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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


鏡の中のアクトレス【完結編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『鏡の中のアクトレス』――。
 3年前に失踪した女優・麻生加奈子(あそう・かなこ)が写っていた3年前と今年の写真。どちらも全く違う場所で撮影されたのに、何故か鏡の中に加奈子が写っていた。
 それを発端に、加奈子の失踪について調べ始めることとなった一同。
 ある者は当時の関係者に失踪直前の加奈子のことを尋ねて回る。またある者は加奈子が失踪したと思われる場所へ出向き、直接に加奈子を探し出す。手段こそ違うが、その目的はほぼ同じ。
 やがて『あぶれる刑事』を監督していた内海良司(うつみ・りょうじ)の元に、加奈子発見の報が。だがしかし、探し出された加奈子は女性・麻生加奈子であって、女優・麻生加奈子ではなかった。加奈子の記憶は何故だか失われているようだった。
 加奈子はもう一生このままなのだろうか。それとも他に手段があるのか?
 謎はまだ全て解けてはいなかった――。

●引き継ぎ【1】
「ええ……ええ、経緯は分かりました。後はわたくしの方で……ではまた」
 エルトゥール・茉莉菜はそう言って電話を切った。ここは茉莉菜の部屋だ。ちょうど仕事から戻ってきた時に、電話がかかってきたのである。そのためまだ仕事時の格好のままだった。
 電話の相手は高橋敦子、とある出来事を縁とした知り合いの女社長だ。用件は3年前に失踪していた女優・麻生加奈子にまつわる話だった。
 敦子は事件の経緯と共に、自らの推理を茉莉菜に話していた。曰く、加奈子は女優と1人の女性という2つの人格に引き裂かれ、別々に合わせ鏡に取り込まれたのではないか、と。合わせて、加奈子は女優ではなく女性として内海に愛されたかったのではないかとも伝えていた。つまり、鍵を握っているのは内海だと。
(わたくしに後を託されたのも、分かるような気がしますね)
 女優と占い師、職業は違えども共通点はあった。女優は役柄と自身という2つ、ないしは複数の人格を持つが、茉莉菜もそうである。仕事の時は茉莉菜という人格であるが、普段はそうじゃない。自身の人格である。それが分かっていたからこそ、敦子が茉莉菜に後を託したのだろう。
「……鏡の中へ行かないといけないかも」
「ナー」
 ぽつりと言葉を漏らした茉莉菜の足に、擦り寄られる感覚があった。飼い猫の白猫・佐藤シロが足元をぐるぐると回っていたのだ。そして、そばに何やらお守りのような物が落ちていた。
「ナーオ」
 茉莉菜の顔を見上げるシロ。前脚でお守りに触れた後、その脚を茉莉菜に向けた。それを数回繰り返す。まるで『持っていって』と言っているかのようだった。
 茉莉菜は屈み込むとそのお守りを拾い上げた。表面に複雑な紋様が描かれている。とりあえず、茉莉菜は懐にそのお守りを入れておくことにした。
 そのままじっとシロを見つめる茉莉菜。やがて何か思い付いたのか、シロにこう言った。
「シロ。明日お出かけしましょうか」
「ナー?」
 シロはきょとんとした眼差しを茉莉菜に向けていた。

●シロとジャムとクリームと【2】
「高橋……ああ、昨日の」
 加奈子の所属事務所『タピオン企画』の社長は、茉莉菜から敦子の名を出されてその顔を思い出していた。隣にはクリームパンやジャムパンを美味しそうに頬張っている加奈子の姿があった。口の回りにクリームやジャムがついている。
(まるで子供ですわね)
 加奈子の様子を目の当たりにして、茉莉菜はそんなことを思っていた。
「ええ。その高橋さんから言付かって参りました」
 仕事時の服装に身を包んだ茉莉菜は、静かに社長に言った。茉莉菜はシロを抱きかかえていた。
「アニマルセラピーはご存知でしょうか? 麻生さんの記憶がないのは、思い出したくないくらい悲しいことがあったからかもしれない……と。お話を伺ったわたくしも同意見ですが」
「ナー」
