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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:雄大なる北海道〜起こりうる悲劇〜
------<オープニング>--------------------------------------
「草間さん。何も言わず、北海道へ行って下さい」
 いきなり望月権蔵(もちづき・ごんぞう)に言われ、武彦は驚いた。
「ほ、北海道だって?」
「そうです。東京から霊を引き連れていってしまった人物がいるんですよ。その人物から東京に住まう強い霊を取り除かないと、取り返しのつかないことになってしまいます」
 どうやらその人物とやらは、見物にこの東京へとやってきていたらしい。
 その時に霊障の強い霊に、取り憑かれてしまったようなのだ。
「そんなの、他の霊媒師だっているだろうに。却下だ、却下」
 テーブルに現金が置かれた。まずは200万円。
「これは前賃です。そして……」
 またもテーブルに現金が置かれる。今度は100万円。
「北海道への渡航費ですよ。必要経費と後賃は、事が解決してから出ることになっています」
「おいおい、こんな金額出すの、一体どんな仕事してる奴からなんだ? 望月、いっつも言わないけど」
「もちろんそれは当人様に会うまでの極秘になっていますから。ああ、忘れてました。これは雑費です」
と言って、50万円をポンと現金が積まれた上に載せる。
「やってくれますね? 草間さん」
「仕方ねぇなぁ。分かったよ。でも失敗しても保障は出来ないぜ」
 総額350万円を手にして武彦は、ちょっとした長旅の用意をするのだった。

◎強い味方
「さてっと。今回は北海道か……。権蔵の様子からすれば、依頼人も焦ってるだろうし、飛行機で高飛びかなぁ」
 武彦は明日出かける北海道への旅程を組んでいた。明日は天気も良さそうだし、350万円という高額の報酬も前賃としてもらっているので、金には不自由しない。
 しかしながら、一人で行って本当に解決出来るかどうかは保証できない。はっきり言って不安という文字が頭で渦を巻いた。
 武彦の霊に対する武器は、結界策と札、そして今回新たに導入した、『改・結界策』だ。
 それでも不安はある。この改・結界策でもダメだとなれば、依頼は完全に失敗に終わる。それだけは避けなければならない。
 と、興信所のベルが鳴った。どうやら客らしい。
「あの、草間興信所の草間武彦さん、ですよね?」
 そこに立っているのは、清純そうな美少女と、凛々しい美青年がいた。
「ああ、そうだけど。君たちは?」
「私は神崎・美桜(かんざき・みお)、そしてこちらは高野山から来た私の兄分である、都築・亮一(つづき・りょういち)です」
「よろしくどうぞ」
 美桜も亮一も、武彦に対して丁寧に挨拶をする。
「ああ、こ、こちらこそ。それより、高野山と行ったが、君たちは?」
 美桜はどう見ても普通の高校生、だが亮一は雰囲気が違って見えた。なんというか、纏うオーラが違うのだ。
「ええ、わたしには力がありませんが、亮兄さんは退魔師なんです」
「何か出来ることはありませんか? 誠意をもってお手伝いさせて頂きます」
 青年の方は高野山から来たと言った。であれば、今回の面倒な依頼も何とかなるのではないだろうか。
 武彦は、改めて二人に問うた。
「本当に手伝ってくれるのか?」
「はい、もちろんです、武彦さん」
「俺もです。霊が相手とあれば、任せて下さい」
 これで決まりだ。北海道行きの助手が決まった。
「じゃあ、入ってくれ。依頼は明日からなんだ。そして、少しばかり遠出する」
 美桜は目をまるくして、
「それってどこなんですか?!」
と驚いた表情。
「北海道だ。今、旅程の計画を練っていたところだ」
「わあ、北海道ですかぁ。今は良い季節ですよね!」
「北海道ですか。俺、行ったことあります。で、都市は?」
「旭川市」
「そこなら、俺の生まれ故郷ですよ、土地勘はあります。まあ、今はどうなっているか分かりませんけど、力にはなれると思います」
 土地勘があるほど、地の利を活かしやすい。これは滅多にない人物が現れたものだ。
 武彦は先とは打って変わって、不安を解消することが出来た。これはもしかすると、平穏に済ますことが出来るかも知れない。
「すまないが、二人には明日の午前7時半までに、空港に集合してくれ。チケットは買っておく。午前8時の旭川行きの飛行機で出発するからな。都合があるなら、今日中に済ませておいてくれ」
 美桜は元気に返事をした。
「はい! わかりました。明日の午前7時半ですね。亮兄さんもいい?」
「わかりました、武彦さん。それでは、また明日出直しますので、よろしくどうぞ」
「ああ。頼りにしているぜ」
 こうして二人は、ほどよい打ち合わせのうちに、興信所を離れたのだった。

