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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


< まほろばの巫女 >

●はじまりの噂
「そういえばこんな話を知ってますか?」
 雑誌編集の〆切り間際、急きょ雇われたバイトの女子高校生が不意に告げた。
「私の行く学校の近くに篁(たかむら)神社っていう神社があるんですが、最近……夜中に出るらしいんですよ」
「出るって……何が?」
 良く有る話だ、と碇麗香は思いながらも彼女の話に耳を傾けた。
「真っ白い巫女。それも透けるように白くて、この世の者とは思えない程に綺麗らしいですよ」
「へえ……それは見てみたいものですね」
 綺麗、という言葉に思わず反応した三下忠雄がぽつりと呟く。
 それをじろりと睨み付けながら麗香はそんなものはただの噂だ、と否定する。
 「分かりませんよ。何事も調べてみなくては!」
「なんか……妙に乗り気ね……じゃあ独りで取材に行ってきたら?」
「え、独りはちょっと……」
「ああそう。仕方ないわね……臨時のバイトをまた雇うから、その子達と一緒に取材してきてくれる?」
「は、はい! 勿論ですとも!」
「いい加減な記事だったら承知しないからね」
 そう言って麗香はにやりと微笑んだ。

●夕暮れ時の現と幻
 東京都心より外れにある篁(たかむら)神社は、弁財天を御神体にまつる、武芸上達と恋愛成就のご利益があるとして、小さいながらも近所では人気のある神社である。
「折角だから、お守りの1つでも買っていきましょうか?」
 と、美貴神マリヱ(みきがみまりえ)は手入れの行き届いた黒髪をかきあげながら言った。
「そうですね、おみくじなんかも楽しそうですよね」
 今回の取材のために同行している滝沢百合子(たきざわゆりこ)が合の手をいれる。この近所にある学校に通っているらしく、篁神社に関して少々詳しいらしい。
 そのためか、百合子の足取りに迷いは無い。
「全く……自分から乗り出した取材だって言うのに、いざとなると来ないなんて。三下クンは所詮『三下』ってところなのかしら」
 マリヱの手には、三下忠雄から渡されたメモ帳と取材ポイントを記したメモがある。
「あんなに美人な巫女さんに会いたがっていたのに……これは是非とも三下さんの分までいっぱい取材してこなくちゃ駄目ですよね!」
 百合子はネットで集めたデータをおさめたモバイルを覗き込んだ。
 手際良く画面をいじり、必要なデータだけを一覧させる。
「うーん……巫女さんが現れるのはどうやら夕暮れどきが多いみたいですね」
「ふぅん……じゃあ、まだちょっと時間あるわねぇ。おみくじ買って来ましょ♪」
「私は社務所のほうに行ってきます。待ち合わせは本殿の裏のご神木で良いですか?」
「ご神木?」
「はい。そこが出現スポットらしいですよ」

****************************

本堂のお隣、ちょうど社務所と反対の位置に売店はあった。
「え……っと、まずはおみくじよね。やっぱり。神社に来たらやらなくちゃ。すみませーん、おみくじ引いてもいいですかー?」
「はい、どうぞ」
 バイト巫女らしき女性が店の奥から姿を現わした。
 マリヱは手渡された筒から一本の棒を引き抜く。
「38番ですね……えー……と、はい、どうぞ」
 手渡されたものは大きく中吉と文字が入った桃色の紙だった。可愛らしく桜の花びらの透かしまで入っている。
「へー……こっているのね」
 ざっと一通り読み、マリヱはお守りの方へ視線を移した。
「あ、これ可愛いわ。ふぅん……恋のお守りか。いいわね、これ」
 マリヱが手に取ったお守りは黒い玉と白い鈴に紅白のひもを通して結んだものだ。
 手のひらにちょうどおさまる大きさで、ひもの先端に祝詞が小さく書かれた札が根付け代わりに付けられている。
「これ二つ下さい」
「はい」
「あ、そうそう。領収書もよろしくね。あて先は『白王社・月刊アトラス編集部』で」
「はい、畏まりました」