 抱きかかえられたまま、シロが一声鳴いた。すると加奈子は食べるのを中断して、じっとシロを見つめた。シロも金色の瞳で加奈子を見つめている。
「……どうぞ」
 茉莉菜はシロを抱きかかえていたその手を、加奈子の前へ差し出した。加奈子は食べかけのジャムパンをテーブルの上へ置くと、顔を輝かせてシロを受け取った。
「ナーオ」
 ぺろぺろと加奈子の口の回りを舐めるシロ。加奈子はきゃっきゃと言いながら、シロとたわむれていた。
「記憶を思い出すことはすぐには無理かもしれませんが、少なくとも動物に触れ合うことで心は癒されるはずですわ。今日1日、お預けいたしますので……」
 もっともらしいことを言い頭を下げる茉莉菜。確かにそれもあるのだが、別の目的としては加奈子がまたどこかへ行かないようにシロに見張らせておこうということがあった。
 その茉莉菜の考えをシロも心得ていたようで、夜遅く茉莉菜がシロを迎えに来た時、すっかり加奈子と仲良くなっていた。見張りの役目をしっかりと果たしていたのである。
 その場で、茉莉菜は社長から明日もまたシロを借り受けたいと話を持ちかけられた。何でも明日、内海が加奈子を当時のロケ現場へ連れてゆくつもりらしい。
 茉莉菜はすかさず、その場に自分も同行してよいかと申し出た。人のよさそうな社長は、その申し出をあっさりと受け入れた。

●呼び出された理由【6】
 加奈子が発見されてから2日。内海に呼び出された関係者たちが、とある洋館へ集っていた。もちろん『あぶれる刑事』最終回の撮影場所である。
「あ、鏡がある」
 部屋に入るなり卯月智哉がつぶやいた。先日はなかったはずのもう1枚の鏡が、以前からある年代物の鏡と向かい合うようにして壁にかけられていたのだ。
「ここの物置に保管されてたんだよ。内海さんと一緒に引っ張り出してきて」
 そう言ったのはこの鏡の在り処を探していた御堂まどかだった。まどかは一足早く内海に呼び出され、鏡を出すのを手伝わされていたのだ。
 部屋の中では加奈子が白猫・佐藤シロを無邪気に追い回していた。シロの飼い主であるエルトゥール・茉莉菜はその様子を黙って見つめていた。
「子供だねえ」
 同じく加奈子の様子をサングラス越しに見ていたサイデル・ウェルヴァは、呆れたようにそうつぶやいた。
「おや、あなたは『魔法少女バニライム』の……」
 近くに居た神無月征司郎が、サイデルの素性に気付き声をかけた。
「おや、知ってるのかい。あたしも随分有名になったもんだねえ」
 ニッと笑みを浮かべるサイデル。サイデルは『バニライム』で敵の女幹部・逆位置の女教皇という役を演じている女優だ。さて、女優であるサイデルがここに居るということは……?
「……あれよね?」
「あれです……」
 部屋の隅でシュライン・エマと寒河江深雪がこそこそと会話を交わしていた。2人には何の目的で内海がここへ関係者たちを呼び寄せたのか気付いていた。
「監督、いつまで待たせる気だい。とっとと始めようじゃないか、オーディションをさ」
 内海に向かってサイデルがそう言い放った。「オーディション……ですか?」
 きょとんとした表情――それでも笑みを浮かべているように見えるのだが――で征司郎が言った。
(へえ、そういうことか)
 智哉はとりあえず成り行きを見守ることにした。
「そうだな、始めよう。今から行うのはオーディションだ。といっても『あぶれる刑事』じゃない。俺が今進めている独自企画のオーディションだ。一応ジャンルは刑事ものということになるだろう」
 内海はそこまで話すと一旦言葉を切り、加奈子とサイデルの顔を交互に見た。
「女刑事が主人公ということもあって、候補はこの2人に絞らせてもらった。加奈子と……サイデル君だ」
 視線が加奈子とサイデルに集まった。加奈子はようやくシロを捕まえた所だった。
「オーディションの題材は『あぶれる刑事』の1シーン。2人にはマナミ役を演じてもらう。最終回、この部屋で撮影したシーンだが……マナミの台詞は完全アドリブでやってもらおう」
 それを聞いて簡単だと言いたげに、鼻で笑うサイデル。
「アドリブかい。確かに好きなドラマだったし、あの手のは十八番だからすぐだけどねえ」
 サイデルはちらりと加奈子を見た。普段のサイデルなら、今の加奈子の姿だけを見たら無益だと判断して帰っていただろう。しかし『バニライム』の現場での加奈子をも見ていたから話は違った。
