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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ゴーストネットOFF-夢紡ぎの糸-  Written-by:秋月 奏
<オープニング>
「…眠り病?」
「そう、それもとある場所へ行ってから眠り続ける人が多発してるんだって。
病院へ行っても原因不明」
「へえ…で、それは何処なの?」
「それが解らないの」
「は?」
「ネットで流れている噂話らしんだけどね…真偽を確かめて欲しいかなって。」
 あっけらかんとした少女の言葉に弓弦は少しだけ、眉をひそめた。
何処だか解らない場所を探せと言うのは無理が無いだろうか?
が、それを察したように少女はにこやかに微笑む。
「大丈夫、東京であることは確かなの…ただ場所がバラバラだって言うことで
場所が絞れないだけで時間だけは全てに統一性があるから、そこから
絞ればいいと思う」
「で、時間は?」
「───逢魔ヶ時」

<幽夢>
…目覚めたくないの?
いいえ、動けないだけ……変ね…いつもなら……オキテイルコロナノニ。
あの日、一人で行った場所に見た景色。
とても美しく懐かしい場所。
随分前には何時でも見れたはずなのに……。
ああ、起きたいのに起きれない……。
ココハトッテモイゴコチガヨクテ。

(くすくす…くす…。)

少女の笑い声。
手毬をついているのだろうか、軽やかにポーンと言う音と童唄だけがその場に響き渡った。

(くすくす…くすくす…。)

まるで何かを嘲笑うかのように美しい声と音が。

<ゴーストネット>
「…おや、これは……。」
バー「ケイオス・シーカー」休憩室でネットを開きいつもの様に巡回していると
眠り続ける病、というのと「逢魔ヶ時」のみに起こると言うそれに九尾・桐伯は
面白そうに目を細めた。
一体それはどうしたことなのだろう。
まさか、ツェツェ蝿の媒介するトリパノソーマと言う事でもないだろうし…
しかもアレはナイル川流域辺りだったし関係ない、筈だ。
と、なると……。
昔の一番楽しかった時の夢でも観ているのではないだろうか。
夕陽の綺麗な場所で郷愁を感じてそこを何者かに引き込まれたとか…。
なんにせよ、気になる事件ではあるし、こちらに書き込んだ女性へと
連絡をとってみる事にしようと決め、九尾は早速掲示板へと書き込みを始めた。
書き込んである女性の名は、弓弦鈴夏。
ある筋からこの話を持ち込まれたが今現在は少々時間が無いらしく
先に調べてくれる誰かを探していたものの、運良くここの掲示板を見つけることが
出来、書き込んだものらしかった。
書き込んでから暫くすると、詳細は追ってメールをさせて頂きます、と返信が書き込まれていた。

<誰ソ彼ハ>
メールを弓弦から受け取ってから九尾は早速、夕焼けが美しいだろう場所へと足を運んだ。
が、東京から見える景色にそれ程夕焼けが見事だ、と思えるところは
多くなく焦点が絞りやすい。
今日は、千鳥ヶ淵へと足を運ぶ。
近くに英霊が祀ってある靖国神社と武道館があるところで有名な場所だ。
ビルは逆方向である神保町付近に多いので、ここからは東京にしては
多い緑と差し込む夕焼けや明るい陽射しを楽しむことが出来る。
癒されるような思いで九尾が目を細めたその瞬間───風景がぐにゃり、と歪み始めた。
(…これでしょうか?)
薄闇と、陽の交わりあう不思議な時間。
今まで眠り病へと誘われた人々が同じように見た、これが入り口か?
そんな事を考えつつも溶け合うように、その空間へ九尾は招待された。
懐かしむべき風景が今は無い者には真白く見える空間へ。

くすくす…くすくす…。
何処からか、笑い声。
『歌を忘れたカナリアは……』
それを追うかのように綺麗な声で童謡が響き……。
(……??)
どうやら、どこかで子供が遊んでいるらしい。
が、何もかもが真っ白な靄に包まれていてどうにもよく、見えない。
「お兄さん?どうしたの?見たいものはないの?」
「………え?」
近くで問う声。
目線をおろすと少女がにこにこと微笑みながら九尾を見上げていた。
「見たいもの?過去に、と言うことでしたら…まだまだ、思い出に囚われるには早いですから」
「そうなの?」
「貴女にはあるんですか?」
「お兄ちゃんも夢を見るでしょう?」
「?はい、勿論」
「私には、それがないの。だから、夢を見る人の夢を見させてもらうの。
…楽しかった時のこととか、嬉しかった時のこととか……色々。」
「…それは、楽しいですか?」
「うん!…皆、色々なことを思っているのね。特に最近来たお姉ちゃんの夢は
凄く綺麗で見ていて楽しいの」
「───え?」
最近来た少女、と今言った言葉に九尾は眉をひそめた。
整った顔ゆえに、悲しげにさえ見えるだろう表情に目の前の少女が心配そうに九尾の袖に触れる。
「最近来た、と言う方は何処に居ますか?」
「見てみたい?」
「ええ」
「でも…駄目。お兄ちゃんには見たいものが無いのならお姉ちゃんの事も見えない」
「ですが、僕はどうしても、眠られる方々を起こさねばなりません。
…その夢がどれほど、幸福な物であっても」
「…眠りを妨げる権利は誰にも無いのに?」
「確かに、そうですけれど生きてる内は、起きて現実を見なければなりませんよ?
そうでなければ、生きている、と実感することさえ難しい程にね」
「…………」
無言のまま、少女は立ち消えた。
が、風景は未だ変わることは無く白いままだ。
(…どうしましょうかね……。)
確か、弓弦から来ていたメールには自分を含め何名かの協力者が居るように書いてあったが
ここで彼らが来るのを待つべきだろうか?
…いつ来るか解らないのに?
……どうやって、この空間から出る?
決まっている、この空間の原因を消せばいい………。
九尾は懐から糸を取り出すと発火能力を発動させ見えない風景へと火をつけた。
…未だ見たことのない協力者への狼煙として。


