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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


調査コードネーム:萌え〜インターネットに無知な男〜
------<オープニング>--------------------------------------
「先生、先生! 起きて下さいよ! 先生!」
 城田政彦は、ようやく担当の安川雄一に揺すられて起こされた。
 城田は作家で、歳は37歳。安川も似たような歳で35歳。もうお互いに気の知れた付き合いだったが、安川の気苦労は、城田の原稿を上げるペースが遅いこと。でもそれにも長年のクセでなれてしまい、このライフワークは城田と共にあるようなものだ。
「分かったよ、分かった。ただ休んでただけじゃないか。安川くん」
「頼みましたよ、先生。明日には全部上げて貰わないと、僕にも生活が……」
「はいはい。だいじょうぶだよ、もう半分書き終わってるし」
「あ、そうだ。先生。次回作の題材、ネットで探してきませんか?」
「んん? ネット? なんだ、バドミントンでもするのか?」
「そうじゃないくて。インターネットですよ。あれ? 先生知らないんですか……?」
「知らん。そんな横文字言葉。新語か?」
「まあ、そうなんですけど。それと、先生には『萌え』についても書いて貰いたいんですよ」
 難しそうな顔をする城田。インターネットと萌えと言う言葉について書けといわれても、その実態がどんなものかも知らないうちは書けるどころではない。
「分かった。但し、この原稿が上がってからにしてくれ。同時に二つの事は出来ないからな」
「はい、それはもう」
 こうして、城田の原稿が出来次第、二人はゴーストネットOFFにいくことになるのだ。

◎それから二日経って
 城田は、安川のアドバイスにより、昼間にゴーストネットに連れ出された。夕方や夜間は、学生や帰りの会社員などで混み合うという理由からだ。
 城田の格好は、相変わらずと言ってはなんだが作務衣(さむえ)装束、どこへ行くにも何をするにもこの格好だけは崩さない。反対に安川は、着慣れたスーツ姿で、城田と並んで道順を教えている。
「それにしても、次の題材のことだが、『萌え』とはなんだ? スポーツに燃えるの『燃える』ではないのか?」
「ですから、それを詳しく調べに行くんじゃないですか。あ、因みに『花萌ゆる』の『萌え』でもないですからね」
 それを訊き、やたらと難しい顔になる城田。ではどういう意味なんだ! と怒鳴りたくなるのを抑えているようだが、流石にそこまで短気な城田ではない。
 そうこうしているうちに、ふたりはゴーストネットの店の前に到着した。自動ドアをくぐると、「いらっしゃませ〜」というウェイトレスの声が木霊する。
「むむ?! なんだここは。喫茶店のようではあるが、その前にパソコンが沢山あるではないか!」
「そうなんですよ。パソコンで調べものをしていると、ついつい長居してしまうことがありまして。それを逆手にとってコーヒーや紅茶、ホットケーキというものまで出してくれるんですよ」
「ふうむ、なるほど。なんとアコギな商売ぶりだ。けしからん!」
「いえ、ですから、それが今の流行なんですよ。仕方ないんです。それにこういうところは、今は人が少ないですが、夜にかけては凄く混み合いますから」
 一通りの安川の説明を聞くと、城田は適当な場所を選んで椅子に座る。
 安川は城田のご機嫌取りにと、カウンターへと行き、城田の好きそうなコーヒーなどを注文する。
「ふうむ。ウチにあるワープロとほとんどキーの配列は一緒か。これならばなんとかなりそうだな」
「あら? おじさま、お家にあるのはワープロですか?」
 声を掛けてきたのは、若い女の子だった。
「む? 君は?」
「滝沢百合子って言います。これでも女子高生ですよ」
「ほう、女子高生か。今の若いモンは、パソコンを触って私より1ランクも2ランクも上と聞く。君もそうなのかね?」
 滝沢は少しの躊躇もなく、即答した。
「ええ、そうですね。少なくともインターネットに関しては、おじさまよりずっとランクは上かと思いますよ」
「う。やはりそうなのか? それじゃあ、調べものをしたいのだが、まずはインターネットというものを教えてくれないか。そうでもなければ、題材に困るものでな」
 城田は、安川を含めた自分たちより、ずっと若い女の子に手ほどきを受ける事にした。
「やあ、滝沢さんじゃないか」
「あ、安川さん。今日は調べものですか?」
「うん。あ、それと紹介するね。僕が担当している、作家の城田先生だよ」
「え? 作家さんだったんですか?! 素敵です! 私の憧れですよ」
 城田はディスプレイの画面を見ながら、呟いた。
「滝沢君も作家を目指すようであれば、気難しくならなければならんぞ。それが第一歩だ」
「先生〜、そんなこと教えちゃだめですよ。滝沢さん、気にしないでね。気難しいのは先生だけだから」
「何か言ったかね? 安川君」
「ああ、いえ……。おっと、コーヒーを持ってきたんだった。先生、滝沢さん、コーヒーです。僕からの奢りですから。さ、滝沢さんも」
「ありがとうございます。でも安川さんは?」
「いいのいいの。また注文すれば良いことでしょ。ひとまず僕も別のパソコンで調べてみるから、先生のことよろしくね」
といいながら、安川は別の場所へと退散した。
「ええと、これがブラウザというもので、これがメーラー。メールのやりとりをするものです。今回はメーラーは必要ないから、ブラウザだけ使っていきますね。よろしい?」
「ほお、これがブラウザか。これでなんでも見られるというやつだな? 安川君が予備知識で教えてくれたことと同じだ」
「安川さんも詳しいですよ、とっても。えっと、それで『萌え』でしたよね?」
「うむ。それの知識がなければ、次回の小説が書けないのだ」
「わかりました。それじゃあ、まず検索エンジンで調べてみましょうか」
 こうして、城田と滝沢のコンビによる、『萌え』言葉探しが始まった。