(茶番に付き合うのも悪かないね……)
 向こうが何もできなければそれまでの話だ、サイデルはそう考えていた。
「一応ここに台本はあるが……」
 当時の『あぶれる刑事』最終回の台本を手に内海が喋っている時、不意にまどかが何かに気付いた。
「あれっ。あの鏡……」
 まどかが物置から出してきた鏡を指差した。前に誰も立っていないのに、うっすらと何かが写っている。それは次第に大きくはっきりとしてきた。
「加奈子さん!」
 深雪がはっと息を飲んだ。鏡には加奈子の姿が写し出されていたのだ――。

●行く者、残る者【7】
 シロを抱えた加奈子はもちろん鏡の前には居ない。例え何か角度の関係で写っていたとしても、鏡の中の加奈子は今ここに居る加奈子であるはずがなかった。何故なら鏡の方にはシロが居ないのだから。
「どうやら呼び出されたようだね」
 1歩前へ進み出る智哉。鏡を当時の状態に戻し、その前でドラマの再現をすれば何か起こるのではないかと考えていたのだが、それが見事に適中していた。
「あっ、消えていく……!」
 叫ぶ深雪。鏡の中の加奈子はすうっとその姿を消した。
「消えてないよ。きっと奥に引っ込んだだけさ」
 智哉は加奈子の方へ歩いてゆき、1輪の緑色をした花を差し出した。『ワスレナグサ』の花であった。
「キミを迎えに行くから、内海さんと一緒に待っていて」
 智哉の言葉に、別に他意はない。その通りだからそう言ったまでのことだ。
「鏡の世界に入りたいヒト……他に居る?」
 鏡のそばへ行き、智哉がぐるりと皆の顔を見回した。
「わたくしも行きますわ。会うことさえできれば、戻るように説得する自信はあります」
 すっと右手を上げる茉莉菜。続いてシュラインも左手を上げた。
「私も。2人だけで行かせるのはあれだしね」
 同行を申し出たのはこの2人だけだった。智哉は2人に緑色の種を飲ませると、鏡に手を触れた。するとまるで水の中へ手を入れたかのように、すうっと手が鏡の中へ入り込んでしまった。
「うわっ!」
 思いも寄らない光景にまどかが驚きの声を上げた。
「行こう」
 するすると鏡の中に全身入り込む智哉。茉莉菜とシュラインもそれに続いた。
 3人の姿が消え、しばし無言の状態が続いていた。それを破ったのはサイデルだった。
「……監督。オーディション始めようじゃないか」
「ああ……そうだな」
 静かに答える内海。この場に残っている皆が感じていた。向こうができることをやっている間、こちらもできることをやるしかないのだと。

●オーディション開催中【8B】
「ど、どうせ撃てやしないだろう! 日本の警察はそんなことできないはずだ!!」
 壁際に立ち、まどかがそう言い放っていた。目の前では片手で拳銃を構えたサイデルの姿があった。
 今はオーディションの真っ最中である。相手役として内海がまどかを指名したのだ。もちろんまどかは台本にある言葉しか覚えていない。
 じっとその様子を見つめている内海。そのそばでは征司郎が準備してきていた珈琲を紙コップに注いでいて、深雪がそれを手伝っていた。シロは相変わらず加奈子に抱きかかえられたままだった。
「勝手に決め付けんじゃないよ。あたしは撃つと言ったら必ず撃つのさ」
 1歩1歩、確実に間合いを詰めてゆくサイデル。その顔にはうっすら笑みを浮かべていた。
「せめて場所だけは選ばせてやるよ」
「う、撃つな! 取り引き場所は話す! 話させてくださいっ!!」
 まどかは本気で怯えていた。しかしサイデルはまどかの眉間に銃口を向けた。
「いいや、撃つよ。向こうでそのうち会おうじゃないか……グッバイ」
 そう言い引き金を引くサイデル。撃鉄が激しく音を立てた。思わず、へなへなとその場に座り込むまどか。
「……そういや1発目には空砲入れてたっけ。命拾いしたね」
 そこで内海のカットがかかった。
「ほ……本気で撃たれるかと思った……」
 両手を床に突き、吐き出すようにまどかがつぶやいた。
「珈琲を飲んで喉を潤しますか?」
 征司郎がまどかに声をかけた。まどかはふらふらと立ち上がると、珈琲の置かれているテーブルへと向かった。
「ほら、次はそっちの番さ」
