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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


雫のティーパーティ☆
●オープニング【0】
『ティーパーティしよっ☆』
 ゴーストネットの掲示板に、そんなタイトルで始まる書き込みがあった。
 投稿者は瀬名雫。
『さっきGW中のお天気調べてきたら、悪くはなかったの。
 だからお外でティーパーティしない?
 お菓子とか持ち寄って、青空の下で不思議な話とかするのっ☆
 きっと楽しいと思うな〜♪』
 青空の下で怪談が合っているかどうかはさておき、ティーパーティ自体は悪くはない。
 たまにはこんなのんびりした時間もいいかもしれない。
 書き込みには集合日時と場所も書かれている。別に掲示板で参加の名乗りを上げる必要はないようだ。
『参加する人は、お菓子なりお話なり用意してきてくれると嬉しいな』
 なるほど、これが実質的な参加費ということか。
 さーて、どんな話をしてみようかな……。

●日本全国五月晴れっ☆【1】
「わぁー、ほんっといいお天気だよねーっ☆」
 昼下がり。雲一つない五月晴れの下、雫が大きく伸びをした。ゴールデンウィーク後半戦に入ったこの日、夏日を記録するという天気予報が朝の情報番組で出ていた。
 今日のティーパーティーの会場は、都内のとある公園。普段なら人も多いのかもしれないが、ゴールデンウィーク中のためそう人も居ない。穴場であった。
「雫ちゃん、手伝ってよ〜」
 雫の後ろでは、榊杜夏生と志神みかねがレジャーシートを敷いている所だった。半分は青空の下、もう半分は木陰にかかるよう考えて敷いていた。
 木陰の下、別に敷かれたレジャーシートでは、秋津玲と望月彩也がいそいそと飲み物の用意をしていた。アウトドア用のコンロで、牛乳を温める玲。玲は自らが営む喫茶店の珈琲を、彩也はアフタヌーンブレンドの紅茶を各々持参していた。
「たくさんお菓子がありますね〜」
 カップを並べつつ彩也が言った。レジャーシートの上には所狭しとお菓子等が並べられている。そのラインナップを挙げてみると――。
 まずは彩也が持参したいずれも手作りである苺のショートケーキとフルーツサンドイッチ、フルーツのクレープ。次に松浦絵里佳が持ってきた手作りクッキー。それから、バイト先の某駅前コーヒースタンドで売れ筋の、夏生お手製ジャーマンドッグにミラノサンド。そして七森拓己持参の妹が焼いてくれたクッキー。これらに加えて玲が店から持ってきたケーキやみかねの持ってきたお菓子等もあり、この場にある分だけで店が開けるくらいであった。恐らく、少食揃いならば残ることもありえるだろう。
「そういえば、何を持ってきたの?」
 レジャーシートを敷き終え、お菓子を見ていたみかねが雫に尋ねた。
「え? なーんにも持ってきてないよ」
 雫があっけらかんと言った。『何ですと?』と言いたげな幾人かの視線が雫に集まった。
「きっと誰か持ってきてくれるって信じてたし。作戦成功☆」
 Vサインする雫。ちゃっかりしてると言うか何と言うか……。
「わぁ……どっちも可愛いっ☆」
 準備している者たちの傍らで、くるくると身体を回転させている絵里佳。別に踊っている訳ではない、目移りしているのだ。
 絵里佳のそばでは渋い色の着物を着た少年、卯月智哉が白猫の佐藤シロを抱えていた。そして絵里佳を挟んだ向かいには、ハムスター10匹の入った籠を抱えた拓己の姿がある。開いている籠からは、ハムスターが代わる代わる顔を出していた。これでは絵里佳が目移りするのも当然のことだった。
 目の前に見えるハムスターにちょっかいを出そうとして、懸命に何度も前脚を出すシロ。
「駄目だよ」
 シロが前脚を出す度に、智哉はそれを捕まえ元の場所へ前脚を戻す。それを何度か繰り返す。
「よい気候ね……」
 不意に女性の声がした。その声に振り返ったみかねが短い悲鳴を上げた。
「きゃっ!」
 驚くみかね。そこには肩から首の方にかけてニシキヘビを巻き付けた、巳主神冴那の姿があった。手には何やら籠を持っている。
「この子たちにとっては今が一番だから……」
 冴那はそう言うと、籠を開けて蛇を取り出した。慌てて夏生の背後に隠れるみかね。そんなみかねを見てくすりと笑うと、その蛇を茂みに放した。
「あたしも混ぜてもらって構わないかしら?」
 その冴那の言葉に、雫は蛇をきちんと管理してくれるなら構わないと答えた。
「気を付けないとなぁ……」
 拓己は絶対にハムスターたちを蛇に近付けないよう、心に誓った。
「あ、居た〜っ!」
 そこへ巨大な紙袋を抱えた寒河江深雪が駆け込んできた。朝の天気予報で『今日は夏日になります』と言っていた張本人である。
「よかったです、見つかって〜」
 安堵の表情を浮かべる深雪。少し疲れたような感じがするのは、朝の番組終わりだからだろうか?

