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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


調査コードネーム:押し花の意味
------<オープニング>--------------------------------------
 それは、一人の少女が読んでいた月刊アトラス今月号から始まった。
 少女はその本を読んでいる途中、半ば枯れている押し花を見つけた。
 それは淡い桃色の桜の花。花びらだけが押し花として中に入っていた。
 他に読んでいた読者が、イタズラ目的で入れたものと思っていた。
 だが、急激に少女の様子がおかしくなり始める。
 目は白目を向き、もがき苦しみ、やがて息も絶え絶えになり始めた。
 それを発見した家族は、急いで少女を救急車で病院へと運ばれて行く。
 彼女の部屋には、押し花だけが残っていた。桜の花はポツンと一輪残された。

 月刊アトラス編集部は、この事件が起こってから、夜になってもてんてこ舞いの大騒ぎとなっていた。
 今月号だけに限り、各号には桜の押し花が挟まれており、これを見たり触ったりした読者は次々と倒れ、ほとんどが死か重い症状で入院という有様となっていた。
 そんな超忙しい中、編集部に現れたのが山崎竜水だった。
「よう、麗香女史。なんだ、随分忙しそうだな」
 麗香は額に汗をかき、それをハンカチで拭き取りながらデータベースを閲覧している。
「そうなのよ。今回は大変なことが起こっているの。事態は深刻だわ」
「そんなに忙しい時だってのに、三下はどうしたんだぁ?」
「調査に行かせてるわ。あいつ、嫌だって言ったんだけどむりやり行かせたわよ」
 竜水は大いに笑った。
「わーははは。やっぱりそんなことだろうと思ったぜ。三下も名前通りってか?」
「それで? タッチャンは今日は何の用なの?」
「ああ、いつもの差し入れ。でもこれじゃあ、間に合いそうもないかもなぁ」
「うふふ、ありがとう。悪いんだけど、今日はこれで帰ってくれるかしら」
「そのつもりだぜ、麗香女史。事件解決に頑張ってくれよ」
 そう言いながら、竜水は編集部を後にした。