「美桜、お前も行ってだいじょうぶなのか?」
 心配そうに亮一が言う。
「大丈夫よ。そりゃあ、私は亮兄さんのようには力はないけど、精一杯頑張るわ」
「はあ、仕方のない奴だな。じゃあ、せめてこれを持っておけ」
 亮一が取り出したのは、鳥の形をした式神だった。これを肌身離さずということなのだろう。
「万が一、お前に何かあったときは、その式神が助けてくれるはずだ。いいか、決して無理するな。それと俺と草間さんの言うことは決して守ること。いいな?」
 こうして準備は万端整ったのだった。

 朝7時半、武彦が待っている中で、約束の時間に来たのは美桜ただ一人だった。
「ん? 亮一くんはどうした?」
「あの、高野山に呼び出されて、突然行けなくなってしまいました。私一人では足手まといでしょうか……」
「いやぁ、そんなことないさ。一人よりは心強い。さあ、搭乗しよう、チケットは買ってある」
 武彦と美桜は、飛行機の隣同士の席に搭乗した。そして二人は、一路北海道は旭川へと旅だったのである。

◎全貌〜悪霊〜
 飛行機は約一時間半ほどでフライトを終えた。その後武彦達は、市内循環バスを乗り次ぎ、目的の家へと向かっていた。
「場所は旭川市神楽(かぐら)。ここに住む長男に、異変があるということなんだが……」
「東京見物に行った際に、取り憑かれたと言っていましたね。話し合いでなんとか解決できないものでしょうか……」
 武彦は、美桜の真剣な意見に、少しだけ吹き出してしまった。
「その気持ちも分かるけどな。でも相手は霊障の強い霊だ。迷わず成仏してもらうしかないな」
「でも、それってあまりにも霊の方が可哀相です!」
「優しいな、美桜さんは。しかしながら、今度の依頼、俺は普通では済まないと思っている。覚悟しておくことだ」
 バス停におりて、徒歩五分、依頼主の家が見えた。
 だが、家の様子がおかしい。窓ガラスが何枚も割られていたり、玄関は開けっ放し。それさえなければ豪邸しかりなのだが、その様子は尋常ではなかった。
「こんにちはー。草間興信所の者ですが……」
 語尾を言い終わらないうちに家から出てきたのは、ここの主人であろう人物。心労にやられているのが、手に取るように分かる。
「た、助けて下さい……。息子が、東京から帰ってきてから異常なんです。どうか、原因を……」
「お任せ下さい。私たちが解決してみせますから。それで、息子さんはどこに?」
 率先して美桜がしゃしゃり出て、その依頼を受けてしまう。
 武彦といえば、美桜が応対するものだから、モノも言えなくなってしまった。
「はい、奥の自室で引きこもっています。このガラスを割ったのも、息子でして……」
 武彦は改めて美桜を促す。
「美桜さん。ここは下がっていた方が良い。ここからは、俺が出番だ」
「そんな! わたしにもお手伝いさせて下さい! お願いします!」
「……何があっても保証はできないぜ。それでもいいなら着いてこい」
「はい!」
 勇気があるのはいいが、これでは無謀だ。危険が美桜に降りかかるとも限らない。悪霊を相手にしながら、美桜を守れるのか、武彦には自信がなかった。
 だが、やらなければならない。依頼宅は息子の大暴れのせいで、金属バットで家中のガラスを割り尽くすほど凶暴だ。油断は禁物。
 依頼宅の息子の名前は、石島洋一。中学生で本来は大人しい性格だという。それが一変して凶暴になるなど、普通に考えてもおかしい話。やはり東京で取り憑いた霊が悪さをしているのは、確実だ。
 武彦達が洋一の部屋に入ると、禍々しいまでの障気を感じる。ベッドに俯せになって片手に金属バットを持った彼は、また今にも暴れ出しそうだ。
「洋一くんだね。俺は草間興信所の草間武彦。君に取り憑いた悪い霊を取り除きにきた。よろしく」
『なんだと! 貴様、東京の者か!』
 洋一の声は、もう完全に霊に取り憑かれたモノになっている。魂までが乗っ取られているかのようだ。
『東京に帰りたい! だが、ここはなんだ! 居心地が悪すぎる! イライラするのだ!』
