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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


理想郷〜結界破壊〜前編

<オープニング>

「やはりこの日本を変えるには東京という都市を完全に沈黙させる必要があろう」
「となりますと、邪魔なのは東京全域の結界ですな。天海大僧正が作った結界だけあってこれがまた強固なものでして・・・」
「これのせいで東京という都市はいまだ守られているからな。愚民どもは気が付きもせんだろうが」
「これを一気に破壊するのは難しいですな。一つ一つ潰して参りましょう」
「ではまず鬼門を開放するとしようか」
「浅草寺ですかな?」
「うむ。十六夜。お前に任せる。浅草寺を破壊して参れ」
「はっ」
「リシェル、お前もお供せよ。邪魔が入るかもしれんからな」
「かしこまりました」

「なんだ、こりゃ!?」
 草間探偵所の主は驚きの声を上げた。。そのてにはプリントアウトされた一枚の紙が握られている。
「なんだって言われてもそう書かれただけですから・・・」
「何が『東京の鬼門が破壊される恐れあり 阻止されるべし』だよ。しかも依頼料前金で500万だぁ!?訳が分からん・・・」
 頭を抱える彼。確かにこれだけでは意味不明である。一体どうしろというのだろう。
「誰か意味分かる奴いるか?いるんなら受けてみろよ。金だけなら悪くないぜ。タチの悪い悪戯かもしれないけどな」
 そう言って主、草間武彦は煙草に火をつけるのだった。

(ライターより)

 難易度 普通
 
 予定締め切り時間 4/6 24:00

 理想郷シリーズです。
 今回は東京の鬼門を狙って七条たちが動き出します。狙いは浅草の浅草寺。もう一つの鬼門封じと言われている寛永寺は今回は無視してくださって結構です。浅草寺の破壊を阻止することが重要となります。襲撃は夜となりますので、少し時間があります、浅草寺の詮索などをなさるのも面白いかもしれません。まったく依頼解決に関係ないプレイングでも、私は問題なく採用させていただきますのでお気軽にお書きください。
 またシリーズと書かれていますが、私の依頼はほとんどが一話完結型なので初参加や途中参加はまったく問題ございません。七条などが分からなくてもお楽しみいただけるようになっております。そして戦闘主体とはいえ、単なる力押しだけではなく裏をかいたり邪魔をしたりと色々手段はあるかと思われますので、自由に行動してみてください。戦闘力がない方でもお楽しみいただけると思います。
 参加人数が多い場合は二部構成となる可能性がございますが、ご了承ください。
 それでは皆様のご参加をお待ちいたします。

<霊的結界>

「東京の鬼門と言えばたしか・・・」
 鬼門防衛の依頼を受けたとはいえ、肝心のその場所が分からなくては話しにならない。依頼を受けたものたちの中には、まずはそれを調べることから始めることにした。鬼門とは風水上で気や霊魂と通り道の事を指し、この場所から害意が侵入してくると考えられている。今は無視することも多くなったが日本の建築物でも、鬼門にあたる北東には玄関や手洗い、浴室などは作らないようにしていた。事が風水に関係する以上、ここは風水師に任せるのが最もふさわしいだろう。風水師の女性は机の上にしかれた東京の地図の上に羅経盤をおき、北東の位置を割り出した。この東京という都市は江戸と呼ばれていたころから強力な霊的結界に守られて繁栄してきた。北東の鬼門を防ぐための要石と目されるのは、神、もしく仏の守護が強力に働く神社仏閣。羅経盤が指し示した北東の神社仏閣とは・・・。
「浅草寺ね」
 風水師の白い指がその寺を指差す。浅草寺。浅草の顔とも呼べる巨大な寺院である。ここが狙われるというのであろうか。
「鬼門を破壊ねぇ・・・いたずらだったらいいけど・・」
 腕を組んで考え込む風水師。鬼門を破壊するということは、東京の霊的結界に風穴を開けて様々な怪異や妖の者たちの侵入を許すことになる。そうなればこの東京は滅びの道を歩ゆむこととなる。勿論東京の結界はこの他にも数多くあり、この程度で結界全てが崩壊することはありえないが結界にほころびが生じることは避けられないだろう。
「まぁ、依頼という形できているし、金も振り込まれてるんだ。調査だけでも行って来てくれよ」
 探偵所の主の言葉に、風水師はやれやれと首を振った。黒髪に黒い瞳と日本人風の顔をした女性。だかどことなく異国風の雰囲気を漂わせる彼女の名前は杜こだまという。中国からの留学生で、現在東京で風水師のバイトをしている。
「わかったわ。鬼門が破壊されたらこの地の龍脈になんらかしらの影響がでるかもしれないしね。調べてきてあげる」
 杜の言葉に、依頼を引き受けた者たちは頷き興信所を出て行くのだった。

