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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


天使システム〜大天使降臨〜

<オープニング>

「大変です編集長!テレビを見てください!」
 編集室に突如響き渡る声。碇は驚いて振り向いた。
「どうしたの!?」
「いいから早く!」
 編集員にうながされるままテレビ画面を見た彼女の目に映りこんできたもの、それは十字架が書かれた旗を持つおおぜいの人々が、翼を生やした鎧に剣を持つ天使に先導されるまま通りを練り歩いているのである。それだけではなく彼らは手に包丁やナイフを持ち、通行中の市民に襲い掛かっている。
「ち、ちょっとなによこれ・・・。どこかのカルト?」
「分かりません。でもあの先頭の空飛んでいる天使がなんだか気になって・・・」
 彼が指差す天使は光輝き、神々しい。だが、なぜ天使に先導された人間が同じ人間を襲っているのであろうか。このままでは警察が出動して更なる大惨事になることは目に見えている。天使は人を守る存在ではないのだろうか。それなのにこの暴徒を先導しているように見える。だが、これはアトラスにとって特ダネのチャンスでもある。
「とにかく、これをスクープしなくちゃね。勿論カルト特集なんかじゃなくこの天使の特集をしなくちゃ。誰かこれの取材に行って来てくれる人、いない?」
 いるわけがない。誰が好き好んでこんな危険な場所に行くというのだ。
「ええい、もういくじなしどもめ。こうなったら貴方たちだけが頼りよ。ここに行って取材してきて頂戴」
 碇は依頼を受けに来ていた貴方たちにそう告げた。テレビの表示されていた場所は表参道だった。急げばまだ間に合うだろう。

(ライターより)

 難易度 普通

 予定締切日 4/20 24:00

 天使シリーズ第二話です。
 今回天使が出現したのは表参道となります。かなりの人通りがあるこの場所で大パニックとなっているため、目的の天使に到着するだけでも困難かもしれません。また天使と敵対すれば、それに付き従っている信徒達も敵になりますので気をつけてください。彼らを敵にまわすかそれとも・・・。
 依頼内容はこの事件の取材なので、無事取材ができれば一応依頼は成功となります。この事件を収拾させるかどうかはお任せします。ただし前述したとおり、人が多いので行動は困難になります。お気をつけ下さい。
 シリーズものではありますが、全て一話完結型なので初参加の方でもまったく問題ありません。お気軽にご参加ください。
 それでは皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます。

<天使の会合>

「あのようなことをしても意味が無かろうに」
「そう言ったものではない、ウリエル。ヒトの中にも今だ神を信奉している者たちがいないか試してみただけだ」
「結果的にはそういう人間も少数ながらいたようだな。だが、だからといって何になる?所詮ヒトはヒト。真に神の教えを守っている者などいない」
「その結論はまだ早すぎるのではないだろうか?終末の時は未だ訪れていないのでは・・・」
「くどいぞラファエル。その話は既に結論がでているはずだ」
「その通り。もはやヒトという存在は救いようがない。空を汚し、大地を汚し、あまつさえ宇宙すらも汚そうとしているのだ。最早根絶させるほか道はあるまい」
「ガブリエルの申すとおりだ。神の教えを多少は守っていようともそれは多少に過ぎん。大差はないのだ」
「ミカエル、それしか方法は無いと言うのか・・・」

