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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


調査コードネーム:鏡鳴のトリコ −復讐の三女神 2−
執筆ライター  :立神勇樹
調査組織名   :ゴーストネットOFF

■オープニング■

 ――そしてお前達は偽善の鞭で復讐者達を断罪するだろう。
 ――腕をもがれた事もない、親を魔物に殺された事もない、復讐の安らぎを知らないお前達が!

 春の風が気持ちのよい午後、ゴーストネットで一番日当たりがいい窓辺の席で、瀬名雫がため息をついていた。
 彼女はぼんやりと窓辺を飾る桜草を見ていたが、こちらの視線に気づいて、気まずそうな、安堵したような、何とも奇妙な微笑みを浮かべた。
「あのね、朝来たら、怖い顔した女子高校生のお姉さんがこれを置いていったんだけど」
 そういって取り出したのは、宛名も差出人もない空色の封筒だった。
 雫の視線に促され、中にあった便せんを取り出すと、流麗なカリグラフ書体で次の一文が記されているのが読みとれた。

「お帰り、アリス。
 止まらぬウサギを追いかける旅は楽しめたかい?
 今宵は満月、誰もいない月女神公園へ行こう。
 陽気と愉快が輪になり行きて巡り続ける場所に。
 巨大な回るトレイの上ではコーヒーカップもぐるぐる回り、三月ウサギもいかれ帽子屋も自分のカップがわからない。
 いっそ戸惑う位なら
 砂糖とミルクの気分になってカップ中でぐるぐる回れ!
 鏡の国を見つけたならば、一緒にゴブリン退治をしよう。
 輪を描いて魔法を唱え、玉座から王を引きずりおろせ!

 ――二つの時が重なる時刻に。Tisiphone」

 ティシポネといえば、魔物や闇の眷属に復讐するハッカー集団"Fulies"の一人だ。
 ということは、これを持ってきた少女がそうなのだろうか?
 雫に聞くと、彼女は頭を振った。
「渡してきて欲しいって頼まれただけだって。……でも何か訳アリみたいな雰囲気だったよ。そうそう。これも一緒に入ってたんだけど」
 差し出してきた小切手には、サラリーマンの年収に相当する金額が書き込まれていた。
 振出人には、丸みを帯びた小さな文字で「叶 星歌」と書かれ捺印してあった。
「……この小切手、このままにしておくのはまずいよね?」
 確かにもらう理由も言われもない。いたずらにしては金が掛かりすぎている。
 これはなにかの謎かけか? ティシポネの挑戦か? 星歌という少女は"Fulies"の何なのか?
 頭の中で三つの問いをお手玉のようにジャグリングさせながら、唇の端を少しだけ歪めて見せた。

 ――さあ、どうやってこの小切手を返し、奴らのしっぽをつかもうか?