<浅草観光>

 かつて東京が今だ江戸と呼ばれていた頃、東照大権現徳川家康の寵愛を受けた一人の僧がいた。天台宗の総禄司天海僧正である。黒衣の宰相とも呼ばれ、影で家康の天下統一をささえた彼は仏法はもとより、真言、風水、陰陽などの呪術にも通じ江戸全域に強力な霊的結界を張った。風水で吉相と呼ばれる四神相応の地、五色の力で守護する五色不動。そして鬼門封じの浅草寺(寛永寺という説もある)。その他にも神社仏閣が数多く立ち並び江戸から東京まで、この国の首都を邪なる力から守りつづけている。もしこれらの守護結界がなければ、東京という都市はとっくに妖の者たちに蹂躙されていたことだろう。だがいかにこの結界が強固であれ、それは人外の存在のみに有効なもの。人には効力を及ぼさない。結界を作り上げたのが人であれば破壊するのもまた人なのかもしれない。その結界の要である浅草寺を守るため、依頼を受けた者たちはここを訪れていた・・・はずであった。
「ナオナオ!あそこでお土産買おうぜ!」
「おう!皆に土産買っていかなきゃな!」
 浅草寺に続く道、仲見世に元気な声が響き渡る。二人の少年がいつもながらに観光客で混み合っている中を、人をかき分けながら走って行く。どちらも背は高いが顔に少し幼さを残す高校生くらいの風貌の持ち主である。
「やっぱり浅草といったらこれだよな」
「ああ、雷おこ・・・」
 ベシ!バキ!
 少年は最後まで言葉を続けることができなかった。
「「痛てぇ〜!!」」
 見事に声をハモらせて頭を抱える二人。それも無理はない。土産物屋の木刀を見事にその高等部に食らったからだ。少年たちを殴り倒した物は手の中でその木刀を玩びながら彼らを睨んだ。
「お前達・・・。ここに何しに来た?」
 絶対零度の冷たさを持った声。二人は自分達の頭を殴った張本人を恨めしそうに睨み返す。
「あにすんだよ、夾!」
「そうだぜ。マジでイテぇ・・・」
 少年たちの抗議に眉一つそびやかさず、夾と呼ばれた青年は問い質した。
「二度も繰り返させるな。ここに何しに来た?」
「「観光」」
 ボガ!ドス!
 見事にハモった返答に見事に返される木刀の一撃。少年たちは再度頭を抱える。
「「痛ぇ〜!!」」
「違うだろうが。まったく、だから俺は嫌だったんだ・・・」
「そうよ!二人とも何考えているの!」
 青年の隣にいた少女が腰に手をあてて文句を言う。真っ赤な瞳が特徴的な高校生くらいの少女だ。
「浅草といったら花やしきよ!まずはジェットコースターに乗りましょう!」
「「そうか!!」」
「・・・・・・おい」
 まったく事態を理解していない高校生三人組に顔をひくつかせる青年、紫月夾。木刀を握る彼の手はプルプルと震えている。
「何だよ夾?何そんなに怒ってんだよ。カルシウム足りてねぇんじゃねぇか」
「そうっすよ。折角浅草に来たんだから楽しまなくっちゃ」
「そうよそうよ。大体真っ昼間から襲撃なんて仕掛けてくるわけないじゃない。今は遊ぶべきよ。それより貴方、木刀なんて持ってたの?」
 少女の問いにさしてつまらなそうな顔をして、
「ふん。適当にそこの土産物屋から拝借しただけだ」
 と言って木刀を土産物屋に返す彼。土産物屋の親父が嫌そ〜な顔をするがそんなことを気にする彼ではない。
「とにかく俺は付き合いきれん。一人で行動させてもらうぞ」
 紫月が踵を返そうとすると、彼の腕を掴んだものがいた。目にも鮮やかな赤毛の青年だった。上背は高いが細身で、儚げな顔をしている。
「なんだ暁臣。止めても無駄だぞ」
 暁臣と呼ばれた青年は紫月の言葉にふるふると首をふった。無表情で何も感じていないような印象を受けるが、紫月を見る彼の姿は飼い主にすげなくされ、耳と尻尾が垂れ下がった子犬のような哀しさに満ちていた。
「だめ・・・。一緒に」
「・・・・・・」
 しばし無言で考え込む紫月。先ほど彼に殴られた少年、九夏珪と直弘榎真はその光景を見て顔を見合わせて吹き出した。紫月が赤毛の青年柚木暁臣に弱いことを知っているのだ。
「・・・分かった。ただし一緒にいるだけだぞ」
 紫月は渋々柚木の言葉に従った。一見、相変らずの無表情の柚木は、しかし主人にかまってもらえることが分かり、耳をピンと伸ばして、尻尾をパタパタと振っている子犬のように嬉しがった。
「よし、話は決まったわね。じゃあまずは花やしきでジェットコースターに乗るわよ!」
「「おう!」」
「・・・おう」
 腕を高々と天に上げる高校生三人組と柚木。期せずして彼らの保護者役を押し付けられてしまった紫月は頭痛を覚えて額を手で押さえるのだった。