<合流>
譲は狼煙を目指して走り続けた。
かなり急いでいるはずなのだが距離は中々に縮まらない。
…目指している物が近くにあるはずなのに届かないもどかしさに一瞬だけ、立ち止まる。
「…確か昔読んだ話の中にそういうのがあったような」
…あの話はなんだったろうか?
確か「今と言う状況を保つためには走り続けなければならない」と言っていた。
急ぐのなら待つことだとも。
(かといってこの状況が変わるわけでもないが…待ってみるか?)
この童話の通りにして正解なのかどうかはわからないが、走り抜けても
目的地にたどり着けないのなら試してみる価値は、あるだろう。
が、そうこうしている内に狼煙が上がったであろう風景に近づき
譲は漸く、今回の協力者と会うことが出来た。
ワイヤーの糸を手に持つ物静かな感じの人物だ。
「君は…弓弦さんから言われていた協力者、ですか?」
「ああ」
「なるほど…確かもう一人いる筈ですが…その方は…」
問う間もなく、何処からか幼い子供の叫び声が響き、急激に景色が変わり始めていく。
怒りを象徴するかのような黒い、黒い景色へと。
「なんだ!?」
「向こうの方です、早く……!」
「……待て、ここでは急がない方がいい…じき、その人物が近づいてくる筈だ」
「…まさか、ここまでもその方法で来たんですか?…えっと……。」
お互い名前を教えあうことも忘れていた、と言うことを漸く思い出し彼らはお互いの名前を告げた。
「御堂君…ですね…で、御堂君はここまで焦らずに来た、と。」
「そう。…九尾さんはまだこの風景の中に何も見出せませんか?」
「…ええ、草も緑も無い世界にしか見えませんね。」
「なるほど…僕にはここが凄く懐かしい風景に見える…人によってこうも違うとは」
「どうやら…景色が動き出したようですね」
「………」
九尾は糸をつかむ手を強め、御堂は竜胆の鞘をいつでも抜けるように気を張り詰める。
一瞬の気の緩みすら許さない状況。
アスカは、いつの間に現れたか解らない男性二人を見つめ、あの人物たちこそが
協力者に他ならないと瞬時に悟ると「こっちだ!」と叫ぶ。
譲と九尾の二人はその声に従うように変わる景色の中、漸く見えない敵と対峙した。
「…凄まじい殺気ですね…僕があった女の子は心優しい子だったようですが」
「僕の方もそうだな…声しか聞かなかったけれど優しげな女の人だったよ」
「…初めて逢う人間に対して失礼な奴らだな、アンタらは。
私はただ単にあの童子が気に食わなかっただけなんだが?」
「…それでは、こうなってしまうことも当然ですね…」
「全くだ」
「黙れ!……来るぞ、意識を集中させろ」
一人の童子をアスカが殺したことでの凄まじい殺気の中―――最初に動いたのは九尾だった。
空間把握能力を働かせ、敵を絡め取るべく可燃性のワイヤー糸を空高く投げ縛り
譲はそれを見たと同時に竜胆の鞘を抜き糸が巻き付いているであろう物体を斬りつけ
アスカもそれに続き、譲が逃した敵を手で深く斬りつけていく。
最後に九尾がそれらの残骸を発火能力にて燃やし全ては終了した。
九尾達は揺らぐ風景の中、無事に東京へと戻り、その際に簡単な自己紹介をして別れた。
結局、何故あのような世界があったのか、という疑問を残したままだったが
全ての眠りについたままだった人々は起きだし、今は元気に日常生活を送っている、との事だった。
後日、九尾の店に弓弦と、弓弦がこの事件に関して紹介を受けたと言う人物からだろうか宅配便が届いた。
開けてみると、それはつい最近ネットで公開されたばかりの珍しい酒で
「こう言うものを受け取ってもいいんでしょうか…」と九尾は悩みつつも送り返すのも
失礼なような気がして店には出さずに一人で飲むことにしよう、とその酒をそっと、奥の方へとしまった。





-夢紡ぎの糸・了-

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0332 / 九尾・桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
【0499 / 新条・アスカ / 女 / 24 / 闇医者】
【0588 / 御堂・譲 / 男 / 17 / 高校生】
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■         ライター通信          ■
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初めまして、今回は発注してくださって有難うございました!
新米かけだしライター秋月 奏です。
今回のシナリオが初めての仕事なのですけれど
PCさん達全員が個性溢れる方々で書いていてとても楽しかったです♪
また、何処かのシナリオでお会いできれば幸いです。(^^)