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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ミラーメイズ【SIDE−B】
▼オープニング
インターネットカフェ・ゴーストネットOFFは、平日の夕方だということもあり、学校帰りの少年少女などで賑わっていた。
「あれっ、久しぶりだね☆」
瀬名雫が、画面から顔を上げて手招きする。
「ちょっと、コレ見てくれるかなぁ?」
雫の前に設置されたパソコンの画面には、怪奇投稿フォームから送られてきた、様々な噂話が並んでいた。
ざっと目を通すと、似たような投稿が大部分を占めている。

『東京郊外にあるテーマパークに期間限定で設置されたアトラクション《ミラーメイズ》。
ここに入った子供が何人か行方不明になっているらしい』

「このアトラクションって、壁とか床、天井が鏡張りになっている迷路らしいの。でも、消えちゃうなんて絶対おかしいよねぇ?」
キラキラと期待に満ちた瞳で、雫は小首をかしげてみせる。
「さっきちょっと調べてみたんだけど、実際ニュースなんかでも取り上げられてて、大変みたい」
雫の説明によれば、最初の事件が起きたのは先週の日曜日。
その後も2件ほど同様に子供が消えていて、現在はミラーメイズは立入禁止になっているそうだ。
「中を覗いてみたら、何かわかるかも…だよね?」
そう言って、雫はテーマパークの入場券をチラつかせた。


▼だぶるでーと?
東京の郊外にあるテーマパーク・ワールドクラウン。
最寄り駅からの直通シャトルバスがゲートの前に停まり、少ないが平日にしてはそこそこの人数が降りてきた。
「よーっしゃ、遊びまくるぜっ☆」
長身長髪のワイルドな顔立ちをした青年が、のびをしながらバスから姿を現す。
記憶喪失の大学生、大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)である。
記憶がないといっても普段の生活にはほとんど差し支えがなく、アルバイトや合コンをしながら楽しく暮らしていた。
その隆之介に続いて、小麦色の肌に茶色い髪の少女が降りてくる。
「おにーさん、遊びじゃなくて調査に来たんだよ。わかってる?」
咎めるような口調だが、表情は明るい。少女は某公立高校の1年生、榊杜夏生(さかきもり・なつき)だ。
「そりゃ、わかってるけどさ。せっかくだから、めいっぱい遊ぼうぜ?」
いたずらっぽくウィンクする隆之介。
それを聞いて、長身痩躯、赤い短髪が印象的な女性が、隆之介の肩に手を置く。
「ってことは、もちろん大上はんの奢りなんや?」
獅王一葉(しおう・かずは)――国立大学薬学部の2回生で、男性的なファッションを好むのでしばしば男性に間違えられるが、れっきとした女性である。
「やー、得したなぁ、夏生ちゃん?」
「そうねー、姉御っ」
顔を見合わせてにっこり笑う女性陣に、隆之介は笑顔を崩さず答える。
「俺が誘ったんだから、そのぐらい当然だろ」
「…ところで、榎真くんは?」
きょろ、と夏生が辺りを見回した。
もう1人いるはずの連れ、直弘榎真(なおひろ・かざね)の姿が見えない。
「あ、あそこや」
一葉が指さした先にあるベンチに、榎真は憮然とした表情で座っていた。
肩をすくめて3人はそちらに歩み寄る。
「おい榎真…せっかくのWデートなんだから、楽しもうぜ」
あまり得意なジャンルの依頼ではないのに、半ばむりやりに連れてこられて、バスの中でも榎真は不機嫌だった。
学校帰りにはゲーセンによく行くし、決して遊ぶのは嫌いではないけれど――。
「Wデート?どういう組み合わせだか知らないけど、勝手に決めるなよ」
「そりゃあもちろん、うちと夏生ちゃん、榎真と大上はんがペアやろ?」
「おいおい一葉ちゃん、そりゃないぜ」
「はぁ…」
キッパリ言う一葉に、苦笑しながら抗議する隆之介と、深々とため息をつく榎真。
「調査するにしても、こんな日が高くちゃできないでしょ?だから時間まで遊ぼうよ、榎真くん」
服の袖をひっぱって夏生は榎真を立たせると、
「姉御、おにーさん、早く早くっ」
とふたりに向かって手招きした。
「よしっ、遊ぶで〜」
「おうよっ」
大学生コンビも嬉々としてそれに続いて入場口に向かった。