<月刊アトラス編集部>

 結局、編集長碇が選んだのはいつもの依頼を受ける面子だった。
「というわけなので早速現地に向って頂戴」
「いいですよ」
 あっさりとこの依頼を引き受けたのは、均整のとれたすっきりとした体つきの青年だった。とある探偵事務所で事務員のバイトをしている各務高柄という。実質事務所が運営できているのは彼のお陰と言っても過言ではない。やる気のない主をなんとか仕事を受けさせ、主に任せたら全てが本代に消える財布の口をしっかりと閉め経理を担当している。主だけでは一ヶ月も持たずに探偵事務所は潰れているだろう。若いながら中々の策士でもあり、今回の依頼に関してもある企みに基づいて参加している。
「で、報酬の件ですが・・・」
「幾ら欲しいわけ?言っておくけどあんまりだせないわよ」
「お金は結構です。その代わり僕と一回デートしてもらえませんか?」
「は?」
 碇が、いやアトラス編集室が彼の発言で一瞬にして凍りついた。なんと命知らずな、もとい勇気のある発言であろうか。かの女帝碇麗香と事もあろうにデートをしたいなどと言い出すとは。さしもの女帝もこれには面食らったらしい。
「べ、別にいいけど・・・」
「そうですか。それは良かった」
 彼は満足げににっこりと笑った。そうこれこそが彼の企みだったのである。実を言えば、この頃は主と自分、それに今日アトラスに伴ってきた赤毛の助手の三人で依頼を受けているため経営自体に問題はない。いや、潤っていると言ったほうが正しいであろう。本来ならば依頼など受ける必要も無いのだが、碇にアプローチをかけるという私的な理由のためにこの話を受けたのだ。
「というわけですので、早速行ってきましょう。ああ、暁臣君は帰っていてください。なにやら危険そうですしね」
 各務がそう言ってきかせたのは、淡い、どちらかといえば朱色の髪をした細身の少年だった。彼と同じく探偵事務所で住み込みのバイトをしている柚木暁臣である。彼は無表情のままコクリと頷いた。
「ではあの人に今日は遅くなるかもしれないと伝えておいてください。夕飯は冷蔵庫に入っているタッパーをそのままレンジにかけてもらえばいいようにできていますから」
 柚木が了承したのを見て取って、各務はにっこり笑って編集部から出て行った。
 それからしばらくしてふと視線をそらすとテレビの画面に表参道の惨状が現れた。路上で争い合う天使に率いられた人々と警察。殴られ、あるいは刃物で切りつけられ血を流し倒れていく。そんな痛々しい光景を目の当たりにしながら、柚木はいてもたってもいられなくなった。
 何かできることはないだろうか。せめてあの傷ついた人々の中の幾人かだけでも・・・。
 柚木は顔にはあまりはっきりと出さないものの、静かな決意を秘めて編集部を出て行く。その彼を見送りながら碇は隣に立つ長身の男に目を向けた。
「で、あんたはどうするわけ?今回は不参加?」
「いや、参加しますよ。あの人たちだけじゃ心配ですしね」
 長い髪を後ろで束ねた青年はそう答えると懐から携帯を取り出した。
「もしもし爺か。私だ」
「どうなさいましたか、若」
「例の表参道の件だが、前の青山の事件と何か関連性があるかもしれん。これから調査をするつもりなのだが・・・」
「かしこまりました。お任せください」
「うむ、頼むぞ」
「お気をつけください、若」
 彼は電話を切ると碇に向って振り返った。
「というわけですので、私も取材に行ってきましょう。何か面白いことがあるかもしれませんからね」
「何がというわけよ。また実家の金を使ったわね」
「さて何のことやら」
 彼、宮小路皇騎は陰陽道を扱う陰陽師であるのだが、その実家宮小路家は関西に隠然たる力を持つ財閥である。日本では財閥という存在は認められていないため複合企業に近い形式を取っているのだが、とにかくその財力はかなりのもので、政界などにも相当のコネがある。それを用いて彼は何か行ったらしい。
 碇の言葉にとぼけた返事をしながら宮小路もまた編集室を立ち去るのであった。

