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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


調査コードネーム:春が来た三下〜その裏側〜
------<オープニング>--------------------------------------
「ぼ、僕、結婚します!」
 いきなり三下が麗香の前に出て宣言し始めた。
「……誰と?」
 麗香が冷ややかな態度で三下に問うた。
「た、高峰さんとです!」
「はぁ?! あんた、それ本気で言ってんの? それとも嘘なの?」
「嘘じゃあ、ありません。これは本当のことです」
 麗香にしては、いつもながらのクールさがそこでプッツリと消えた。まさか、三下に先を越されるなどとは、思ってもみなかったからだ。
「あんた、高峰さんが理想高いの、知ってるでしょ? さっさと嘘だって言った方が身の為よ」
 麗香の言うことは当たっている。ブ男に類する三下を、高峰が相手にするワケがない。
 だがこれでも、三下は嘘だとは言わなかった。
 なにを企んでいるか知らないが、いずれにしても三下の話は今は信じるしか他はない。
「それで? 挙式とかの日付はもう決まったワケ?」
「いいえ。そのことでも話したんですが、衣装着て記念写真だけでいいそうです。僕もそれで了解しちゃいましたし」
「ふぅむ。なんだかますます怪しいわね。あんた達、本当に結婚するつもりなんでしょうねぇ?」
「だから何度も言ってるじゃないですかぁ」
 言い張って聞かない三下。どうやら、高峰と結婚するというのは本当らしい。
「あんた達が結婚したらスクープだわよ、スクープ! 単独取材させてもらうわよ」
「はい。それはもう」
 こうして、三下と高峰は本当に結婚することになるのだ……。

◎こりゃ大騒ぎ
 三下が高峰と結婚するという話は、一気にアトラス編集部に広がった。それだけでなく、白王社の全社員までもが、まさか三下という男が高峰という美人と結婚するなど、最初は疑ってかかっていたものだった。
「あ、あの、麗香さん。何やってるんですか?」
「何って決まってるじゃないの。私もあんたの婚礼姿を写真に納めて、大スクープにしようとしてるのが分からないの?!」
「あのぅ、そこまでしてもらわなくてもいいんですけどねぇ……。僕は僕で行きますから」
「いいのいいの。私もここのところスクープがなくてつまんなかったからね。さて、どこの写真屋さんなの? もう高峰さんとは連絡ついてるんでしょ?」
「ええ、午前10時には落ち合うという約束でして」
「丁度良いじゃない。今から行けば間に合うし。さ、行きましょ」
 行動の早い麗香。これでも同僚の目出度いことを素直に喜ぶところは、彼女らしい長所だ。
「あ、待って下さいよ、新郎の僕が遅れちゃどうにもならないじゃないですかぁ!」
 こうして三下と麗香は、三下と高峰の写真スクープを撮るために同行するのだった。