■10:00 月刊アトラス編集部■

「ん〜コレ遊園地っすかね? 陽気と〜ってのはジェットコースターかメリーゴーランド。コーヒーカップがまんま……すぎか……ねえ、三下さん? あってます?」
 電話の鳴りやまない月刊アトラスの編集部。
 その片隅の仮眠用おんぼろソファーの上で、湖影龍之助は吐息で茶色の前髪を吹き払いながら目をぱちぱちとしばたかせた。
 手にしているのは招待状のFAX。
 ゴーストネット宛にきた「Tisiphone」の招待状の写しである。
 雫から編集部宛にFAXされたのである。
 前後の話を聞いてみると、女子高校生が朝突然あらわれ、封筒を渡してきた。で、あけてみた。
 すると出てきたのは謎だらけの招待状と、額面三百万円の小切手である。
 はっきり言って尋常ではない。
 尋常ではない事態ではあるが、場所が場所。あのゴーストネットである。
 めざとくFAXを見つけた麗香が冷酷に言った言葉は「調べてきて」である。
 Furiesといえば、二月前頃にアトラスの紙面を騒がせた「能力を消すハッカー?! 復讐の声をきけ!」に出てきたハッカーグループである。
 悪戯か、とも思ったがいたずらに三百万円などぽん、と出せる筈がない。
 かくしてアトラスのアルバイトである湖影龍之助は、恋しい三下と一緒に事件の調査を行う羽目に陥ったのだ。
「二つの時刻が重なる時刻……って真夜中の0時じゃないッスか? ほら0時と24時」
 三下の入れてくれたインスタントコーヒーをすすりながら、招待状ととっくみあいを続ける龍之助。
 編集長の麗香がしまりやであるため、インスタントコーヒーも業務用の安物なのだが、三下が入れたとなれば、最高級のストリクトリー・ハード・ビーン(要するに深入りだ)のキリマンジャロより味わい深い。
「うーん、三下さんのコーヒーは最高ッス!」
「スプーン二杯に、砂糖一杯なんだけど」
 通常誉められ慣れてないからか予期せぬ誉め言葉に、何か裏があるのではないかとおどおどしながら三下が返す。
 龍之助としては、ここで「愛情が山盛り三倍」とでも言って欲しいところだが、切なく悲しい片思い。
 贅沢を言うのはやめておいた。
「遊園地、遊園地かなぁ……月女神公園は英語にすればルナ・パークになるけど……なるけど」
 よほど自分に自信がないのか、肩を狭めながら、ちらちらと上目遣いに龍之助を見る三下。
 普通の人間なら、ええい、おどおどしおって! しゃっきりせぇ!! と怒鳴りつけたくなる仕草だが、恋に浮かされる龍之助にしてみれば「ああっ、なんていじましいんだ三下さん。そんなに恥じらわなくてもいいのに! でも、その恥じらいがかわいいッス」と変換されるから、困った……いやいや、幸せな事である。
「あぁ〜でも俺にはもぅこれ以上かんがえらんない……知恵熱出そう」
 コーヒーを飲み干し、げんなりとした表情で肩を落とす。
 Furies関連の記事を見てみるが、ヒントも何もありはしない。
「み、三下さ〜ん一緒に考えてください〜」
 幽霊のようにひょろひょろと伸びた声でいいつつ、ここぞとばかりに半泣きの表情で三下に抱きつく。
 謎が解けなければ麗香のおそろしーい説教がまっているかとおもうと、愛の包容にもイマイチ力がはいらない。
「う、こ、湖影君くるじい……」
 抱きしめているつもりでも、当人にしてみればヘッドロックをかけられているような状態である。
 貧弱日陰育ちを地で行く三下と、健康そのもの。平均より高い身長と十七才という若さあふれる体格の龍之助では、基礎体力が全く違う。
 龍之助にしてみれば優しい包容でも、三下にしてみれば、全身コブラツイストのような苦しみである。
「う、くく」
「あ、つい愛……じゃなかった、熱はいってしまったっス!」
「ぷはー!」
 蛙のように大きく口を開けて息を吸い込む三下。そんな顔すら愛嬌があってかわいいと思う龍之助。
 年頃で、街をあるけば逆ナンパされるだろう現代的な顔立ちであるのに、罪である。
 もし龍之助にあこがれる女子がこの様子をみたら、三下の命日は遠くない。
「彼が居てくれればよかったんだけど」
「か、彼ぇ〜。誰っすかそれは〜」
 唐突な「彼」発言に、謎解きの手が止まる。
「あ、この間Furiesの記事書いてくれた、フリーのライターだよ。アキって言ってたかな? 本人も凄腕のハッカーらしいけれど……最近、ウチにも来ないし、元巣のハッキングジャパンにも来てないみたいだしなぁ」
 これはゆゆしき問題である。
 三下さんが自分以外の男を頼りにしているなんて!
 若さとは時折、激しい感情の起伏をともなう。嫉妬心もまたしかり。
「むむっ、謎はわかん無いッスけど、行動力なら俺に任せてください!」
「はぁ?」
「取りあえず俺は、この小切手の『叶 星歌』さんって人を当たってみるッス! 多分ゴーストネットにコレ持ってきた女子高校生が臭いッスよ! ……大丈夫、コレだけのお金をぽーんと出せちゃうくらいの人だし、見つけるのも簡単っしょ……きっと、多分、そうなんじゃないかな? そう期待したい」
 どこぞの歌手の、どこぞの亭主関白浮気の歌のように、最後は頼りなかったが、やる気だけは確かであった。
「よっし! 編集長! 俺行って来ます!!」
 そして見事に謎をといて、原稿をあげて、三下さんに頼られる男になる!
 それこそ恋愛成就の第一歩だぁ!
 と、FAXを握りしめ、龍之助は放たれたバネのように、部屋を飛び出した。
 後に残されたのは、唖然とした三下と、真っ白な原稿用紙だけであった。