<神に従いし暴徒たち>
 
 表参道。流行の最先端を行く東京の都市の一つ。普段は若者の姿でごった返しているこの場所は、しかし今日は様子が違っていた。通りのど真ん中で十字架の描かれた旗を持った一群と警官隊が衝突しているのだ。旗を持った一群は、皆一様に焦点の定まらないぼんやりとした目をして手に持った包丁やナイフ、それにバットなどで警官に襲いかかっている。対する警官はというとシールドを持ってその攻撃を防ぎ、暴徒たちを抑えにかかり、現在のところ警察のほうがかなり優勢に見える。だがしかし、その状況は暴徒の上にいる光輝く翼持つ存在、天使によって一変した。甲冑を身に纏い、剣を抜き放った天使は勇壮な声で告げた。
「今こそ立ち上がる時!神の子らよ、神の教えを守らぬ愚か者どもに裁きを鉄槌を与えよ!」
 天使の号令がかけられると暴徒の目が変わった。今まで焦点のあっていなかったその瞳が真っ赤に血走り、狂気の色を宿す。途端に形勢は逆転した。人間離れした力で警官たちに襲いかかり、刃物やバットの一撃など軽く防いでいたシールドをいとも簡単に既に破壊し始めたのだ。そのあまりの異様さにいてもたってもいられなくなった警官たちは我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた。
 その光景をビルの屋上から冷ややかな目で見つめている女性がいた。キリスト教のカトリックのシスターが着るような修道服を着た女性。だが、冷ややかなというのは正しい表現ではないかもしれない。彼女の顔には何も表情は浮かんでいない。硬質な作り物めいた顔。そう彼女は人間ではない。精巧に作り上げられた傀儡人形なのだ。名をロゼ・クロイツという。
 彼女はおもむろに袖から幾つかのシリンダーを取り出すと、それを眼下の暴徒の群に投げ込んだ。より正確に言えば彼らが手に持つ旗に目掛けてそれを投げた。そして左手に装着されたクロスボウを取り出すとシリンダー目掛けて矢を放つ。それは戦端が布に包まれ、赤々と火がともされた火矢であった。
シリンダーが打ち抜かれ中に入っていた可燃物に引火して派手に燃え上がる十字の旗。天をも焦がさん勢いの炎にさしもの暴徒たちも慌ててふためいた。旗をほおリ投げてパニックに陥る。
「私の信仰は旗にあるわけではない。邪業の旗印と私が掲げるものは全く別の物だ」
 辺りに響く声に暴徒たちが驚いてその声の主を探す。その中の一人がビルの上に立つロゼを見つけた。
「あれだ!」
「人を連れ歩き己を誇示するだけの俗物が神の使徒である訳がなかろう。まして罪なき屍の山に立たんとするものを神とは呼ばぬ。我が刃に消えよ、塩に還れ!」
 ロゼはそう言い放つとビルから飛び降り、右手に仕込まれた銀の刃で光り輝く天使に切りかかった。その一撃を手にもつ剣でこともなげに弾かれると、ロゼは人間離れした跳躍力で天使から離れ間合いをとった。
「愚かな。神の教えに背きし者よ。汝は悪魔の使いか」
「黙れ!邪悪の使徒に悪魔呼ばわりされる由縁はない」
「使徒たちよ。この哀れなる悪魔の僕を神の慈悲の元に救うが良い」
 暴徒たちは天使の指示に従って一斉にロゼに向かって襲い掛かった。いかに天使に操られ強靭な力を持った人間たちといえど、戦闘用の傀儡人形である彼女にとって蹴散らすのは容易い。だが、それでは罪なき民衆までを傷つけてしまうことになる。それを避けたいロゼは、後方の天使を攻撃しようとするのだが、暴徒たちの壁に阻まれ思うようにいかない。逆に彼女自身が取り囲まれ手足を掴まれ始めた。
 その時。
「やれやれ、目立つのが好きな連中ですねぇ・・・。もう少し、我々のように謙虚にしていれば、余計な敵を作らずとも済むものを」
 通りの向こうから皮肉めいた言葉を天使に浴びせた男がいた。黒の詰襟の、一見すると神父のような恰好をした黄金色の髪を持った青年であった。やや垂れ目気味のエメラルドを思わせる瞳で天使を見つめる彼にロゼは見覚えがあった。
「貴様はあの時の邪教の僕!」
「一応神父ですってば。前にも言ったではないですか」
 ロゼに睨みつけられ苦笑する青年ジョシュア=マクブライト。一応神父というのは間違っていない。ただし教会で教えをとくよりは悪魔払いをしたりするなど、あくまで一応の域をでない神父ではあるが・・・。
「ならばその隣に連れている奴はなんだ」
 ジョシュアの隣には口髯を生やした老紳士が立っていた。穏やかな顔つきをして、普通の人間のように見えるがその身に漂わせた雰囲気は只者ではない。強烈な威圧感を放ち、見るものを恐怖させる。
「ほっほっほ。わしの正体などどうでも良かろう。それよりお主、苦戦しておるようじゃのう。どれ助けてしんぜよう」
 老紳士の瞳が妖しく光ると、突然暴徒達が自分達を殴り始めた。お互いに殴りあい混乱をきたした彼はロゼどころでなかった。彼女の手を掴み、ジョシュアは走り出した。
「は、離せ!何をする」
「今は一旦撤退しましょう。この術はあまり長時間効いているわけではないし、それにあの天使さんと一戦交えるには形勢が不利です。あの人たち傷つけたくはないんでしょう?」
 ジョシュアの言うとおり、天使は暴徒を盾に使っている。今はパニックを起こしているが、天使が何事かを呟き手をかざすとその混乱もじょじょに収まり始めている。このままこの場に留まっていてはまた同じ事の繰り返しになりかねない。長期戦に持ち込まれればこちらの不利は免れ得まい。
「ところでメフィスト閣下。敵の親玉の目的は何なんでしょう?連中、何か言ってましたか? 心当たりとかないですかね? 」
「終末の時か・・・」
「終末の時?」
 思わずジョシュアは問い返した。
「いや、独り言だ。気にするでない。でわしは戻るぞ」
 そう言うと老紳士メフィストはジョシュアの影の中に身を躍らせ、闇に消えていった。
(終末の時ですが・・・。いささか気になりますが、まぁ今は彼女を安全な場所に連れて行くことを優先しますか。他の奴には壊させたくないないですからね)。
 彼の興味の対象であるロゼの手を引きながらジョシュアは混乱の表参道を抜け出したのだった。

