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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・陰陽の都 朧>


陽の章 初仕事は食い逃げ犯!?

<オープニング>

 朧の市役所一階にある陰陽寮。そこは普通の市役所で見られる所とまったく同じ光景である。職員たちは書類にハンコを押したり、何か書き込みをするなど業務に負われている。違うところといえば、彼らが皆狩衣姿であることと、陰陽寮と書かれた表札に五芒星の印が入っているところだろう。
「ああ、こちらにおいでいただけたのですね。有難うございます」
 月読は貴方達の出迎えて丁寧にお辞儀をした。
「今は事件も起きていませんし、特に急ぎの用事もありません。平和なものです。のんびりしていってください。今お茶でもお出し・・・」
「博士、お電話です」
 話の途中で職員から呼びかけられた月読は、「ちょっと失礼」と断り、職員の持つ電話に出る。今では珍しい旧式の黒電話である。
「はい、月読です。はい・・・ええ、なるほど・・・。分かりました。すぐに向かわせます」
 月読は電話を切ると、貴方達に振り返った。
「丁度いい具合に事件が発生しました。狸狗狐(こっくり)というめし処で食い逃げ事件が発生したようです。どうやら食い逃げ犯は術師のようですね。水色の狩衣を着ている男というから目立つはずです。今町の北の玄武門の方向に逃げているようですから彼を捕まえてください。くれぐれも殺さないようにお願いしますよ」
 ちなみに無事依頼に成功したら狸狗狐の主人が飯をおごってくれるらしい。丁度昼飯時でもある。食事の前の運動には申し分ないだろう。

(ライターより)

 難易度 やや易

 予定締め切り時間 4/18 24:00

 なんとも慌しいスタートとなりました。依頼内容は現在逃走中の食い逃げ犯を捕まえることです。食い逃げ犯は玄武門を抜けて町から逃げ出そうとしています。これを阻止してください。敵は陰陽師のようですが、まだ半人前のようで大した術は使えません。ただし町中ですので派手な術の使用は禁止です。町の人に被害が出たり、犯人が死ぬようなことがあれば失敗となります。
 めし処「狸狗狐」では蕎麦、饂飩、丼、天婦羅など和食のオーソドックスなものはほとんど揃っている店です。依頼を終えたら何を食べたいのか記載しておいていただけると助かります。
 それでは朧の世界をお楽しみください。 

<陰陽の都市>

 陰陽の都市朧。時空の歪みにより生じた界境線によって繋がることとなった本来存在するはずの無い都市。四方は高さ10mの壁に覆われ、同じく四方に配置された玄武、朱雀、青龍、白虎と四神の名を
冠した門からのみ出入りすることができる。
 今回市役所で受けた依頼。食い逃げ犯を掴まえろということであったが依頼を受けた華奢な体つきの年は少し考えこんだ。
「どうしましたか?何か問題でも」
 月読はおや?という顔をして青年に問うた。現在逃走している犯人が向かっている先は玄武門。この町の北にある門である。既に食い逃げ犯を掴まえるため他の物は市役所を出て行ったというのにこの少年だけは一人残っていた。
「食い逃げ犯を掴まえるんですよね」
「ええ」
「えっと、なら僕は動物達に協力してもらってその食い逃げ犯さんの居所をつきとめます。あっ、でも捕まえるのは苦手なのでそれは別の人にお願いします」
 青年は気まずそうに頭を掻きながらそう告げた。戦闘能力を有していない自分にとってできることといえば、好きな動物たちと意思を通わせて犯人を探させることくらいである。あまり自分向きではない依頼かもしれない。そんな思いを抱いていた。
「動物・・・ですか。ただ、朧にいる動物と言ってもここは都市ですからね。あまり動物はいませんよ」
「ええ、でも鳥くらいならいると思いますから・・・」
「これを持って行ってください」
 そう言って月読が取り出したのはなにやら文字の書かれた一枚の紙きれであった。文字は漢字らしいがあまり普段使わない文字が多く使われておりどう読めばよいのか分からない。
「これは?」
「式神を召喚するための呪符と呼ばれるものです。本来式神とは陰陽道の奥義であり、陰陽師以外もちいることができないのですが、これは私が考案した特殊な呪符でしてね。陰陽道を知らない方でも使えるようになっているのです」
「・・・・・・」
「動物の助けが必要になったら式神招来と唱えてください。あとはそれに命じるだけでいいでしょう」
 紙切れを渡された青年は訳がわからないといった面持ちでとりあえずそれを受取った。大体式神という存在自体が分からないのであるから仕方がないであろう。
「行ってらっしゃい。論より証拠というやつですよ。式神がどんなものであるのかを知るのに丁度良い経験となるでしょう。ああ、そうだ。貴方のお名前を伺っていませんでしたね。お名前は?」
「三浦新。新って呼んでください」
 都内の大学に通い獣医を目指す青年、三浦新はそう名乗り市役所を後にするのだった。