●いつかどこかで聞いた話【2】
「どうしたの、その紙袋?」
 深雪の抱える紙袋を指差す夏生。すると、よくぞ聞いてくれたとばかりに深雪が喋り出した。
「ここに来るまで色々とあったんです〜。お茶菓子買ってこようと思ったらお財布忘れて、家に電話しても誰も出ないし、あったのは商店街の抽選券だけで〜」
「抽選券? もしかして、抽選で当たった物なんですかぁ?」
 彩也のその指摘に、深雪はふるふると首を横に振った。どうやら違うらしい。
「4等のお菓子の詰め合わせを狙って、ガラガラっと回したら残念賞の玩具入りチョコだったんです〜。で、それを開けた後で。どうしようか途方にくれていたら、変な男の人が『これと交換してくれ!』って、何かカードを押し付けてそのチョコの玩具持っていっちゃって……」
 言いながら不思議そうな表情の深雪。
「レア物?」
 ぽつりと夏生が言った。そういえば、そういう玩具にはレア物があるとかないとか……。
「それで、何が何だか分からなかったんで、カードを手にその人追いかけたんです。すると運良くパチンコ屋さんの前で知り合いの渡橋さんを見つけたんですね。これ幸いと思ってお金を借りようとしたら……」
 一旦言葉を止め、皆の顔を見回す深雪。皆が続きの言葉に注目した。
「……逆にお金貸せって言われちゃったんです〜」
「よくあるよね」
「ナー」
 情けない声を上げた深雪に対し、智哉が冷静に言った。そして両前脚を上げて同意するシロ。他の面々も苦笑いを浮かべている。
「と・こ・ろ・が!」
 一転して、笑みを浮かべる深雪。
「実はその前に渡されたカードが、パチンコ屋さんで使えるカードで……」
 つまり変な男が深雪に押し付けたカードは、パチンコの玉を購入するためのカードだったのだ。
「それを渡橋さんが目ざとく見つけて持っていって……」
「なるほど。で、それなんですね」
 ぽんと手を叩き、拓己が言った。雫が少し背伸びして紙袋の中を覗き込んだ。
「わぁっ! 駄菓子がいっぱいあるっ☆」
 そう、深雪の抱えていた紙袋の中は、のしイカやらラムネやらの駄菓子でいっぱいだったのだ。きっと大当たりを出したのだろう。
「私、そういう話聞いたことありますよ〜」
 にこにこと彩也が言った。
「確か、わらしべ……」
「駄目っ! それだけは、絶対に言わないでくださいっ!!」
 彩也の言葉を遮るがごとく、深雪がぶんぶんと首を横に振った。どうやら自分でも自覚はあったらしい。
「うん、丁度いいですね。こちらは準備できましたよ」
 1人黙々と準備を続けていた玲が雫に声をかけた。
「あ、ご苦労様〜! それじゃ、ティーパーティ始めましょっ☆」
 雫が元気よく拳を突き上げた。

●猫とハムスターと蛇たちと【3】
 各人好きな飲み物をカップに注いでもらい、レジャーシートの上に座っていた。そして取りやすい位置にお菓子を並べてゆく。
「はい、どうぞ」
 絵里佳がシロの前に、温めた牛乳の入った皿を置いた。玲が用意していたのを分けてもらったのである。
「ナーオ♪」
 ペロペロと牛乳を舐め、シロが嬉しそうに鳴いた。
「シロちゃん、美味しいって」
 通訳するかのように智哉が絵里佳に言った。
「ええ、言ってますね。後でのしイカあげますからね」
 絵里佳がシロの頭を優しく撫でた。両前脚を左右に振り、身体全体で喜びを表すシロ。そんなほのぼのとした光景を、雫が写真に撮る。
 ほのぼのした光景ならば、こちらも負けてはいない。夏生と彩也、そして深雪が拓己が持ってきたハムスターたちと触れ合っていた。
「動物と触れ合う機会もなかなかないと思うから」
 笑ってそういう拓己。
「ふにふにしてます〜」
 彩也がハムスターを両手で抱えながら言った。
「ハムスターって何食べるんだろ?」
 そんな疑問を口にした夏生に拓己が優しく教えてあげる。このほのぼのとした光景もまた、雫によって写真に撮られる。
