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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


かごめ かごめ

【序:かごめ かごめ】

 かごめ かごめ
 かごのなかの とりは
 いつ いつ でやる?
 よあけの ばんに
 つると かめが すべった
 うしろのしょうめん だあれ?

 都内にある住宅街・生成町(きなりまち)で、連続殺人事件が発生している。殺された人々は小学にあがったばかりの子供から、成人を向かえる直前だった若者まで。
 親が目を離した隙に姿が消え、近隣の山林に死体となって棄てられていると言うのだ。
 死体はそろって首を切られていて、まるで鋭利な刃物で一刀両断したような切り口だという。
 警察は親に子供から目を離さないように呼びかけているが、それを嘲笑うかのように犯行は続いている……。
 共通点は、成人前である事と一人っ子である事。そして、生成町の住人である事。

「お願いします、犯人を…犯人を捕まえて!」
 編集部に、一人の女子中学生がやってきた。肩で切り揃えた黒髪は、下げられた頭と同じように下へと流れている。
「……先週、私の…友達が、殺されたの。……犯人は、絶対許せない…っ」
 怒りを露わに、膝に置いた拳を更に強く握る。
 お茶を出されてそれを一気にあおるように飲むと、少し落ち着いたのか町について話を始めた。
「…私が住んでいる町…生成町は、そんなに大きくも無い住宅街です。まだ所々に田んぼはあるし…。
 昔は村だったんですけど、それがいくつか合併されて今の名前になったんです。
 元々は『鬼成村(きなりむら)』っていう名前で……昔、酷い飢饉が遭った時に、村人が鬼のような事をしたから、そんな風に呼ばれてたんだって。おばあちゃんが教えてくれました。どんな事かは教えてくれなかったんですけど…」
 そう言って、少女は俯いた。
「あ…私、鴻坂・佳澄(こうさか・かすみ)と言います。私もお手伝いします、一人っ子だから囮にはなれます。足手まといにはなりません! ……だから…だから、お願いします。
 犯人を、捕まえて下さい……!」
 思い出したように顔を上げ、初めて在った時の激昂とは違う、今度は落ち着いて依頼引受人に頭を下げた。

【壱:恐怖という名の籠の中の鳥≪榊杜編≫】
 とにかく、話。話を聞かなければ始まらないと、榊杜・夏生(さかきもり・なつき)は握り拳を固めて考えた。
 何故今頃事件が発生するのか、何故未成年ばかりが狙われるのか。そして、飢饉があったのはいつなのか。
 色々考えていくうちに、住人から話を聞かなければ分からない事が多すぎたのだ。思い立ったが吉日という言葉がある。彼女はその言葉通りに行動を開始した。
 まずは町へ行き、住人から話を聞こうと。
 ……したのだが。商店街の人たちも誰も彼も口を閉ざして話そうとはしてくれない。困ったような顔をして口を閉ざすばかりで、誰も相手にしてくれない。
 ただ一軒の八百屋を除いて。
「ちょっと待ってな」
 店主はそう言うと、店番を女房に任せて奥へと入っていった。それからすぐに戸棚の陰から顔を出し、夏生に手招きをする。入っていいものかどうか悩んだようだが、「お邪魔します」と声をかけ、店主の方へと向かった。
 店主の後ろに、一人の老女が座っている。生きた歴史書と言わんばかりの風体に、夏生はたじろいだ。
「お前さんかね、村の事を聞きたいと言うとるのは」
「う、うん」
「……」
 老女は黙って夏生を見ている。が、直ぐによろよろと立ち上がって奥へと入っていった。
「軒先で話すことではないからの、ちょっと上がりなさい」
 彼女に誘われ、ちゃぶ台に置かれた茶菓子と番茶を肴に、老女は話を始めた。
「詳しい事は分からん。ワシもひいばあさんから聞いた位だしの」
「それでも良いの、教えてくださいっ」
「……昔のぅ、ここら一帯で酷い飢饉があったそうじゃ」
 老人の話というものは長い。その長い話を要約すれば、以下の通りとなる。