<四神相応>

 煉瓦で舗装された中心街の表通りを人を乗せた馬車が走り過ぎて行く。街中を歩く人々の服装は着物が大半で、中には洋服らしきものを着ている者もいるが、それはかなり少数であった。それに洋服と言ってもかなり古めかしいスーツかドレスだけで、Tシャツやジーンズを履いている者など一人もいない。そんな町を行き交う人々は、時折珍しい恰好をした二人組みに好奇の視線を向けていた。まったく目にしたこともない服などを来ているのだから当然と言えば当然であろう。そんな町の人間の視線をあびて小柄な少年は不快な面持ちをして道を歩いていた。
「なんだこいつらの目は・・・。そんなに俺たちが珍しいのか」
 まだ十代前の小学生のような小柄で可愛らしい顔つきの少年なのだが、えらく尊大な口調で「俺は十六歳だ」と他の者たちには告げていた。もっとも誰も信用していなかったのだが・・・。彼は町の人間の態度が気に入らないらしく終始不機嫌である。
「そうね。私たちは普通のつもりだけどここでは珍しいんでしょうね」
 隣を歩く二十代前半くらいの女性はそんな少年の顔を見てクスリと笑った。自分の知り合いにも一人こんな少年のような子がいるので突っ張ったその仕草が可愛く見えてしまう。
 確かに自分たちの着ている服は、現代日本ではごくありきたりなスリーブやジーンズである。この姿で東京の街中を歩いたとしても特に注目はされない。だが、この朧という都市は何と言うか非常にレトロな町並みで、人々の装束や文化レベルなどはまるで歴史の授業で習った明治時代のような雰囲気なのである。交通手段は馬車と人力車だけ。電話はあるものの、テレビやラジオは存在しない。電気も市役所などごく一部にしか引かれていないようだ。自分たちのほうは逆の意味で珍しい感じがする。だが、そんな都市の雰囲気もより彼女の気を引くものがあった。それは・・・。
「でもこの都市に来て驚いたわ。五行や四神の名が街につけられている。それに四神相応の土地や鬼門封じに裏鬼門に対する備えもあるだなんて・・・。陰陽の都市というのも伊達ではないのかもね」
「なんだその五行や四神という奴は?」
 栗毛色の髪をもった少年は興味津々といった顔つきで尋ねる。どちらの言葉もあまり聞きなれない言葉である。
「じゃあ道すがら説明してあげるわ。まず五行というのは木、火、土、金、水の五つの属性みたいもので、万物の基本となるものよ。全ての存在はこのどれかを基本として存在しているわ」
「ほう。それは人間に関してもか?
「ええ。この五行というのは別に木なら木だけというわけではなくて、木や植物たち、それにそれらが司る成長なども意味するわ。例えば、貴方はちょっと冷たくて硬い感じがするから金かしらね。金属の冷たさや硬さを意味するものよ。この考え方は陰陽道と呼ばれる思想のものね」
「ふん」
 さして面白くもなさそうな顔をして鼻をならす少年。
「で、次に四神だけどこれは私の専門の風水に関わるもの。万物には気の流れというものがあり、その気の流れが正しければ全てものを順調に、逆に気の流れが乱れれば病気になったりあるいは死んでしまったりするというのがその基本的な考え方よ。風水は特にその気の流れでも地に走る気の流れを調べ、その気の流れに即したことを行うことで吉祥をもたらすもののことよ」
「・・・・・・」
「そしてその風水で最も重要視される要素の一つがこの四神と呼ばれる存在。玄武、朱雀、青龍、白虎と四つの神々がそれぞれ北、南、東、西を守護することで気の流れや自然の運行を助けると言われていている。この都市は四方の門にそれぞれ四神を対応させることでこの地を四神相応の土地にしているわけ。ほら、あの巨大な門が確か玄武門だったわよね。あそこは玄武に守護されていると思えばいいわ」
 彼女たちの前方に巨大な門が見えてきた。朧を囲む四つの門のうちの一つ、玄武門である。
「さてと、先回りできていると良いのだけれと・・・」

