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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


鏡の中のアクトレス【調査編】
●オープニング【0】
「まずは何も言わずこれを見てほしいの」
 月刊アトラス編集長・碇麗香はそう言って2枚の写真を手渡した。
 写真には各々別の場所・別の人間が写されていた。だが2枚とも屋内の写真だ。
 屋内ということ以外共通していないかと思われた写真だったが、よく見ると1つ共通点があった。どちらの写真にも鏡が写っていたのだ。いや、それだけではない。問題は鏡の中だ。
 鏡の中に、寸分違わない髪の長い女性が写っていたのだ。
 ひょっとして撮影者が同じなのかとも思ったが、そうでもないらしい。1枚は北海道、もう1枚は九州から編集部に届いたそうなのだから。
 写真の撮影日は1枚は3年前、もう1枚は今年。時間が経過しているのに、全く同じ女性が写っているのはおかしくはないだろうか。まさか幽霊?
 しばらく見つめているうちに、重大なことに気が付いた。この女性、3年前に失踪した女優・麻生加奈子(あそう・かなこ)に似てはいないか?
「どうして失踪した女優が、こんな所に写っているのかしらね」
 それはこっちが聞きたいくらいだ。『あぶれる刑事』の女刑事役で人気が高まってきた時に突然の失踪。何とも不可思議だった。
 少し調べてみようか……?
 
●信憑性の有無【2B】
 平日昼間の図書館は、意外と人の少ない時間帯がある。調べ物するにはなかなかいい時間帯かもしれない。
 そんな時間帯に、シュライン・エマは大量の雑誌と格闘していた。机の上には女性週刊誌の山ができている。運んでくるのも大変だったが、後で戻すことを考えるとまた大変である。
「3年前……当時だと、やっぱり扱いは大きいわよねえ」
 ふうっと大きく溜息を吐くシュライン。細かい字を長時間見続けて、そろそろきつくなってきていた。
 3年前、加奈子の失踪当時には様々な雑誌記事が掲載されていた。失踪理由の推測から始まって、加奈子の交友関係、ドラマ『あぶれる刑事』の監督との交際の噂、そして薬物疑惑、エトセトラエトセトラ。まさに書いた者勝ちという様相を呈していた。当然のことながら、信憑性に関してはどこまで信じていいものか疑問はあるけれども。
「一休みしましょ……」
 雑誌を伏せて大きく伸びをするシュライン。それから頬杖をついて、あれこれと考え始めた。
(鏡の方からは期待できないし……うーん)
 図書館に来る前、シュラインは編集部で写真の持ち主の連絡先を教えてもらい、電話をかけて質問を行っていた。鏡が同じ物ではないかとか、カメラが同じではないかだとか。
 だが結果は芳しくなかった。写真の持ち主は全く見知らぬ同士で、もちろん加奈子との接点も見当たらなかった。鏡も地元で買った物でメーカーも違い、カメラも全然同じではなかった。つまり接点がまるで見られないのだ。ある意味誤算である。
(まさかただ写ってただけってことないわよねぇ……)
 ここまで何も見つからないと、そうも考えたくなってくる。ひょっとすると自分は意味のないことをしているのかもしれないし。
 シュラインは机に突っ伏し、しばらくそのまま動かなかった。考えがまるでまとまらない。
「これからどうしよ……」
 数分後、ようやく顔を上げてぽつりと漏らすシュライン。とりあえず雑誌は調べた。問題はそこからどう動くかだ。
(監督との交際の噂……あったわよねぇ)
 記事を思い返してみるシュライン。監督に会ってみると、何か別の手掛かりが見つかるかもしれない。なくて元々だ。
 シュラインは椅子から立ち上がると、雑誌の山を抱え上げた。