■15:00 エイメル女学院近くの喫茶店で■

 叶星歌とは何者だろう。
(雫ちゃんは怖そうな顔した女子高生っていってたっスけど)
 目の前に座る、栗色の髪をした女子高生……叶星歌をみて、龍之助は小首を傾げる。
 確かに「すましたお嬢さん」タイプで、取っつきにくいといえば、取っつきにくい雰囲気だが。きちんと校則通り肩で切りそろえ、手入れされた髪が、アイロンのかかったシャツは好感度大だ。
(もっとも、三下さんにはかなわないんっスけどね)
 もやもやと沸き上がるピンク色の恋の妄想。いかんいかん、今は調査が先、と頭をふってもう一度目の前の少女をみる。
 取りあえず外見を聞こうと、雫に電話で連絡した。広い東京で女の子一人、簡単に見つからないかも。という不安は一瞬でうち消された。彼女――叶星歌は高校の制服を着てゴーストネットOFFにあらわれたのだ。
 まあ、制服をきていたからこそ、雫は「女子高校生のおねえさん」と断言したのだろうが。
「えーと、悪いっスね。面識もないのに呼び出したりして」
「まったくだわ」
 会話の糸口を掴もうというが、あっさり切り捨てられる。
 午後の喫茶店、春の光に微かなクラッシックとくれば、一昔前のカップルそのもののシチュエーションなのだが、二人の間にながれる空気はあまり友好的ではないようだ。
「あなたが呼び出したってわかってたら、こなかったわ」
 テーブルの上にある招待状の写しを見て、星歌は吐き捨てるように言う。
 「あなた」が?
 では別の誰かの呼び出しと思いこんで、星歌はここに来たのだろうか。
(叶さんがティシポネかはわかんないけど……復讐の理由みたいなもんもあるんだろうし)
「あのっ、あなたがって言いましたよね? じゃ、誰の呼び出しだとおもったんすか?」
 迷っている時間はない。単刀直入に龍之助は聞いた。
「――ティシポネ」
 せせら笑うように、うつむきながら唇を歪める。
 ぞくり、として龍之助は身体を引いた。
「約束してくれたのよ。あの場所に額面三百万円の小切手と一緒に、あの招待状を置いてくれば復讐をしてくれるって」
 くすくす、と陰鬱な笑いを漏らす。
 それはまごう事なき負の感情。
 暗く人を呪う、冷たい感情だった。
「復讐なんて……良い事じゃないっス。今すぐティシポネに頼んで、取りやめてもらえないッスか? だいたい、三百万なんて……安い金額じゃなッス」
「安いわよ。これで……」
 何かをいいかけ、星歌ははっ、と口をつぐみ頭を降った。
「あなたには関係ないわ」
「じゃ、せめてティシポネの事だけでも教えて貰えないっスか? どこで逢ったのかとか」
 立ち上がろうとする星歌の腕を掴む。
「インターネットよっ。もう、離して! 離さないと大声だすわよ!」
 とっくに大声になっており、店内の客の視線を集めているのだが、それでも龍之助は手を離す気にならなかった。
 もちろん三下の役に立ちたいという気持ちもあった。しかし、それ以上に星歌の暗い瞳と、その奥で怯えるようにひらめいた悲しみの光が無視できなかったのだ。
 沈黙と沈黙の応酬が続く。と、場違いなほど軽快なメロディーが星歌の制服のポケットから放たれる。
 驚き、怯んだ龍之助の腕を振り払うと、星歌は携帯電話の受信ボタンを押し、突然目を見開いた。
「……ティシポネ!!」
(何ィ!!!! マジっスか!)
 このタイミングで電話がかかってくるなど、偶然にしてはできすぎてる。しかも相手はハッカーだ。
 どこからか、自分たちを……見ていた?
 ぞくり、として両肩を抱くと、携帯電話を切った星歌が長いため息をついた。
「ティシポネが、あなたにも逢いたいそうよ。場所はパレットタウン裏の夏季限定移動遊園地」
「あなたも?」
「そう。私と一緒にいくのよ」
 有無を言わせない冷酷な口調で星歌は告げた。
 その瞳はこの上なく酷薄で、この上なく無感情で……だけど、この上なく寂しげに見えた。


