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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


屋上に佇む女性
●屋上で見た影
 とあるコンビニで帰宅途中の女子学生が寄り道していた。
「ねえねえ、これみてよ! 屋上から飛び降りる幽霊、だって!」
「こっわーい☆」
 彼女たちの手にしているものはもちろんあの『月刊アトラス』。きゃあきゃあと騒ぐ女子学生の横をずかずかと歩いていくのは深月明(ふかづき・あきら)。パン一つとボトル一本を手にし、会計をすませた。明はこれからバイトなのだ。

 バイトが終わった静かな夜。明は自転車を走らせ、帰路に向かう。と、明の視線の端に何かを捕らえた。明かりの消えたビルの屋上に女性がいるのだ。
『駄目っ!!!!』
 明の声なき叫びがその場に響き渡る。それに女性は気づき、明の方を見た。しかし、それだけだった。女性は悲しそうな表情を浮かべた後、ゆっくりとその体を宙へと投げ出したのだった。急いで明は女性の落ちた場所へと走って向かう。
「何も‥‥ない?」
 女性の落ちた場所、静まり返ったアスファルトには血一つ落ちていなかった。
 ふと、明はバイト前に聞いた言葉を思い出す。屋上から飛び降りる幽霊がいると。
「でも‥‥何故、懐かしいと思うの?」
 訳がわからないといった表情を浮かべながら、胸にわき上がる感情を無視することは出来なかった。初めて見たときから感じた懐かしいという気持ち。とぼとぼと帰る明をビルの屋上から見送る女性の影が‥‥その女性の目元は明にうり二つだった。

●出会いは朝に
 冬野蛍はあの幽霊の現れたビルに来ていた。黒いマントを羽織り、月をかたどった杖のようなものを握っていた。
「にゃあーん」
 と、蛍の足元に一匹の黒猫が現れる。
「ここなんだね。道案内ありがとう」
「にゃーん」
 黒猫は一鳴きしてからするりと去っていく。
「と、あれ? あそこにお姉さんがいる‥‥」
 とことこと蛍は深緑のブレザーを着た少女に声をかけた。
「まだ入らない方がいいよ?」
 突然声をかけられて、驚き転んだ。
「きゃあ!」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫?」
 蛍が急いで駆け寄った。
「だ、大丈夫‥‥あの、あなたは一体‥‥?」
「ボク? ボクは蛍だよ」
「‥‥わかったわ。それに‥‥後で来るんだから、今行かなくてもいいわよね」
「うん、その方がいいよ☆」
 ブレザーの少女は蛍に苦笑して、その場を後にした。
「あの人が明? 何かを感じる‥‥気のせいかな?」
 むーっと眉を潜めていた蛍だが。
「考えても出てこないや。とにかく、夜まで屋上で待とうっと」
 蛍は杖を笛に変えて、曲を奏で始めたのであった。

●屋上で知るもの
 夜。蛍はふと目を覚ました。どうやら、待っている間に寝てしまったようだ。下の方が騒がしいのを感じる。
「明、来たのかな」
 目をこすりつつ、起きあがる。ここは屋上。入口になっている建物の上に蛍はちょこんと座っていた。
「ボクも準備しよっと」
 杖をまた笛にし、そのときを待つ。と、四人が入ってきた。一人は明。もう一人はエメラルドグリーンの髪をした女性、新条アスカ(しんじょう・−)。金髪の青年、真名神慶悟(まながみ・けいご)。最後に茶髪で剣を持っている青年、高坂仁(こうさか・じん)。
 その四人が出てきたとたんに待ち望んでいた幽霊が現れる。
(今だ!!)
 飛び降りる体勢になっている幽霊の動きを蛍の笛の音でほんの少しだけ抑える。
(後は‥‥)
「駄目ぇええええ!!!!」
 どっかーん!!!
 蛍は自分でも驚くぐらい勢いのあるタックルを幽霊にぶつけた。が、しかし。
「はれれれれれ!??」
 幽霊にぶつかり屋上の縁から遠ざけたまではよかったが、蛍自身が、今まさに屋上から落ちそうになっていた。
「!!!!!」
 ふわり。
 何か暖かいものを感じた。とたんに蛍の体はいつの間にか屋上に立っていた。そのとき、地上に人影を見つけた。それは一度会ったことのある人物。
 でも、それよりもやるべきことがあった。
「これ以上飛び降りても意味ないですっ!! お話しましょ!!」
 蛍は杖をびしっと構えつつ、そう叫んだ。
「ところで‥‥あんたは?」
 アスカは突然の訪問者に困惑しながらも尋ねる。
「ボクは冬野蛍。そこにいる幽霊さんを助けるために来たんだよ☆」
 蛍のその言葉に四人は顔を見合わせたのであった。

