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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:豪華客船招待状の裏側
------<オープニング>--------------------------------------
 東京の港に、大きな船が入港した。
 キングステーラーというそのおおきな船は豪華客船である。
 この客船に乗船出来るのは、資産家や大金持ち、若しくは何らかの才能を認められた人間ばかりである。
 その客船が東京に立ち寄るということで、東京だけでなく日本中が沸き立っていた。
 武彦は興信所で一日中ボケッとした毎日を送っていた。
 日は燦々と降り注ぎ、健康的な外とは裏腹に、興信所の中は病的とも言える怠惰が充満していた。
「あ〜あ。何かこう、しびれるような仕事はないものかねぇ」
 すると玄関が開き、見たこともない外人がそこに立ちつくして言う。
「ハイ、あなた、くさまたけひこさん、ですね?」
「あ、ああ、い、イエス」
 武彦は慣れない日本語で、頑張る外人に応対する。
 そして外人は武彦に手紙を差し出した。
「これは、キングステーラーからの、あなたへの、招待状でぇす。受け取って、もらえますか?」
「招待状? あの、豪華客船からの? うっひょ〜」
 武彦は快く、招待状をもらい受ける。何かの裏があるとも知らずに……。

◎キングステーラーにご搭乗
 武彦は東京の港に停泊しているキングステーラーへと、着の身着のままで持ち前のバイクを駆って目指した。
 やがて、眩しいほどに光り輝いて見える客船が、真横に見え始める。
「あれが、キングステーラーか。すげえな!」
 だんだんと近づいてくるほど、武彦の胸は動悸が速くなった。
 あの豪華客船のVIP待遇だぞ、俺は。
 招待状の中の手紙には、こんなことが書いてあった。
『ムッシュ草間武彦殿。あなたを我がキングステーラーにご案内したい。今すぐにでも、普段着のままで来て頂きたい。この招待状はVIP待遇として、取り扱うこととする』
 しかしちょっと不思議なことがある。VIP待遇ともなれば、男性はタキシードか燕尾服と決まっている。それを普段着のまま来てくれ、だなんて。
 よほど武彦を気に掛けてのことか、それとも他の理由があるか、だ。
「ん〜、なんだろうな。やけに胸騒ぎみたいのもするんだが……」
 その胸騒ぎは、あとではっきりすることになる。そしてどうして武彦がキングステーラーに呼ばれたのかも……。
 目の前に豪華客船の入り口が見えた。どうやらこの客船が東京に立ち寄ったのは、船の中の住人たちとの親睦を図るのが一番の目的らしい。
 駐車場にバイクを止め、そのままの恰好で客船に入ろうとすると、武彦はいきなり黒服二人にがっしりと両腕を捕まれた。
「ノー、ノー。普段着、ノーね」
「タキシードOK。バット、ノーマルファッションは、ノーです」
「ば、馬鹿野郎! 俺はちゃんと招待状貰って来てんだ!」
 その騒ぎに気づいたのは、若いご婦人だった。
「まあ、何の騒ぎですの?」
「このボーイ、ノーマルファッション。キングステーラーには、入れませーん」
「だから言ってんだろ!? おれは招待状貰ってるんだってばよ!」
 婦人は武彦から招待状を受け取ると、それをまんべんなく読んだ。
「ええ、この方VIP待遇ですわ。それに普段着でも良いと書いてあります。離して差し上げてくださいな」
 すると黒服の二人はようやく納得したように、武彦の前から去っていった。
 武彦を助けた婦人は、へたりこんだ彼を見て、優しく微笑む。
 背の高い、スタイルの良い女性。しかも器量良し。武彦は思わず照れてしまった。
「災難でしたわね。私は高橋理都と申します。以後、宜しくお願いします」
「ふう、酷い目にあった。高橋さんか、こちらこそ宜しく」
 立ち直った武彦は、理都と一緒に船内へと入った。
 そこはまるで豪邸の中に踏み入れたかのようで、入ってすぐのシャンデリア、いかにも高そうな調度品が並んでいる。
 三千人以上の客を乗せ、乗組員も千人を超す。超級の船に今武彦はいた。
 理都の案内で甲板に出てみると、そこは遊びの道具がそろえてあり、プールまである。これならいつまでもここに乗っていても、退屈はしないだろう。
「ところで、えーと……」
「ああ、俺は草間武彦。これでも興信所を開いてるんだ」
「まあ、興信所ですか。するとご収入もかなりの額なのでしょうね」
「え? あ、まあ、仕事によりけりかな、ハハ」
 あまり儲かってない、などとは言えない。言えるはずもない。近頃の収入はほとんどゼロに近かったからだ。
「たしかVIP待遇でしたわね。船長室へ行ってみてはいかがですか?」
「あ、そうだなあ。どこに船長室があるか、分かりますか?」
「ご案内しますわ。こちらです」
 理都に案内されて着いた場所は、瀟洒な雰囲気のドアが特徴の船長室だった。
「失礼します」
「入りたまえ」
 年季の入った船長の誰何に応じて、武彦と理都は一緒に中へと入った。船長は日本人らしい。
「草間武彦、入ります」
 すると船長は、目の色を変えて武彦にすがりついてきた。
「おお、草間くん! 草間興信所の草間くんだね?!」
「はい。あの〜、VIP待遇ということで参上したんですが」
「ふむ。まずそのご婦人は?」
 理都を見た船長は、怪訝そうに見つめている。
「私、スチュワーデスをしております、高橋理都と申します。見学に来ました、どうぞお見知りおきを」
「なるほど。では、この仕事は二人でやって頂きたいのだよ、草間くん」
 武彦にはなんのことやら、さっぱり分からない。唯一予感がしたのは、このVIP待遇は恐らくロクでもない事件の始まりではないかという事だけだった。
「率直に言おう。船内のボイラーに仕掛けられた爆弾を解体して欲しいのだよ」
「ば、爆弾解体!?」
「もちろん成功すれば報酬は出す。だが失敗すれば、君達の命はないと思って欲しい」
 予感的中。VIP待遇で武彦を呼び出したのは、この仕事をやらせるためだったのだ。
「誰がそんなもの仕掛けたんですか?!」
「分からぬ。だが時間がない。早速ボイラー室へ直行して欲しい」
 もうこうなればやけくそだ。やるしか方法はない。
「高橋さんはどうする?」
「ええ、私もお供いたしますわ」
 できることならここにいて貰った方が安心なのだが、いざというとき頼りになるのは女の勘ともいう。ただし、失敗すればふたりともオダブツなのだ。
「よし、その覚悟があるなら行こう。船長、ボイラー室を教えてくれ」