■23:40 月女神公園の死闘■

 月のさえ渡る白い光が誰もいない遊園地を照らす、日付が変わりそうな午後23:40。
 笑い声もなく、軽やかな音楽もない。
 あるのは冷たい闇と、海の潮騒ばかり。
 静まりかえった遊園地に、ティシポネの招待を受けた子らがゆっくりと集い出す。
 春とは思えない冷気に身体をふるり、と震わせて邦彦は当たりを見渡した。肩にはもちろん祖母からもらった肩掛け鞄。
(「一緒にゴブリン退治をしよう」に「玉座からひきずりおろせ」か)
 ティシポネの招待状にあった一節を心の中で繰り返す。
「……誘われてるのかなぁ」
「え?」
 邦彦と一緒に歩いていた深雪が、突然のつぶやきにきょとんとした。
「あ、いや、最後の一節の謎はなんなのかなぁって……。ひょっとして仲間になれって誘われているのかなとか」
 手をふりながら、あわてて付け加える。と、深雪が静かに微笑んだ。
「誘われても、仲間にはならないわ。私はもう《自分》を捨てようとはおもわないもの」
 アレクトの事件で、一瞬だけ「雪女としての力がなくなれば」と思った。
 だけど、それは自分のルーツを否定することだ。父や母が交わした愛を踏みにじることだ。
 優しく、だが毅然と言う深雪に、邦彦は恥じ入るように頬を染めてうつむいた。
「そう、ですね」
 それはマイナス行動への誘惑だ。
 復讐する気持ちはわかる。しかし、そんなことをすれば悲しむ人がいるはずだ。
 ――伝えたい。
 「止まらぬウサギ」アレクトのように手遅れにならないように。
 一歩一歩の足取りが重い。
 先に何が待ち受けているのかが、怖い。
 それでも、行かないと行けない。――それは奇妙な使命感。
 陰鬱な気持ちを振り払おうと、邦彦が顔をあげると、素っ頓狂な叫びがあがった。
「あれ? 駒子ちゃんのおねーさんじゃないっスか!!」
 明るく無邪気な子供のような声がして、懐中電灯の光がひらめく。
「湖影……龍之助くん?」
 まぶしさから目をかばいながら、深雪が声の主の名前を呼ぶ。と、「奇遇っすね〜」といいながら、声の主が二人の方に寄ってきた。
 まぶしさに慣れた瞳で、じっくりと顔をみる。と、懐中電灯を顔の下から当てながら――いわゆるお化けライトだ――月刊アトラスのアルバイター、湖影龍之助が笑っていた。
 公園で三下が幽霊にとりつかれた事件。事件に関わった駒子にかわって深雪が原稿用紙の升目を埋めたのは記憶にあたらしい。もちろん、事件後に仲良く手をつないで、駒子を送ってくれた龍之助の顔も、だ。
「龍之助くんも「ティシポネ」の招待状をみて?」
「そうっス。妙な事に妙な具合に関わっちゃいましてね。へへ」
 鼻の頭をかきながら龍之助が笑う。と、その彼の後ろには如何にも「迷惑」と言った顔の少女が立っていた。
「彼女は……?」
 彼女がティシポネなのだろうか、と邦彦がおそるおそる聞くと、龍之助は困ったように頭の後ろで手を組んだ。
「小切手の振出人、叶星歌さんです――何でも、ティシポネに「復讐」を依頼したらしくて」
「復讐を依頼した?!」
 深雪と邦彦が同音異口に叫んだ。が、少女は二人を睨んだまま何も言わない。
「あー、聞いても無駄っすよ、彼女「だんまり」の神様がついてますから」
 ここに来るまでの数時間、あの手この手で聞き口説いたのだが、星歌は全くの無反応無視であったのだ。
「だんまりの神様かぁ。そういう神さまは聞いたこと無いなぁ」
 斜に構えた中性的な声が闇から投げかけられる。
 視線を向けると、闇に浮かぶ白い肌。そして燃えるような深紅の瞳。
 深紅の瞳の後ろから、決して変質しない純金の瞳が妖しげに瞬いた。
 秋津遼と斎悠也だ。
 二人は面白そうに叶星歌をちらり、と見て腕を組んだ。
「小切手の振出人とは思いつきませんでしたね」
「謎解きのほうが面白そうだったからね。人捜しなんて退屈だ」
 しみじみとした悠也のセリフに、遼が茶化すように続けた。退屈が嫌いな彼女らしい発言だ。
「何? みんな招待状もらったの? 私もなんだけど」
 遅れて闇の中から朗々とした声が投げかけられる。
「コンビニのバイト、なかなか次のシフトの子が来なくて。遅れるかとおもった」
 闇に溶ける黒髪を押さえながら風見璃音が、つい、と目を細めて笑った。
「これで全員そろったと言うことですね」
 悠也の声に、全員が頷く。
 そして全員の瞳が、小切手の振出人である叶星歌に注がれた。
 負傷した獣のような押さえつけた怒りを、招待を受けた者達に向ける星歌。
 その星歌を諭すように深雪がやんわりと尋ねた。
「復讐を依頼した、ということは「復讐の理由」があるということよ――ね?」
「……ゴブリンよ」
「ゴブリン?」
「ゴブリンが月歌を殺したから、私はゴブリンに復讐する」
 他人が書いたシナリオを読むように、抑揚にかけた低い声が星歌の口から放たれた。
 それは十六の少女が言うにしては、あまりにも重く、負の感情に満ちていた。
「ゴブリンって、どういう事?」
 璃音が尋ねた瞬間。
 当たりが一斉に明るくなった。
 赤、青、緑、黄色。
 色とりどりの電飾が灯り、明滅し、陽気な音楽とともにメリーゴーラウンドが、コーヒーカップが回り出す。
「そのまんまさ。ゴブリンに双子の姉を殺された。だから星歌は復讐を望んだのさ」
 宣言するように若い男の声が投げかけられた。
 視線を向ける。と、ミラーハウスの前に一人の青年が立っていた。
 肩までで切りそろえられた茶色の髪。顔を覆う柔らかな髪の合間から緑光石(ヘリオドール)のように輝く瞳がのぞいている。
 黒いノースリーブニットから伸びた手には、彼の身長よりも高い銀の杖が握りしめられていた。
「アキさん!!」
 悪戯盛りの少年のように、稚気に満ちた笑顔を浮かべる青年。
 その青年の名前を全員が一斉に叫ぶ中、ただ一人、星歌だけが違う名前を呼んだ。
「ティシポネ!」
「よう。約束を果たしにきたぜ――三度目だから格好つかないけどな」
 ポケットから黒い指ぬき手袋をはめながら、星歌に笑いかける。それはとても穏やかで、復讐の使徒のものではない。
「約束――」
 訳が分からずに深雪がぽつりとつぶやく。と、アキは目を細めて唇を動かし始めた。
「二年前だったかな。同じように夏季限定のミニ遊園地ができてな――そこのミラーハウスで一人の女子中学生がこつぜんと行方不明になった。名前は叶月歌。星歌の双子の姉さ」
 新聞記事を読むように、何の感情も差し挟まずアキは淡々と続ける。
「行方不明の少女は一年後同じように忽然とミラーハウスで見つかった。全身に獣の噛み痕と――輪姦の痕跡を残した遺体でね」
 息をのむ気配が、その場の全員に伝染した。
 否、秋津遼と全てをしるアキだけが昂然と微笑んでいた。
「ははん? そいつ妊娠した兆候があっただろう?」
 納得した、と言った様子で遼が吐き捨てると、アキが高く口笛を吹いた。
「その通り。おねーさんは物知りで」
「ちょっ、それ、どういう事っスか!!」
 あわてて龍之助が星歌をみる。と、星歌は怒りに満ちた表情でミラーハウスを見た。
「ゴブリンにやられたのよ。鏡に封じられたゴブリンに、彼らの王の血を残すために!! 月歌が! 月歌がぁああ!!!」
 絶叫が遊園地の軽やかな音楽をかき消す。
「あいつら、たまに「花嫁」もとめて、人間の娘をさらうんだ」
 何でもないことのように遼が言う。五百六十七年の間に何度も見た、と言わんばかりの口調で。
 