<妖の気配>

(あ〜あ。ナンか面白いことないだろか?)
 腕を後ろに組みながら小柄な少年が一人、浅草寺の仲見世のこれといったアテもなくぶらいついていた。これといった特徴のないシャツにジーンズ姿、やや長めの幾分痛んだ髪。十代後半くらいの幼さを残す顔つき。どこにでもいそうな高校生のような風貌である。だが、その印象を見事に裏切っているものがあった。その瞳である。
 翠の、エメラルドというよりは深い森の最も緑の濃い葉をそのまま用いたかのような瞳。日本人、いや他の国の人間でもまず見られないその濃緑の瞳は、さもつまらなそうに仲見世を行き交う観光客を見つめている。
(いつもいつもヒトばかり・・・。よくもまぁ、飽きないもんだ)
 彼は浅草寺の境内に近づくと、キョロキョロと辺りを見回した。そして適当な古くて大きな木を見つけるとそれに近づき、手を当てる。
(やあ、元気?)
(やあ、元気?じゃないわい。それが挨拶か!)
「うわぁ!?」
 彼は驚きの声を上げて、慌てて木から手を離した。突然少年が悲鳴を上げたので近くにいた人の視線が彼に集中する。そんなことに気付かず少年は嫌そうな顔をしてその木を見上げた。
(いやだなぁ・・・。爺さんだよ。避けちゃおうかな)
(何が避けちゃおうじゃ、この大馬鹿者が!どこの精かは知らんがまずは名をなのれ)
(卯月智哉だよ。そっちと同じの木の精だよ。キミこそ誰なんだ)
(わしはこの寺の古木の長老じゃ。まったく最近の若い者は礼儀を知らなくて困る)
(げっ、長老なの・・・)
 卯月はげんなりした。嫌な相手に捕まってしまったのだ。目の前にある巨木はどうやらこの浅草寺の木々の中でももっとも長く存在しているものらしい。木の精としてはまだまだ若い卯月にとって(そうは言っても彼も千年以上存在しているが)頭のあがらない存在なのである。
(ところでわしに何のようじゃ?)
(いや、別に用というわけじゃないんだけど・・・何か変わったことないかなぁって)
(変わったことか・・・。この頃は別に・・・、いやあるようじゃな。後ろを見てみなさい)
(後ろ?)
 長老の言葉に従って後ろを振り向いてみると、通りを歩く人間に中に異様な目つきの者がいた。黒いスーツを着た男なのだが、その視線がギラつき殺気を帯びている。また、その男が漂わす雰囲気もまた尋常では無い。冷たくねばりつくようなまるで妖の者の気配。
(あの男、 普通の人間ではないようじゃ。他の者も怯えておる。ここに何か敵意があって近づいているのかもしれんの)
(そういえば探偵事務所でここを破壊しにくる奴らがいるって・・・。あいつの事か?)
(ここを破壊するじゃと?どういうことじゃ?)
(実は・・・)
 探偵所で聞いた話を簡単にまとめて説明する卯月。
(なんじゃと!?そんな考えをもっておるのか?)
(まだ分からないけどね。とにかく僕はアイツの後を追ってみることにするよ)
 面白そうだし。と卯月は長老に聞こえないようにそっと考えた。いい暇つぶしができそうだ。
(うむ。頼んだぞ若いの。わしは軽軽しく人前に姿を表せんのでな)
(はいはい。僕に任せといて)
 軽くそう答えると、彼はいそいそと黒いスーツの男を追跡するのだった。 
 
