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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


屋上に佇む女性
●屋上で見た影
 とあるコンビニで帰宅途中の女子学生が寄り道していた。
「ねえねえ、これみてよ! 屋上から飛び降りる幽霊、だって!」
「こっわーい☆」
 彼女たちの手にしているものはもちろんあの『月刊アトラス』。きゃあきゃあと騒ぐ女子学生の横をずかずかと歩いていくのは深月明(ふかづき・あきら)。パン一つとボトル一本を手にし、会計をすませた。明はこれからバイトなのだ。

 バイトが終わった静かな夜。明は自転車を走らせ、帰路に向かう。と、明の視線の端に何かを捕らえた。明かりの消えたビルの屋上に女性がいるのだ。
『駄目っ!!!!』
 明の声なき叫びがその場に響き渡る。それに女性は気づき、明の方を見た。しかし、それだけだった。女性は悲しそうな表情を浮かべた後、ゆっくりとその体を宙へと投げ出したのだった。急いで明は女性の落ちた場所へと走って向かう。
「何も‥‥ない?」
 女性の落ちた場所、静まり返ったアスファルトには血一つ落ちていなかった。
 ふと、明はバイト前に聞いた言葉を思い出す。屋上から飛び降りる幽霊がいると。
「でも‥‥何故、懐かしいと思うの?」
 訳がわからないといった表情を浮かべながら、胸にわき上がる感情を無視することは出来なかった。初めて見たときから感じた懐かしいという気持ち。とぼとぼと帰る明をビルの屋上から見送る女性の影が‥‥その女性の目元は明にうり二つだった。

●明の過去
 ここはとあるマンションの一室。その応接間で二人はいた。
 一人は深緑のブレザーを着ている高校生、明。もう一人は髪を金色に抜いた背の高い痩身の青年、真名神慶悟(まながみ・けいご)だ。
「飛び降りを繰り返すのはそれだけ思いが強く残っているからだ。‥‥だか、このままでは現世に縛られたまま居続けることになる。放っておく訳にもいかないだろう?」
「はい‥‥ですが、どうすればあの幽霊の飛び降りを止めさせられるか、私にはわからないんです‥‥」
 慶悟は明が目撃した幽霊を同じ場所で見ていた者の一人だ。慶悟はあの幽霊と明のことが気になり、こうして話を聞いていた。
「だが、あんたは何かを感じているんだろう?」
 その言葉に明は俯いてしまう。
「不安になるのも仕方ない。初めて幽霊を見たのならなおさらだ。その、出来れば力になりたいと思っている。これでも一応、陰陽師だから、な」
 そういう慶悟の言葉に明はやっと顔を上げた。
「あの‥‥あのとき、幽霊を見たとき、何故か懐かしいと思ったんです」
「懐かしい? じゃあ、過去に一度会っているとか?」
「いいえ、一度も会ったこと‥‥ないと思います」
「ご両親に似ているとかは?」
 幽霊の目元が明に似ていたこと。それは親類ではないのだろうか‥‥そう慶悟は思い、訊ねた。
「両親は知りません」
「知らないだって?」
「私、施設で育てられたんです。生まれたときに私の母は亡くなり、父は仕事で育てる余裕がないからと私を施設に預けたそうです。毎月僅かな生活費や教育費などが振り込まれること以外は会ったことも話したことも‥‥ないです」
 そういって淋しげに笑みを浮かべる明に慶悟は何も言えなくなってしまった。
「気にしないで下さい。もう慣れましたから。それに親戚もいないと院長先生から聞きましたから、親戚ではないと思います」
「そうか‥‥」
 これでは何も得られないのでは、と慶悟が思い始めたとき。
「あ、でも一つだけ‥‥私、施設に預けられるときに父から貰ったロケットのペンダントを持っているんです。これに両親の写真が入っているって。でも、物心付く前に壊してしまって‥‥ふたが開かなくなっているんです」
 そう言って明は首から下げたペンダントを取り出した。微妙に形が崩れているシルバーのペンダント。
「これを開ければ何か分かるかも知れないな」
 試しに開けようとしたが‥‥慶悟の力でも開けることが出来なかった。
「ふうん、私がシャワー浴びている間に何だか親密になったようだね」
 そこに現れたのはこの部屋の住人、新条アスカ(しんじょう・−)だ。タオルを肩にかけ、きちんと着替えている当たり、少しは客に気を使っているようだ。
「で、何を話していたんだい?」
 冷蔵庫から缶ビールを取り出し、飲み始めるアスカ。
「明にはあの幽霊のことを全く知らないようだ。けれど懐かしいと思うところがあるらしい」
「何だかそれって厄介な話ね‥‥」
 アスカは慶悟の言葉に眉を潜める。
「帰ったぞ!」
 と、そこへ外で調査していた高坂仁(こうさか・じん)が戻ってくる。仁がもたらした情報とは‥‥幽霊が目撃された場所で昔、交通事故があったという事実だった。