<玄武門>

「待ってくださ〜い」
 小柄な高校生くらいの少女が、前方をひた走る水色の狩衣を纏った男を追いかけてひた走る。真昼間に繰り広げられる逃走劇に周囲の視線が集まる。さらに少女の後を追って笑顔の青年が「すみません。直に終わりますから」などと周りの人間に謝るものだから更に目立つ。
「嫌だぁぁ。牢屋にぶち込まれるのは絶対に嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 男は泣き言を言いながら必死に逃げ回る。火事場の馬鹿力というのか、とにかく捕まりたくない一心でひたすら逃げ回っているこの男が今回の依頼の犯人食い逃げ犯その人である。この依頼を受けた者の中で少女神崎美桜と青年桜井翔の二人は、食い逃げされた店屋の親父に追いかけれる犯人を発見することができた。これは神崎が精神感応能力に必死に逃げることしか考えていないものを索敵していた事が功を奏した。だが発見はしたものの男の走る速さはかなり速く、このままでは振り切られてしまう怖れがある。
「仕方がないですねぇ。少々派手かもしれませんが行きますよ!」
 桜井は念と呼ばれる気の力で重力波を生み出し、食い逃げ犯に叩きつけた。
「ぐはぁ」
 重力の塊をその身に受けて、男は激しい衝撃で地面に吹き飛ばされた。本気でやってしまっては本当に押しつぶしかねないので一応手加減して放ったのだが、それでもかなりの威力があったのか男は地べたにはいつくばったまま立ち上がることもできずもがいている。
「はぁはぁ・・・。お金を払わず逃げてしまうのは良くないです。何か理由があるのでしたら話してください。お力になれるかもしれません。」
 何とか追いついた神崎は息を整えながら食い逃げ犯に尋ねた。
「うう、あんまり腹が減ってそれで・・・」
「なら働いてお金を貯めればいいじゃないですか」
「働くのは、その、面倒くさいし」
 ゲシッ。
 自分勝手な相手の言葉に、桜井は笑顔のまま容赦なく食い逃げ犯の顔に蹴りを入れた。
「ぐわぁぁぁあ!何をするんだ!?」
「何をするんだ!?ではないでしょう。まったく・・・さっさと立ちなさい。役所に行きますよ」
「嫌だぁぁぁ!とにかく掴まるのは嫌だぁぁぁぁ!!!」
 食い逃げ犯は絶叫すると、立ち上がり猛烈な勢いで逃げ出した。重力波を食らってなおかつ足蹴にされているというのに先ほど同じくらいのスピードで逃げている。
「随分とまぁ元気な人ですね」
「・・・・・・」
 神埼も呆れ顔で食い逃げ犯の逃げっぷりを見つめた。もしかしたらやむに止まれぬ事情があり、行ってしまった犯罪なのかもしれないので、罪を軽くするよう月読にお願いしていたのだが、どうやらその必要はないらしい。もっとも単なる食い逃げ事件では罰金と数日牢屋に交流される程度のことだったのだが。
「まぁ、あの人が逃げ切れるわけはないのですがね」
 玄武門に向かってひた走る食い逃げ犯を見て、しかし桜井の顔から余裕の笑みが消えることはなかった。なぜならば玄武門には既に他の者が到着しているはずだからである。