<死ぬわけにはいかない>

 黄昏時の浅草寺。西の空に沈む太陽が寺を真っ赤に燃える焔の如く真紅に染め上げる。別名逢魔が時とも呼ばれ、妖の存在たちがその行動を活発化させる時刻でもある。正体は皆目不明だが、興信所の情報どおり敵が浅草寺を破壊しようとしているのであればこの時刻以降を狙うであろう。観光客の姿など仲見世を歩く人間の姿が少なくなってきた丁度その時、一人の少年が眼光鋭く辺りを見回しながら参道を歩いていた。
 しばらく歩いていると、急に横合いから服の袖を掴まれ彼はわき道に引きずりこまれた。
「だ、誰だ!?」
 慌てふためき懐から呪符を取り出すと、その手を押さえて彼を引きずりこんだ者はそっと耳元でささやいた。
「相変わらず隙だらけだな。それに力みすぎだ。それでは敵に俺は待ち構えているぞと叫んでいるも一緒だぞ」
 聞き覚えのある声。少年はほっと肩の力を抜きその者を仰ぎ見た。
「久我か」
 そう答えながら、思っていた以上に自分が敵を警戒して緊張していたことに気が付き苦笑する。
「また皆の足手まといにならんようにしてくれよ?雨宮」
「わかっている。二度はない」
 現役高校生でありながら陰陽師である雨宮薫は、同じ陰陽師である久我直親に静かに答えると、彼の前を歩き出した。そしてふと立ち止まると久我に振り向く。
「久我」
「なんだ?」
 しばしの沈黙。雨宮は目を伏せ、ポツリと漏らした。
「迷惑をかけたな」 
 以前の事件の事が脳裏に蘇る。両親の仇である男にいいように翻弄され大怪我を負わされた。その怪我に関しては仲間が癒してくれたので跡はほとんど残っていない。だが、心に残った傷はそう簡単に言えるものではない。宿敵に負けた事は彼のプライドを著しく傷つけたことだろう。だが・・・。
「俺は死なない。死ぬ訳にはいかない」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて彼は久我に話す。
「まだやる事もあるしな。お前にはまだ借りも満足に返せていないのに死ぬつもりはないさ。そうだろう?」
「当然だ。死ぬのなら今いる敵を全て倒してから死んでくれ。そうでないと残される俺達が大変だからな」
「ああ」
 あっさりとそう答えて再び歩きだす雨宮を見て、久我は微笑を浮かべた。
(成長したものだ・・・)
 以前の彼であればもっとピリピリしていて、こんな軽口を言い合う余裕など無かった。陰陽の名家天宮家の後継者として、そのプレッシャーと戦いながら常にこうあるべきと片意地を張って生きていた。人見知りも激しいし、滅多に心を許さない孤高の少年だった。その心は硝子細工のように脆く儚いもののように見えた。だが、今の彼は少しでも前向きでいようと以前より明るく振舞えるようになった。まだまだ不器用だが、これからが期待できるかもしれない。
(隼人・・・、男子三日逢わずば克目せよというが、本当の事らしいな)
 久我は雨宮の守役の顔を思い浮かべなから、この不器用な弟分がせめて一人前になるくらいまでは見守ってやろうと心に決めるのだった。