 一方、緊張した空気の漂う場所もあった。みかねはフルーツのクレープを食べながら、ちらちらと茂みに視線を向けていた。
「気になるかしら?」
 冴那が問いかけるように言った。その傍らにはとぐろを巻いたニシキヘビを侍らせている。
「えっ? あ、えっと……あははははー」
 笑ってごまかすみかね。もっとも顔は引きつっていたが。
「蛇は恐怖の象徴……なんて言うわね。物言わず、人にある外見は何も持たず……人は我々の生の行方すら知らぬ……未知は時として、恐怖」
 冴那はそこまで語ると、カップに注がれていた紅茶を口にした。
「音も立てず、どこで見ているか解らず。物陰で赤い舌を出しながら、まるで目の先にある物を嘲笑するかの様……。ほら、そこにも知らぬ間に」
 冴那が茂みを指差して涼やかに言った。そこにはいつの間にか、冴那の放した蛇が戻ってきていた。
「ひぃっ!!」
 驚いたみかねが思わず夏生にしがみついた。その衝撃で飲みかけていた珈琲が気管に入り、思い切りむせる夏生。その瞬間を、雫が写真に撮っていた。
 冴那は蛇を優しくつかむと、持ってきた籠の中に戻した。先程のみかねの声で、皆の視線が集まっている。
「執念は……凄いわよ。蛇を見たら気を付けて」
 視線に気付き、くすっと冴那が微笑んだ。何やらメモを取り始める夏生。
「その身に迂闊に触れれば家まで追って来る。『蝮』は『魔の虫』、その牙の毒は巡れば恋焦がれる乙女の様に体が火照って……うなされて……体が朽ち……永遠の夢の世界へ誘われ……」
 冴那が皆の顔を見回し、そっと籠に手を置いた。
「体験してみる……?」
 籠に視線を向け、再度くすりと微笑む冴那。ほぼ皆一斉に頭を振った。
(あの籠に何が……?)
(まさか居るの……?)
(いや、いくら何でも……?)
 言葉には出さないが、幾人かの表情にはそんな疑問が出ていた。その真偽については――冴那は黙して語らず。
「そんな話があるんだ。面白いよね」
 智哉がくすくすと笑っていた。

●不思議な光景、不思議な物語【4】
「そ、それじゃ次の人、いってみよ〜!」
 話題を変えるべく、雫が元気よく言った。そして拓己を指差す。
「特に話はないんだけど……水芸でもいいかな?」
 皆に断わりを入れる拓己。文句は全く出なかった。それどころか、興味津々といった様子の者が多い。
「使いますか?」
 玲が持参していたミネラルウォーターのボトルを拓己に差し出した。礼を言って受け取ると、拓己はミネラルウォーターを手のひらに注ぎ、それを撒くように手を動かした。
 水がかかると思い、反射的に身を縮める深雪。だがミネラルウォーターはしぶきにならず、ふわふわと空中に浮いていた。まるでシャボン玉のように。
「凄い、すごーい!!」
 激しく感嘆するみかね。拓己は次々と水のシャボン玉を作り出していった。水のシャボン玉は緩やかな風に乗って、ふわふわと流れてゆく。太陽の光に反射して、きらきらと虹色に輝いていた。
「ナーオ!」
 シロは智哉の身体を巧みに駆け上がると、肩の上から水のシャボン玉目掛けてダイブした。すかさず雫がカメラのシャッターを押した。
 水のシャボン玉の上に見事着地し、そのまま一緒に落下するシロ。地面に落下したと同時に、水のシャボン玉が破裂してシロにそのしぶきがかかった。
「ナーゴ! ナゴナゴ……」
 嫌々をするがごとく、頭を振るシロ。沸き起こる笑い声。
「シロちゃん、お風呂嫌いなんだよね」
 智哉が皆に解説をした。
「不思議……」
 水のシャボン玉に見とれていた彩也だったが、ふと思い出したように鞄から何かを取り出した。それは何の変哲もない木の実であった。
「あ、それ……」
「あの時の?」
 夏生とみかねにはその木の実に見覚えがあった。こくんと頷く彩也。
「少し前、不思議なことがあったんです〜。そこは柱時計のある白いお部屋がいっぱいあって、黒いうさ耳を生やしたターニャさんって方が居られたんです……」