 ブンっと金属バットを振り、武彦達を威嚇する。だがそんなもので怯む武彦と美桜ではない。
「東京に帰りたいんですか? じゃあ、帰りましょう。飛行機で一時間半ほど我慢すれば、東京ですから」
『だめだ! 俺はこの人間と心を同期させてしまった。妬み、嫉み、恨み、それが俺と同じなのだ。抜け出すことは、もう出来ぬのだ!』
「そんな! どうしてですか? そんな悲しいこと言わないで下さい!」
『ええい、煩い、女! どけ、お前達は邪魔だ!』
 もの凄い勢いで、洋一は玄関に飛び出ると、持ち前のバイクに乗り付け、いずこかへと走り去った。
「くそ、どうにもならないのか! そうだ、親父さん、この車、貸して下さい。緊急です!」
 すると依頼主も了承して、車を貸してくれた。武彦と美桜が乗り込む。
 洋一が目指すは、神社のあるところらしい。旭川には神社が何カ所かある。ここから近い場所といえば、上川(かみかわ)神社だ。
「よし、神社だな。そうすれば、事は簡単だ」
「……どうしても、成仏させてしまうんですか?」
「そういうことになる。仕方ないだろう、あの霊はやはり危険だった。身をもって知っただろう?」
「……でも……」
 神社が目の前に見えてきた。そこで洋一はいきなりバイクを止め、境内へと入っていく。
「神社に来たということは、きっと帰りたいんだと思います。私、どうしても諦められない!」
「まあ、見てろ。ここからは俺の領域だ」
 車から降りて、洋一と向かい合う武彦。対峙する中に火花が散った。
『おのれ、我を成仏させる気か? 小癪な』
「やってみるさ。それ!」
 懐から結界策を出し、器用に五芒星を描いて地面に展開させる。そしてもう一本の結界策で洋一を縛り、その中へと引きずり込もうとした。
 だが。
 その途端に、五芒星の結界策が霧散して散々になくなってしまったのだ。
「なんだと!?」
「草間さん! 危険です! 私、もう諦めました、成仏させて上げてください。これ以上は辛くて見てられません!」
 美桜が悲鳴にも似た声をあげる。
 武彦には新兵器の改・結界策しかない。だが、果たして上手くいくかどうか。
 その時だった。美桜に付けられていた、鳥の式神が言う。
「洋一くん、いや、東京の悪霊よ。あなたの行く場所は天しかありませんよ。全てのしがらみを捨て、洋一くんから離れるのです」
『誰だ、貴様は!』
「あなたには関係ない。さあ、草間さん、私もお手伝いします。新しい結界策を!」
 式神の言われるがまま、武彦は改・結界策を放る。すると強力な封印策が出現し、洋一の身体全体を緑色に包む。
『ふん、このようなもの……』
 それでも動こうとするところへ、美桜の影を伝って、ツクヨミが這い出し、これもまた洋一の身体を覆い尽くす。
『ぐ、う、動けん! 何故だ!』
「悪霊よ、改心したか? どうなのだ!」
『ふん、我は東京の霊なり! 洋一は我と一体になるのだ。わはははは!』
「では、仕方がありませんね。草間さん、少し離れて下さい」
 美桜の式神が瞬時に燃えた。すると今度はそれは火の鳥である朱雀となり、悪霊へと一直線に飛んでいく。
『あ、熱い! ぐ、ぐわぁぁぁぁ!!』
 それが悪霊の最期の断末魔となった。洋一は火傷一つすることなく、その場へと跪いた。
「洋一くん!」
「大丈夫だよ、洋一君は無事だ。もう悪霊は憑いていない」
 そこにいたのは、亮一だった。
 武彦も仕事を終え、ホッと一安心。改・結界策が大成功だったこともあり、上機嫌だ。
「亮一くん、一便遅れて来たのか?」
「いえ、同乗していましたよ。ただ最後に乗って最後に降りただけです。美桜に付けておいた式神が役に立ってくれました。それにしても、非常に危険な悪霊でしたね。人間の感情と同期する霊は、即刻上げなければなりませんので、俺も少々焦りましたが」
 美桜は洋一の身体を抱き起こして、目を覚まさせる。
「あ……、僕、何してたんだろう? あれ、お姉ちゃん達は?」
 まだあどけない顔をした中学生に戻った、洋一。思わず美桜は、洋一を抱きしめていた。