 豊作の時期があれば、不作の時期がある。子に恵まれすぎた家は、不作の時期には生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた事が何度もあった。子は宝という。だが、自分の命がかかれば宝とて時には手放さなければならないものなのだ。

「…まさか」
「『間引き』という言葉を知っておるかね。今の若い子供達には縁の無い言葉じゃろうが」
 老女の話を聞き、夏生は口に手を当ててうめいた。
 自分が生きている時代とはかけ離れた話。だが、これですべての線が繋がった事を確信し、老女と八百屋の店主に礼を言って走り出した。
 話を聞き始めてどれほどの時が経っただろうか、辺りは既に茜色に染まり始めている。一ヶ所、まるで黒雲が立ち込めたような箇所を目指して、夏生は急いで走った。

【弐:後ろの正面、誰?】
 生成町の住宅街上空。まるで何か獲物を狙っているように羽ばたいている無数の鴉たちが目印となった。
 廉は住宅街の一角にある団地に車を泊め、藤夜嵐はまるで風にでも乗るように走った。
「佳澄ちゃん、走って!」
 絵里佳がブランコに腰掛けたまま、きょとんとしている佳澄の手を掴んで走り出した。その後ろを守るように、咲耶がついていく。目標が移動している事に気付いたように、鴉たちが動いた。その内の一羽が、『ギャア』と悲鳴のような泣き声を上げて佳澄に向かっていく。
「三人とも早く行って!」
 どうやら間に合ったらしい夏生が、しんがりを務めていた咲耶と、明らかに佳澄を狙っている鴉の間に割って入った。
「もうやめて! こんな事したって仕方ないのよ!」
 そう怒鳴りはしたが、彼女は既に左足を軸に身体を半回転させ、右足を腰ほどの高さまで上げていた所だった。鴉相手に説得しても通用はしない。だが、この鴉を操る『何か』には聞こえていると信じて声を張り上げたのだ。
 制服のスカートの裾がふわりと上がり、その下に隠されていた小麦色の足が弧を描いた。綺麗な回転を決める夏生に対し、ものの見事にカカトを食らった鴉は遠くへと飛んでいった。
「夏生ちゃん、少しは恥じらって! 男の子の前で!」
「恥じらって幽霊が昇天してくれればいくらでもやるわよっ!」
「根本的な解決になっていないわ」
 絵里佳が怒鳴り、夏生が応え、廉が淡々と突っ込んだ。
「皆さん、こっちへ!」
 髪と瞳の色を元に戻した藤夜嵐が家の角から顔を出し、手招きして全員を呼んだ。彼女がいる方向は、近隣の山。
「そっちは山ですよ!」
 山にうっそうと茂る木々を見て、咲耶が叫ぶ。だが、藤夜嵐は何か答えを得たような表情でこちらに向かってくる五人に声をかけた。
「ここに……この山の中に、『答え』があったんです!」
 その言葉に、全員の足が速くなる。だが。

―――うしろのしょうめん だ〜ぁれ?