<鬼、悪魔、魔女対天使>

 光が強ければ闇もまた濃くなる。表参道の裏路地。華やかな店が建ち並ぶ表参道にも、閑散としゴミなどしか置かれていない裏路地は存在する。その一角で奇妙奇天烈な何とも形容し難いモノがうごめいていた。まだ生後一年も経っていない赤子のような姿のそれは、手足や顔がげっそりとこけているのに腹だけはぷっくりと膨れ上がっている。その赤い瞳は貪欲なまでの食欲に満ちた狂気の色を宿している。仏教で六道と呼ばれる世界の一つ、餓鬼界に存在する餓鬼である。生前欲にまみれ、欲望に赴くままに生きていたものが落とされる地獄餓鬼界の住人。常に空腹に悩まされひたすら何かむさぼり喰う存在である。
「腹が減ったろう。ここには食いモンがあふれてるぜ」
 その餓鬼を見て、大柄な体格の持ち主がニヤリと笑みを浮かべた。小麦色に焼けた肌に、あまり手入れのされていないざんばらの茶髪。それに餓鬼と同じ紅蓮に燃える炎のごとき瞳。なんとも一目を引く容姿を持つ男、鬼伏凱刀は己が召喚した餓鬼に命じる。
「表の通りを歩いている連中にとりついて来い。なんでも喰え。奴らは人を殺して神様なんだとよ。ならてめぇらも神様になれるようにしっかり働いてこいや!」
 餓鬼たちは彼の指示に従って裏路地を一目散に駆け出していく。事戦いとなると自分の血が抑えられない。己の身に封じた鬼が欲するがごとく、温かい肉を貪り、甘い血でその喉を潤したい。そして暴虐の限りを尽くして戯れたい。
「何が正義だ神の教えだ。俺はカミサマってのがキライなんだ。皆殺しにしてやるぜ!」
 鬼伏の哄笑が裏路地に響き渡った。