▼ひたすら遊ぶ人々
「キャーッ!!」
夏生がジェットコースターの最前列で、歓喜の悲鳴をあげた。
「ははは、コレもっとスピード上がらへんの?」
その隣では一葉が楽しそうに笑っている。
そして、その様子を下から見上げながら、榎真と隆之介はベンチでぐったりしていた。
「元気だな、あいつら…」
このメンバーの中では2番目に若いはずの榎真が、呆れたようにつぶやく。
「次はもうちょっと大人しいアトラクションにしよう…」
女性陣を喜ばせようとあれこれと計画を立ててきたが、ことごとくぶち壊されている隆之介も、いくらかげんなりした様子で同意した。
絶叫系アトラクションが苦手なわけではないのだが、たてつづけに『自由落下』したり『回転』したりで、すっかり参っている男性陣なのである。
「次は《UFO》とかいうのに乗るって言ってたぞ、榊杜が」
「げ…俺の計画ではこのへんで《フラワーイリュージョン》なんだけど」
「ダメだ…さっき食った昼メシが出そう」
「おい、俺は男を介抱する趣味はないぜ?やめてくれよ」
はぁ…とため息をついて、ふたりは上を見上げた。
「おーい、ふたりとも!次いくで!」
アトラクションから降りてきながら、一葉が手招きする。
「かーずはちゃん、次は《フラ…」
「おにーさん、次は《UFO》ね。榎真くんも次は乗ってよ」
言いかけた隆之介の腕をとり、引きずっていく夏生。
「しょうがねーな…」
微苦笑しながら榎真も3人を追った。

そして日が暮れるまで、全てのアトラクションを網羅する勢いで遊び倒した4人だった。


▼いい男は演出が命…?
さて、日暮れである。
いよいよ調査開始ということで、一葉と夏生は《ミラーメイズ》に近づいた。
当然、入り口にいる警備員が2人に気付いて、
「ここは立入禁止ですが」
と、厳しい視線を向けてくる。
口元に手を当てて、上目遣いで警備員を見上げると、夏生は後方を指さした。
「あの…さっきからあの人、おかしいんです」
「え?」
「気になったから見てたら、アイツ、いろんな女の人のことジロジロ観察しててな…園内で痴漢行為とかあったらまずいんちゃう?警備員さん、なんとかしてくれへんかな?」
一葉が言い添えると、しぶしぶといった感じで警備員は「はぁ」と応えた。
おそらくただのアルバイトなのだろう、どう見ても乗り気ではない足取りで、不審人物のほうへと近づいていく。
「今や、夏生ちゃん」
警備員が離れた隙に、ふたりは《ミラーメイズ》の中に潜入することに成功した。

一葉と夏生の姿が消えたことを確認して、不審人物こと隆之介はきびすを返した。
捕まらず、そして追跡をやめさせないような絶妙な距離を保ちつつ《ミラーメイズ》から離れていく。
「ちょっと、待って下さい」
警備員から声をかけられ、隆之介は真横に視線を投げかけた。
それを合図に建物の間に身をひそめていた榎真が、自らの『天狗』の力を使って風をおこした。
「うわっ!?」
風は砂を巻きあげて砂竜巻となり、警備員の視界を封じる。
そして隆之介と榎真もダッシュで《ミラーメイズ》へと潜入した。


▼鏡の中で
入り口付近で合流した4人は、調査を開始した。
背の低い夏生は、かがんで子供と同じ目線で『怪しいもの』がないかを探す。
「夏生ちゃんの強運には期待してるで」
「うん、まっかせて!…って言いたいところだけど、まだダメだなぁ」
夏生は人並みはずれた強運の持ち主なのである。
その隣では一葉が鏡に手を触れて、サイコメトリー能力――人や物に触れることで記憶を読みとる――を使った調査を開始していた。
ちなみに潜入前に外側に触れたときには、特別なことは何も感じられなかった。
「うーん…おかしいなぁ」
短い髪をかきあげて、一葉がため息をついた。
同じく残留思念をたどっていた榎真も首を傾げている。
「どうした、ふたりとも」
隆之介が問うと、ふたりは顔を見合わせた。
「淋しい、っていう感情しか感じられないんだよ」
「うちのほうも、なんや故意に物の記憶を封じられてるかんじや」
本来、楽しい場所であるはずのアトラクション内。
「淋しい…?」
オウム返しにつぶやく隆之介。
「ねぇ、みんな!ここ、おかしいよ!」
下方の鏡を探っていた夏生が声を上げた。
「ここだけ鏡が外れそうなの」
確かに、隠し扉ではないが、その部分だけ向こう側に開きそうである。
夏生がそっと押すと、鏡がギィと音を立て、大人であれば屈まないと通れそうにないくらいの小さな入り口が、ポッカリと姿を現した。
「行くか」
隆之介が先頭で、鏡の扉をくぐる。
「先輩、気をつけて…向こうは空気が変わってる」
「了解」
全員が入りきると、急に温度が下がった。
夏生が自分の肩を抱くようにして、不安げに辺りを見回す。それを見て、さりげなく隆之介が夏生の肩に手を置いた。
「…あれだ」
榎真が指さした先に、少女が1人立っていた。
金髪でフワフワのスカートをまとった少女は半透明で、明らかに人間ではない。
その足下にはいなくなった3人の子供達が倒れていた。
『おにいちゃんたち、誰?』
少女が問う。
「その子たちを連れ戻しに来たんだ」
隆之介が答えると、少女はホッと息を吐いた。
『よかった…』
「あなたは誰なの?」
逆に夏生が問うと、少女は悲しそうに首を振る。
『忘れちゃった…もうずっと1人でここにいるから』
「この子、残留思念だ…」
ささやくように榎真が言った。視線は少女から外していない。
『1人ぼっちだったから淋しくて…お友達を連れてきちゃったんだけど、みんな眠っちゃったの…私にはどうにもできなくて』
「じゃあ、この子たちは連れて帰ってもええんやね?」
『うん。いっぱい遊んでもらったから…』
一葉は素早く子供達に歩み寄ると、呼吸と脈を確かめた。
「大丈夫。衰弱しとるようやけど、生きとるわ」
隆之介も子供たちの元へ行き、ふたりを抱え上げた。のこりの1人は一葉が担当する。
「あんたはどうしたいんだ?」
榎真が尋ねると、少女は儚げに微笑んだ。
『もう逝くわ…これ以上、迷惑はかけられないし…』
しだいに辺りが明るくなって、少女の姿がどんどん消えていく。
そして気がつくと、そこには誰もいなくなっていた。
「なんだったんだろう…一体…」
ポツリとつぶやいた夏生の声が、迷路の中で反響した。

