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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


理想郷〜結界破壊〜後編

<オープニング>

「やはりこの日本を変えるには東京という都市を完全に沈黙させる必要があろう」
「となりますと、邪魔なのは東京全域の結界ですな。天海大僧正が作った結界だけあってこれがまた強固なものでして・・・」
「これのせいで東京という都市はいまだ守られているからな。愚民どもは気が付きもせんだろうが」
「これを一気に破壊するのは難しいですな。一つ一つ潰して参りましょう」
「ではまず鬼門を開放するとしようか」
「浅草寺ですかな?」
「うむ。十六夜。お前に任せる。浅草寺を破壊して参れ」
「はっ」
「リシェル、お前もお供せよ。邪魔が入るかもしれんからな」
「かしこまりました」

「なんだ、こりゃ!?」
 草間探偵所の主は驚きの声を上げた。。そのてにはプリントアウトされた一枚の紙が握られている。
「なんだって言われてもそう書かれただけですから・・・」
「何が『東京の鬼門が破壊される恐れあり 阻止されるべし』だよ。しかも依頼料前金で500万だぁ!?訳が分からん・・・」
 頭を抱える彼。確かにこれだけでは意味不明である。一体どうしろというのだろう。
「誰か意味分かる奴いるか?いるんなら受けてみろよ。金だけなら悪くないぜ。タチの悪い悪戯かもしれないけどな」
 そう言って主、草間武彦は煙草に火をつけるのだった。

(ライターより)

 難易度 普通
 
 予定締め切り時間 4/6 24:00

 理想郷シリーズです。
 今回は東京の鬼門を狙って七条たちが動き出します。狙いは浅草の浅草寺。もう一つの鬼門封じと言われている寛永寺は今回は無視してくださって結構です。浅草寺の破壊を阻止することが重要となります。襲撃は夜となりますので、少し時間があります、浅草寺の詮索などをなさるのも面白いかもしれません。まったく依頼解決に関係ないプレイングでも、私は問題なく採用させていただきますのでお気軽にお書きください。
 またシリーズと書かれていますが、私の依頼はほとんどが一話完結型なので初参加や途中参加はまったく問題ございません。七条などが分からなくてもお楽しみいただけるようになっております。そして戦闘主体とはいえ、単なる力押しだけではなく裏をかいたり邪魔をしたりと色々手段はあるかと思われますので、自由に行動してみてください。戦闘力がない方でもお楽しみいただけると思います。
 参加人数が多い場合は二部構成となる可能性がございますが、ご了承ください。
 それでは皆様のご参加をお待ちいたします。

<無免許医師>

「というわけで依頼なんだか・・・」
「・・・勿論、分け前はあるんやろ?無いとは言わんよね〜?・・・嫌やったらあんたが身体で払ろうてもええけど?・・・ツケ溜まっとるし」
 ニヤリと口を歪ませながら、一人の女性が草間の事を見つめた。栗毛色の髪の毛に黒い瞳と、特にこれと言って特徴は無い女性だが、その瞳だけは違っていた。色は黒でも普通の瞳と違いよく見ると、光の加減によりその瞳孔に何か模様のようなものが浮き出ていたりする。その瞳に見つめられ、草間は露骨に嫌な顔をした。
「ツケってお前なぁ・・・」
「どうなんや。あたしらにも分け前よこすんかよこさへんのか」
「分かった分かった。タダでやれとは言わんよ。ただ依頼を受けているが十七人もいるからな。手取り二十万が限度だぞ」
「命はるかもしれへん仕事にたったの二十万かいな。しけとんなぁ」
「嫌なら受けなくてもいいんだぞ。他にも依頼を受けている奴はいる」
 草間の言うとおり、今回の依頼を引き受けた者は総勢十七人になる。自分一人参加意思を表明しなくても確かに大局に影響しないだろう。腕を組んで考え込んだ彼女は、渋々依頼を引き受けた。
「しゃあない。それで引き受けたるわ。しかし結界を破壊するなんて言うても一体どうするつもりなんやろな。放火は目立つし、爆弾で全壊はちょっと難しいし、放火より目立つな。やっぱり霊的な力でも用いるつもりなんかな」
「さあな。それに関しては俺なんかよりお前たちのほうがよっぽど詳しいだろう。それも踏まえて調べてきてくれ。じゃあな。頑張ってくれや無免許医師さん」
「何他人事みたいに言うとんのや。あんたが引き受けた仕事やで、まったく」
 ため息をつきながら、無免許医師松本純覚は面倒な事を引き受けたものだと心の中でぼやきながら依頼にとりかかるのだった。