 その頃、混乱状態から脱した暴徒たちは天使に導かれるまま破壊活動を行っていた。店のショーウィンドーをバットで破り、店の中の品物をことごとく破壊していく。警察たちはといえば、暴徒のあまりの勢いに押され、逃げ出してしまっている。
「愚かな人類に鉄槌を。神の教えを守れぬ人類に救いはなし。ともに殺し合い、滅びあうが良い」
 剣を天に掲げて言い放つ天使。だが、またしても暴徒たちに異変が起きた。突然腹を抱えだし地べたに座り込んでしまったのだ。強烈な空腹感に襲われ立っていることすらままならない。流石に全員が一斉にというわけではなかったが暴徒の進行を遅くさせることには効果があったようだ。
「けっ。ざまあねぇな天使さんよ」
 してやったりという表情で鬼伏が天使を嘲笑う。先ほど召喚した餓鬼を取り憑かせる「餓鬼憑き」。これで敵の足はとめた。突然のことに困惑の色を隠せない暴徒たちをはね除けながら、彼は一直線に天使に突進する。
「血火・血風・司命の理、不帰命変ぜし陰人は鬼。我が誅敵の肉を喰え!急々!」
 呪を紡ぎ、己が肉体に刻まれた呪言が赤く輝き封印した存在、鬼を開放する。巨大なる鬼「業鬼」。人を丸呑みにできそうな巨大な口を開けてそれは天使に襲いかかった。
「愚かな」
 天使はそれを見て剣を振りかぶった。そして剣が大口を開けた業鬼を切り裂くと思われた刹那、業鬼はその巨体を軽く翻し天使の生み出している影に潜った。
「愚かはてめぇだ!」
 鬼伏は追撃とばかりに腰に差した青龍刀『血火』を投げつけた。振りかぶってしまった剣を持ち上げるには時間がかかる。迎撃の姿勢がとれない天使をそれは確実に捉えたかに見えた。
 だが。
 キィィィィィィン!
 甲高い音を立てて青龍刀は叩き落された。天から現れた瓜二つの甲冑を纏った天使がその手に持つ剣で青龍刀を弾いたのである。さらにフェイントをかけて影からいきなり襲い掛かる業鬼をもう一体の天使が横合いから迎撃した。なんとかその一撃をかわしたものの、業鬼の胸には浅く刀傷がつけられた。計三体の天使が光とともにその場に現れたのである。
「ちっ。天使のくせに随分とセコイ手を使うじゃねぇか」
 自分の技を完全に封じられて鬼伏は舌打ちした。三段構えの戦法、どれかは喰らうかと思われたのだが、敵も三体いるとは思っていなかった。
「神に背きし魔物よ。滅びよ」
 三天使が剣を構えたその時、彼の行動が止まった。上から何か強力な力を受けたらしくぎりぎりと押され、地べたに叩きつけられる。
「なんだぁ!?」
「セラフとかいう人物に躍らされて滑稽ですね」
 鬼伏が驚きの声を上げると、近くのビルの上からいささか場にそぐわない朗らかな声が聞こえてきた。黒い服装に黒いコート、おまけに黒いゴーグルと見るからに怪しい男が口元に笑みを浮かべながら彼らを見下ろしていた。
「さて、動きもとれなくなったことですし、色々と聞かせてもらいましょうか偽天使さん」
「待ちやがれ!いきなり現れて人の獲物横取りすんじゃねぇ!こいつらは俺の獲物だ!」
 鬼伏はコートの男に激昂した。愉しめると思っていた矢先にいきなり邪魔をされて相当頭にきていたのだ。
「僕はこの人たちに聞きたいことがあるんです。邪魔しないでください」
「うるせぇ!てめぇの方がよっぽど邪魔だ。とっとと失せろ!」
「やかましい人ですね。僕の邪魔をするなら先に貴方を始末させてもらいますよ」
「面白しれぇ、上等だ。やってもらおうじゃねぇか。来な、業鬼」
 業鬼を隣に呼び寄せると、鬼伏は身構えた。コートの男、桜井翔も気で作り上げた重力波を叩きつけるべく手をかざす。以前の依頼で現れた天使たちの言葉の中にあった「セラフ」という言葉。どうやらそのものが今回の事件の黒幕らしいのだが、それにについてもっと知る必要がある。そう考えた桜井は自分の思い人にバレないように変装までして、拷問をしてでも聞き出すつもりであった。わざわざそんなことまでして天使を掴まえたのに文句を言われて桜井も顔には出さないものの相当頭にきている。
「さぁ、潰れなさい!」
「てめぇが潰れろ!いけ、業鬼」
 まさにお互いが技を繰り出そうとしたその瞬間、
「人間同士で争っている場合じゃないでしょう!いい加減にしなさい!」
 と彼らの上空から箒に乗った少女が文句を言っているではないか。さしもの二人もそれには唖然として見とれてしまう。
「なんだ、ありゃ・・・?」
「さぁ・・・」
 確かに驚くというより呆れる光景である。童話の中にでも出てきそうな魔女のような登場の仕方だが、載っている人間が老婆ではなく高校生らしき少女なのだから変わっている。彼女が箒に乗って空中を旋回していると次々と甲冑を着た天使たちが光につつまれ降臨し始めた。どうやら暴徒が押さえ込まれたので数で押す作戦に切り替えたらしい。
「人間に同士討ちさせるのが失敗したからって今度は直接攻撃ってわけ?そのやり方が気にくわないわ。何が天使よ、ふざけんじゃないわよ!!」
 傷だらけになって地べたに座り込んでいる暴徒と警察官を見て、高校生魔女の氷無月亜衣は完全にキレていた。本来人前で魔法を使うことは師で祖母から堅く禁じられていたのだが、その戒めを破って箒に乗って空を飛んで降臨した天使に問いただす。
「神の意志なんて言ってるけど、本当はあんたたちの独断なんじゃないの!?」
「我らは意思は神の意思。魔道に堕ちし哀れなる娘よ。人類に救いはない」
「そう、分かったわ。あんたたちなんか容赦する必要も無いってことをね」
 彼女の口から呪が紡がれる。それは彼女が学んだ術の中でも最も強力なものであった。
「精霊よ。消えゆく魂の嘆きが聞こえるなら、我が声に応えよ。旧き血の盟約を今こそ果たせ。創世の炎よ、我が敵を断罪する紅蓮の炎となれ!!」
 天が赤く染まった。紅蓮の、いやあまりの高熱で白い炎となったそれは天を焦がし、全てを灰塵に帰する。雲は一瞬にして蒸発し、天使たちもその炎に塵一つ残さず燃え尽きた。
「・・・・・・」
 地上にいる二人は言葉を失ってただ呆然とその光景を見つめるのだった。