◎異変起こる
 車で着いた場所は、「記念撮影の店 湖影」。ここいら界隈の写真屋の中では、老舗に値する場所だ。
 三下が車から先に下り、継いで麗香も下りる。既に写真屋の前には黒のフェラーリ・テスタロッサが置いてある。高峰の車であった。ということは、もう高峰は写真屋に着いているという証だ。
「ごめんくださ〜い」
 三下はドアを開けて入ろうとすると、出てきたのはここの長男、湖影龍之介だ。
「はい。何の用?」
 相手が三下だったものだから、舐めてかかっているのか、その応対は非常に横柄。いや、そういう性格なのかも知れないが。
「あの、予約しておいた三下といいます。高峰さん、もうお着きになられてますよね?」
「ああ、あのお姉さんね。着いてるよ。入ってきな」
 突然現れて突然去っていく、やたらと行動の早いお兄さんだ。高校生だろうか、家の手伝いをしているようだ。
 入れ替わるように出てきたのは、ここの本当の写真技師である、湖影宗一郎。もうかなりの歳だが、いまだに現役を引退してはいない。しかも腕は確かだ。
「おお、待っておったぞい。娘さんは今、奥座敷でウェディングドレスに着替えておりますので、三下さんも着替えなさってくだせぇ」
「え? 僕も着替えるんですか?」
「結婚式の写真じゃきに、新郎も新調せんとなぁ。おい、龍之介。手伝ってやれ」
 すると先ほどの龍之介が現れて、こちらへ来いと指で合図する。三下は慌てず騒がずそれに従うことにした。
「あんた、あんな美人と結婚するってのかい?」
「ええ、そうですよ」
「信じられねぇな。何か裏があるんだろ? 俺だけにゲロしちまえよ。そうなんだろ?」
「う、裏? そ、そんなものはありませんよ? 何の話をしてるのか、わかりませんねぇ」
「へ、そのうち分かるこった……。よし、終わったぜ」
 用意の出来た三下は、撮影所でウェディングドレスに身を包んだ、高峰と出会う。
「高峰さん、お綺麗です!」
「フフ、ありがとう。三下さんも凛々しいですよ」
 その場には、麗香もゴツイ写真機を持っており、今か今かとスクープを狙っていた。龍之介は宗一郎の助手を務め、その真っ直ぐ前にいる三下と椅子に座っている高峰がいる。
 何の変哲もない写真撮影の風景だった。しかし……。
 ボフン。
 バキン。
 この場にあった写真機が、相次いで壊れたのだ。シャッターも押さないうちに、である。
「はあ。またこれだ。高峰さん、やはりお願いしますだ。これじゃあ、商売あがったりで」
「分かりました、お任せ下さい……」
 高峰は片手で何かを引っ張っていた。目に見えない何か、それは彼女独自の結界の紐だった。
「フフフ、上手い具合に引っかかってくれましたわ」
 ガシャンというやかんが落ちるような音と共に床に這い出したのは、低級妖怪の類だった。
「ああ! これスクープなのに! ガーン、写真機一台しかもってなかったわよ〜」
 麗香はうなだれてしまった。そうでなくても、この場にある写真機は、すべて壊れていただろう。
「結婚写真となるとこういうふうになるんですわ。とくにお目出度い写真には敏感でしてな。まさか妖怪の仕業とは思わなんだ」
「ちがうぜ。爺ちゃんが写真機に対して礼が足りないからこんなことになったのさ」
 龍之介が宗一郎に面と向かって言う。
「ワシが、かえ?」
「ああ。使ったら使いっぱなしでメンテナンスもしない。妖怪がついて当たり前さ」
「むう、そうかもしれんのぅ。三下さん、高峰さん、調査して下さってありがとうございました」
 物には使い込むほど命が宿る。しかし、宗一郎は、それを知らぬ間に道具は道具として扱うようになってしまったのだ。
 だからこそ、妖怪が宿る。この大都会東京では、このような事件はもう何も珍しくもなかった。
 麗香はなんのことやら分からない。因みに麗香も、道具を道具としてしか扱わない人間なので、一緒に写真機が妖怪によって壊れてしまったのだ。
「そうじゃな。龍之介が一番正しいのかもしれん」
「物を大切にする心が、今の世の中足りないのかもしれませんね」
 三下が一丁前の事を言って、麗香の軽蔑の視線を受けていた。
「でも、透明結界を張り巡らせておいてよかったです。この店には、以前から異様な空気が流れていましたもので」
 高峰も感じていたらしい。いずれにしても、事件解決、といったところか。
「ああ、龍之介、もう一台のカメラを持ってきてくれないか」
「何すんだよ、爺ちゃん」
「まだ結婚写真が撮り終えておらんのじゃ。さっさとせい」
 三下がそれを訊いて逃げ出した。
「す、すみません、麗香さん。そういうワケですので、僕お先に失礼します! まだ独身でいたいんだぁ!」
「フフ、三下くんたら、本当に真に受けるのが得意なのね」
「まあ、それがあいつのいいところですし。でも、根は良い奴なんで、嫌わないでやってくださいね、高峰さん」
「ええ。それはもちろん」
 二階から下りてきた龍之介は、三下がいないことに気づいた。
「あれ? あんちゃんは?」
「逃げて帰りました。どうやら私はあの人には不相応だったようですわね」
「だったらさ、俺と撮らない? 美人と撮るのは大歓迎さ」
 そこで宗一郎の喝が入る。
「これ! 龍之介! お客様に失礼じゃろうが」
 こうして、三下の結婚騒動はお開きとなった。

「はあ……」
 三下も麗香も、車中でため息ばかりついている。
 三下は嘘でもいいからあの綺麗だった高峰と写真を撮りたかったという後悔。
 麗香はお気に入りの一眼レフカメラを妖怪にこわされてしまったというショックからだった。
 それからというもの、三下の机の上には高峰の写真が乗り、麗香は道具の手入れに余念が無くなったのは言うまでもない。
                           FIN
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0218 湖影龍之介 男 17歳 高校生
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■         ライター通信          ■
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「え? 三下が結婚? まさかぁ」と思ったでしょう。
 そのとおり、三下くんはまだ結婚はしません(しないと
思う、しないかな、どうなんだろう……)。
 本人曰く「まだ独身でいたいんだぁ!」というところをみると、
まだまだ独身貴族でいたいみたいですね。
 でも高峰さんのウェディングドレス姿は見たいなぁ。
 イラストレーターの方、是非お願いします(無理かな?)

 とツラツラと書いてきましたが、これが夢羅武市の文体(文章)で
ございます。これからも頑張っていきますので、ご愛顧のほど
よろしくお願いします。
                夢 羅 武 市 より