****************************

「お待たせしましたー!」
 駆け足ぎみで歩み寄って来た百合子をマリヱは笑顔で迎えた。
「あ、そうそう。百合子ちゃんにも買っておいてあげたわ。はい☆恋のお守りだって」
 そう言ってマリヱは黒いプラスチックの玉が付いた鈴を手渡した。
「え、いいんですか?」
「いーのよ。これ位、経費で落ちるわよ」
「なるほど」
 百合子は大事そうに鈴を受け取ると、そっと鞄の中へしまった。
 と、不意にマリヱが表情を厳しくさせた。
「……どうかしました?」
「百合子ちゃん……近くになにかいるみたい……」
「え?」
「……何となく冷たい感じがするのよ」
 その時だ。百合子の視線の先に、すっと白い姿が過った。
 はっと顔をあげ、百合子は大木の反対側に駆け寄った。
 すると、そこに長い白髪の巫女らしき女性の姿があった。大木の下に座りこみ、何かを探しているようだ。
 間違いない……この人が……!
 そう確信した百合子は思いきって声をかけてみた.
「あ、あの……何かお探しですか?」
 巫女はすっ……と手を休め、優しい微笑みを百合子に返す。
 この世の物とは思えない程儚い笑みに、百合子は同性ながらも見愡れてしまった。
『……親切にお声をかけて頂き、有り難うございます……たしか、この辺にあるはずなのですが……なかなか見つからなくて……』
「よかったら一緒に探してあげましょうか?」
 遅れて来たマリヱがそう告げる。
 巫女は目が見えないのか、二人の方になんとなく顔を向けてうつろな視線で感謝の意をのべた。
「ね、何を探してるの?」
『ご神木の木の実です……いつも……この辺にある、はずなのですが……』
 大木を見上げると、確かに小さな黒い実のようなものが付いているのが見える。
「もしかして……あれのこと?」
「何かに似てるわね……あ、お守りについていた玉にそっくりだわ!」
 マリヱは手に持っていた鈴に思わず視線を向ける。
『……この篁神社のお守りには、このご神木様の実を模したものが付けられているのです……』
「ふー……ん」
「あら? もしかしてこれじゃないかしら?」
 マリヱは近くの茂みに隠れていた黒い実をひょいと拾い上げる。
「え? 見つけちゃったんですか?」
 軽い足取りで百合子はマリヱのもとへ駆け寄った。
「ほら、見て。真っ黒な木の実でしょ」
 大体親指くらいの大きさだろうか。光沢は無くまるで木の皮のようなすすけた実だ。泥で少し汚れて入るものの、特にひび割れもなくつるんとしている。
「なんだか『実』というより、大きな粒みたい……確かにお守りの玉と良く似ていますね。巫女さーんありま……」
 振り返るとすでに御子の姿はなかった。
「あ、あれ?」
 あわてて辺りを見回すが、人の気配すらない。
「はっ……! 大変!」
「百合子ちゃん、どうかしたの?」
「一緒に写真撮るの忘れちゃいましたよ! あんな綺麗な幽霊さんと会える機会なんてそうそうないのに……!」
「……あ、そう……」
 くぅっと悔しがる百合子をちょっとあきれ顔でマリヱは見つめた。
 その時だ。ふと二人の耳に微かな声が聞こえてきた。
--探して頂き大変有り難うございます……どうか父によろしくお伝え下さい……--


「ごくろうさま。よくまとまっているわ」
 二人に渡されたレポートを一通り読み終え、碇麗香は二人にねぎらいの言葉をかけた。
「篁神社に出没していた巫女の幽霊は、どうやら去年無くなった神主さんの娘さんだったみたいね。で……その、ご神木とやらの実はどうしたの?」
 百合子は手持ちのモバイルを覗き見ながら、麗香に告げた。
「あの実は神主さんに差し上げました。後で調べて分かったんですが、あのご神木は『クガナシ』という樹木で、その実を持てば『苦が無し』と言われ、昔からお守り代わりにされていたそうです」
「……せめてもの親孝行のために、お守りを探す……か。良い話じゃない。ねぇ?三下くん」
 机の隅で小さくなっている三下に麗香はにこりと微笑みながら声をかけた。
「いいいいや、で……でも……一応、幽霊だし……あの、その……」
「まぁ、いいわ。三下くんにまかせてたら、こんなに良いレポートは上がって来ないものね」
「は……はは……」
「碇編集長。そんなに責めちゃ可哀想ですわ。三下クンだって、それなりに頑張っているんですから」
 妖艶な笑みで三下を見つめながらマリヱはそう告げる。
 その笑顔にうっかり見愡れる三下。
「……男の人って不潔……」
「……美人に弱いことは確かなようね……」
 あきれ顔で百合子と麗香はそう呟いた。

 おわり。
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名    / 性別 / 年齢 / 職業】
 0442 / 美貴神・マリヱ/ 女  / 23 /モデル
 0057 / 滝沢 ・百合子/ 女  / 17 /女子高校生


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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。
「まほろばの巫女」をおとどけ致します。
 三下のダメダメぶりにはさぞかし憤慨されたことかと思います(笑)
 せっかくの美人さんのみ登場のお話なので、のんびりほわほわ感を出してみましたが、如何でしたでしょうか?
 文中に出て来ましたクガナシの木は、椿で有名な鎌倉のお寺に実際にあります。
 どんな代物か見てくるのも一興かもしれませんね。

 文体や口調が他のライターさんと違う点につきましてはご了承願います。
 谷口の書く物語ではこのような話し方をされるんだ、と解釈して頂ければ満足です。

 それではまた不思議の世界でお会いしましょう。