●冗談はそこそこに【3C】
「もしもし、武彦さん? ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
 図書館を後にしたシュラインは、携帯電話で草間興信所に電話を入れていた。もちろん相手は草間である。
「書類整理してた時に見たんだけど、確か『魔法少女バニライム』絡みの事件ってあったわよね?」
「ああ、あったな。何だ、特撮でも見たいのか? それとも魔法少女になりたいとか、な」
 からかうような草間の声。シュラインは軽くムッとしながらも、冷静に会話を続けた。
「……でね、その『バニライム』の監督が『あぶれる刑事』もやってたと思うんだけど。連絡先なんて分かるかしら?」
「ん? そりゃまあ、調べれば分かるだろうが」
「お願い、調べて! 用事があって、連絡取りたいのよ」
「……女優の売り込みか?」
 冗談とも本気ともつかぬ草間の声。
「違うわよ!」
 さすがにこれにはシュラインも一喝した。
 このように一悶着はあったが、調べてもらった結果、監督の連絡先は無事に分かった。シュラインはすぐさま連絡を入れると、会う約束を取り付けた。

●監督として【5】
 都内某所のマンションの1室にその事務所はあった。『オフィス内海』――昔は『あぶれる刑事』や『レンゾク』といった人気刑事ドラマを、今は『魔法少女バニライム』を手がけている監督、内海良司の事務所だ。
 その事務所に今、訪問者があった。応接室で内海と向かい合う訪問者たち。奥から順に高橋敦子、シュライン・エマ、美貴神マリヱ、御堂まどかの4人であった。
「まさか1日に同じ用件でこんなに来るとは思わなかった」
 苦笑する内海。風貌はスキンヘッドにサングラスと、ちと怪し気ではある。
「お忙しい中、失礼いたしました」
 さすが年長者らしく、敦子が頭を下げきちんと挨拶をした。他の3人もそれに倣う。
「いや、今日明日はちょうどオフだったんで。挨拶はこのくらいにして……さて、何が聞きたいのか話を聞くとしようか」
 両手を組み、内海は4人の顔を見回した。
「事務所の社長さんが、失踪前の麻生さんは悩んでいたと言っていたんですが、本当ですか?」
 メモを片手に、まどかが質問を投げかけた。
「ああ。確かに彼女は悩んでいたようだ。だが、それは演技に影響を与える物ではなかった。いいや、与えないようにしていた……と言うべきかな」
「与えないようにしていた、とは?」
 そう言ったのは敦子だった。
「彼女はプロの女優だったよ。体調が悪かろうが、怪我をしていようが、演技に入ればそんなことはおくびにも出さない。撮影で1年間一緒だったが、撮る度に演技は上達していた。『あぶれる刑事』のマナミ役を自分の物にした上に、それをさらに昇華させた。将来が楽しみな女優だった……」
 しみじみと語る内海。よほど内海にとって印象が強かったのだろう。
「ところで監督、この写真はご存知ですか?」
 マリヱが2枚の写真を内海に差し出した。例の加奈子が鏡に写っているあれだ。
「これは……加奈子か」
 サングラスを外し、しげしげと2枚の写真を見つめる内海。
「いや、加奈子だ。失踪当時のままの……」
 内海ははっとして写真から顔を上げた。
「ひょっとして加奈子が見つかったのか!?」
「残念ですけど、それはまだ……」
 首を横に振るシュライン。それを聞いて、内海は落胆した表情になった。
「そうか……見つからないか」
(何だろう、この感覚)
 まどかはその内海の様子をじっと見つめていた。内海のそれは、女優に対する監督の感情ではなく、また別の感情が入り込んでいるようにも思えた。
「何故かこうして鏡に写っているから、調べてるんです。悩んでいたって聞いて、現世が嫌になって異なる世界を望んだために鏡の世界へ行ってしまった……のかなと思ったんですけど。さあ、どうだか」
 苦笑するマリヱ。
「写真の撮影先では、うちの若い者が調査中ですわ。明日には報告が出ることでしょう」
 敦子が淡々と付け加えた。
「……失礼ですけど、構いませんか?」
 シュラインが小さく手を上げた。
「何かな?」
「失踪当時の週刊誌の記事を調べていたら、色々と記事が出ていました。例えば、監督との交際の噂……」
 シュラインが話し出した途端、内海の眉がピクッと動いた。
「……本当の所はどうなんでしょうか?」
「交際か……そんな噂もあったな」
「えっ、本当なの?」
 驚いてマリヱが声を上げた。
「残念ながら事実じゃない。だが、俺が加奈子に惚れていたのは真実だ」
「麻生さんに想いを寄せていたんですか?」
 尋ねるまどか。しかし内海は頭を振った。
「惚れていたのは、女優としての加奈子だ。女性としての加奈子じゃない。俺も監督生活がそれなりになるが、一生撮り続けたい、そう思わせた唯一の女優だよ。だからこそ、失踪したのが残念でならないんだ、俺は」
 内海がそこまで話した時、携帯電話の着信メロディーが鳴り出した。
「……と、失礼」
 懐から携帯電話を取り出す内海。
「はい、内海。あ、加奈子の事務所の。今、その加奈子のことで話を聞きに来たのが……え?」
 怪訝な表情になる内海。そして大声で叫んだ。
「加奈子が見つかったぁっ!?」
 その内海の言葉は、その場に居た4人にとっても衝撃だった。
「とにかく事務所へ……分かりました、すぐ行きます!」
 電話を切る内海。事情はよく分からないが、とりあえず4人もそれに同行させてもらうことにした。