 つかつかと加奈子に近付き、拳銃を手渡すサイデル。加奈子はきょとんとした顔付きでそれを受け取った。
 不思議そうに拳銃を弄ぶ加奈子。まるで使い方が分かっていないようだった。
「監督、こりゃあ駄目だねえ。銃すら使えないんじゃ、お話になりやしないよ」
 嘲笑うかのようにサイデルが言った。
「女としてでなく才能が必要とされる、外見に囚われず才能を認めてくれる。将来には必要とされないかもしれない、その頃には女性としての適齢が下がる。ってとこだろ? その一方で女としての自分も求めて……両方を鏡に望んだ結果がこれだとはね」
 鏡が意味する物は、映画やドラマにおいては対称的な自分を望む心。そして今の姿を留めておきたい心境を示す。サイデルが言いたいのはこういうことだった。
「加奈子さん……」
 深雪が心配そうに加奈子を見つめていた。
「監督、これ以上続けても無駄じゃないかい。無益なのは嫌いさね、やるだけ無駄」
 冷たく言い放つサイデル。内海も何も言わなかった。無言の肯定なのだろう。
「で、どうするんだい? 女優としては使い物になりそうもないけれど……」
 サイデルは内海の言葉を待った。視線が内海に集まった。
「ナー」
 内海に言葉を促すかのように、シロが鳴いた。それをきっかけにし、口を開く内海。
「……その時はプライベートで撮るさ。一生撮り続けたいと思ったんだからな、この俺が。それだけ惚れ込んでるんだよ、麻生加奈子に」
 内海は静かに、だがきっぱりと言い放った。
(ああ、こういうことか……)
 今の内海の言葉を聞き、まどかは一昨日に内海から感じた感覚の正体を把握した。
 加奈子はじーっと内海の顔を見つめていたが、やがてにっこりと微笑んだ。
「内海さん、それって……」
 笑みを浮かべて深雪がそう言いかけた時、シロが大きく一声鳴いた。
「ナーオ!」
 シロは加奈子の腕から飛び出ると、茉莉菜たちが入っていった鏡の前へ向かった。

●復活のアクトレス【9】
「何だい?」
 サイデルが鏡の方を向いた瞬間、鏡の中から智哉の顔が飛び出してきた。
「麻生さん連れてきたよ!」
 鏡の中から飛び下りる智哉。その報告に部屋に残っていた者が色めき立った。
「何だと!」
 駆け寄る内海。智哉は鏡の中に手を突っ込んで、別の者の手を引っ張り出した。女性の手だ。
「手伝うよ!」
 まどかが駆け寄り、女性を引っ張り出す手伝いを行った。次第に全身が姿を現す。それは紅いスーツに身を固めた女性――もう1人の加奈子だった。
「加奈子!」
 内海も加わり、もう1人の加奈子を一気に引っ張り出す。全身が鏡から抜け切ったと同時に、もう1人の加奈子はその姿を消した。
「ああっ!!」
 加奈子の叫び声が上がった。見ると加奈子が床の上で昏倒していた。
「おいっ、しっかりしろっ!」
 内海は昏倒している加奈子の元へ駆け寄った。その間にも鏡からはシュライン、そして茉莉菜が抜け出してきていた。
「加奈子さんはっ?」
 抜け出るなりシュラインはもう1人の加奈子のことを尋ねた。
「抜け出た途端に消えたよ!」
 まどかが叫ぶように答えた。その時、部屋に喉の奥から絞り出すような声が響き渡った。
「逃がすくわぁぁぁぁっ!!」
 その声は、今4人が抜け出てきた鏡の中から聞こえていた。身構えるサイデル。
「何だい、今の声は……」
「来ますわ!」
 茉莉菜が鏡を振り返った。
「見ぃつけたぞぉぉぉぉっ!」
 得体の知れぬ青黒い影が鏡の中から姿を現し、茉莉菜に襲いかかろうとした。
「ナーオ!」
 茉莉菜を救うべく、シロが青黒い影に飛びかかった。しかしするりと青黒い影を擦り抜け、反対側にそのまま落ちる。その隙に茉莉菜は青黒い影をかわすことができた。
「くっ!」
 サイデルが青黒い影に躍りかかった。けれども先程のシロと同様に、するりと擦り抜けてしまった。
「はっはっはぁっ! 無駄だよぉぉぉぉっ!」
 嘲笑う青黒い影。床の上に、先程まで加奈子が手にしていた拳銃が転がっていた。
(何とかしなきゃ……)
 そう思って深雪が動こうとするより先に、征司郎が動いた。
「サイデルさん、これをっ」
 征司郎が拳銃を拾い上げ、サイデルに投げ渡した。サイデルは拳銃を受け取ると、再び青黒い影に躍りかかっていった。
「無駄だよ、無駄だよぉぉぉぉっ!!」