<士気高揚>

「おやじ〜。酒切れたぞ!」
 日本酒の一升瓶を空にして、金髪の男が文句を言い出した。ここは浅草寺裏の立ち飲み屋街の一角にある居酒屋である。時間もまだ昼なのもあって彼以外ほとんど客もいない。
「お客さん、昼間っからそんなに酒飲んじまって大丈夫かね?なんかあったんかい?」
 居酒屋の親父が瓶とグラスを下げながら問うた。確かに昼間に、二十代くらいの青年が一升瓶を空にしたら何かあったと思うのが普通だろう。
「何にもねえよ。ただ喝いれただけさ」
 胸元のポケットから煙草を取り出し一服し始める青年。彼の黒い瞳には浅草寺が映っている。
(いつも手抜いてばっか・・・って思われるのも何だしな・・・。しかも浅草襲撃と来たもんだ・・・)
 彼は浅草の町が好きだった。下町の情緒を残し、それでいてただ古臭いだけでなく新しいものも取り入れていて独特の雰囲気があるこ。ここの名物である三社祭も活気があって悪くない。他にも例をあげれば限が無い。そんなこの浅草の顔とも言える浅草寺を破壊しようとする輩がいるとしたら絶対に許せないことである。士気高揚と称しては酒を飲み、煙草を吸うことを精神修養などと言う、不良陰陽師真名神慶悟にとって今回の依頼は珍しく真剣に取り組むつもりであった。
「おやじ、世話になったな。勘定はここにおいて置くぜ」
 財布から一万円札を取り出すと古ぼけた木製のカウンターにポンと置いて歩き出す。
「ち、ちょっとお客さん。釣は・・・」
「いらねぇよ。とっときな」
 振り返りもせずにそう答えると、彼は足早に店を去っていく。敵が襲撃に来るであろう夜まであまり時間は無い。それまでにやれるだけの事はしておかなければならない。真名神は懐から数枚の符を取り出して、ぶらぶらと浅草の町を歩き出した。

<賞金稼ぎと闇医者>

 浅草寺境内前の広場では多くの観光客が訪れており賑わっていた。そんな人ごみを離れ、一組の男女がその光景を見ていた。一人は枯葉色の髪に白く輝く銀色の瞳という目立つ容貌を持つ男だ。細身で背が高く、腰に見事な日本刀などを差しているためさらに人目を引く。警察に見られたら確実に不審尋問をされることうけあいだが、幸いなことに警察はいないらしい。だが警備員は明らかに不信な視線を彼に送っている。もう一人の女性はというと、こちらもエメラルドを思わせる見事な緑の髪をポニーテール風に後ろで束ねるという、目立つ姿をしている。
「大した賑わいだな・・・」
 男は腕を組みながら、観光客に目をやりながらぽつりとつぶやいた。
「連中の中には結界を張ったりなんだのと真面目に準備しているみたいだけど、あんたはどうするの」
 その真紅の瞳で同じく人の波を見つめながら問う女性。
「俺は特にすることもない。時間をつぶすだけだ」
「まぁ、あんたは敵が出たらただ切るだけだからね。どうせこの依頼も戦いからとっただけだろ?体ナマってんだろからさ」
「悪いか?鬼門封じが破壊されるようと俺の知ったことではない」
 つまらなそうにそう答えると、彼は懐から煙草を取り出し吸い始めた。紫煙が立ち昇り空気に溶け込んでいく。
「別に。あたしもこの国の行く末も、陰陽師達の確執も、結界とやらも興味ないね。五百万には惹かれるけど」
「ふん。いい金儲けにはなるな。それよりお前こそどうしてここにいる?」
「おやご挨拶だね。あんた戦いバカだから、放っとけば死ぬまで戦ってるだろ。死んだら治療も出来ないし・・・。それでさ」
「金儲けが最大の理由じゃないのか?」
「さあ?」
 それっきり二人は何も話さずにひたすら寺の前で立ち尽くすのだった。男の名は高坂仁。女の名は新条アスカ。賞金稼ぎに闇医者という東京の闇に生きる者たち。彼らは奇妙に気が合い、古くから付き合いだった。