●失われたアクトレス【6】
 『あぶれる刑事』の監督である内海良司と、その事務所に居た高橋敦子、シュライン・エマ、美貴神マリヱ、御堂まどかの4人は加奈子の所属事務所『タピオン企画』へ急行した。
 事務所へ着くと、困惑した表情の社長が5人を出迎えた。
「社長! 加奈子はっ!」
「それがその……」
 言葉を濁す社長。ともかく奥の部屋へ通される5人。奥の部屋へ行くと、神無月征司郎と寒河江深雪が複雑な表情でソファに腰掛けていた。その隣では卯月智哉が出されていた苺のショートケーキを食していた。
 そしてその3人の反対側に座っている髪の長い女性。白いワンピースに身を包んだその女性は、紛れもなく加奈子本人の姿であった。3年前の失踪当時とまるで変わったようにも見られない。
 しかし様子がどうも変だ。加奈子は苺のショートケーキを両手でつかみ、子供のようにもぐもぐと食べていた。おかげで口の周りにはクリームが一杯ついている。
「こちらの方々が、当時のロケ場所に居たという加奈子を連れてきてくれたんですが……」
 説明する社長も、何と言っていいのか本当に困った様子だった。
「……どうも麻生さん、記憶があまりないようなんです……」
 そう言ったのは深雪であった。
「そんな馬鹿なっ!」
 加奈子に駆け寄る内海。そして加奈子の肩をつかみ、強く問いかけた。
「加奈子、分かるか? 俺だ、内海だ!」
 だがしかし、加奈子は一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、にこーっと汚れを知らぬ少女のような笑顔を内海に向けた。
 女性・加奈子は見つかったが、女優・加奈子がこの場には存在していないことは明白だった――。

【鏡の中のアクトレス【調査編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0482 / 高橋・敦子(たかはし・あつこ)
                  / 女 / 52 / 会社社長 】
【 0442 / 美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)
                   / 女 / 23 / モデル 】
【 0038 / 御堂・まどか(みどう・まどか)
                    / 男 / 15 / 学生 】
【 0174 / 寒河江・深雪(さがえ・みゆき)
     / 女 / 22 / アナウンサー(お天気レポート担当) 】
【 0489 / 神無月・征司郎(かんなづき・せいしろう)
                   / 男 / 26 / 自営業 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 23? / 古木の精 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全13場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、『鏡の中のアクトレス』の調査編をお届けします。今回は高原の好きな芸能世界に関わる依頼でした。想定とは少し違った方向へ進んでいるんですが、こういうことが起こるのがプレイングの醍醐味なんでしょうね、やはり。
・さて、加奈子は見つかりました。しかし様子は本文にある通り。全2回予定ですので、まだバッドエンドではありません。ですが手をこまねいていると、バッドエンドで終わります。謎を解く鍵は本文中にちりばめてあります。強制はいたしませんが、次回のプレイングを高原は楽しみにしています。
・最後に、本文で書き忘れたので捕捉を。内海の名前は『うつみ・りょうじ』と言います。……ご存知の方はご存知かもしれませんね。
・シュライン・エマさん、9度目のご参加ありがとうございます。失踪原因の調査はよかったと思いますよ。プレイングに関しては、書きやすいように書いていただければ構いませんので。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。