」
 十三の言葉が終わるか終わらないかの瞬間、慶悟が言った。
(だが、それが悪い方へ出ると困り物だ)
 そんなことを思いながら、慶悟は煙草に火をつけた。
「おい、嬢ちゃん。あの嬢ちゃんを、よーく見張っといた方がいいぜ。何があってもおかしかねぇからな、この状況じゃ」
 十三は何かを嘲笑うかのような笑みを浮かべた。こくんと頷く沙耶。
「絶対誰も死なせません……!」
 沙耶は拳をぎゅっと握りしめた。

●木藤のおじさん【3A】
 夜8時。その日の夕食の場は、嵐のような外の様子とは違って静かであった。いや、各人の口数が少ないこともあるのだが、それより何より人数が少ない。翔と美桜、そして慶悟がこの天気の中を出かけていたのだから。どうも3人とも木藤家へ向かったらしい
「悪ぃな。勝手に食材やら何やら使っちまってよ」
 椀物をすすりながら十三が早苗に謝った。
「いえ、こちらこそ今日も夕食のお手伝いをしていただいたんですから。あのくらいどうってことありません、どうぞお気になさらないでください」
 早苗はそう十三に答えた。そんな早苗の顔をじっと見つめている沙耶。
(似てる気がするけど……)
 気のせいなのかもしれないが、沙耶には早苗の顔は冬美のそれに似ているような気がしていた。早苗の父親は分からないし、ひょっとして……と思わないでもなかった。
「どうかなさいましたか?」
 沙耶の視線に早苗が気付いた。
「えっ? あ……こ、この菜の花の和え物、美味しいですねっ☆ ちょっとツンとくるけど……」
 小鉢の中の和え物を箸で一摘みする沙耶。口からでまかせではなく、本当にこれは美味しかったのだ。
「これは酒にも合いそうだ……」
 和え物をほかほかのご飯に載せ、桐伯は一緒に口に放り込んだ。
「後で作り方教えてやるぜ」
 ニヤッと十三が笑った。早苗が作ったのではなく、十三の手による物だったようだ。
「……そういえば、早苗さんにお聞きしたいことがあったんですが」
 箸を置き、将人が言った。
「何でしょうか?」
「島の方からお聞きしたんですけど、早苗さんのお母さまと木藤真早紀さんは仲が悪かったそうですね。その様子は、早苗さんから見ていかがだったんでしょうか?」
 単刀直入に尋ねた将人に視線が集中した。
「そうですね、仲は悪かったです。私がその場に居ても、喧嘩をしていた2人ですから」
 苦笑いを浮かべる早苗。仲が悪いのはとりあえず嘘ではないようだ。
「でも――」
 早苗は一旦口を閉じ、少し思案してから言葉を続けた。
「木藤のおじさん、私には何だか優しかったような覚えが……」
「そうなんですか?」
 口を挟んだのは沙耶だった。
「ええ。仲の悪い母さんの娘なのに、たまに島で2人きりになると、優しく声をかけてくれたり、チョコレートをくれたり……今はもう理由を尋ねることもできませんが」
 寂しそうに微笑む早苗。
(……なるほど、そういうことですか……)
 早苗の話を聞いていて、将人は何かしら感じる物があった。
「そーいや、早苗ちゃんって血液型は何型だ?」
 話を変えるかのように、十三が口を開いた。
「AB型ですが、それがどうかなさいましたか?」
「いやな、話聞いててつい娘のこと思い出しちまってよ。実は俺がRh−のO型でな。娘が産まれた時、酷ぇ黄疸が出てよ。ありゃ見てて可哀相だった……」
 しんみりと語る十三。どこまでが本当で、どこからか嘘か、それを知っているのは本人ばかりである。