 鏡の中に封じられたゴブリン、鏡の中に封じられたゴブリン。
 王様に会いたいなら、六百六十六匹の騎士をうち倒せ。
 朝日が鏡の幻影をうち消す前に。
 
 ながれるような抑揚で、小馬鹿にするような調子でアキは歌った。
 その歌に押されるようにして、星歌が泣きながら言葉を吐き出した。
「絶対に、敵をとってやるって――あらゆる魔術を調べたわ! ゴブリンだとわかって――でも、私には奴らを倒す力が無くて! でも、憎くて、憎くて!!」
 そしてある日、ディスプレイの前に「女神」が現れた。
 琥珀の肌に、黄金の髪。
 蛇の冠にカラスの翼。
 ――ギリシャ神話の復讐の女神。血の復讐の実行者”ティシポネ”のグラフィックスが。
 そして問いかける。
 復讐を行いたいか?
 血の呪いを、恐怖をあがないたいか? と。
「――そこで俺はネット越しに、星歌に条件を出した。本当に復讐したいか。命をなげうってもいいほど復讐したいか、とね。もしそれがお前の”願い”なら三百万円の小切手と招待状を届けて見せろ。とね」
 三百万円。普通の女子高校生が簡単に集められる金額じゃない。
「それで、アキさんは金で復讐を請け負った、って事ッスか」
「違うな。金はあくまでも”やる気”があるかどうか試す為のテストさ」
 押し殺した龍之助の言葉に、アキは苦笑し、煙草に火を付けた。
「そんな……そんな事、駄目だよ」
 邦彦が星歌に訴えかけるように言う。
「そんな事をすれば悲しむ人がいるんだよ。復讐をやろうとしているあなたが可哀想なんだ」
「私が? 可哀想?」
 ぴくり、と星歌が頬を引きつらせた。
「そうだよ。復讐者の居場所はいつだって修羅で癒してくれる存在がない。だから、僕はしたくないし、君にもしてほしくないんだ!!」
「復讐は、癒されない、か? 本当にそう思うか?」
 くすくすと喉を鳴らしながら、アキ――血の復讐者・ティシポネが言った。
「じゃあ、何で復讐を望む者が居る? そもそもどうして復讐をしては行けないんだ? 悲しむ人がいるから? 誰が悲しむんだ? いや、悲しむ人がいるからしてはいけないというのなら、星歌の悲しみはどこへいくんだ?」
 あざけるように、追いつめるように、淡々とティシポネは言う。
「それは――」
 言うべき言葉を失い、邦彦は肩掛け鞄を握りしめてうつむく。
 どうして復讐をしてはいけないの?
 悲しむ人がいるから。
(じゃあ、復讐を望む人間の悲しみはどうでもいいのか?)
 緑色のティシポネの瞳が、冷たく問いかけていた。
「言えよ」
「え?」
 顔を上げる、と、ティシポネが皮肉そのものの笑みを浮かべて邦彦と――そして星歌を見ていた。
「言ってやれよ。星歌に。――お前の姉は運が無かったと。だからゴブリンに殺されたんだと。運が悪かったお前の姉が悪いと」
「そんなこと」
「言ってるのと同じだろう。復讐をするな? お前がそれを言うのか?! 腕をもがれた事もない、親を魔物に殺された事もない、復讐の安らぎを知らないお前が!」
 はっ、と息を吐き捨てて、大げさな動作で手にした銀の杖をくるりと回した。
「言ってやれよ! 復讐なんてされるのは迷惑だって、姉を失ったお前は運が悪かった。その運が悪いお前が我慢すれば、世の中は今まで通り回っていくんだと、お前さえ何もしなければ世の中は平穏なまますぎていく、だからお前が犠牲になって、復讐をあきらめろ、姉を奪われた苦しみをみんなのために忘れてくれと、いってやれよ!! 指を指して! さあ! その偽善の鞭で打ちのめしてやれよ!!」
 どうして復讐をしてはいけない?
 それは――新たな復讐、否、災厄を呼ぶから。
 それによって誰かが巻き込まれてしまうから。社会が歪んでしまうから。
 だから運が悪い一人を犠牲にして、災厄を避けるのだ。
 それが――「復讐をしてはいけない」理由だ。
 最も強い人間のエゴだ。と、ティシポネの言葉が示していた。
 邦彦は何も言えない自分に愕然としていた。
 愕然としたまま唇を噛みしめる事しか出来なかった。
「まあ、いいさ。どちらにしろ俺は半端な復讐は請け負わないのが身上――のつもりだったんだがな」
「つもり? そういえば、さっき三回目の挑戦といいましたよね?」
 話を追いながら、悠也が尋ねる。と、アキが苦笑とともに煙を吐き出し、アキの代わりに遼が可笑しそうに吐き捨てた。
「簡単だ。復讐を請け負ったがいいが、キミ一人では六百六十六匹のゴブリンを倒せなかったのさ。だから、ああいう手の込んだ招待状で私達を「復讐劇」に引きずり込んだ、だろう?」
「ご名答!」
 高らかにアキが叫んだ。それは時計の針が0時を指した瞬間でもあった。
 突如ミラーハウスを赤とも黒とも言えない霧が包み込み、次々と小さな小鬼――ゴブリンが飛び出し始めた!!
「うわぁ!」
「きゃっ」
「――仕方ありませんね!!」
 悠也が高らかに叫んだ。ここまで巻き込まれてしまっては、卑劣も狡猾も敵味方もない。目の前の敵を倒さねば自ず全滅しようというものだ。
 ジャケットの内ポケットから数枚の紙を取り出す。
 とたんに紙――風神の護符が蒼い光を放ち出す。
「豊葦原の千五百秋の瑞穂の国に先んじて出流る息吹よ、白刃となりて敵を討て!!」
 まとわりつく闇を討つ、凛麗な悠也の声がかき消えるや否や、蒼い光を放つ護符は一陣の竜巻となりゴブリン達を切り薙いでいく。
 深雪も数匹のゴブリンたちに髪の毛を引っ張られながらも、何とか唇に指先をあて、息吹を雪女の”凍れる吹雪”に変え、ゴブリンを振り払う。
 蜂の巣をつついたように、次から次へとあふれ出てくる毛むくじゃらの怪物。