 少女の声が、全員の耳に入り込んだ。
「……え?」
「…っ! 佳澄ちゃん、振り返っては駄目っ!」
 佳澄の小さな声を聞き、廉が慌てて足を止め振り返った。反射的に、自分の首を押さえてしまったのはここへ来る前に見た映像の所為だろう。
 僅かに足を緩めた彼女の脇をすり抜けてしまった咲耶が、つんのめるように足を止めた。だが、間に合わない。
 横にいたはずの少女の気配が、今の声と共に消えた事に気づいた夏生と絵里佳も足を緩めかける。
 慌てて振り返った全員の目に映ったのは、大群の鴉に今にも襲われそうな小さな少女の後ろ姿。それを見た藤夜嵐が力を放ったのと、彼女を守るように闇が現れたのは同時だった。
 突き飛ばされた反動で、胸ポケットから零れ落ちた朝顔の種が発芽し、瞬く間に蔓(つる)を伸ばして闇と鴉の間を遮った。
 朝顔の蔓を鴉が叩いている。その煩い羽音を置き去りにするように、闇が振り返った。
「何をしている! 早く走って!」
 黒いコートの男…忍が佳澄の背中を押し、全員に向かって怒鳴った。いち早く気を取り直した廉が同じように叱咤(しった)し、全員の足を山へと促す。
「皆さん……皆さん、待って…」
 自分を守るように走る忍と絵里佳を押さえようとするが、二人は足を緩める事無く走っている。佳澄は前を走る夏生、廉、藤夜嵐、そして咲耶にも声をかけた。隣を走る絵里佳が、佳澄の背中を押しながら顔だけを彼女に向けて問い掛けた。
「待ってたら追いつかれちゃうよ! 走って……」
「今の……今の声……!」
 彼女の言葉に振り返った廉が、後ろを走る三人に迫った鴉を見て腕を振った。空を切るような風音と共に、鴉が鳴いて遠ざかる。
「一刻の猶予も無いの、今は走って!」
 その言葉に、佳澄は顔を歪めた。
 そして、全員が山の入り口に立つと、鴉は方向を変えて飛び去っていった。
「……さっきは、何と言いたかったんだ?」
 忍が呆然としたような顔で呼吸を正している佳澄に問い掛ける。目の前にいる少女は、顔を上げた。その表情は、今にも泣きそうなものになっている。何故そんな顔をするのか、誰も理解できなかった。
「さっきの……声……」
「……声が、どうし……」
 藤夜嵐が問いかけようとした。だが、彼女の言葉の先に気付き、目を見開く。同じく感付いた廉や咲耶も、眉根を寄せる。
「……さっきの声、私の…………先週殺された……友達の、声…だった……」

【参:解放された哀しい鳥】
「ここです。多分、これが原因だと思うんです」
 藤夜嵐が、山のある地点で足を止めた。その細い指が示した先にあるのは、小さな石。だが、石のように見えるそれには、自然に出来たものとは思えない凹凸(おうとつ)があった。
「……墓石…だな」
 身を屈めて、廉が呟く。職業柄、癖になっているのだろう白い手袋をつけて、石の表面を軽く払った。凹凸はくっきりとし、『霊鎮碑』と彫られている事が分かった。それを見た絵里佳と咲耶の表情が、痛々しいものになる。
 恐れていた事は、本当にあった事だった。
 何故、今になって起きる事なのか。子供の間引きなど、今は必要ない事なのに。
「……あたし、ね。ここに来る前に、八百屋のおばあちゃんに聞いてきたの。昔あった事……」

 暮らしに困っているのに、子供は増える。苦労しても、子供さえあれば良いと思う親もいるが、苦労に耐え切れなくなった親は鬼となる。
 産まれたばかりの子供は勿論、体の弱いものは勿論殺められた。それでもまだ暮らしに困る、周りの家もそうだ。ならばどうするか?
 村の長は、子供を集めた。集めて告げた言葉は、「遊びを教えよう」という一言。何も知らない子供達は、久々に親と遊べるから喜んだ。
 だが、その喜びが一体どの程度の慰みになっただろうか?
 子供一人を輪の中に。それを囲む子供達は、手を取り楽しそうに笑った。更に子供の輪を囲む親たちは、後ろ手に鋤(すき)や鍬(くわ)を持って無表情のまま立っていた。心の底では、自分の子供が当たらないようにと願う親もあっただろう。
 そして、残酷な遊びが始まった。顔の判別もつかない黄昏時に。茜色の空を飛ぶ、鴉たちの下で。

 かごめ かごめ
 かごのなかの とりは
 いつ いつ でやる?
 よあけの ばんに
 つると かめが すべった
 うしろのしょうめん だあれ?

 当てられた子供は頭を割られ、当て外れた輪の中に居る子供は首を斬られて。
 そうして、子供の数は減っていった。男も女も関係なく。子供は総て近隣の山中に埋められ、この村の古い古い昔話は忌むべき話として闇に葬られた。
 ただ、そんな死から免れた子供もいた。
 一族の血を残す為に輪から外された、兄弟のいない子供。