<蛇女>

「私もこんな風に見られてるのかしら」
 花やしきのお化け屋敷から出てきた女性は、そう言うと髪をかきあげた。その艶かしい黒髪が緩やかなウェーブを描いてと額にかかる。妖艶な雰囲気を漂わせた妙齢の女性である。
「まぁ、それはそれでかまわないけど・・・」
 中で出会った蛇女の作り物の事を思い出してクスリと微笑する。花やしきに到着したのは昼を少し過ぎた辺りではあるが、少々長居しすぎたか既に太陽は西の空に沈もうとしている。浅草寺は夕日に照らされ、真っ赤に燃え上がっているように紅の色に染め上げられている。
「啓蟄も過ぎて早や一月…いい気候になったものね」
 蛇が活動する季節には、と心の中で付け加えて彼女は浅草寺に向けて歩き出す。そういえば寺の境内に放っておいたあの可愛い僕たちはどうしているだろう。「噛むのはオイタをした子だけよ?」と言い含めてはおいたが・・・。まぁ、心配することはない。彼らとてそのくらいの命令は判断できるだろう。いかに動物とはいえ。
「さて、無事にお寺にたどり着けるといいけどね」
 浅草寺を襲撃しようとしている何者かの、慌てふためく様を思い浮かべ彼女はクスリと微笑を浮かべるのだった。

<結界構築>

 日も沈み、夜の戸張が降りる頃、昼間の賑わいが嘘のように浅草寺は閑散と静まり返っていた。空には太陽の代わりに満月が姿を表し、あたりを静かな明かりで照らし出している。月は狂気を司り、満月の時には凶行に走る者が増えるという。今回の敵もそのような狂気に当てられ、鬼門破りなどという行為に及ぼうとしているのだろうか。巫女姿の女性はそんなことをぼんやり考えながら寺の周りに糸と鳴子を張り巡らせていた。楚々とした、今では珍しい大和撫子を感じさせる女性だ。
「そんな結界なんて張り巡らせてどうするのさ」
 まだ声変わりしていない少年特有の高い声に巫女は振り返った。
「敵が侵入したこと掴めればと思って・・・」
「どうせ連中はここに来るんでしょ。なら中で待っていればいいじゃない。変なの」
 奥の観音堂の壁に寄りかかっている小柄な少年は、無邪気な笑顔を見せた。
「そうですけどね。できれば神域に不浄な者は入らせたくありませんから」
「ふうん、そう。なら僕はこの中で待たせてもらうね」
 そう言って本堂の中に入ろうとする少年。巫女は慌てて彼を止めた。
「待ってください水野さん。本堂に勝手に入られてはこまります。ここは神域なんですよ。もっと謹んで接してください」
「うるさいなぁ。僕の勝手だろオバサン」
「お、おば・・・!」
 巫女、天薙撫子は少年水野想司の一言に青筋を立てた。彼女はまだ十八歳の若き乙女で、顔も勿論年相応に若々しい。まだまだおねえさんで通じる年齢である。水野は女の子を見まごうほどの可愛らしい容貌をした少年で、素直で純真ではあるのだが、常識的なことや思いやりなどの点で欠如しているところがあり、相手を苛立たせるような辛辣な言葉を平然と吐く。彼の知り合いはなんとか更正させようとこころみているようだが、今のところ成果は上がっていないようだ。
 天薙たちが現在いるのは浅草寺の御秘仏、聖観世音菩薩立像が安置されている観音堂。鬼門封じの結界の中心点はここにあると考えて、彼女たちはここを警備することにした。浅草寺は広い。全てを破壊することは難しいし、第一目立ってしまう。警察などがしゃしゃり出てきては向こうにとっても都合が悪いだろう。そのような愚を冒すまい。となれば、結界の中心点を破壊してしまうことが一番手っ取り早いと考えるはずだ。そう考えていたのは彼女たちだけではなかった。
「小僧。確かにお前の言うとおり敵がここを狙ってくるのだったらそれを守るだけでいいだろう。だが、獲物がいなくなっても恨むなよ。俺が全部殺すかもしれんからな」
「オッサン誰?」
「あははは。オッサンだって。あんたも老けたんじゃないの、仁?」
 新条は高坂をオッサン呼ばわりしたことが面白かったらしくケラケラと笑った。
「どうやらあんたたちもここで待ってるみたいだね。さて、連中はいつ来るのやら・・・」
「いつでもかまわん。言っておくが俺は結界などどうでもいい。ただ敵を倒すだけだ。覚えておけ」
 尊大な口調でそういい放つと、高坂は観音堂の前で仁王立ちになって敵を待ちかえる。
「やれやれ、付き合っていられないね。とにかくボクは中で待たせてもらうから」
 水野は土足で観音堂の中に入っていく。勝手な彼らの行動に天薙は「はぁぁぁ」と頭を抱えた。草間興信所などで依頼を受ける異能者たちは皆、ヒトクセもフタクセもあるクワセモノが多く、そう行動をまとめることは難しい。協調性が限りなく皆無に低いものたちの集まりなのである。
「まぁ、そう気を落とさないで。あいつは単なる戦闘バカなだけなんだからさ」
 新条にポンと肩を叩かれ、天薙は苦笑を浮かべた。まぁ、敵を倒してくれると言うのだから勝手にさせておけばいいだろう。見たところ腕も立つようだし・・・。そんなことを思っていた彼女の耳にカラカラと木と木がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「ん?どうしたの」
 突然顔を引き締めて辺りを見回し始めた天薙に、驚いて問う新条。
「来ました。敵です」
「何だって!?」
 カラカラカラカラ。
 乾いた木と木がぶつかり合うような音が観音堂の周りに響き渡る。鳴子が鳴っているのだ。それは何者かががこの観音堂近くに現れた証拠。
「来たか。随分と待たせてくれたものだ」
 高坂は敵の存在を確認してニヤリと不敵な笑みを浮かべた。やがて彼らの前に辺りと覆う闇と同じ色をした黒装束を身に纏う一群が姿を表した。その顔は黒い頭巾で覆われて定かではないが、その身に纏う殺気は尋常なものではない。
「お前たちは、俺の・・敵だろう?」
 黒装束の者たちは彼の問いに答えなかった。ただ、ヒ首や忍者刀などの暗器を構え距離を詰めるのみ。だが、高坂にはそれで十分だった。
「ふっ。それでこそ戦い甲斐があるというものだ。来いっ」
 こと戦いとなるとアドレナリンが放出され、興奮とともに至高の満足感が得られる。これだから戦い、いや死合いは止められない。自分の空虚な心を一時とはいえ満たしてくれる魂の酒なのだから。嬉々として戦いに臨む高坂を見て、新条はやれやれと首を振った。
「また始まったよ。バトル中毒が。まぁいいさ。あんたたち、こいつに出会ったのを運の尽きだと思うんだね!」
 死合いが始まった。