 瞬く間に身動きがとれないほどとりかこまれ、汚れた爪でひっかかれ、髪の毛を引っ張られる。
 一匹一匹は弱くとも、六百六十六匹対七人ではいささか分が悪い。
 璃音がすらりと伸びた足で、サッカーボールのようにゴブリンを蹴りつける。
 龍之助のコンクリート塀を打ち砕くほどの怪力が、ゴブリン達の腹を打つ。
 圧巻なのは遼とアキ――ティシポネだろう。
「ほらほら! みんな燃えてしまいな! ははは。これで五十八匹目!」
 ごう、という音が空を揺るがしたかとおもうと、魔界の闇、あらゆる邪悪を凝縮した漆黒の焔が遼を中心に燃え広がり、ゴブリン達を灰燼に帰す。
 そんな遼を横目でみながら、アキは携帯電話の通話マイクを耳に詰め込み、手にしていた銀の杖で自分の周囲に輪をかいて低い声で唸るように呪文を口にした。
「Program OPEN "SYSTEMA-SEPHIROTIVM" MODE――ACCEPT」
 とたんに携帯電話の受信ランプが明滅し、アキが書いた地面の輪が白い光を放ち始める。
「何?」
 太陽が降り立った様なまぶしさに、深雪が振り向いたのと同時に地面に無数の輪と文字が明滅し始める。
「これは――セフィロトの樹?!」
 遼が黒焔を放ちながら、アキをにらむ。とアキは薄い笑みを浮かべて唇を動かした。
「ティファレトよりネツァッフへ勝利の門よ、ハミエルを伴い開け」
 冷厳な教皇のように宣誓し、杖をさしのべる。と、その場所にいたゴブリン達が光につつまれ一瞬の内に燃えてかき消える。
「――魔法陣?! じゃあ、アキさんあなたは魔道師?!」
 訳がわからない、と言った調子で深雪が叫ぶ。
「魔道師じゃない、なんて言った覚えはないが?」
 無理矢理魔法陣に入ってこようとするゴブリンを、銀の杖ではたき落としながら言う。
 ――輪を描いて魔法を唱え。
 ――玉座から王を引きずりおろせ!
「なるほど、フェアを保つために自分の手の内まで明かして居たわけですね!」
 護符からはなった風神の刃を制御しながら、悠也が皮肉下に笑う。
 しかもただの魔術師ではない。"陣"を操る「電脳の魔術師」だ。
 ティシポネの口から放たれた「命令」は携帯電話をつたい、インターネットの海に隠された"魔法陣"のプログラムを引き出し、具現する。
 人間には出来ない緻密で完璧な計算、完璧な数値で描かれた魔法陣を一瞬で構築する魔術師を越えた魔術師。
 それが――ティシポネだ。
「どうでもいいけど、数が多すぎるわ! 何とかならないの?! 私はこんな事している場合じゃないの、あなたに黒狼様の事を聞くためにきたのにっ!」
 璃音が焦りとともに叫び、数十匹目のゴブリンをアキがつくって光の炎へと投げ込む。
「うわぁ!」
 少年の悲鳴が、そしてついで少女の悲鳴があがった。
 戦う手段を持たない邦彦と星歌だった。
 自分より弱い相手を見つけたゴブリンたちが、一斉に邦彦達の方へ向かう。
「させません!」
 悠也は叫び、裂帛の声とともに、和紙でつくった白蝶を夜空にばらまく。
 とたんに蝶の群れはゴブリンの目にぴたりと張り付き、視界を奪う。
 視界を奪われたゴブリンを、璃音と龍之助が投げ飛ばし、遼とアキが燃やし尽くす。
 しかし数が多いため、どんどんと押されていく。
 そしてついにアキの腕に一匹のゴブリンがかみついた。
 夜空に血の珠が飛ぶ。
「やめて!!」
 高らかに星歌が叫んだ。
 その瞳には異形の者に対する恐れが満ち満ちていた。
 得体の知れない存在に対する畏怖が、復讐の炎を覆う闇となり、星歌の心を覆っているのが伝わってきた。
「やめて? 今更? 止まるかよ!!」
 血が流れるのにもかまわず、アキがゴブリンを引きはがし、地面に叩きつける。
「今更逃げるなよ! 目を見開いて良く見ろよ! お前が望んだ復讐の末路を!」
「復讐の――末路?」
 アキの叫びに、夢遊病者のような頼りなさで星歌が答えた瞬間、ミラーハウスが大きく揺れた。
「へえ。ようやく「王様」のお出ましか!」
 からかうような声色で遼が叫ぶと、ミラーハウスから大きな黒い影が――汚れた茶色の毛皮に包まれた巨人があらわれた。
「――あれが、ゴブリンキングっスね」
 呆然と龍之助が叫ぶ。
 筋肉の隆起した腕が振り回される。
 ミラーハウスの横にあった電話ボックスが一瞬にして破壊される。
「これは、一気に攻撃しないと!!」
「了解!」
 悠也の叫びにいち早く璃音が答えた。
 狼族の力で高められた瞬発力でもって、璃音がゴブリンキングの前に踊りでる。
 惑乱された隙をついて深雪が吹雪を、悠也が風神の刃を叩きつける。
 そうこうする内に、ゴブリンキングの腕が璃音をはじき飛ばし、鋭い爪が龍之助の脇腹をかすめる。
「ああっ?!」
「くぅ、三下さぁん!!」
(僕も――自分の身ぐらいは守らないと!)
 戦いを傍観するしか出来ずにいた邦彦は、ようやくそう思って邦彦は祖母から貰った肩掛け鞄に手を入れる。
 フライパンでもバットでもいい。なんでも――身が守れればいい。
 そう思っていた。
 なのに――普段はあんなにいろんな物を無尽蔵に出してくれる鞄だというのに。
 指先には何一つふれず、ひっくり返しても何もでてこない。
「どうして!!」
 邦彦は悲痛な叫びを上げる、出てくるはずの鞄から何も出てこないなんて!!
「迷ってるからさ。迷ってちゃどんな力も答えないさ!!」
 邦彦の脇をかすめるようにして、遼が地面を蹴った。
 そして一気にゴブリンキングの前にでると、闇の王さながらの堂々とした動きで手をさしのべ、ひときわ暗い闇の焔を放った!