●待ち受ける異形
 その後、目撃談の多い夜に明を含めた慶悟達四人は、幽霊の現れるビルにたどり着いた。今はもう使われていないらしく、寂れた感のする建物だった。
「いかにもって感じよね‥‥」
 建物を見上げ、思わず呟いてしまうアスカ。
「‥‥気を付けた方が良さそうだ‥‥」
 慶悟はいち早くその異変に気づいたようだった。懐からおもむろに札を取り出している。
「明、これを。『結界符』だ。これを持っていればお前を守ってくれる」
 慶悟はそのうち一枚を明に手渡した。
「あ、ありがとうございます‥‥」
 それを受け取り明は礼を述べた。
「ちょっと、私もか弱い女性なんだか‥‥」
「‥‥そうだな」
 アスカにも明と同じ札を手渡す慶悟。
「アスカには何もなくても敵が避けていくんじゃな‥‥うぐっ!!」
 アスカが仁のみぞおちにキツイ一撃をお見舞いした。仁はその場でうずくまっていた。
「さ、いきましょ」
「え、あ‥‥は、はい‥‥」
 アスカに肩を掴まれ、明はそのまま建物の中へと入っていった。

 建物の中は‥‥慶悟が気づいた通り、異形の巣と化していた。
「ひっ‥‥」
 ヘビのようなものや、獣のようなもの、それに時代劇に出てくるような落ち武者までいた。思わず明の口から恐怖に引きつった声が漏れる。
「さすがに‥‥全てを相手に出来る数ではないな‥‥」
 慶悟も眉を潜める。相手である異形は両手で数え切れないほどになっていた。しかも徐々に数を増やしてきているようにも思える。
「あそこに階段がある‥‥突っ切って一気に駆け登るっていうのはどうだ? もちろん、一番隊はあんただからな」
「おまえって、いつも面倒なことは俺に押しつけていないか? アスカ?」
「そうか? 私はあんたが適任だと思っただけだが? それに‥‥あんたのその腰に下げているものは飾りかい?」
 にっと笑みを浮かべるアスカに仁は苦虫を咬んだような顔をした。仁の腰には見事な太刀を帯びていた。
「‥‥わかったよ、やればいいんだろ? やれば‥‥そこの兄ちゃん、二人を頼んだぜ」
「ああ、任せろ」
 慶悟は仁の言葉に頷いた。
 仁は一人、異形の前に立ち、すらりと太刀を抜く。白光りした刃が艶やかに暗闇の中、鮮やかに映える。キッと仁の瞳が細められる。
「キシャアアアアアア!!!」
 異形が堪らず、奇声をあげた。
「ったく、うるせぇな‥‥。ちったあ、黙れよな。お前は俺の‥‥敵だろう?」
 刀を横にした上段の構えから。
「鳳燐流、心滅っ!!」
 ひゅんと、風を斬る音を聞いた。
「ギャアーーーーー!!!!」
 目の前にいた異形がなぎ倒され、消えた。そこにあるのは無防備にさらされた階段のみ。その場にいた四人は一気に走り出し、階段を登っていったのであった。