<十六夜現る>

 遂に日も暮れ、辺りが闇に包まれた頃、浅草寺の雷門前に一人の少女が風神、雷神像を見上げてぼんやりと見上げていた。
「この風神様と雷神様ってごーちゃん達に似てるね。ごーちゃん達の方が可愛いけど今日はがんばらなくっちゃ!もちろん夜刀にも期待してるからね」
(おう!任せときな)
 まるで誰かに話し掛けるような口調で話す彼女。周りにほとんど人影はない。では彼女は誰に話し掛けているのであろうか。
(アレだな。ここって江戸城の鬼門避けに作らせたヤツだろ?)
「流石夜刀だね。物知り♪」
 少女は無邪気な笑いを右腕に持つ薙刀の刃へ向けた。それはこの浅草寺を包み込んでいる闇よりも尚暗き漆黒の刃であった。そう彼女は薙刀の刃と話しているのである。より正確に言えば、刃に化けている鬼となのだが・・・。
「でもなぁ・・・。皆とも会えずに一人でここを守るのってちょっと自信ないなぁ」
 依頼を受けた者たちと昼間にここで合流するつもりだったのだが、あまりの人ごみに押し流され、完全に彼らを見失っていた。身長153cmと小柄な彼女には少々辛い場所であったかもしれない。
(そんな心配そうな顔すんな。俺が守ってやるからよ)
 式鬼の励ましに、少女は破顔する。
「うん。有難う夜刀」
 一瞬、黒いはずの刃がポッと赤くなったように見えたのは見間違えかそれとも・・・。
「お〜い」
 遠方から呼びかける声に気付いた彼女は、辺りを見回した。すると浅草駅の方向から見知った顔の者たちが近づいていることに気がついた。
「あ〜!珪さんじゃないですか。こっちです〜」
 手をパタパタ振りながら合図する彼女。やがて彼女の顔を視認できる位置まで近づくと、九夏はやっぱりといった表情で頷いた。
「そうだ。やっぱり雛ちゃんだ。どうしたの?一人かい」
「ええ、昼間から皆さんの事探していたんですけど見当たらなくて・・・」
「御免。俺達花やしきに行ってたから・・・」
 そう。九夏たちは先ほどまで花やしきに行ってジェットコースターなどで楽しんでいたのだ(若干一名嫌がっていた者もいたが)。幾ら探そうとも見つからないはずである。
「え〜!?珪さんたち花やしきに行ってたんですか?いいなぁ・・・」
 羨ましいそうに話す高校生の篁雛。有名私立校に通っているからといってやはり遊びたい盛り。花やしきに一緒に行けなかったことは残念だったのだろう。
「悪りぃ、悪りぃ。雛ちゃんが来てるなんて知らなくてさ」
「どうでもいいが、そろそろ無駄話を止めて寺に行かないか?敵はもう近づいているかもしれんぞ」
 紫月が顔を顰めながら高校生グループに告げた。柚木のお願いで我慢しているが、正直これ以上お気楽組に振り回されるのは御免である。そのことが顔と口調からにじみ出ている。
「そうだな。そろそろいかなきゃな・・・」
「悪りぃけど皆先に行っててくれるか。俺はここで待つ」
 突然の直弘の言葉に他の者たちは驚いて彼を制止した。
「な、何言ってんだよ!敵は一人じゃないかもしれないんだぜ!」
「そうよ。一人で複数の敵を相手にするなんて危険すぎるわ!」
「直弘さん、どうしたんですか!?」
 一人黙ってそのやり取りを聞いていた紫月は直弘のその闇夜でも輝きを失わない赤瞳を見つめて言った。
「そうか。それでいいんだな?」
「ああ、先に行っててくれ」
「分かった。お前がそうしたいのならそうするがいい。行くぞ」
 クルリと踵を返して浅草寺に向かう紫月。
「ち、ちょっと・・・!いいんすか!?」
「いいも何も奴が自分で選んだ事だ。好きなようにさせてやれ」
 普段と同じ、ひどく素っ気無い口調で淡々と答えると紫月はさっさと歩みを進める。他の者たちは二人を見比べて少し悩んだものの、渋々紫月の後を追う事にした。
「無茶すんなよ、ナオナオ」
「危なくなったらすぐ逃げてくださいね」
「ああ。分かってるよ。サンキュ」
 雷門に一人残る直弘。時計は11時を回り12時の時刻を指そうとしている。周りに人影はまったく見当たらない。ひっそりと鎮まりかえった雷門前。すると・・・。
「いい加減出てきたらどうだ?こそこそしてないでよ」
「ふん、まさか小僧、お前一人で我々を止められる気ではあるまないな?」
 直弘の言葉に答えるようにヌッと闇の中から姿を表す謎の一段。黒装束を纏っているため、その姿はほとんど闇に溶け込んでおり、かろうじて露出している顔の一部分からその存在を知覚することができる。
「文句あるかよ?てめぇらなんざ俺一人で十分だぜ」
「大した自信だな。だが、お前ごときと戯れている暇などない。そこをどけ。さもないと・・・」
「さもないと?」
 面白そうに答えを促す直弘。その答えは強烈な殺気だった。冷たく鋭い、身体を突き刺すような気。普通の人間がこんな気を浴びていたらあまりの息苦しさに倒れてしまうだろう。
「てめぇら、その気配・・・。ただの人間じゃねぇな」
「貴様が知る由も無いこと。・・・やれ」
 黒装束の者たちが一斉に構える。その姿を見て直弘の顔には不敵な笑みが浮かぶ。
「面白しれぇ!やってみせてもらおうじゃねぇか!」