<守るべきもの>

 表参道から少し離れた場所にあるとある幼稚園。先の業火を免れた天使達はここを訪れていた。
「汚れ無き無垢なりし存在」
「神の御許に行くに相応しい者たち」
「罪を重ねる前に神に召されるが良い」
 相手が何者か分かっていない幼稚園児たちは光り輝く天使を見てきゃっきゃっと喜ぶ。天使達はそんな園児たちに向って剣を突きつけた。
「止めろ!この子達に罪はないだろう!」
 そう言って園児たちの前に立ちふさがったのはここの先生を務めている青年だった。眼鏡をかけたおっとりとした顔立ちをしている。だが、今はその顔に真剣な表情をして翡翠のような翠色の瞳で天使たちを睨みつけている。
「罪は無い。故に神の御許に送るのだ」
「罪を重ねる前に汚れなき無垢の状態で神の御許に送ることこそが救い」
「地上で汚れる必要は無い」
「お前達はいつでもそうだ。神の名の元に全ての存在を処断していく。だが、そんなことが許されると思っているのか!?人間には意思がある。この子たちだってまだ生きたいかもしれない。それを無視して勝手に殺すなんて誰にも許されはしないんだ!」
「・・・・・・」
 青年の必死の主張も虚しく、天使たちは剣を構え今にも眼下の園児たちに襲い掛からん勢いだ。このままでは園児たちが殺されてしまう。
「仕方ないのか・・・。あの姿に戻るしか・・・」
 できれば戻りたくない。園児の目の前で聖魔両方にとっての死神である自分の姿をさらけ出すことは二度とこの幼稚園にいられなくことを意味する。だが、このままではその園児たちが天使たちの身勝手な理由で殺されてしまう。それだけは防がなくてはいけない。
「お前達にはここで滅びてもらう」
 青年、七夜忍は冷厳に天使にそう告げると己が本性をさらけ出した。身体を漆黒の闇が包んだかと思うとその闇が形となし彼の身体を覆う。背中には二枚の黒き翼が生え、頭には一本の角が生じる。まさに絵画などで描かれる悪魔そのものの姿である。彼はその翼をはばたかせ、天使たちと対峙する。
「おお、悪魔・・・」
「神の教えに背きし者」
「闇の使徒、神の反逆者・・・」
 天使たちは彼の姿を見て慄き、そして彼に向って襲いかかった。
「滅びよ!邪悪なりし悪魔!」
 剣が煌き、七夜の身体を切り裂く。だが、彼はその攻撃を腕で防ぐ以外何も行動を起こさない。いや、正確には起こせないのだ。勝負は一瞬。それにかけるしかない。そう考えている間にも天使の剣によって次々とその黒衣が切り裂かれ、流れ出た血によってどす黒い赤に染め上げられていく。
「悔い改めよ!」
「己が罪を悔い!」
「果てるが良い!」
 三人の天使が一斉に剣を振りかぶった。密集している今こそ機会は無い。七夜は今まで貯めていた魔力を一気に開放した。次元が歪み天使たちがその狭間に飲み込まれていく。空間はそれ自体が生き物のようにうねり蠢き、天使たちの身体を分断する。やがて空間が閉じるとそこには天使は跡形も残していなかった。
「くっ・・・」
 七夜はがっくりと肩を落とすと、地上に舞い降りた。かなりの傷を負わされた上に限界近くまで魔力を使用したため、もはや立ち上がる気力も残されていない。漆黒の黒衣が元の闇となって消え、人間の姿に戻る。
 するとそれを狙いすましていたかのように、天使が一体再び降臨した。
「邪悪なる者に神の裁きを!」
 その剣をもって、天使は止めを刺しに一直線に彼の元に突進する。だが、七夜に避ける気力は残されていない。