<裏口では>

 一方観音堂の裏でも数人の黒装束の者たちが集まっていた。正面の部隊は陽動。こちらが本命の部隊であったのだ。彼らは頷き合うと、観音堂に近づこうとした。その時。
「!!!」
 彼らは無言のうちにも同様を隠せないようで、慌てふためきながら自分達の体を払い始めた。ボトボトと落ちるのは蝮の群であった。それは鎌首を持ち上げ侵入者達を威嚇する。観音堂に近づいた彼らは突然この蝮達に襲われ噛み付かれたのだ。
「600年の退屈も、少しは晴れてきたかしら」
 月明かりが指すお堂の廊下には艶然と微笑む女性が春の満月を楽しんでいた。そう夕焼けの花やしきにいたあの女性である。名は巳主神冴那。とあるペットショップのオーナーを務めている。が、それは表の顔でしかない。彼女の本当の素顔、それは六百年の月日を生きる蛇の化身である。それはもはや単なる蛇などというレベルではなく蛇の女王と呼べる存在であろう。黒装束の者たちに噛み付いた蝮も彼女の配下である。
「月夜に熱にうなされる・・・恋に狂った乙女の様・・・その身に受けた噛み痕は浅くも危険な闇との契り・・・息も絶え絶え胸は苦し・・・愛しき人を想い描いて・・・眠りに落ちるは・・・永久の闇」
 朗々と謳う様に敵に告げる彼女。すると彼らはバタバタと倒れ伏していくではないか。強力な神経毒である蝮の毒が全身に回り始めたのだ。巳主神は蛇たちにそれらの処理を命じると再び月を見上げた。彼女の脳裏には、あの桜が舞散る花見の宴が思い出されていた。六百年をただ漫然と生きてきた自分の心に仄かな、されど激しくもある炎の思いを植え付けた男の顔を思い浮かべ、巳主神は飽きることなく月を見つづけるのであった。