 浅草寺前の広場には紫月たちとこちらも黒装束の者たちが対峙していた。
「やはり来たか。九条の者ども」
 九条家。それは陰陽師の一族であり、この日本を呪術に作り変えようと陰謀を張り巡らせている一族でもある。謎の組織「会社」のバックアップを受けて各地で破壊活動を行っているようだが、紫月たちは彼らと何度か対峙していた。
「退けとは言わん。ここで死ね」
 聞き覚えのある声が聞こえてきた。かつて国会議事堂などで敵対していたあの男の声。
「確か十六夜だったよな。懲りないおっさんだなぁ。俺達にかなうはずねぇだろ」
 余裕の九夏。確かに国会議事堂などではこの連中を何度も排除してきた。目の前にいる黒装束の男たちは総勢十数名。確かにこちらが退けるだけならそれほど苦労はいらないだろう。
「何も知らぬとは哀れなことよ」
「何?」
「お前らなど既にもののかずではないわ。殺せ」
 一斉に身構える黒装束の者たち。すると横合いの木から一人の青年が現われた。
「気をつけたほうがいいよ。そいつらは人間じゃない」
「なんだと・・・?」
 月明かりが差し込み、やがて顕わになった幾分くたびれた眠たげな顔。卯月であった。彼は仲見世付近で見つけた妖しげな男たちをずっと追跡していたのだ。人間にしては妙に妖気が強いのが気にかかっていたのだが、これで得心がいった。彼らは人間ではないのである。古木の精である彼には、人や物の放つ気を感じることができる。
「どういう理由か知らないけど、こいつらの持つ気配は完全に妖の者だ。人間が放てるものじゃない。人間に化けてるか、それとも・・・」
「若造。よく分かったな。そうとも、我々は既に矮小なニンゲンなどとは違う。より強靭な身体、魔力を手にしたのだ」
 十六夜は誇らしげに語るとその瞳を爛々と輝かせ、紫月たちを睨みつけた。
「今まで受けた我らの屈辱、今こそ晴らしてくれる。死ぬがいい。愚かなる者達よ・・・」
「下がっていろ、暁臣」
 紫月の言葉にコクリと頷いて、彼の背中に隠れる柚木。
「あんたたちなんかより、不人のほうがよっぽど強いわよ!覚悟しなさい!」
「参ります!」
 氷無月は魔法を唱え始め、篁は漆黒の刃持つ薙刀を構える。浅草寺の死闘は幕を切って下ろされた。 
<人ならざるモノ>
 