 玄武門は朧の北に位置する巨大な門である。大の大人が十人以上横に並んで入ることができる道幅と見上げるばかりに高い屋根をほこる。その屋根には蛇を尾をもつ亀が描かれていた。北方の守護者にしてこの門の名称の由来ともなった四神の一つ玄武である。
「食逃げ犯?それはまた・・・情けないにもほどがあるわよね。仕事ぐらいしなさいっての!ねぇ?」
 玄武門を往来する人ごみの中で、燃え上がる炎のような赤い髪した女性に同意を求められた、着物姿の女性の答えは素っ気ないものだった。
「捕まえるのか?何故だ、我らには関係のない出来事ではないか?陰陽の理を乱しているわけでも、私達に危害を加えたわけでもない」
 銀の瞳という珍しい目をした彼女は今回の依頼にあまり乗り気ではなかった。別に大勢の人々が迷惑を被ったわけでもないし、相手はたかだか飯屋で食い逃げをしただけである。わざわざ陰陽師たる自分たちがでる必要もないではないか。実は二人は陰陽師であった。陰陽師の一族和泉に属する者たち。赤い髪の毛に赤い瞳を持つ女性が小泉優。藍色の髪に銀の瞳を持つ女性が和泉怜と言う。二人は依頼を受けるとすぐに玄武門に向かい、ここで犯人を待ち受けることにした。
「まぁ、貴女の言うとおりなんだけどねぇ。依頼を受けたわけだし、それに相手は術師って言うじゃない。もし暴れて術でも使い始めたらそれこそ大変よ」
「・・・好きにするがいい」
 犯人より先回りすることができた二人の女性がそんなことを話し合っていると、大通りより水色の狩衣を着た男が必死の形相で玄武門に向かって走ってくる光景が視界に入って来た。
「あれかしらね?」
「だろうな」
 男はどこかで転んだのか服は土塗れで、顔には踏みつけられた足跡まで残っているがそんなことお構いなしで突っ走っている。どうやら玄武門をこのまま走り抜けるつもりのようである。
「待ちなさい!止まらないと撃つわよ!」
 小泉は手にした和弓に矢をつがえ、その男、食い逃げ犯に向けて弓をひきしぼった。
「う、うわあああ!?」
 流石に眼前で弓を構えられ食い逃げ犯は慌てて立ち止まった。
「貴方、狐狗狸の食い逃げ犯でしょ。諦めなさい。抵抗するなら撃つわ」
「一体何なんだあんたは!?それにさっきの連中も・・・。まさか陰陽寮の者か!?」
「答える義務などない。素直に降伏しろ」
「ふざけるな!後一歩でここから逃げ出せるんだ。誰がそんなことするか」
 食い逃げ犯は彼女たちの制止を振り切り、門の外に走り抜けようとする。
「あ、ちょっと待ちなさい!」
 古今東西、待てと言われて待つ者などいない。小泉の言葉になど耳も貸さず、男は二人の間隙をぬって突破を試みる。
「ああ、もう仕方ないわね。痛いだろうけど我慢しなさいよ。あんたが悪いんだから」
 本来撃つつもりの無かった矢だが、こうなってはやむをえない。小泉は矢を引き絞ると食い逃げ犯の足を狙って放った。それは狙いを違わず彼の足を打ち抜くかに見えたのだが・・・。
「あれ、外れた?なんで!?」
 弓に関しては自信のあった小泉であったが、確かに射止めたはずの矢が外れてしまい驚きの声を上げた。
「奴の着物は水色。ひょっとすると、属性は水なのかもしれぬ」
「属性・・・。ああ、そうか!」
 小泉は依頼を受けた時、月読が説明していたことを思い出した。ここ、朧では陰陽と風水による強力な結界を張り巡らせているが、そのおかげで人の持つ五行の属性も強く影響するようになっている。人やそれ以外のあらゆる存在が五行のどれかの属性の影響を受けてこの世に生を受けている。今回の場合もし相手の属性が水であるとすると、火の属性を持つ小泉には苦手な敵となる。これは火は水によって消されるという相剋という関係のためである。朧では陰陽寮で属性を鑑定してくれるので、今回依頼を受けた者は皆依頼を受ける前に五行の属性を調べておいてもらった。それによると小泉は火、和泉は土となるらしい。
「私の属性は土だから、水ならば丁度良い。地よ。その身を隆起させかの者の足を留まらせよ」