 竜水は編集部を出ると、コンビニの方から見慣れた小柄な体格の男を見つけた。
 三下だった。
「あれれぇ? 三下君、キミ調査してる途中じゃなかったのかい?」
「へ? ええ?! 山崎さん! 何で知ってるんですかぁ?」
「いつもの麗香女史への差し入れでね。それで聞いたってワケさ」
 三下は肉まんにかぶりついていたが、ビックリしてそれを道路に落としてしまった。
「ああ、肉まんがぁ……」
「まったく……。そんなだからキミはいつまで経っても三下なんだぞ?」
「それは名前だけじゃないですかぁ」
 竜水は仕方がないなと思いつつ、三下に肉まんの料金を恵んでやった。
「え? い、いいんですか?」
「へへ、おれも悪かったしな。それより、事件の全容、聞かせてくれるよな?」
 三下は竜水から料金を貰うのをためらった。
「そ、それは……交換条件ってやつですか?」
「どうとでも。ま、力になれないってのは辛いなぁと思ってな?」
と竜水は料金を再び財布に仕舞おうとする。
 三下は堪えきれず、仕方なしに口火を切った。
「わ、わかりました! でも他言無用ですよ。麗香さんにも怒られますし」
「それは承知の上だ。麗香女史は俺でも怖い相手だからな。約束するぜ」
 竜水から肉まんの料金を受け取り、三下は再びコンビニから肉まんを買ってくると、二人並んで夜道を歩き出した。
「高峰心霊学研究所に行って来たんです、ついさっき」
「高峰……、ああ、噂に聞いたことあるぜ。確か美人の姉さんがやってる研究所だろ?」
「はい、そうです。そこで聞いたんですが、今の桜の現象は、何者かが桜の木を揺さぶっているからだろうって」
「桜の木を揺さぶる、か……」
 竜水は腕組みして考えていた。三下はようやく肉まんを食べ終え、そばにあった屑籠に袋を捨てた。
「そして、その木を揺さぶっているのは、死体だっていうんです。ひえ〜」
「おいおい。自分で言っておいて一人で怯えるんじゃねえよ!」
 三下はすっかり疲れてしまったようだが、竜水の好奇心は強くなっていった。
「で、三下くん。その桜というのはどこにあるんだ?」
「高峰さんの言うことには、桜が一番先に咲き出した木だそうです。そこから花びらが来ているって言ってました」
「まあ、先に咲き出せば枯れるのも一番先だろうから、道理にはあってるけどなぁ」
 無精ヒゲを触って考え耽る竜水。これはもう自分が調べてみるしかないだろう。
 理由としては三下は頼りない、麗香女史も編集室で作業中だ。ここは手伝ってやるしかないと思っていた。自分の好奇心を鎮めるには、これしか方法がない。
「三下。その一番先に咲いた桜の木に案内しろよ」
「ええ?! そんな、危険ですよ! 桜の花びらで何人の人が死傷したか知ってるんですか?」
「いや、知らねぇ。だがよ、放っておけば、また生きたの死んだだの、大変なことになるのは間違いないんだぜ?」
「そ、それはそうですが……」
「しかも麗香女史に言われて何の成果もありませんでしたじゃあ、帰るに帰れないんじゃないのか?」
「う。そ、それはそうです。分かりました、その桜の目星はついてますから、行ってみましょう。でも、何があっても保障できませんよ」
「誰に言ってんだよ、誰に。あんたよりは、よっぽど頼もしいと思うぜ、麗香女史から見ればよ」
 二人は夜道をそのまま歩いて、桜の咲き誇る場所へとやってきた。
 桜の木の下にはライトが設置してあり、夜桜の雰囲気を醸し出していて、非常に美しかった。
 春の桜も今が見頃。夜も九時を回っていると言うのに夜桜見物でドンチャン騒ぎをする人々もいた。
「はん、いい気なもんだぜ。こんな時間まで夜桜見物とはな」
「人には人の楽しみがありますから、放っておきましょう」
「お、三下の割には良いこと言うじゃねぇか」
「その〜割にはっていうの、止めて下さいよ〜」
 やがて桜道を歩いていくと、妙に赤っぽい木が目前に見えてきた。
 大きい。そんじょそこらの桜の木とは、二倍以上の大きさがある。
「こ、これです。この木の下に死体が……ひいいい!」
「馬鹿野郎、ビビってんじゃねぇ! 死体なんてどこにも……」
 すると一輪、二輪、三輪……。その木から花びらが降ってきた。そしてそれは風に乗ってこちらへと近づいてくる。
「う、うわわわ」
「ちっ、やっぱり思った通りか。降ってくるとは思ってたぜ! 三下、下がってろ! 木に体当たりしてみるぜ」
 竜水は持ち前のラグビータックルを利用して、桜の木にぶちかましてみた。
[戦闘]
 桜の木1000/1000:竜水100/100
 竜水の一撃!
 桜の木999/1000:竜水90/100
 桜の木は何もしない
 竜水の一撃!
 桜の木998/1000;竜水80/100
[戦闘終了]
「ふう、これじゃ埒があかないぜ……」
「竜水さん、大丈夫ですか?」
「ああ、何とかな」
 その時、どこからか声がした。
『……れだ……たしを起こすのは、誰だ……』
「ひいいい! 桜の木が喋ってる!」
「正体出現ってワケか」
 三下は怯えてばかりだが、竜水は苦笑いを浮かべて名乗った。
「俺は山崎竜水。そしてこいつは三下だ」
『我はこの桜達の長なり。して、用件はなんだ?』
 その声は老人そのものだった。子供や孫を優しく見守る老人と同じだったのだ。
「どうも事件が起きてな。あんたのせいで。三下くん、後はキミの出番だよ」
「は、はい。私たちの発刊する本を読んだ人々がどんどん倒れてしまって。死傷者も沢山出ているんです。心当たりはありませんか」
 三下は恐る恐る、桜の長に聞いた。
『心当たりはある。この娘達、自分たちの下で繰り広げられる人間達の花見の悪さに憤慨してな。自分たちの桜の花びらを無作為に飛ばしたのだよ』
「な、なんてこと……」
 三下は怖じ気づいてそれ以上聞くことが出来なかった。なぜなら無作為というなら、ここに花見に来た人間だってタダじゃすまない筈だ。
「でも! どうして月刊アトラスだけが被害に遭わなくちゃならないんですか? それなら他の書籍にだって……!」
『ああ、あの本か。ワシも少しは知っておる。あれには念が籠もりすぎておる。念というより邪念じゃな。花びらはそう言うのには敏感でな。無体を強いたのなら、ワシから謝ろう』
 三下も竜水も、その話を聞いてどうやら納得したようだった。
 確かにインチキな心霊話などで邪念を作っている月刊アトラス。花びらが舞い落ちるのも無理もない話なのかも知れない。
 でも。だからといって読者を死傷させたのとは話が別だ。
「謝ったからって、許しておけないこともあるんだぜ、桜のオッサンよ!」
「そ、そうです。これまで何十人の読者が死傷したことか、分かっておられるんですか?」
 二人は臨戦態勢に入った。こんな理不尽、許せるものではなかったからだ。
 しかし、その時。二人の前に一人の女性が立ちはだかる。
「そこまでよ、あなた達」
 立っているのは麗香だった。
 三下も竜水も驚き、すぐに臨戦態勢を解く。
「桜の木の長様、二人の無礼、お許し下さい」
『いや、よい。それでは、ワシはまた一眠りさせてもらうとしよう』
 もう桜は散っていなかった。そしてようやく平穏が訪れていた。

「高崎さんから連絡があってね、三下が来て、桜の謎を聞いていったって。それから桜の木の長を教えたって言ってきたのよ。やっぱりきてたとはね。しかもタッチャン、あなたまで」
 竜水は、へへ、と照れ隠しにわらいながら、
「だって三下だけだと仕事捗らないでしょう? だから手伝ったまでですよ」
「本当? なら、この危険な仕事は今回限りにして頂戴。あなたにまで怪我をされたら困るのよ」
「差し入れ、ですか?」
「ふふ、まあね」
 そこへ三下が横やりを入れる。
「あのぅ、結局の所、これで事件解決なんでしょうか?」
「さてね。死傷者は出ているけど、時期収まるでしょう。今月号のアトラスの回収も終わったし」
「ふう、やっぱり手伝って正解だったろ? 三下くん」
 得意気に竜水が言う。
「はい、ありがとうございます。山崎さん」
 こうして、三下は今回もいいところなく、竜水にお株を奪われたのだった。

FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0301 山崎竜水 男 38歳 農夫
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■         ライター通信          ■
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 勇気ある農夫(?)山崎竜水が先だって解決した事件でした。
 それにしても三下はやはり三下でしたね。可哀相。
 次は麗香や高崎がふんだんに出てくるシナリオを考えて
おりますので、お楽しみに。