 GYARROOOOUUUU!!!!
 
 人の物でもない、まして獣の物でもない。ガラスを釘でひっかくような絶叫が当たりに響いた。
 一瞬にしてミラーハウスの壁が砕け散り、中にあるガラスすべてが甲高い悲鳴を上げながら砕け散る。
「ふん。ゴブリンキング? 獣クラスが私に逆らうなんて、四千年は早いね」
 燃え尽きたゴブリンキングの死骸を蹴りつけ、遼がせせら笑う。
 と、緊張の糸が切れたのか、星歌ががっくりと邦彦の腕の中に倒れ込んだ。
「――終了、って事かな?」
 腕にハンカチを巻き付けながら、アキが苦笑し、邦彦の腕の中でぐったりとしている星歌の額に手をあてた。
 そして二言、三言つぶやくと、苦しげだった星歌の顔がゆっくりと歪んでいく。
「何を――」
 アキの手首をあわててつかみ、邦彦が聞く。
 と、アキは静かに――まるで出来の悪い生徒を見守る教師の様な微笑みを浮かべ、静かに答えた。
「――復讐の記憶を消したのさ」
「え?」
「復讐って奴ぁ、合わせ鏡みたいなものさ。どこかでうち破らなければどこまでも続いていく。共鳴し続ける音叉みたいに延々と終わり無く復讐が復讐を呼び、憎しみの鏡像も止まらない」
 揺らぎ震え無数の鏡像を映し出す檻にとらわれし復讐者――それは鏡鳴の虜。
 にっ、と邦彦に歯を見せながらアキが星歌を抱き上げる。
「俺はアレクトみたいに無分別なガキでも、メガエラのように復讐を煽って何かを企む野心家でもない。それ位の事はわかってるさ」
「じゃあ、どうして」
 星歌の復讐を止めなかったのか。Furiesとして復讐の肩代わりをしているのか、と聞こうと邦彦が口を開くより早く、アキは言葉を紡いで見せた。
「だが――理論で理解することと、感情を納得させることは別だ」
 無理矢理感情を消したような、ぎこちない言葉がアキの心情を表していた。
 復讐を望む心は、復讐を望む者にしかわからない。
 そう告げているようだった。
 何も言うべき言葉が見つからず、地面を目線に落とす。
 足下に砕け散った鏡のカケラが、闇に沈む遊園地を寂しく映し出していた。