<結界破壊>

 高坂は右手に持った刀を体に水平に構え、左手をその切っ先に沿え、左半身を引くと、
「はあああああ!」
 気合とともに全身をばねにして一気に敵との間合いを詰めた。その動きはまさに神速。目にも止まらぬ一瞬の動きに黒装束の者は対応できず、武器を構えることもできなかった。そして喉元を狙って放たれた剣閃は狙い違わずその真ん中を貫き、さらに突撃の勢いで後方の木まで身体を吹き飛ばし串刺しにする。
「鳳燐流刀術二の太刀鳳咬」
 ズブリと音を立てて刀を抜きながら、高坂は冷たい骸と化した黒装束の者に静かに告げた。
「あんた邪魔なんだよ!」
 中指と人指し指の二本の指を立てて、黒装束の者を切りつける新条。何気ないその一撃を受けた敵の身体から鮮血が迸る。彼女はその手に手術に用いるメス以上の切れ味を持たせることができる。仰け反った敵の隙を逃さず、彼女はその頚動脈に指を当て引き切る。頚動脈を断ち切られた者は首から血の噴水といも言えるほど激しい血を噴出して地に倒れ伏す。
「はあぁ!」
 天薙の剣は高坂の殺人剣に比べれば、威力、勢いともに落ちるが、的確な動きで敵の攻撃を交わし、相手が隙を見せたところに一撃を加える無駄の無いものだった。攻撃を繰り出した相手の切っ先を読んで交わし、その腕を切りつける。実家の神社から持ち出した御神刀『神斬』は凄惨な切れ味を見せ、腕の付け根をすっぱりと切り落とした。さらに敵の動きを封じるため、妖斬鋼糸と呼ばれる鍛えられた鋼を極限まで細く糸の長さまで加工した鋼糸を敵の身体を巻きつける。強靭な鋼糸に拘束されれば人間の力ではまず逃げ出すことはできない。 
 このように獅子奮迅の活躍を見せる三人だか、多勢に無勢、次々と宵闇より姿を表す黒装束の者たちに次第に押されていき、ついには取り囲まれてしまった。互いの背中を無意識に庇いながら、己が武器を構える三人。
「ふっ。これが俺の望む戦場だ。戦いはこうでなくてはな」
「あのねぇ。そんな余裕かましている暇ないでしょ。どうやってこの場を切り抜けるか考えなさいよ」
「このままだと確実に敵に押し切られてしまいます。一点突破を図りましょう」
 だが、黒装束の者たちに彼らに悠長な相談を与えるつもりなどないらしく、じわじわと間合いを詰め一機に襲い掛かろうと身構える。覚悟を決めて勝負でようとする三人。
「水火相打ち、風雷相通ず。我遥けき峰より勧請せん!急急如律令、疾く来たれ!雷よ!」
 突如観音堂に響き渡る声。その答えに応じるかのように、虚空より電撃が生じ、それは人形となり三人を取り囲む黒装束の者たちの中に突っ込んでいった。闇を切り裂き電撃が迸る。黒装束の者たちは次々と電撃に感電しきな臭い匂いを上げながら倒れ伏していく。やがて、雷の人形がいなくなると、観音堂の前に立つ者は三人以外いなくなっていった。
「鬼門封じを壊そうだなんて馬鹿な考えしやがるからこうなるんだよ。よっと」
 観音堂の屋根からひょいっと身を翻して飛び降りたのは、目にも鮮やかな金髪が特徴的な派手なスーツを着た男真名神慶悟であった。彼は浅草寺付近をうろついてから、ずっと屋根の上で敵を待ち構えていたのだ。先ほどは乱戦になってしまったため術を使えずにいたが、丁度いい具合に敵が固まってくれたので雷を解き放ったのである。
「ああああああ!!」
 彼の姿を見て天薙が頭を抱える。土足で観音堂に入る少年がいるかと思えば、こちらはなんと土足で観音堂の屋根を踏み歩いていたのである。神をも畏れぬ所業とはまさにこの事だろう。神社に生まれ、神を敬い育ってきた彼女にとって、それは信じがたい行為であった。
「?どうしたんだねえちゃん?具合悪いのか?」
「貴様、俺の獲物を横取りしたな」
 目の前の獲物を根こそぎ掻っ攫われた高坂は怒りに燃える銀の瞳で真名神を睨みつけた。
「なんだよ。礼ならいらないぜ。俺も奴らには腹が立っていたからな」
「違う。俺がまとめて片付けるつもりだったのによくも余計な真似をしてくれたな」
 その手にもった日本刀を突きつける高坂。
「何がまとめて片付けるだ?てめぇは敵に囲まれてたんじゃねぇかよ。助けてやったってのに礼どころか刀をつきつけるたぁ、どういうつもりだてめぇ?」
 真名神も売られた喧嘩は買うとばかりに呪符を構える。
「貴様になど助けを頼んでいない。しゃしゃり出てくるなかっこつけ野郎が」
「口ばっかの人切り男に言われたかねぇぜ。やる気かオラ」
 お互いガンを飛ばしあい見えない火花を散らしあう。新条は慌てて一触即発の二人の間に割って入った。
「ち、ちょっと何馬鹿なことしてるんだい?仲間割れしている場合かい!」
「まったくその通りだな。実に下らん行為だ」
 冷ややかな嘲笑を含んだ声。その声に天薙は聞き覚えがあった。
「まさかこの声は!?」
 カツカツカツ。
 ヒールの音を響かせながら近づいてきたのは、白衣を着た一人の女性であった。冷厳な顔をした美女である。かつてキメラと言われる人工的に生み出したモンスターを操り、麻薬売買などでもその存在が確認されていた謎の女。確か教授と名乗っていたはずであるが。