 彩也は『時の迷宮』と呼ばれた場所へ迷い込んだ時の話を始めた。それは夢かうつつか分からない、不思議な世界での物語。だがこの場にはそれを体験した者が3人も居る。ただの夢として片付けることもできはしない。
「それで元の世界へ戻る前に、ターニャさんが皆さんに渡してくれたのがこの木の実なんです」
 彩也は皆に一通り木の実を見せると、愛おしそうに木の実をそっと握り締めた。
「……もし皆さんがターニャさんを見かけたら、教えていただけると私は嬉しいです」
 そう言い、彩也は静かに微笑んだ。

●それは秘密です【5】
「そっちは何かお話ないの?」
 玲から新たに珈琲を注いでもらっていた雫が智哉に話を振った。
「僕? 内海監督のドラマにちょい役でもいいから出演したい、なんて話でもいいの?」
 と、少しとぼけた答えを返す智哉。
「あ、『あぶれる刑事』の新シリーズ、ようやく企画が動き出したみたいですよ〜」
 深雪が口を挟んだ。ちなみに『あぶれる刑事』は『魔法少女バニライム』と同じ内海監督が撮った、深雪の勤める局で放送されていた刑事ドラマである。
「出たいよね」
 智哉がシロに語りかけると、シロはぷいとそっぽを向いた。別にどうだっていいらしい。そしてとんとんっと絵里佳の膝の上へ向かった。
「シロちゃん、そういえば1人で来たんだよね。ご主人様はどうしたの?」
 シロを抱き上げ尋ねる絵里佳。前脚を動かし、ナゴナゴ鳴きながら何事か説明するシロ。
「茉莉菜ちゃん、パーティー行かないって言ったから、隙見て家出してきたって……」
 苦笑しながら絵里佳が言った。『茉莉菜ちゃん』というのが飼い主の名前なのだろう。ただ家出といっても本気の家出ではなく、猫だからプチ家出なのだろうけれど。
「猫と喋れるの?」
 冴那が不意に尋ねた。
「ええ。猫ちゃんとか、動物は私のお友だちですから。そうだ、この間こんな話を聞いたんですよ。雫さんが本屋さんで熱心に本を……」
 絵里佳が話を始めた時、雫がぽんっと絵里佳の肩に手を置いた。
「絵里佳ちゃん。そういうのは言っちゃいけないと思う……」
 顔はにこやかだが、目は笑っていなかった。
「何読んでたんだろう……」
 ぼそっとつぶやく拓己。それは謎である。
「じゃあ別の話に。先月、夏生さんがケーキ屋さんで……」
「絵里佳ちゃん! あたしもそれは言っちゃいけないと思うな……」
 絵里佳の言葉を遮る夏生。こちらも顔はにこやかだが、やはり目は笑っていなかった。

●あんまり怖くない話?【6】
「怖い話ばかりになるかなと思ったけど、案外そうでもないね」
 ケーキを食べながら、雫が言った。場所が場所だけに、自然と話もそうなってしまったのかもしれない。
「それはそれでいいんじゃないでしょうか。怖い話をしていると、色々とありますからね」
 にこにこ笑顔の玲が言った。玲はここまでほぼ1人で黙々と飲み物の管理を行っていた。もちろん他の者の話に耳を傾けつつ、皆が持参したお菓子を摘みつつ。
「……何がですか?」
 怯えた視線を向けるみかね。
「いえ、僕が知っている話はあんまり怖くないんです。今日は違いますが、百話みたいな会の後で誰か1人だけが呪われてしまって、もう来なくなってしまうとか……」
 静かに語る玲。みかねがぎゅっと夏生の服をつかんだ。夏生は聞き漏らすまいと、懸命にメモを取っていた。
「霊にも力の限界とか好き嫌いとかあるみたいで、大概1人だけ狙われちゃったり呪われたりするのですよね」
 そう言って玲がうんうんと頷いた。
「えっと、冗談……ですよね?」
 恐る恐る深雪が尋ねる。答えの代わりに玲は、ただにっこりと微笑むだけだった。
 場がしんとした。その雰囲気に対し、不思議そうに玲が言った。
「あれ? どうかしましたか。さぁ、カフェバレンシアやココナッツコーヒーもどうですか? 絵里佳さん、カップが空のようですが……」

●十分過ぎますって、それ【7】
「いいなあ、いいなあ、今の話。さっきの蛇の話もいいけど、こっちもいいな♪」