「紫電!」
 漆黒の翼を生やした直弘は強烈な電撃を放った。本性である天狗の姿になった直弘の紫の電撃は、宵闇を切り裂き黒装束のモノたちを打ちのめす。
「・・・・・・」
 だが、明らかに常人ならば完全に黒コゲになっているはずの電撃を暗いながらも黒装束のモノたちはまったく表情を変えず近づいてくる。
「な、なんなんだよ、こいつら!」
 彼らの身体には先ほど直弘が放った鎌鼬による裂傷も負わされているというのに、まったく苦痛を覚えることも無く、平然として行動を続けている。まるで痛覚がないかのように。
「や、やばいな・・・。攻撃が通じないんじゃ・・・」
 ついに黒装束のモノたちに取り囲まれる直弘。多勢に無勢。このままではやられてしまうかもしれない。そう彼が思ったその時。
「西方の守護者にして猛き獣白虎よ!四神の力示し、愚かなる者たちを退けよ!」
 白く美しい毛に包まれた一頭の虎が黒装束の者たちに突進し、その爪と牙で彼らを薙ぎ払った。白銀の月に照らし出され、鮮血が飛び散る。やがて動く者はいなくなり、黒装束の者たちは全て地に倒れ伏した。
「こいつは・・・」
「随分と弱気じゃないか。お前らしくもないな直弘」
 白き虎、白虎を伴って現れたのは雨宮と久我であった。
「お前らさっきからずっと黙って見てただろ!なんですぐに助けねぇんだよ!?」
「ふ、何、お前の見せ場を奪ってしまうのも悪いと思ってな」
 口ではそういいながらも、まったく悪びれた素振りも見せずに久我は黒装束の者たちに近づいた。完全に事切れているらしく、ピクリとも動かない。
「やはり九条家の者か」
「だが、そいつは普通じゃないぜ。俺の電撃と鎌鼬を喰らってもまったく悲鳴を上げねぇ。一体どうなってやがんだ?」
「さあな。ただ普通の人間じゃないことだけは確かなようだな」
 先ほど白虎に襲いかかられた時も、彼らはまったく悲鳴を上げなかった。慌てふためく様子も無かったし恐怖を感じていなかったようにも見える。
「一つはっきりと言えることはこの連中が人間をやめていることね」
 風水師である杜は三人にそう告げた。浅草寺の調査などを行っていたが、それを破壊しようとする彼らを見て狂っているとしか考えられなかった。
「この浅草寺が破壊されたら、東京に気の乱れが生じ、魑魅魍魎たちが侵入しやすくなるわ。勿論これだけでいきなり東京が終わりになるということはないでしょうけど、連中がこれで終わりにするとは思えないもの・・・。でも東京が滅びるということはこの日本という国自体が崩壊することに繋がるわ。その災いは必ず自分たちにも降りかかってくるはず。敵が普通の人間ならね」
 杜はブルッと肩を震わし、まだ見ぬ敵の陰謀に恐怖を感じた。彼らはこの日本を魑魅魍魎の跋扈する暗黒の世界に変えるつもりなのだろうか・・・。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0516/卯月・智哉/男/240/古木の精
    (うづき・ともや)
0030/杜・こだま/女/21/風水師
    (もり・こだま)
0054/紫月・夾/男/24/大学生
    (しづき・きょう)
0380/柚木・暁臣/男/19/専門学校生・鷲見探偵事務所バイト
    (ゆずき・おきおみ)
0231/直弘・榎真/男/18/日本古来からの天狗
    (なおひろ・かざね)
0368/氷無月・亜衣/女/17/魔女(高校生)
    (ひなづき・あい)
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
    (くが・なおちか)
0183/九夏・珪/男/18/高校生(陰陽師)
    (くが・けい)
0436/篁・雛/女/18/高校生(拝み屋修行中)
    (たかむら・ひな)
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
    (あまみや・かおる)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 理想郷〜結界破壊〜前編をお届けいたします。
 今回は17名ものお客様にご利用いただき、満員御礼の状況となりました。誠に有難うございます。よって今回は二部構成とさせていただきました。今だ交戦中に黒装束の連中とは何者なのか、こちらには現れていないリシェルはどうしたのか。それらの疑問は後半で解き明かされることになると思います。楽しみにお待ちください。
 この作品に対するご意見、ご感想、ご要望、ご不満等ございましたら、テラコンよりお気軽にご連絡いただければと思います。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。