「ふむ。よく見れば見知った者もいるな・・・。だが、そんなことはどうでもいい。取り急ぎ私の用事を済ませてしまいたいのでな。お前たち!」
 彼女の声に答えて、地面に倒れ伏していた黒こげの者たちの指がピクリと動き始めた。指で地面を掴み腕で身体を支え、むっくり起き上がる黒装束の者たち。
「んな馬鹿な!?」
 真名神は驚きの声を上げた。術は確実に連中を捕らえていた。中には効き目の弱い者がいたかもしれないが、まさかほぼ全員が一斉に立ち上がるほどの体力を残していることなどありえないはずである。
「術が甘かったな」
「んなワケねぇだろ。あれを喰らえば普通の人間は即死のはずだぜ」
「そう普通の人間ならばな」
 さも愚ろかしいといった表情で冷笑を浮かべた白衣の女は、立ち上がった者たちに指示を与える。
「さぁ、観音堂に突入しろ。結界を破壊するのだ」
 黒装束の者たちは四人を完全に無視して、観音堂に突進していく。その動きは瀕死の重傷を受けた者の動きではない。無駄のない迅速な行動。彼らはあっという間に観音堂にたどり着くと、扉を開け放った。
 ズシャァァァ!
 扉を開け放ったと同時に、その者の身体から数十とも言える箇所から真っ赤な鮮血が吹き出した。血で赤く染め上げられる観音堂。その中から血を吹き出している者を蹴落として現れたのは水野だった。その手には二振りのナイフが握られている。
「なんだ。こんなに弱いのか。殺すのが馬鹿馬鹿しくなってきたよ」
 小学生くらいの小柄な体つきの少年は、無邪気な笑みを浮かべて次々と黒装束の者たちを切り裂いていく。その動きは人間の限界を超えているといってもいいくらいで、敵は為す術もなく血の洪水を作り上げていく。吸血鬼や魔物を排除する闇組織吸血鬼ハンターギルドの切り札、目標殲滅率百%を誇る恐怖の刺客少年水野想司の戦いは、もはや虐殺と言うべきものだった。一遍の呵責も無く敵を切り捨てていく死天使の前に敵はいなかった。
「それで?今度はキミがボクの相手をしてくるの?」
 返り血が飛び散った顔をにこやかにほころばせて問う水野。だが、白衣の女はその光景を見て哄笑を上げた。
「はっはっはっは!ご苦労だったな少年。わざわざ結界破壊の手助けをしてくるとは思わなかったよ」
「なんだって?」
「そこの女」
 と天薙を指差し、
「その恰好からして巫女のようだが迂闊だったな。穢れを知らぬわけではあるまいに」
「あっ」
 口に手をあてて声を上げる彼女。白衣の女の言う穢れ。それは・・・。
「不浄なるものを嫌う神道でタブーとされている血。それがこれだけ大量に流されたとしたらどうかな?穢れはその神域の加護力を低下される。邪なる力を防ぐものとはなりえなくなるのだ」
「ハン!結界なら俺がさらに強いのを張ってやったぜ」
 真名神はこの依頼に取り掛かる前に、浅草寺付近を回り、五行の力を高める結界を構築していた。だが・・・。
「愚かな。稀代の大術師天海の呪法ならともかく、貴様ごとき若輩の術師が張った結界が役に立つと思うのか」
「なんだと!?」
「結界を完全破壊しなくても綻びを入れるだけで良いのだ。残る東京の結界全てを破壊し尽くせば他の結界などものの数ではない」
 彼女の言葉が正しければ、この浅草寺の結界は弱まってしまったことになる。それは東京を守る結界の一つが弱まり、外部からの干渉を防ぎにくくなるということである。
「さらばだ。せいぜいつかの間の快楽を貪るがいい。もうすぐこの地は混沌に飲み込まれるのだからな」
「アンタもな」
 白衣の女の耳元でささやかれた声。何時の間にか彼女の裏に回って、コンバットナイフを背中に突きつけていたのは松本純覚であった。
「ほう、私の後ろをとるとはやるな」
「あかんなぁ?……あたしの目からは逃げられへんで?……世の中そんな甘うの出来てへんよ……」
 彼女は昼間からこの浅草寺の付近をくまなく調査し、特に妖しい雰囲気を持つ人間をその千里眼で探っていた。彼女が捕らえたこの女の気配は、寺のあちこちに出没している黒装束の者たちとは比べ物にならないレベルであった。そこで、気配を消しながら彼女をストーキングしていたのである。
「で?それでどうするのだ。その匕首で私は刺すか?もっともそんな匕首で私を刺せるであれば良いがな」
「なんやて!」
 気色ばんでナイフさらに突きつける松本、だが、それでも白衣の女の余裕の態度は崩れること無く、
「さらばだ。愚かなる人間たちよ。我が名はリシェル。覚えておくがいい」
「あんた、余裕かましてられるのも今のうちやで!」
 ポキン。
 軽い音を立てて松本のコンバットナイフが根元から折れた。リシェルと名乗った女は何のそぶりも見せなかったというのにだ。
「な、なんやて!?」
「私を狙う時はもっと力をつけて確実に狙うがいい。無力だな」
 愕然とする松本を尻目に、リシェルは悠然と踵を返してその場を立ち去るのだった。