●屋上で知るもの
 屋上へと出る扉を開け、飛び込んだ四人は、やっと息を落ち着かせた。そこにいるのは目的の幽霊、一人だけ。何故か人が近づこうとするのを拒むような、そんな不思議な雰囲気を持っていた。
「ほら、声をかけてごらんよ」
 ぽんと明を前に押し出すアスカ。それは慶悟も同じ気持ちであった。
「で、でも‥‥何を言えば‥‥」
 その明の躊躇がいけなかった。
 幽霊はそのまま飛び降りる体勢になっていた。
「笛の音!?」
 突然、美しい旋律が鳴り響く。幽霊の動きが止まった。と、同時に。
「駄目ぇええええ!!!!」
 どっかーん!!!
 突然現れた少女にタックルされる幽霊。そのお陰で幽霊は屋上の縁から遠くへと運ばれた。そのタックルをした少女も落ちそうになりながらも、何とか堪えたようだ。
「これ以上飛び降りても意味ないですっ!! お話しましょ!!」
 少女は月をかたどった杖をびしっと構えつつ、そう叫んだ。
「ところで‥‥あんたは?」
 アスカは突然の訪問者に困惑しながらも尋ねる。
「ボクは冬野蛍(ふゆの・ほたる)。そこにいる幽霊さんを助けるために来たんだよ☆」
 どうやら、この幼い少女、蛍も四人と同じ目的のために来たようだ。その言葉に皆は顔を見合わせたのであった。