■2:30 夜明け前の闇の中で■

 誰も何もしゃべらないワゴン車の中に、空しくラジオが流れていく。
 さっきまで見事な満月だったというのに、空は曇り、冷たい雨がフロントガラスを断続的に叩いている。
 邦彦はため息をついて、後部座席を振り返った。
 と、そこには無邪気な笑顔を浮かべて龍之助と星歌が眠っていた。
 本当ならば、邦彦も眠くて仕方がない時間の筈なのだが、こんな時に限って睡魔は襲ってきてはくれなかった。
 未成年を一人で返す訳にはいかない、と主張するアキに促されるようにして、ワゴン車に乗り込んだ訳なのだが。
 ――どうして?
 明滅するテールランプの向こうに、アレクトの蒼い瞳が見えた。
(どうして――?)
 自分自身が、自分自身に問いかけていた。
 不安のまま肩掛け鞄をなでる。
 どうしてこの肩掛け鞄からは、何も出てこなかったのだろうか。
 秋津遼が言ったように、自分が迷っていたからだからだろうか。アキ――いや、ティシポネの痛烈な言葉に答を返せなかったからだろうか??
「望まなかったからじゃないのか?」
「え?」
 考えを見透かしたようなアキの言葉に、あわてて顔を上げる。
 すると彼は煙草をくわえたまま、口の端を歪めていた。
「お前さん、その鞄からどうして何も出てこなかったのかって、迷ってるだろ? ふふん。どうして、なんて聞くなよ? その情けない顔を見れば誰だってわかるさ」
 喉をくつくつと鳴らしながら、アキは目線を前にとどめたまま言った。
「望まなかった、から」
 そうだろうか。だとしたら、自分はどうして――戦うことを、身を守ることを望まなかったのだろうか。
「わからないか?」
 アキの言葉にうなづく。茶色の前髪が目にかかり、暗い視界をいっそう暗くする。
「――だったら、考えるんだな」
 素っ気なくアキは吐き捨て、肩をすくめた。
「何故、復讐がいけないのか、どうして復讐を止めたいのか。そして――俺達を納得させてみろ」
 目にわかるほどはっきりと、アキはハンドルをきつく握りしめていた。
「それが出来ないなら、忘れろ。――俺達の――アレクトの事も全て」
 言葉を拒絶するように、煙草に火を付けたアキの横顔を見てから、邦彦はゆっくりと目を閉じた。
 なのに安らぎを与えるはずの眠りは、まだ訪れてはくれなかった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0264/風見・璃音(かざみ・りおん)/女/150/フリーター】
【0258/秋津・遼(あきつ・りょう)/女/567/何でも屋 】
【0264/内場・邦彦(うちば・くにひこ)/男/20/大学生】
【0164/斎・悠也(いつき・ゆうや)/男/21/大学生・バイトでホスト 】
【0174/寒河江・深雪(さがえ・みゆき)/女/22/アナウンサー(お天気レポート担当)】
【0218/湖影・龍之助(こかげ・りゅうのすけ)/男/17/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、立神勇樹です。
 さて、今回の事件は「エピローグを除いて時系列割で7シーン」になっております。
「なぜこのキャラが、こういう情報をもってこれたのかな?」と思われた方は、他の方の調査ファイルを見てみると、違う角度から事件が見えてくるかもしれません。
 もしこの調査ファイルを呼んで「この能力はこういう演出がいい」とか「こういう過去があるって設定、今度やってみたいな」と思われた方は、メールで教えてくださると嬉しいです。
 あなたと私で、ここではない、別の世界をじっくり冒険できたらいいな、と思ってます。

 湖影龍之助様。
 参加ありがとうございました。今回小切手と叶星歌についてプレイングされていたのは湖影さんだけでした。
 もしこのプレイングが無ければ、事件の全容が全く見えないリプレイになっていたかもしれません。

 では、再び不可思議な事件でお会いできることを祈りつつ。