 メモを読み返し、夏生がにんまりと微笑んだ。
「あなた、先程から何をしているの?」
 冴那が夏生に尋ねた。そういえば自分が話をしている時からメモを取っていた。
「ん? あははー、今度うちのミステリ研で『恐怖新聞/現代版(仮)』なんてのを発行するんで、目玉特集として載せさせてもらおうかなーって」
 夏生が照れ笑いを浮かべた。しっかりしてると言うか何と言うか……。
「はい、のしイカですよー」
 絵里佳がのしイカを小さくちぎって、シロの口元へ持っていった。はむはむとのしイカを食べるシロ。終いには絵里佳の指までペロペロと舐める。
「あはっ、くすぐったいっ!」
 黄色い声を上げる絵里佳。智哉がその様子をぼうっと見つめていた。
「あなたは何もないんですか?」
 玲が夏生に尋ねた。
「あたし? むー、霊の話は全然ないや。その代わり、小学校の修学旅行でバスが崖から落ちたけど全員無傷だったとか、中学で3階の窓から落ちたけど、その真下をマットを運んでた体操部員が通ってて、その上に運良く落ちて助かったとか、そんなのしかないけどそれでもいい?」
「十分過ぎると思うな、それ……」
 驚きと呆れの入り混じった表情で、拓己がつぶやいた。
「あの、今度うちの局でその手の特番があるんですけど……」
 深雪がすかさず誘いをかけた。アナウンサーの鏡と言うべきか、何と言うべきか。
「みんな、こっち向いて〜!」
 いつの間にか、雫が皆から少し離れた場所に居た。手には先程から使っているカメラを持っている。
「記念写真、記念写真☆ 笑って〜、はいチーズ!!」
 雫は皆が画面に入るようにしてから、シャッターを押した。

●最後に待っていた物【8】
 ティーパーティはその後も続き、様々な話が出たり、雫のカメラを回して写真を撮り合ったりした。撮り終えたフィルムは、じゃんけんで負けた深雪が現像に出しに行った。この近くに、1時間で仕上げてくれる写真屋があるのだ。
 出しに行くのをじゃんけんで決めたのだから、もちろん取りに行くのもじゃんけんで決める。10数回のあいこの末、負けたのはみかねであった。
 やがて現像に出してから1時間が過ぎ、みかねが写真を取りに向かった。もう時間も夕方近く、残った者たちは手分けして片付けに入った。
「兄さんたちや沙耶も連れてくれば良かったなぁ」
 大きく伸びをして拓己が言った。その顔には楽し気な表情を浮かべていた。
「残った分は、分けてお持ち帰りですね〜」
 残ったお菓子を見て彩也が言った。痛みやすい物から食べていたし、皆それなりに食べていたので予想よりは残らなかった。それでも駄菓子等は後回しになったためにごっそり残っていた。
「分けましょう、分けましょう」
 深雪が率先して駄菓子を分け始めた。夏生と雫もそれを手伝う。冴那と智哉は食器等の片付けをしている玲の手伝いをしていた。
 絵里佳は深雪たちから駄菓子を分けてもらってくると、ハンカチを出してそこに包んだ。そしてシロの首にそれを巻き付けた。
「お土産ですね」
「ナー☆」
 シロは笑みを浮かべると、『ありがとう』とでも言うようにぺこんと頭を下げた。
「ただいま〜」
 そこへ写真屋の袋を手にしたみかねが戻ってきた。駆け寄る雫。
「お疲れ様〜! どんな写真になってるかな?」
 雫はみかねから袋を受け取ると、さっそく写真を確かめ始めた。皆、作業を中断して雫のそばへ集まってくる。
 談笑する拓己と深雪。カフェバレンシアを作っている最中の玲。夏生にしがみつく、怯えた表情のみかね。互いに同じケーキに手を出して、お見合い状態の冴那と智哉。絵里佳の膝の上で丸くなっているシロ。雫の口の回りについていたクリームを拭き取っている彩也……多種多様な写真がそこにはあった。
「焼き増ししてほしい写真には、後で裏に名前書いておいてねっ☆」
 次々に写真を捲りながら、雫が皆に言った。そしてふと、1枚の写真でその手が止まった。