●早苗の想い【5A】
 嵐のような風雨もだいぶ治まった、明け方早朝の民宿『海龍』。1階の明かりの消えた廊下を、音を立てぬようにして歩く人影があった。静かに静かに歩き、ようやく玄関先にたどり着いた時、不意に玄関に明かりがついた。
「こんなに朝早くから、どちらへ行かれるんですか」
 人影に対し静かに言い放ったのは桐伯だった。口を開くと同時に、物陰に隠れていたその姿を現した。次いで、階段に将人が姿を見せた。
「おはようございます、お早いですね……早苗さん」
 人影――早苗を見下ろし、にっこり微笑む将人。ゆっくりと階段を降りてくる。
「あ、居た!」
 奥の部屋から沙耶がパタパタと走ってきた。
「もうっ、何でこんな所に居るんですかっ!」
「嬢ちゃんよぉ、しっかり見張ってろつったろ?」
 台所からのっそりと出てきた十三が、呆れたように沙耶に言った。ちなみに十三、徹夜で朝食の仕込みをしていたのである。
「温泉は一緒に入りましたけど、おトイレまではさすがに無理ですよっ!」
 反論する沙耶。沙耶はずっと早苗に張り付いていたのだが、早苗がトイレに行くと言ったので、大人しく部屋で待っていたのだ。
「見張っていたんですか……私のこと」
 はっとして皆を見回す早苗。桐伯がそれに答えた。
「いえ、怪しい者が入ってこないか警戒していただけですよ。それにたまたま、早苗さんが引っかかっただけで」
 そう、桐伯は自らの能力を使い、今自分で言った通りの行動を行っていた。だが、まさか早苗が引っかかるとは思ってもみなかったのだが。
「どうして警戒なんか……」
 訝る早苗に対し、将人が言った。
「それはあなたの父親が分からないからですよ。恐らく皆さんも同じようなことを考えていたのでは?」
 他の3人を見回す将人。3人とも、何の反論も行わなかった。大きく溜息を吐く桐伯。
「……でしょうね。形は違えども、目的はどうやら同じのようだ」
「どういう意味ですか?」
 まだ飲み込めないのか、早苗が尋ねた。
「早苗ちゃんよ、まだ分かんねぇか? ひょっとしたらよ、あんたが木藤家の血縁じゃねぇかって思ってたってこった」
「そうです。冬美ちゃんと早苗さん、よく似てますし……」
 十三と沙耶が口々に言った。
「まさか……そんなこと……」
 否定するかのように頭を振る早苗。しかし将人が静かに言った。
「でもあなたも気にかかっていたじゃありませんか。どうして真早紀さんがあなたには優しかったのかと。本当は、あなたも何か感じていたんじゃありませんか?」
 夕食の場で、将人が感じたのはこれであった。
「でなきゃ、こんな明け方に得体の知れねぇ奴の居る所へ、のこのこと出かけやしねぇだろうしな」
 へっ、と笑う十三。驚いたように早苗は十三を見た。
「ごめんなさい、早苗さん。私たち、あの手紙読んじゃったんです……」
 沙耶が申し訳なさそうに謝った。
「私は……」
 ぽつりと早苗が言葉を漏らした。
「私は……別に誰が父親なのかはどうだっていいんです。でも……母があれこれ言われるのは嫌でした。幼い頃から……ずっと。何があったのかはもう分かりませんが、私の父は母が愛した人であることに違いはないんですから……だから……」
「だからといって、正体知れぬ相手に会いに行くのはどうでしょうかね。相手がきちんとしているなら、こんな時間に呼び出さず、昼間にでもここを訪れれば済む話なんですから」
 桐伯がきっぱりと言い切った。
「私もそう思いますよ。少々行動が軽率でしたね。どうでしょう、もう出かけられるのは中止されたらいかがですか?」
 笑顔で語りかける将人。早苗は顔を両手で覆うと、たちまちその場に泣き崩れた。
「早苗さん……」
 ぼそっとつぶやく沙耶。早苗の嗚咽がただ、その場に聞こえていた。

●謎のFAX【6】
 早苗の騒動が一段落した後、早朝だというのに民宿にFAXが送られてきた。
「お、定期連絡かぁ?」
 木藤家に居るはずの3人からの定期連絡かと思い、FAXを覗き込む十三。だが、FAXを見るなり眉をひそめた。
「何だこりゃあよぉ?」
 ひょいと沙耶が横から覗き込んだ。
「これ……出産時のデータみたいですよ。あ、冬美ちゃんの名前がある」
「誰がこんなのを送ってきたのか……さて」
 首を傾げる桐伯。少なくとも、この場に居る者たちには心当たりがなかった。
「ともあれ、見てみましょうよ」
 FAXの送信が終わり、将人が用紙を切り取った。
「あ、病院名に身長体重、血液型まで書いてる……」
 しげしげと見つめる沙耶。どうやらこのデータ、木藤家の3姉妹の出生時のデータのようだ。
「どれどれ……春奈がB、夏子もB、冬美がOか。あんたから聞いた情報と変わらねぇな」
 桐伯をちらりと見て、ニヤニヤと十三が笑った。そして一番下にもう1つデータがあることに気付いた。
「お、未亡人のデータもあるぜ。血液型は……はぁ?」
 ニヤニヤしていた顔はどこへやら。たちまち十三の顔が強張った。
「……O型ってどういうこった?」
 確か巴の血液型はB型ではなかったのか?
「どうやら……」
 将人が笑みを浮かべ、口を開いた。
「……山は越えたようですね。答えは見えてきたじゃありませんか」

●全てを終わらせるために【7】
 嵐も過ぎた朝9時。早苗を含む民宿に居た5人は、木藤家へ向かった。今日その場で、全ての真相を明らかにするために。
 昼には遺言状を持った弁護士も島へやってくる。それまでには全て片付けておきたかった――そう、全ての謎を。

【極問島【攻防編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0092 / 高御堂・将人(たかみどう・まさと)
                 / 男 / 25 / 図書館司書 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0413 / 神崎・美桜(かんざき・みお)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0416 / 桜井・翔(さくらい・しょう)
   / 男 / 19 / 医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。 】


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■         ライター通信          ■
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・極問島へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全14場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は、整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、『極問島』シリーズ第3回をお届けします。今はまだ多くを語りませんが、皆さんの行動のおかげでこの夜は被害者は出ませんでした。
・今回も情報は散らばっています。自分の行動の結果が、他の人の方へ流れていることもありますのでご注意を。あと、情報封鎖は全くありませんでしたのでご安心を。
・次回はいよいよラスト、完結編です。あなたの推理をプレイングに込めてください。推理に必要な情報は全て出してありますので、ご健闘をお祈りします。完結編で言えなかったことも含め、色々と触れたいと思います。それでですね、今回は個別のコメントが素っ気無く感じるかもしれませんが、今回は意識して抑えています。
・七森沙耶さん、5度目のご参加ありがとうございます。いいプレイングでしたね。ちょっとこちらの予定を変えることになりましたから。余裕があれば温泉の場面も書きたかったんですが、残念です。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また極問島でお会いできることを願って。