 和泉は術を作動させた。五行にまつわる自然を操る術。これはどちらかというと陰陽より道教の仙術に近いものなのだが、とにかく食い逃げ犯の足元に、一塊の土が突然隆起した。
「どわああああ!?」
 派手の頭からこける食い逃げ犯。わき目もふらずに逃げている最中に大地が隆起しては避けることはできないだろう。だが、それでも食い逃げ犯は諦めずになんとか立ち上がる。
「諦めろ。もうお前に逃げ場はない」
 食い逃げ犯が倒れている隙に進行方向に回った和泉が冷淡に告げた。
「あ、諦めるものか!こうなったら・・・!」
 彼はこの光景を呆然と立ち尽くしてみている一般人に目を向けた。そして、その中でも特にひ弱そうな青年を見つけ出し、彼の元に駆け寄った。
「え?うわああああ!?」
 あまりの事に対処できない青年を羽交い絞めにすると、食い逃げ犯は彼の喉元に短刀を突きつけた。
「動くな!動いたらこいつを殺すぞ。う、嘘じゃない。本気だからな!」
「愚かな・・・。これでまた一つ罪が増えたぞ」
「うるせぇ!こうなったらとことん逃げ切ってやる!・・・さあ、こいつが殺されたくなかったらとっとと道を開けろ!」
 短刀をちらつかせながら威嚇する食い逃げ犯。人質がとられてしまった以上確かに対処のしようが無い。このままでは彼は食い逃げ犯を取り逃がしてしまうことになる。だが、ふと青年の手元を見てみるとその手には一枚の符が握られているではないか。 陰陽師である小泉にはそれがなんであるかがすぐに分かり、あっと声を上げた。
「あれって確か・・・」
 食い逃げ犯に羽交い絞めされながら、青年は陰陽寮で言われた言葉を思い出していた。
 動物の助けが必要になったら式神招来と唱えてください。
 式神という存在はよく分からなかったが、動物の助けを借りることができるということは今この危機に際して力になってくれるかもしれない。試してみるしかないだろう。
 そう、青年は陰陽寮で依頼を受けた三浦であった。丁度玄武門に到着した時、運悪く食い逃げ犯とこのような形で遭遇してしまったのだ。戦闘などしたこともないし、したくもないが今自分の身を守らなければならない。彼は意を決して符を掲げた。
「式神招来!」
 彼の言葉に応えて、その手に持った符が輝き始める。あまりの眩しさに近くにいる者は目を開けていられない。
「こ、こいつ・・・!陰陽師なのか!?・・・痛てぇ!」
 光が収まり、慌てて食い逃げ犯を見てみると、短刀を掴んだ手を小さな動物が噛み付いている。鼬のような枯葉色の毛をもったそれは飯綱と呼ばれる式神であった。その小さな体で犯人の手に必死に噛み付いている。
「く、くそ、離れろ・・・。こうなったら・・・」
 食い逃げ犯は怒りに任せて飯綱を噛まれている腕ごと壁に叩きつけようとした。だが、彼は自分の腕が何時の間にか動かなくなっていることに気が付いた。
「な、なんだぁこりゃぁぁぁ!?」
 彼の腕や身体は、壁から生まれた赤い飴ように溶けた無数の触手らしきものに拘束されていたのである。その拘束は強く、また石の壁と同じ材質でてきているため破壊することはできない。食い逃げ犯は必死にもがいたが無駄な努力だった。
「初仕事の景気付けだ」
  夢崎がニヤリと笑いながら血にまみれた手を舐めた。彼は自分の血液を無機物につけることでいびつに変化させて攻撃したり、拘束したりすることができる。
「な、なんなんだよ!こいつは!?」
「そんなものの事を気にする前に自分のこれからを心配したほうがいいと思いますけどねぇ」
 ゴキリ。
 心底愉しくて堪らないと言った声で晴れやかにそう告げたのは、顔に天使の笑いを浮かべた桜井であった。指を鳴らしながらゆっくりと彼に近づいていく。はっきり言って非常に怖い。
「ま、待て、待ってくれ。俺が悪かった。悪かったか・・・」
 食い逃げ犯は最後まで言葉を続けることができなかった。数分後彼はボロ雑巾のように成り果てていたことを付け加えておく。
「有難う!おかげで助かったよ!」
(ドウイタシマシテ)
 大好きな動物に助けてもらって大はしゃぎする三浦は、飯綱の声を確かに聞こえたような気がした。