 だがサイデルは青黒い影を狙ったのではなかった。その根元――鏡自体を狙っていた。
「うりゃぁぁぁっ!」
 サイデルは渾身の力を込めて、拳銃を鏡に叩き付けた。激しい音を立てて鏡が粉々に砕け落ちる。
「ぎゃうがわぁぁぁぁぁっ!!!」
 同時に青黒い影が断末魔の叫びを上げ……たちどころにその姿を消した。
 しばらくは誰も何も言えなかった。何がなんだか、頭の中の整理が付かなかったのだ。
「……う、ううん……」
 昏倒していた加奈子が目を覚ました。
「気付いたか、加奈子……」
 内海が加奈子の顔を見つめていた。他の皆も加奈子の言葉を待っていた。
「監督……?」
 加奈子がぽつりと言葉を漏らした。そしてゆっくりと上体を起こす。
「……あれ? 最終回の撮りが終わって、それから……?」
 やや混乱気味の加奈子。どうやら加奈子の記憶は失踪当時で止まっているようであった。
「…………」
 内海はそんな加奈子を無言で抱き締めた。
「えっ、えっ、えっ?」
 状況が飲み込めず、困惑している加奈子。だがまんざらでもないらしい。
「止まった時計が…動き出す。ってね」
 そんな2人を見ながら、サイデルがぽつりとつぶやいた。
「よくは分かりませんけれど……ハッピーエンドなんですよね」
 征司郎が満面の笑みを浮かべて言った。そして新たに珈琲を入れ直し始める。
「ハッピーエンドですよ、やっぱり」
 大きく頷く深雪。その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた――。

【鏡の中のアクトレス【完結編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0024 / サイデル・ウェルヴァ(さいでる・うぇるう゛ぁ)
                    / 女 / 24 / 女優 】
【 0033 / エルトゥール・茉莉菜(えるとぅーる・まりな)
                   / 女 / 26 / 占い師 】
【 0038 / 御堂・まどか(みどう・まどか)
                    / 男 / 15 / 学生 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0174 / 寒河江・深雪(さがえ・みゆき)
     / 女 / 22 / アナウンサー(お天気レポート担当) 】
【 0404 / 佐藤・シロ(さとう・しろ)
               / 女 / 3 / 飼い猫(ペット) 】
【 0489 / 神無月・征司郎(かんなづき・せいしろう)
                   / 男 / 26 / 自営業 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 23? / 古木の精 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定です。
・お待たせしました、『鏡の中のアクトレス』完結編をお届けします。高原には珍しく、文章が長くなってしまいましたね……。調査編の時点ですでに想定とは違った方向へ進んでいたんですが、終わってみれば完全に違ったなと。何とも不思議ですねえ。
・本文を見ていただければお分かりでしょうが、無事にハッピーエンドで終わりました。やはり皆さんが色々と動いてくださったおかげですね、多謝。この後の内海と加奈子の関係や、『あぶれる刑事』の今後等は今後の依頼の中で触れることもあるかと思います。まあ……悪くはならないことでしょう、きっと。
・恐らく疑問に思われている方も居るかと思うので、1つ。何故3年前と今年だけ写真に写っていたのかという謎にもきちんと答えは用意してありました。勘のいい方ですと、何となく気付かれているんじゃありませんか?
・佐藤シロさん、何気に活躍していたりしますね。茉莉菜さんにお守りを渡したのはよかったと思います。台詞は特にありませんでしたが、シロさんは他の方の文章にも所々で登場しています。よかったら探してみてください。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。