「それにしても、結界策が破られるとは。かなりの痛手かと思いますが、改・結界策は十分強力な武器だと俺は思いますよ」
「そうかい? 亮一くんに言われると、俺も鼻が高いよ」
「草間さん、亮兄さん。こんなに報酬もらっちゃいましたよ。どうしましょう……」
 美桜は現金を両手に抱いてくる。必要経費に200万円、後賃として150万円。なかなかの金額だった。
「もちろん分けるさ。美桜さんと亮一くん、十分やってくれたからな」
「ありがとうございます、草間さん。でも、俺たちには過ぎたお金ですので」
「え〜?! 貰わないの〜?!」
 美桜がプーたれる。無理もない、これだけの大金を目にしているのだから。
「いや、報酬はあるさ。旭川はラーメンが旨いらしい。それを食って、東京へ帰ろう」
「あ、ラーメンラーメン! 旭川ラーメンですよね。賛成です!」
「俺も賛成。じゃあ、早速行きましょうか」
 三人は連れ添いながら、買物公園のラーメン店へと、一路向かうのだった。

                        FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0413 神崎・美桜(かんざき・みお) 女 17歳 高校生
0622 都築・亮一(つづき・りょういち) 男 24歳 退魔師

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■         ライター通信          ■
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○いかがだったでしょうか? お二人のPCからの依頼、私なりに若干アレンジしてみたつもりです。
○プレイングから、お二人の個性が滲み出ていました。その形をなるべく壊さず、執筆しました。
○本来であれば、「あれ? こんなに長くなってしまった」ということはないのですが、
お二人のお相手で、規定文字数を大幅にオーバー。でもその分、面白くなっていると思います。
○北海道、私の在住する旭川を舞台にしております。今は良い季節ですので、御行楽に
おいでくださいまし。もし、あなたがどさんこであれば、これほど嬉しいことはありません。
○つきましては、今後も私、夢羅武市へのご愛顧をどうぞ宜しくお願い申し上げます。
ライターとしてプロ意識を持って邁進していくつもりですので、どうぞ応援よろしくお願いいたします。
                            夢 羅 武 市 より