<狐狗狸>

「いやぁ〜。よくあの野郎をとっ掴まえてくれたねぇ。今日は俺のおごりだ。いくらでも喰ってってくれ!」
 無事食い逃げ犯を掴まえた一行は、是非お礼がしたいという狐狗狸の主人の言葉に甘えて狐狗狸に来ていた。中央街の外れにあるこのこじんまりとした店は、どの道具も使い込まれており歴史を感じさせる店であった。店内には狐と狗と狸の置物が入店した客の視線にすぐ入るように置かれている。この三つの置物が狐狗狸という店名の由来だそうだ。
「ふふん♪やっぱ労働の後のご飯って美味しいもんだね♪ 」
 小泉は上手そうに蕎麦を啜った。ここの蕎麦や饂飩は全て自家製の打ちたてらしく、蕎麦の良い香りと喉越しが楽しめる一品である。彼女に付き合えと言われた和泉も不承不承蕎麦を啜っている。
「熱くないですか?」
 ネギトロ丼をパクつきながら桜井は、隣に腰掛けてあつあつの湯気を立てている鍋焼き饂飩をふうふう息をかけながらすする神埼に声をかけた。
「大丈夫ですよ。熱いけど美味しいです」
 鍋焼き饂飩は海老や椎茸などの他に蟹まで入った豪華な一品である。ネギトロに関しても、余った部分の寄せ集めや脂を足しているまがいものでは無く、皮トロと呼ばれる皮下脂肪の部分をこそぎとったものを使っているため、トロに近い濃くのある味わいが楽しめる。
「そんなに頼んで全部食べられるの?」
 やや呆れ気味の顔で杜が眺める視線の先には、うに丼、うな重、船盛りなど豪華な食事を黙々と口に入れている夢崎がいた。
「別に残してもかまわないだろう。いくらでも喰っていいのだからな」
 バチあたりな事を平気な顔で言ってのけうな重をかきこむ。彼が食べているものや、杜の前に置かれている海老天丼などの魚介類は、今日の朝水揚げされたばかりの新鮮なものである。朧は朱雀門の外が海に面しているため、様々な魚介類を楽しむことができる。
 こうして彼らは狐狗狸の食事を心ゆくまで堪能するのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 属性】

0075/三浦・新/男/20/学生/金
    (みうら・あらた)
0555/夢崎・英彦/男/16/探究者/金
    (むざき・ひでひこ)
0030/杜・こだま/女/21/風水師/木
    (もり・こだま)
0413/神崎・美桜/女/17/高校生/水
    (かんざき・みお)
0416/桜井・翔/男/19/医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。/金
    (さくらい・しょう)
0498/小泉・優/女/22/陰陽師/火
    (こいずみ・ゆう)
0427/和泉・怜/女/95/陰陽師/土
    (いずみ・れい)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 陽の章 初仕事は食い逃げ犯!?をお届けいたします。
 朧の初依頼はいかがだったでしょう?属性と式神という二つのシステムにより、今までは違う楽しみがあったのではと思います。特に属性は、戦闘などに大きく作用するため戦闘力のある人でも相性が悪ければ苦戦を強いられ、逆に戦闘力がまったくない人が相性の良い相手と闘えば非常に楽であったりとギャンブル的な要素も含まれることになります。式神は便利アイテムみたいなものですので、どんどんお使いになることをお薦めします。これからも式神の数などを増やしていきたいと思っておりますのでお楽しみにお待ちいただきたいと思います。
 この作品に対するご意見、ご感想、ご要望、ご不満等ございましたらお気軽にテラコンで私信を頂戴できればと思います。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。