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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


波乱〜折角の休日〜
------<オープニング>--------------------------------------
「ふう、ようやく一段落か……」
 武彦は側にあった事務所のソファに、トスンと腰掛けた。
 近頃の幽霊や妖怪の騒ぎも、なんとか納めてこうしてゆっくりできる次第だ。
 それにしても、今回の騒動は今までとは違うタイプの幽霊だった。
 なんというか、悲しみに暮れているというか、とにかくどことなく悲しさを誘う幽霊だったのだ。
「なんなんだ、この後味の悪さは……」
 そう感じつつ、武彦はそのままソファに寝転び、寝息を立て始めた。

「……さん、武彦さん! 起きてくださいよ!」
 翌日の朝早く、武彦はこの前の依頼主に起こされた。
「何だよ、ゆっくり眠らせてくれ。それに今日は俺は休日だから」
「そう言わないで。昨日のあの幽霊、身元が分かったんです!」
「何だって?! どういうことなんだ、そりゃあ!」
 いきり立つ武彦。依頼主の話も聞かず、武彦は昨夜のあの場所へと向かうのだった。

「あ、エマ連れてくるの忘れてたぜ」
 エマというのは、近頃草間興信所でアルバイトをするようになった女性だ。
 霊や神秘について興味があり、しかもなかなか愛嬌のあるエマ。そういえば国籍とか聞いてなかったけど、そんなのはどうでもいいことだった。
 武彦は携帯電話を使って、エマの家へ電話する。
「おう、エマか?」
『あら? 武彦さん? どうしたの? こんな朝早くから』
「昨日の幽霊の身元が分かったらしい。昨夜の場所、エマの家から近いところだったよな」
『ええ。それじゃ、そこで落ち合いましょう。私、先に行ってるから』
「おう、たのむぜ」
 武彦は持ち前のバイクを駆り、昨日のあの場所へと急ぐ。
 あの霊は、ちょうど中学生くらいの女の子だった。しかも峠の中腹あたりで、自殺するには恰好の処で場所が悪い。
 武彦も実のところ、何度かその場所では調査を行ったことがあるくらいだ。
 いわゆる「自殺の名所」。しかも霊が出てくるとなれば、この峠を車で攻めることは絶対禁止になっている、禁断の場所でもあった。
 その禁断の場所に着くのに、さして時間はかからなかった。辺りはシンと静まりかえり夏の朝とはいえ、やけに肌寒い。
 そう、この場所には冷気が籠もっている。自然のものではない、霊的な冷気だ。
 ふと見ると、エマが先に来ていた。武彦はヘルメットを脱ぐと彼女の許に近づいて、
「何をやってるんだ、エマ」
と何気なく問うた。エマはガードレールから下を見下ろしていた。
「うん……。きっと、あの子自殺した子だよ。でなきゃ、あんなふうに悲しい顔しないよ」
「……そうだな。きっとそうだ」
 その時からだろうか。また急激に冷気が襲ってきた。
 まさか朝にでる霊?! いや、考えられないと言うことはない。いままで武彦はこうしたタイプの霊と何体も出会ってきていたからだ。
 その大半が、自殺した霊。この自殺の名所で自ら命を絶った、人々の悲しさや恨みが冷気となって峠の下から上がってくるのだ。
「うう、寒い……」
「大丈夫か? エマ」
 寒がるエマに、ジャンパーを引っかけてやる。これじゃ埒があかない。
 それからすぐだった。二人の前に、昨夜の霊が出没したのだ!
 悲しいほど青白い顔。折角の美少女が台無しだった。
「まさかとは思ったけど、やっぱりまた出たか」
「そうよ、あの子よ。どうして出てくるの? 何の未練があって、ここに出てくるの?」
『逢いたい……』
 少女が言う。
「逢いたいって、誰に逢いたいんだ?」
『高塚……弘信……』
「たかつか、ひろのぶ、か。そいつは誰なんだ? 肉親か? 恋人か?」
『私の……大切な人……』
 どうやら少女の恋人らしい。そいつを連れてくれば、この霊は成仏するのだろうか?
 その時、武彦の携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
『草間さん! もう、いきなり出て行くものだから用件伝えるの間に合わなかったじゃないですか!』
「ああ、すまんすまん。だがな、こちらも今はそういう悠長な事態じゃないんだよ」
『ま、まさか、遭遇しているんですか? あの幽霊に!』
「ああ、正解だな。彼女は恋人を欲しがっている。高塚弘信っていうのに、心当たりないか?」
『だからそれを言おうとしたのに……。高塚君なら、今そちらに向かっている筈です。ナイーブな男の子なんで、邪険に扱わないで下さいよ』
『ああ、分かったよ。あんたも早めにこちらに来てくれよ。やることが沢山ある』
「え、ええ? わ、私もですか?! はい……、分かりました……」
 携帯が切れると同時に、霊はガードレール下を見据えていた。
「あんたが飛び降りた場所は、そこからだったのか?」
 首を縦に振る霊。
 ここから飛び降りるには、相当の覚悟がいるだろう。この峠は一番高い所で二百メートル以上あって、ほとんど崖だ。
 年に数回、自殺者の遺体を供養すべく、崖下のパトロールが行われるが、行政の怠慢から、近頃はほとんど行われていない。これでは、悲しみや恨みばかりが募っていくばかりだ。
 ほぼあって、車がこちらを目掛けてきた。タクシーだったが、中から下りてきたのは痩身でも痩せすぎた感のある男性だった。
『高塚……くん』
 霊の発言に、武彦もエマもビックリした。あの痩せ細った男性こそ、霊の言う高塚弘信だというのだ。
「信じられない……。君が、瀬戸さんが見えるなんて……」