(これまでか・・・)
 剣が彼の胸に届こうとした刹那、突如天使が黒い業火の包まれた。圧倒的な火力の前に悲鳴をあげることも許されずに塵と化す天使。呆然とそれを見つめる七夜の耳に拍手の音が聞こえてきた。
「いやぁ、中々面白い見世物だったよ。あんな魔法はあまりお目にかかれないからねぇ」
 クスクスと人を揶揄するような感じのこめられた笑い声。七夜がその声の主を探して辺りを見回してみると、何時の間にかジャングルジムの上に一人の女性がこしかけていた。黒いこざっぱりとしたシャツを着た妙齢の女性。ルビーのごとき真紅の瞳を持ち、七夜のことを興味深げに見つめている。
「君は・・・?」
「名前なんてどうだっていいじゃないのさ。それより力はあるくせに随分と体力が無いね。ひょっとしてガス欠とか?」
 悪魔や妖怪など、所謂闇の住人たちは人間と同じく生きる糧として魂や精気などを吸収しなくてはならない。彼女、秋津遼は不死者の王吸血鬼であるため人の血をすすることで己の生を繋ぎとめている。しかし先ほどの姿からも明らかなように闇の住人である七夜からは、そのポテンシャルに見合う精気がまるで感じられないのである。
「僕はもう誰の魂も啜りたくないんだ」
 かつて自分が心を開いた唯一の少女。今も眠りつづけている彼女と交わした最後の約束。もう誰も殺さない。この事を守りつづける彼は、彼女と別れて以来人を殺したことは無い。故に神との決戦兵器として開発された純正悪魔でありながら、その力の行使は己の生を縮めることとなる。
「そう。別に君がのられ死のうがかまいやしなけど腹は減らないのかい?よく我慢できるもんだね」
「僕は彼女との誓いを破るつもりはない」
「ふうん。でもこのままじゃ、あんた遠からず死ぬよ。それでもかまわないんだね?」
 永遠の生命を誇る闇の住人たちも、食料が無くては滅びる。このままでは七夜の体は遠からず崩壊するであろう。
「それでもかまわない。僕は彼女といられるならそれで・・・」
 そう言って七夜は首にかけている水晶のペンダントを取り出した。その中には自分が愛した一人の女性が今も永遠の眠りについたまま封じられている。
「ま、いいさ。あんたがどう生きるのも勝手だしね。さてと、噂の天使を見ることができたし今日はこの辺で帰るとしようか」
「あ、待ってくれ。せめてお礼だけでも・・・」
「お礼?悪魔のくせに面白いこと言うんだね。こんなことで恩義を感じてたんじゃ悪魔なんてやってらんないよ。私もいい暇潰しができたしこれでいいさ」
 秋津は髪をかきあげると、ジャングルジムから飛び降りた。永遠を生きるということは退屈との戦いである。七夜のように思うものがあるならばまだいいが、自由気ままに生きている彼女にとって常に何か愉しいものを見つけないとやっていられなくなる。
 彼女は立ち去り際、七夜に振り返り言った。
「あんたもこれで天使に正体がバレちゃったんだ。覚悟しておくんだね。それとここはさっさと立ち去ったほうがいいよ」
「ああ、そうするよ。もうここにはいられない」
 園児たちの怯えた視線が痛い。幾らこの子たちを守ろうとしたからと言って、いきなり異形の姿を見せてしまいそれを覚えられてしまった。もはや人間としてここに残ることはできないだろう。悲しげに園児を見つめる七夜を見て秋津はやれやれとため息をつく。
 なんで、こう私が出会う奴らってのはお人よしが多いんだろうかねぇ。