 幽霊はそっと起きあがり、蛍を加えた五人を見つめた。
『やっと来て下さったのですね』
 黒く艶やかな髪を僅かに揺らしながら、幽霊の女性は口を開いた。
「やっと来ただと? お前の真意はなんだ? それが分からなければ、お前だけでなくこの明も苦しむことになる」
 慶悟は明をすぐに守れるよう、隣に位置しながら諭すかのように幽霊に訊ねた。
「私の患者もおちおち気になって治療に専念出来ないんだ。教えてくれたって構わないだろ?」
「そうです! ボク達、あなたの力になりたいと思って来たんですから」
 アスカも蛍もそう付け加えた。
「私も‥‥あなたの力になりたいから‥‥聞かせて欲しい。あなたの想いを‥‥」
 そう前に出てきた明に、幽霊は眩しそうに微笑んだ。
『あなたに会えるなんて思ってもみなかったわ。大きくなったのね、明』
 幽霊はそう言って右手を明の方へと向けた。かちりと何かか外れる音が響く。
「え!?」
 外れたのは明のしていたペンダント。ロケットのふただった。そこには目の前にいる幽霊とうり二つの女性と笑みを浮かべ、女性を後ろから抱きしめる青年の写真が見えていた。明は目を見開き、ロケットの写真と幽霊を見比べる。
『私の名は八城あかり(やしろ・−)。明の母です。それに‥‥皆さんのご存じの通り、私は既にこの世には存在しておりません』
 あかりはなおも続ける。
『私は‥‥私に気づいてくれる力のある方に大切なことを伝えるために、ビルから飛び降りたり、建物に異形を呼び寄せたりしました‥‥でも、正直なところ、あなたを巻き込ませたくなかったわ、明‥‥』
「‥‥‥」
 今にも泣き出しそうな表情で見つめる明。
『皆さんに聞く権利があると同時に、拒否する権利もあります。聞いたからと言ってどうなるというわけでもありません。ですが‥‥関わるというのでしたら、命の保証はいたしません。‥‥それでも私の願いを‥‥私の言葉を聞きますか?』
 あかりの言葉を聞かないということ、それはいつまでもここにあかりを留まらせることに他ならない。それにあかりの言葉を聞けば、命の保証がないことに巻き込まれることにもなるかもしれないのだ。
「ここに来たのも何かの縁。乗りかかった船だし、とことん付き合ってあげようじゃない」
 アスカはため息混じりにそう告げた。
「それで成仏するというのなら、いたしかたないな」
 慶悟も覚悟を決めたようだ。
「ボ、ボクも聞きますっ‥‥」
 緊張した面もちで蛍も言う。
「決めるのは俺達じゃないだろ? お前がこいつの‥‥あかりさんって言ったっけ? 彼女の行く先を決めてやっても構わないだろう?」
 仁はそう言って明を見た。明は躊躇しているような素振りを見せたが、目を伏せ、そして前に出た。
「私‥‥聞きたいと思う。皆を巻き込むことになっちゃうけど‥‥でも、これ以上、辛そうなお母さんを見たくない、から‥‥」
『ありがとう‥‥。ではお話しましょう。青い日記に気を付けて。見つけたのなら、すぐに燃やして下さい。あれはこの東京だけでなく、世界を闇にする力があります。なんとしてでも悪しきものの手に渡らぬようにして下さい』
「そ、それだけ?」
 その内容に拍子抜けしたアスカが思わず訊ねた。
『はい』
「青い日記‥‥あのときも日記を探すようにって‥‥」
「明、何か知っているのか?」
「え、ええ。前に幽霊から頼まれたの、日記を取り返してって‥‥青い部屋のあるお屋敷で‥‥」
『それは、私の弟だわ‥‥そう、あの子も死んでしまったのね』
 淋しそうにあかりは目を伏せる。
「お母さん‥‥」
『さてっと役目も終わったし、そろそろ行かなくてはならないようね。そこのお兄さん、良ければ道案内お願いできませんか? 私一人では出ることが出来ないのです』
 その言葉に慶悟は。
「もういいのか?」
『ここに居すぎてしまいましたから。この建物の所有者さんにはとても迷惑をかけてしまいましたね』
「そうではなくて‥‥」
「明お姉さんのことは、もういいの?」
 蛍が慶悟の代わりにそう言った。
『私は既に死んでいます。明にはもう思い残すことはありません。それに‥‥向こうの世界でも明を見守ることは出来ますから』
 そう言ってあかりは微笑んだ。
「お母さん」
 明が呼び止める。
「‥‥会えて‥‥よかった。嬉しかったよ‥‥」
 つうっと涙が零れた。
『私もよ』
 そう優しく言い残し、あかりは慶悟の術により、あの世へと送られる。
 そして、その場にいた者全て、あかりが消えていなくなるまでずっと見送ったのであった。