 武彦とエマは、早速高塚に詰め寄り、霊に関しての話を進める。
「ちょっと取り込み中いいかな? 俺は草間興信所の草間武彦、こいつはバイトしてるシュライン・エマ。高塚弘信くんだね?」
「は、はい、そうです。瀬戸さんの幽霊を二日前に見たもので、もう一度確認をと思って……」
「あの霊の本名は?」
「瀬戸さんですか? 瀬戸美奈子といいます。生前は、僕たち付き合ってたんです」
 エマは感慨深そうに、
「二人は恋人同士だったのね……」
と羨ましそうに言った。
「でも……、僕は彼女を逆に傷つけてしまったんです! 僕があの時、他の女の子と帰ってさえいなければ……」
「ん? それはどういう意味だい?」
「正直に話します。僕には幼稚園時代から親達が勝手に決めた許嫁が居るんです。その人の名前は言えませんが、僕が瀬戸さんの傘を断らなければ、きっとこんな事には……」
「ようするに二股だったってことか?」
「ええ……そうです。でも僕は許嫁には反対した。そんなことで恋愛まで拘束されるものじゃないと、親とも喧嘩して……。でも結局、僕は瀬戸さんを殺してしまったんです……」
「瀬戸さんの幽霊を二日前に目撃したというのは?」
「この峠を越えないことには、家へは帰れませんから。その時に見覚えのある幽霊を見たんです。きっと瀬戸さんじゃないかって。今になってようやくハッキリしました」
 武彦の質問は続いた。
「家へはどういうふうに? 徒歩だとここは危険だぞ」
「自家用車がありますから。学園までの登下校は、自家用車で送り迎えしてもらってるんですけど……」
 エマにとっては鼻につく発言だったらしく、
「あんたって、お金持ちのボンボンよね。だから許嫁も恋人の想いも分からないんだわ」
と悪態をつく。
「やめろよ、エマ。そこまでにしておけ」
 瀬戸の表情は明るく笑っている。高塚が来てくれて、一番嬉しいのは他でもない、瀬戸だ。
 高塚は瀬戸に向かいあった。
「瀬戸さん、本当にごめんなさい。幾ら謝っても許してもらえるとは思ってないけど、僕は君が一番好きだった。なのにこんな辛い想いをさせてしまって……」
『ううん、いいの。あなたに会えてお話出来ただけでも、とっても嬉しいわ。でもね、成仏が出来ないの。きっとあなたに未練があったから……』
 病死、事故、他殺、自殺、あらゆる死の原因でも、この世に未練があれば成仏は出来ない。
 だが。武彦だけは、この時のために、札と結界策を常時持参してきていた。これにはちょっとした人手がいるので、最低でも四人は必要なのだが。
 そこへまた車が走ってきた。見たことのある、オンボロのクラウン。
 出てきたのは、依頼者だった。名前は確か、望月権蔵というあまり縁起の良くない名前だったはず。
「はあ、何とか間に合いましたね……、う、うひゃあ!」
 望月は瀬戸の霊を見て腰を抜かす。まったく、恰幅の良い割に臆病なやつだ。
「あ、朝から幽霊なんて、見たことありませんよ〜」
「馬鹿野郎。幽霊なんてものはな、昼夜問わず出てくるものなんだ。覚えておけ」
 呆れた武彦が望月に言い渡す。
「それより手伝え。瀬戸さんを成仏させる。高塚くん、エマ、望月。この結界策を道路に星形に引いてくれ。それが出来れば、瀬戸さんを中に入れて結界にする」
 四人は武彦の言われた通りに結界策を作り上げ、そしてその中に瀬戸の幽霊を中に促す。すると結界策が青色に色を染め、あとは札を瀬戸の霊に付けるだけとなった。
「あの……」
 高塚が武彦の前に出る。そして頼み込んだ。
「この仕事、僕にやらせてもらえませんか? せめて自分の手で、瀬戸さんを成仏させてあげたいんです」
 武彦もエマも呆れてしまったが、きっと自分でもそうするにちがいないと思った。
 それなら、かえってやらせた方が、二人の関係を壊さずに済むだろう。
 武彦から受け取った札を、高塚が瀬戸に貼り付ける。
「今度生まれ変わったら、一緒になろう。瀬戸さん」
「高塚くん……ありがとう」
 やがて瀬戸の霊は跡形もなく消滅し、天空へと散っていった。

「いやはや! これまた凄い額ですな。さすがは坊ちゃん、住むところが違う!」
 望月は礼金としてもらった高塚からの金額を目にして驚愕していた。
 必要経費合わせて三百万。これくらいは貰っておかないと、メシの食い上げだった。
 本来ならそこまで貰う必要もないものだったのだが。
「貰いすぎだな。やっぱり少し返してくるか」
 武彦の言葉に、エマは横やりを入れた。
「何いってんの。そのくらいもらって当たり前って世界でしょ、ここは」
「まあ、そうだがさ。あの二人、来世では一緒になれると思うか?」
「ふふふ、そうねぇ。二人の業(ごう)次第ってところかしら。違って?」
 良いながら武彦もエマもお互いに笑い合うのだった。
                          FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 シュライン・エマ 女 26 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト

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■         ライター通信          ■
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 やりましたね。見事、瀬戸の霊を成仏させることに成功しました。
 このあとエマは、この事件を許にして書いた手記を発表することになります。
 なんにしても、ハッピーエンドでよかったですね。
                 夢 羅 武 市 より