 別のチームの話によると、雷門近くで戦っていた部隊もリシェルの撤退とあわせて引き上げたらしい。鬼門封じを弱らせたため目的を達成したと判断したのだろう。だが、この鬼門封じを破ることで敵はどのようなメリットがあるのだろうか。このままでは東京は妖の者たちの侵入を許してしまうことになってしまうというのに・・・。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 
0424/水野・想司/男/14/吸血鬼ハンター
    (みずの・そうじ)
0389/真名神・慶吾/男/20/陰陽師
    (まながみ・けいご)
0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
    (あまなぎ。なでしこ)
0514/松本・純覚/男/25/無免許医師
    (まつもと・じゅんかく)
0499/新条・アスカ/女/24/闇医者
    (しんじょう・あすか)
0507/高坂・仁/男/25/賞金稼ぎ
    (こうさか・じん)
0376/巳主神・冴那/女/600/ペットショップオーナー
    (みすがみ・さえな)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 理想郷〜結界破壊〜後編をお届けいたします。
 今回は17人もの方に参加いただき、満員御礼の状況となりました。多人数のため二部構成となりましたがご容赦ください。
 今回は無事浅草寺そのものは守れたようですが、肝心の結界は弱められてしまいました。ただ、今回の依頼内容は浅草寺防衛でしたので、一応成功と言えます。
 おめでとうございます。
 ただ、死体の片付けや掃除など後始末が大変であったことを付け加えておきます(笑)。
 ちなみに前編は4/15に発表されていますので、もしよろしければご一読いただければと思います。この作品に対するご意見、ご感想、ご要望、ご不満等ございましたら、テラコンより私信を頂戴できればと思います。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。