◎選択の時
 蒸し蒸しとしたボイラー室の湿度は、ほとんどサウナに入っているのと同じだった。
 そして一番大きなボイラーの壁に、その爆弾は取り付けられていた。
 箱形で、比較的大きい。
 武彦は道具を懐から取り出して、まずは箱の扉から外しにかかった。
「大丈夫ですか? 草間さん」
「ああ、何とか光センサーはついてないみたいだ。おっと、今度はお得意のコード類か」
 コードの本数は十本、そのうち二本、赤と青は他の八本よりも二回りも大きいもので繋がっていた。
 もちろん、繋がっているのは、タイマーと爆弾本体。
 そして肝心のタイマー時刻は、あと2分を指していた。
 ボイラーの熱と緊張の熱で、武彦も高橋も参り気味だ。それでもこれを処理しなければ、二人はおろか、この客船の客の命もないのだ。
 八本のコードはニッパーで切ったが、タイマーは止まらない。赤と青、どちらを切るか決めなければならない。残りはあと一分。
「くそ、どれだ! 分からん!」
「私は、青に賭けます。草間さん、青にしましょう!」
「女の勘ってやつかい? よし、高橋さんに賭けるぜ!」
 武彦は躊躇うことなく、ニッパーを青に差し込んだ……。

◎闘い済んで……
「はあ、もう腹一杯だぜ〜」
「うふふ。草間さんたら」
「そういえば、高橋さんて彼氏とかいるのかい?
「ええ、まあ。でも今回は来てないんです。出張で名古屋まで行ってますから」
「なんだぁ、彼氏連れなのかよ〜」
「うふふ。ガッカリしました? でもきっと草間さんにも良い方がきっと現れますよ」
「だといいけどなぁ」
 爆弾解体は成功した。というより、あれはオモチャの爆弾で、この船に乗っている客が面白半分で仕掛けた花火ということが分かった。
 しかし花火とはいえ、火薬を使うのは確か。ボイラーに影響あるのは周知の事実。その客は船長からきっちり罰金をとられたという。
 お陰で爆弾騒動も終わり、理都と武彦は我が世の春を楽しんでいた。
「でも明日から、またカップラーメンなんだよなぁ。よしこの際、高橋さん!」
「ええ! めぼしいものはタッパーに詰めて持って返りましょうね!」
 二人が懐から出したのは、売店で買ったタッパーだった。
「おやおや、お二人とも。食べ物を粗末にしないのは結構なことですよ」
「あ、船長。で、あの客はどうしたい?」
「もちろん、罰金として200万円出して頂きました。それでなのですが、これをお二人でお分け下さいませ。それが草間さんと高橋さんにできる僅かなお礼です」
 二人は食べ物は手に入るわ、お金は手に入るわで、もう両手には何も持てない。
「じゃあ、お互いに100万円ずつだ。これでしばらくは遊べるな」
「ええ、良い仕事しましたね。しかも思わぬ収入。私も興信所開こうかしら」
 こうしてキングステーラーの夜は更けていくのだった。
                     FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0366 高橋理都 女 24 スチュワーデス

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■         ライター通信          ■
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「豪華客船招待状の裏側」、お楽しみ頂けたでしょうか?
 私としては「青も良いけど赤も良い」という内容だったの
ですが、選択は間違っていなかったようですよ(だれですか?
どちらにしてもハッピーエンドという人は?!)。
 因みにモデルとなった客船は、ボイジャー・オブ・ザ・シーズという
船です。興味があったら調べてみてくださいね。

 これが私、夢羅武市の文体でございます。
 まだまだ足りない部分もあると思いますが、どうぞ今後とも
ご愛顧のほど、宜しく申し上げます。
              夢 羅 武 市 より