「あれ?」
 首を傾げる雫。それは雫が撮った、他の皆が全員入っている写真だった。普通の写真のはずだが、何か違和感がある。
「きゃあーっ!!」
 その違和感に最初に気付いたみかねが悲鳴を上げた。
「ど、どうしたの、みかねちゃんっ?」
 夏生が驚いて尋ねた。
「く、首がぁ……」
 恐る恐る写真のその箇所を指差すみかね。そこは着物姿の智哉が居る場所だった。だがその写真の中の智哉には、何故か頭がなかった。そう、頭が消えてしまっているのである。
「わー……」
 言葉に困る雫。何と言っていいか分からない。
 視線が自然と智哉に集まった。智哉はただ頭を掻き、困ったような笑顔を皆に見せるだけだった。

【雫のティーパーティ☆ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0017 / 榊杜・夏生(さかきもり・なつき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0540 / 秋津・玲(あきつ・れい)
                 / 男 / 27 / 喫茶店店主 】
【 0101 / 望月・彩也(もちづき・さいや)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0046 / 松浦・絵里佳(まつうら・えりか)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 16? / 古木の精 】
【 0404 / 佐藤・シロ(さとう・しろ)
               / 女 / 3 / 飼い猫(ペット) 】
【 0464 / 七森・拓己(ななもり・たくみ)
                   / 男 / 20 / 大学生 】
【 0174 / 寒河江・深雪(さがえ・みゆき)
     / 女 / 22 / アナウンサー(お天気レポート担当) 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全8場面で構成されています。今回は展開上皆さん同一の文章になっています。
・お待たせしました、お菓子だらけのお茶会の様子をお届けします。これは高原個人的に『GW特別企画』と考えた依頼のその1でした。ちなみにその2は『鍋をしようリターンズ』です。こういうほのぼのとした依頼は、書いていて和みますね……。
・高原にしては珍しく全員同一の文章になっているんですが、展開上の理由もありますし、皆さんのお話を分けてしまうのが勿体無かったという理由もあります。さて、全員同一の文章はいかがだったでしょうか?
・途中でいくつか分からない話もあったかと思うので、詳しく知りたいという方のために補足説明を。『時の迷宮』については過去の依頼『迷宮への誘い』を、『魔法少女バニライム』については過去の依頼『小さな女優』『エキストラ、求む』『狙われたロケ』『さよなら、バニライム』を、『あぶれる刑事』については過去の依頼『鏡の中のアクトレス【調査編】』『鏡の中のアクトレス【完結編】』を各々参照していただければと思います。『クリエーター別で見る』から『高原恵』を選んでいただけると、過去の作品は全て読めますので。ただ、目的の文章を探し当てるのは困難かもしれませんが……。
・写真はほんと色々とありますから『こんな写真もあったよ〜』等と言い合って、ピンナップを発注してみるのも楽しいかもしれませんね。もし今回の依頼がそのきっかけになれば幸いです。
・巳主神冴那さん、2度目のご参加ありがとうございます。これはこれで楽しいプレイングだなと思いました。しっかり使わせていただいてます。蛇たちには十分いい日向ぼっこになったのではと思います。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。