 幽霊はそっと起きあがり、蛍を加えた五人を見つめた。
『やっと来て下さったのですね』
 黒く艶やかな髪を僅かに揺らしながら、幽霊の女性は口を開いた。
「やっと来ただと? お前の真意はなんだ? それが分からなければ、お前だけでなくこの明も苦しむことになる」
 慶悟は明をすぐに守れるよう、隣に位置しながら諭すかのように幽霊に訊ねた。
「私の患者もおちおち気になって治療に専念出来ないんだ。教えてくれたって構わないだろ?」
「そうです! ボク達、あなたの力になりたいと思って来たんですから」
 アスカも蛍もそう付け加えた。
「私も‥‥あなたの力になりたいから‥‥聞かせて欲しい。あなたの想いを‥‥」
 そう前に出てきた明に、幽霊は眩しそうに微笑んだ。
『あなたに会えるなんて思ってもみなかったわ。大きくなったのね、明』
 幽霊はそう言って右手を明の方へと向けた。かちりと何かか外れる音が響く。
「え!?」
 外れたのは明のしていたペンダント。ロケットのふただった。そこには目の前にいる幽霊とうり二つの女性と笑みを浮かべ、女性を後ろから抱きしめる青年の写真が見えていた。明は目を見開き、ロケットの写真と幽霊を見比べる。
『私の名は八城あかり(やしろ・−)。明の母です。それに‥‥皆さんのご存じの通り、私は既にこの世には存在しておりません』
 あかりはなおも続ける。
『私は‥‥私に気づいてくれる力のある方に大切なことを伝えるために、ビルから飛び降りたり、建物に異形を呼び寄せたりしました‥‥でも、正直なところ、あなたを巻き込ませたくなかったわ、明‥‥』
「‥‥‥」
 今にも泣き出しそうな表情で見つめる明。
『皆さんに聞く権利があると同時に、拒否する権利もあります。聞いたからと言ってどうなるというわけでもありません。ですが‥‥関わるというのでしたら、命の保証はいたしません。‥‥それでも私の願いを‥‥私の言葉を聞きますか?』
 あかりの言葉を聞かないということ、それはいつまでもここにあかりを留まらせることに他ならない。それにあかりの言葉を聞けば、命の保証がないことに巻き込まれることにもなるかもしれないのだ。
「ここに来たのも何かの縁。乗りかかった船だし、とことん付き合ってあげようじゃない」
 アスカはため息混じりにそう告げた。
「それで成仏するというのなら、いたしかたないな」
 慶悟も覚悟を決めたようだ。
「ボ、ボクも聞きますっ‥‥」
 緊張した面もちで蛍も言う。
「決めるのは俺達じゃないだろ? お前がこいつの‥‥あかりさんって言ったっけ? 彼女の行く先を決めてやっても構わないだろう?」
 仁はそう言って明を見た。明は躊躇しているような素振りを見せたが、目を伏せ、そして前に出た。
「私‥‥聞きたいと思う。皆を巻き込むことになっちゃうけど‥‥でも、これ以上、辛そうなお母さんを見たくない、から‥‥」
『ありがとう‥‥。ではお話しましょう。青い日記に気を付けて。見つけたのなら、すぐに燃やして下さい。あれはこの東京だけでなく、世界を闇にする力があります。なんとしてでも悪しきものの手に渡らぬようにして下さい』
「そ、それだけ?」
 その内容に拍子抜けしたアスカが思わず訊ねた。
『はい』
「青い日記‥‥あのときも日記を探すようにって‥‥」
「明、何か知っているのか?」
「え、ええ。前に幽霊から頼まれたの、日記を取り返してって‥‥青い部屋のあるお屋敷で‥‥」
『それは、私の弟だわ‥‥そう、あの子も死んでしまったのね』
 淋しそうにあかりは目を伏せる。
「お母さん‥‥」
『さてっと役目も終わったし、そろそろ行かなくてはならないようね。そこのお兄さん、良ければ道案内お願いできませんか? 私一人では出ることが出来ないのです』
 その言葉に慶悟は。
「もういいのか?」
『ここに居すぎてしまいましたから。この建物の所有者さんにはとても迷惑をかけてしまいましたね』
「そうではなくて‥‥」
「明お姉さんのことは、もういいの?」
 蛍が慶悟の代わりにそう言った。
『私は既に死んでいます。明にはもう思い残すことはありません。それに‥‥向こうの世界でも明を見守ることは出来ますから』
 そう言ってあかりは微笑んだ。
「お母さん」
 明が呼び止める。
「‥‥会えて‥‥よかった。嬉しかったよ‥‥」
 つうっと涙が零れた。
『私もよ』
 そう優しく言い残し、あかりは慶悟の術により、あの世へと送られる。
 そして、その場にいた者全て、あかりが消えていなくなるまでずっと見送ったのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神・慶悟/ 男 / 20 /陰陽師】
【0499/新条・アスカ/ 女 / 24 /闇医者】
【0507/高坂・仁 / 男 / 25 /凄腕剣士】
【0276/冬野・蛍 / 女 / 12 /不思議な少女】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、ライターの相原きさ(あいばら・−)です。このたびは、依頼を受けて下さりありがとうございました。今回の物語はいかがでしたか? 今回は円満に解決がなされました。それでもなにやら何かお願いされましたけど‥‥本文にあるとおり関わるかどうかは皆さん次第となります。なお、この日記に関するお話は予定では後2話ほどで終わるつもりでいます。良ければ次回作にも参加して下さると嬉しいです。
 慶悟さんの描写はいかがでしたか? 明に話をして下さったお陰で、明の身の上が明らかにすることが出来ました。次回もこの調子で頑張って下さいね。
 もし、この物語を気に入って下さったのなら、良ければ感想を聞かせて下さい。楽しみに待っています☆ それと、私のHPにも以前の作品等掲載されています。良ければ下記のアドレスまで来てみて下さい。
http://members4.tsukaeru.net/kisa
 それではまた、お会いできるのを楽しみに☆