「生き残った子供が、子供を斬った親が、覚えていた……知っているのは、語り部となったそんな人たちだけ、か」
 咲耶が小さく呟いて、石碑を立てた。土台が脆くなっていたのだろう、上手く立たずにまたしても重たい音を立てて横たわる。
 ふと、絵里佳が顔を上げた。
「でも、どうして鴉が……?」
「鴉は冥界の魂の橋渡しをすると言われる生物だ。……大方、殺された人たちの魂に操られたんだろう。もしくは……あの鴉こそが、死んだ人々だったのかもしれないが」
 静かに、忍が言った。
 そして。
 木々の間に、少女の歌声が響いた。驚いて声の元へと視線を向ける。
 佳澄が歌っていた。魂を鎮めるように、聖歌を歌っている。
「……せめてもの、慰み…ですね」
 目を伏せ、藤夜嵐が呟いた。
 石碑を元通りに立て直し、土と落ちた枝をかき集めて土台をしっかりと組む。絵里佳が合掌してから、ふと顔を上げて哀しげに微笑んだ。
「こんな風にしか、出来ないけど……」

 そして、山を降りた。
 もう鴉の姿は何処にもなく、太陽は彼方へと沈もうとしている。

【終:夜明けの晩に】
 一月後。アトラス編集部に佳澄が姿を現した。
「あれから、あんな風に鴉が出たり……一人っ子が、いきなりいなくなる事はなくなりました」
 事件解決後、佳澄が町長に申し出て石碑を新しく作る事を勧めたのだという。これに関しては、彼女の依頼を受けた六人が影で協力していた事もあって、即石碑を建て、鎮魂の儀を執り行ったらしい。それ以来、町は元の通りになったのだと佳澄は言った。
「皆さんのお蔭です……無茶なお願いでしたけど、引き受けてくださって有難う御座いました」
 もう一度、深く頭を下げる。
 初めてここに来た時とは違い、清々しい顔をしている。
 だが、一人だけ苦々しい顔をしている者がいた。廉である。佳澄が全員に御礼を言った後、三下が全員にお茶を勧めている時に彼女の表情に気付いたのだ。
「あの……どうかしたんですか?」
「…………発信機」
 その小さな呟きを聞き、全員が頭の上に『?』を浮かべる。
「あの子につけた発信機を、回収していなかったのよ。洗濯機にでも壊されたかしらね」
 笑えない一言である。
 そして、アトラス編集部の碇編集長の手によって、依頼には『済』のチェックと六人分の報告書がつけられたのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0017 : 榊杜・夏生(さかきもり・なつき) : 女 : 16 : 高校生】
【0046 : 松浦・絵里佳(まつうら・えりか) : 女 : 15 : 学生】
【0188 : 斎木・廉(さいき・れん) : 女 : 24 : 刑事】
【0475 : 御上・咲耶(みかみ・さくや) : 男 : 18 : 高校生】
【0485 : 風見・藤夜嵐(かざみ・とうやらん) : 女 : 946 : 萬屋 隅田川出張所】
【0563 : 七夜・忍(ななや・しのぶ) : 男 : 650 : 悪魔より追われる罪人】

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■         ライター通信          ■
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 締め切りギリギリ…と言うか、今日が納品限界日の方もいらっしゃいますね(吐血)
 思い切り締め切り破りしてます、西。です。「結果が届きません」とテラネッツ様にお手紙された方、大変お待たせ致しました。……いや、待たせるにも程がありますけど(汗)

 今回は一本完結をやってみたのですが……なかなか難しかったです。
 いくら書いても文章がまとまらないもどかしさ。初めて体験しました……。人様に迷惑をかけて体験する事は間違っているんですけどね(滅)
 シリアスに行こうと思ったんですが、所々反動が出てしまって……キャライメージが壊れてしまったような気がします(汗)

 ラッキーガール夏生嬢。彼女の魅力をもう少し出したかったのが本音です。回し蹴りの描写部分はしっかりしてる気が。
 町人への聞き込みという点は、とても鋭かったです。老人の長い話に付きあわせてしまった辺り、運がちょっと減ったんではないかと危惧していたりもしますけど…。(笑)
 もう一方いらっしゃる予定だったんでしょうか、残念ながら定員割れとなってしまったようです(汗)
 今回はご参加、真に有難う御座いました。また機会があれば相手してやってくださいませ。(_ _;)