子供たちをサービスセンターに届けた後、一行はバス乗り場に向かって歩いていた。
トイレの中で子供が倒れていた、というのは苦しい理由だったが、あとは管理者サイドから各家庭に連絡をしてもらうしかない。
「それよりあの子、なんだったんだろうね…」
「たぶん、幽霊の類だったんだろうな…調べてみないとわかんねぇけど」
夏生と榎真の会話を聞いて、一葉と隆之介も続けた。
「なんにしても、聞き分けのいい幽霊で良かったなぁ。お子さまも助けられたし」
「だな。遊園地も楽しかったし、とりあえず調査成功ってコトで」
4人は顔を見合わせると、笑い合った。


▼お祭り騒ぎは終わらない
「はぁ?カラオケ?」
ワールドクラウンからの帰りのバスの中、榎真が素っ頓狂な声を上げた。
「そ。これから調査の打ち上げで、カラオケに行くわけだ」
ニコニコと、しかし有無を言わせない調子で隆之介が肯定する。
「あんたたち、あれだけ遊んでまだ遊ぶのかよ…」
「せっかくの機会なんだし、いいじゃない榎真くん」
雫へのおみやげであるキャラクターつきのクッキーの缶を膝の上に載せている夏生が、ため息をつく榎真に笑いかけた。
「だけどさぁ…」
なおも言いつのろうとする榎真。
そこへ――

すぱあぁん!

「痛てっ!」
背後から一葉のハリセンが榎真の後頭部を襲った。
どこに隠し持っているのかわからないが、ここぞというときに登場する『榎真専用ハリセン』である。
「男やったらグダグダ言わんと、ついて来んかい!」
笑みを浮かべながら言い放つ一葉に、隆之介は口笛を吹いた。
そして頭を抱える榎真の横では、夏生がケラケラと笑うのだった。

「さっすが姉御!」

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■      登場人物(この物語に登場した人物の一覧)     ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
             / 女 / 16 / 高校生 】
【 0115 / 獅王・一葉(しおう・かずは)
             / 女 / 20 / 大学生 】
【 0231 / 直弘・榎真(なおひろ・かざね)
             / 男 / 18 / 日本古来からの天狗 】
【 0365 / 大上・隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)
             / 男 / 300 / 大学生 】

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■              ライター通信                ■
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大変お待たせいたしました。
担当ライターの多摩仙太(たま・せんた)と申します。
今回の調査に参加していただけたことに、心から感謝しています。
この《ミラーメイズ》なのですが、たいへん嬉しいことに多数の方に参加していただけたので、勝手ながら2パターンに分けさせていただきました。
同じ事件を扱っていますが、完全にパラレルワールドでの出来事というかたちで作成させていただきましたので、興味があればそちらもご覧下さい。

【SIDE−B】のみなさんは、お誘い合わせのうえでのご参加、どうもありがとうございました。
直弘さんは3回目、大上さん獅王さんは2回目、榊杜さんは初めてのご依頼ですね。
4つのプレイングを上手く組み合わせたつもりなのですが、いかがでしょうか?
全体的に女性陣が強くて、男性陣は尻に敷かれているようなかんじで、私としてはとても楽しく書かせていただけました。
それから、ハリセンの出番はあのようなカタチで(ちょっと『ツッコミ』とは違うんですが)組み込んでみました。
もう少し文字数があれば、遊んでいる部分も書き込みたかったのですが・・・。

それでは、また別の依頼でお目にかかれることを願って、今回はこの辺で失礼いたします。
本当に、どうもありがとうございました。