●地上にいた者
 全てを終わらせた蛍はすぐさま、ビルから飛び出し、声を張り上げた。
「待って! 待って!! 徹っ!!」
 その蛍の声にその男は立ち止まった。ぼさぼさの髪をひとまとめにし、サングラスをかけたその男が振り返る。彼の名は奥津城徹(おくつき・とおる)。前に一度、依頼がらみで会ったことのある男だった。少々、蛍には苦手な部類に入る者だが。
「何だ、名前覚えていたのか」
 その声にどきっと震え上がりながらも、こくんと頷く蛍。
「何か用か? お嬢ちゃん」
 少し優しい響きのある声に、蛍はやっと口を開いた。
「あ、あの‥‥ありがとうございました!! その、前も助けてくれたのに‥‥今回も‥‥」
「さてね。そうだったっけか? タダの気まぐれだよ、気まぐれ。そうそう、あんまり無茶すると痛い目に遭うからほどほどにな」
「あ、えっと‥‥いいんですか? 明さんに会わなくて‥‥」
 つい蛍の口から零れる言葉。実は先ほど明の持っていたロケットの写真。その青年はどことなく彼に似ていた。
「会わなくてもわかるからいい」
 短く告げ、徹は手を振り、去って行く。
「会えば‥‥いいのに‥‥」
 最後の徹の言葉が蛍にはやけに淋しく感じたのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神・慶悟/ 男 / 20 /陰陽師】
【0499/新条・アスカ/ 女 / 24 /闇医者】
【0507/高坂・仁 / 男 / 25 /凄腕剣士】
【0276/冬野・蛍 / 女 / 12 /不思議な少女】

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■         ライター通信          ■
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 どうも、ライターの相原きさ(あいばら・−)です。このたびは、依頼を受けて下さりありがとうございました。今回の物語はいかがでしたか? 今回は円満に解決がなされました。それでもなにやら何かお願いされましたけど‥‥本文にあるとおり関わるかどうかは皆さん次第となります。なお、この日記に関するお話は予定では後2話ほどで終わるつもりでいます。良ければ次回作にも参加して下さると嬉しいです。
 二度目の参加、ありがとうございました☆ 二回も参加して下さったのは蛍さんが初めてです☆ 私の物語を気に入っていただけたようで本当に嬉しく思っています。蛍さんなら分かると思いますが、実は蛍さんの参加していた前回のお話とも若干、関係するお話でした。しかもあの人もちゃっかりいましたし。楽しんでいただけたなら、嬉しいです☆
 もし、この物語を気に入って下さったのなら、良ければ感想を聞かせて下さい。楽しみに待っています☆ それと、私のHPにも以前の作品等掲載されています。良ければ下記のアドレスまで来てみて下さい。
http://members4.tsukaeru.net/kisa
 それではまた、お会いできるのを楽しみに☆