◎『萌え』の発祥とその意味は……
 最初は案の定、『花萌ゆる』などといった意味が主体だったが、個人ページ関係で出てきたのが、この『萌え』である。
 しかもこの言葉の発祥などを調べていくと、どうやら漫画のキャラクターからという説が大半を占め、今現在日常的に使われている『萌え』という言葉の発祥は、結局のところ分からずじまいだった。
「えっとまとめてみると発祥はわかりませんでしたけど、小さい女の子や自分より年下の女の子が可愛かった場合に使われる語みたいですね」
「うむ、そうだな。しかし、こんな語を調べさせて、安川君め、何を企んでいるのだ?」
 するとそこに噂の人物が登場した。
「先生、分かりました? こちらでは、発祥はあやふやでしたが、意味はバッチリでしたよ」
「うむ、こちらも滝沢君のお陰で、インターネットにも少しは慣れたし、意味の方も分かった。しかしだな、安川君。これを調べさせて、次回作は何を私に書かせる気なのだ?」
 安川は得意げな顔をして、コホンと咳払いをする。
「先生。新分野開拓ですよ。少女小説です! 今は純文学ばかり書いているのが脳じゃありません! 別分野への開拓が必要な時代なんですよ。現に売れてますし」
「なにぃ?! 少女小説だとぉ?! そのためにこの語を調べさせたというのか!」
 すると滝沢が言う。
「城田先生、少女小説ですかぁ。きっとメルヘンチックな文章でしょうねぇ。私も楽しみにしてます。次回作ですよね。頑張って下さいね!」
 と滝沢百合子は、奥の部屋へと引っ込んでしまった。
「ふむむ……、可憐だ」
「先生? どうしたんですか?」
「い、いや。安川君。次回作、書かせて貰うよ。あの子のためにもね」
「先生! それ、それですよ! 今、先生『萌え』てたでしょう。それが『萌え』の正体ですよ」
「むう、そうなのか? この気持ちが『萌え』なのか? なるほど、複雑で言い表しがたい感情だな」
 城田は感心し、残っていたコーヒーをがぶ飲みするのだった。

「今日はなかなか勉強になったな。あの滝沢という子には、いつか恩返しせねばなるまい」
「いえいえ、滝沢さんはあれでもインターネットのインストラクターですからね、みんなには人気あるみたいですよ」
「ほお、あの女子高生がねぇ。時代は変わってきているということか」
 城田は、今日に限ってほくほく顔だ。久しぶりに若い女の子にインターネットの手ほどきをして貰ったということで、よほど嬉しかったのは事実。
「ゴーストネットOFFか。また暇が出来たら来てみたいものだな、安川君」
「ええ、そうですね。そのときにまた滝沢さんがいれば良いですけど」
「こら、安川くん。一言多いぞ」

 その後、城田は少女小説を一冊上げることに成功した。
 題名は『萌えるあいつの瞳』。内容は、まったく城田らしくない、純愛小説であった……。

                          FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0057 滝沢・百合子 女 17歳 女子高校生
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■         ライター通信          ■
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 城田は、いまだにワープロをつかっております。
 機種はシャー○の文豪。懐かしい機種で小説書いてるんですよ。
 このゴーストネットOFFの訪問を機に、パソコンに買い換え
することも考えているようですが。

 ゴーストネットOFFにしては、堅調な終わり方ですが、
何せまだこちらの方はやってないので不慣れです。
 とりあえず、次回は、ゴーストネットOFFの名にふさわしい
展開を考えておきますのでお楽しみに。

 改めまして、夢羅武市と申します。
 これが私の文体(文章)ですが、仕事は精一杯やらせて頂く
方針で頑張っております。
 これからも、ご愛顧のほど、何卒宜しくお願い申し上げます。
                  夢 羅 武 市 より