<疑問>

「そうですか。暴れていた時のことはまったく覚えていないんですね」
「ええ、自分が何をしていたんだがさっぱりで・・・」
 既に事件が解決した表参道で、各務は記事の取材のため暴徒と化していた人々にインタビューをしていた。だが、彼らは一様に暴れていた時の事は記憶にないという。朝方、夢の中で天使に「神の世が近づいている。使徒として立ち上がれ」といわれたということと、彼らが全てキリスト教徒であるということだけが一致していた。
 今彼らは警察に補導されているが、まったく記憶がないため事情聴取もはかばかしくないらしい。本来彼らにはこんな破壊活動を行う動機などないのだから当然であるが。こっそり後をつけてきた柚木は怪我人の治療に当たっている。あまりおおっぴらに能力を行使することはよくないが、重傷の人間がいることと、同行した宮小路の口利きで不問とされている。
 その宮小路といえば、自衛のために持ってきた白刃の太刀を使わずに済んだことにほっとしたものの、敵の手がかりがつかめず残念に思っていた。
(前に南青山で出現した天使たちと今回の天使たちはそっくりだ。ということは今回の事件もセラフの指示によるものなのか?)
 かつて南青山で対峙した天使たちが言っていた、自分たちを指導している存在セラフ。キリスト教では一般的に最高位の地位にある4人の天使、ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルを指す言葉である。彼らがこの事を指示したのであれば、事件はこれで収まらないだろう。今回依頼を受けていたものの中で天使の写真をとっているものの姿を見たが、剣に鎧を纏った武装した姿の天使は、キリスト教の天使の中では下級とされる大天使アークエンジェルと思われる。となればこれは始まりにすぎずこれから天使は本腰を入れて攻勢に出てくるかもしれない。
(しかしなぜこんな時期に天使たちが現れる?もしや「会社」が・・・?)
 東京の各地で破壊活動を行っている謎の組織「会社」。天使達の事件にはこの組織が関与しているのかもしれない。だが、どれも推測の域を出ず、どのような思惑があって敵が動いているのか分からない。果たして天使達、いやセラフと神という存在は何を企んでいるのであろうか。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0563/七夜・忍/男/650/悪魔より追われる罪人
    (ななや・しのぶ)
0461/宮小路・皇騎/男/20/大学生(財閥御曹司・陰陽師)
    (みやこうじ・こうき)
0016/ヴァラク・ファルカータ/男/25/神父
    (う゛ぁらく・ふぁるかーた)
0416/ 桜井・翔/男/19/医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。
    (さくらい・しょう)
0334/各務・高柄/男/20/大学生兼鷲見探偵事務所勤務
    (かがみ・たかえ)
0380/柚木・暁臣/男/19/専門学校生・鷲見探偵事務所バイト
    (ゆずき・おきおみ)
0363/ジョシュア・マクブライト/男/25/いちおう神父
    (じょしゅあ・まくぶらいと)
0423/ロゼ・クロイツ/女/2/元・悪魔払い師の助手
    (ろぜ・くろいつ) 
0569/鬼伏・凱刀/男/29/殺し屋
    (おにふせ・がいと)
0368/氷無月・亜衣/女/17/魔女(高校生)
    (ひなづき・あい)
0258/秋津・遼/女/567/何でも屋 

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 天使システム〜大天使降臨〜をお届けします。
 今回は街中でかなりの大胆な戦いをされている方がいらっしゃいました。その後表参道にはマスコミが押しかけて大変だったようです。
 今回は天使の排除とアトラスの記事のどちらも問題なく成功することができました。
 おめでとうございます。
 今回新しくお知り合いになった方はテラコンで連絡をとってみてはいかがでしょうか?共同プレイングをかけていただければより依頼の成功率も高まると思います。
 この作品に対するご意見、ご感想、ご要望、ご不満などございましたらお気軽に私信を頂戴できればと思います。お客様のお声はなるべく作品に反映させていただくつもりです。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。