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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ラブホテル呪術殺人事件

◆オープニング
 瀬名雫がウェブマスターをしているホームページには、毎日怪しげな書き込みが掲示板を埋める。その大半‥‥いやほとんどは他愛ないうわさ話にすぎないのだろうが、わかって読んでいれば楽しめるものもある。そんな書き込みの中にそれもあった。注意して読んでいなければ見逃してしまうほどあっさりとしていた文章だった。

発言者:レイ
 はじめて書き込みをします、レイです。こんなHPがあるなんて知らなかったよ。僕が知っている話を紹介するね。それは呪術を使った殺人事件。殺人現場はラブホテルの部屋で、遺骸のそばには必ず『注連縄』と『形代の人形』と『呪符』が残っているんだって。もう3件の被害が出ているんだけど、そんなに特徴的な遺留品があるのに犯人は見当もついてないらしいよ。あ、新聞やテレビのニュースでは扱っていないみたいだね。少なくても僕は見ていないな。報道管制とかじゃないと思うけど、誰も『呪いで人が死ぬ』なんて信じていないんじゃないかな。そりゃあそうだよね。僕はこれで終わりじゃなくて、まだ事件は続くって思ってる。もし、興味があるなら現場に行ってみたらどうかな? 内緒だけど現場のラブホテル、書いておくからね。じゃあまたね。
 渋谷区道玄坂:ホテルキャッスル

◆将人
 昼休み。日頃から静かな図書館は、ほとんどの人間が外に出てしまっていて更に静まりかえっている。高御堂将人(たかみどう・まさと)は食事を終えると、のんびりとした足取りで建物の外に出た。あまり人目につかないとっておきの場所にたどり着くと、携帯電話でメールの確認をする。職場で私的な事を少しでも匂わすのは嫌いだった。だから、将人は職場用とは別の携帯電話をいくつか持っている。この番号は滅多な者には教えていない。レイという発信者にメールをしたのは昨日の夜の事だ。あの掲示板にレイがメールアドレスを記してあったのは僥倖であった。まだ早いかと思ったが、聞き慣れた着信音が流れすぐに消えた。表情も仕草も変わらないのに将人の雰囲気がガラリと変わる。
「‥‥なかなか付き合いの良い方の様だ」
 レイの返信メールには、将人に同行して渋谷に行くと記してあった。さっそく了解である旨をメールし、将人は何気ない風を装って仕事に戻った。

◆将人・ラブホテル前
 レイが指定してきたのは渋谷のモアイ像がある場所だった。ハチ公前よりは空いているが、ここも待ち合わせのスポットなので平日でも沢山の人がいる。そこでぽつんと人待ち顔をしているのは将人の知り合いだった。
「将人さん‥‥もしかしてあなたも?」
 まさか咲耶が居るとは思わなかった将人はちょっと驚いたが、勿論表情には出さない。すぐに職場でよく使う穏やかな笑顔を作った。
「ということは咲耶君も‥‥あのネットの書き込みを見て興味を持ったんですね。なかなか鋭いというか‥‥」
 将人はその後を言わなかった。
「俺はレイとここで待ち合わせをしているんです。将人さんも?」
「私はレイ君からここを指定された。ということは‥‥」
「そうです。この方からここに呼び出されたので、同じ場所をお知らせしたんですよ」
 笑顔で近づいて来る男。咲耶よりは少し年かさだろうが、将人よりはずっと若いだろう。捉えどころのない飄々した様子で、男はぺこっと会釈をした。
「僕がレイ‥‥です。今日はよろしく」
 3人は道玄坂へ向かって歩きだした。
「報道されていない事件に詳しいけど、それってどういうソースで知るのか教えて貰えませんか?」
 歩きながら咲耶はレイに聞く。
「現場に行けばわかりますよ。僕はそこにいる人達から聞かされたんですから」
「なるほど‥‥わかりました。行きましょう」
 将人は先に立つ様にして道玄坂を目指した。
 道玄坂を昇る頃にはもう陽が傾いていて、夕日が空をあかね色に染めている。夜になればこの辺りはもっと賑やかになるだろう。
「まぁ‥‥どうしました? こんな場所まで1人でお散歩ですか?」
 その声は随分と小さかったが、咲耶には難なく聞き取れた。振り返ると坂の中腹あたりに松浦絵里佳の姿があった。なにやら路地に向かって歩き出そうとしている。
「危ないな」
 咲耶はもう走りだしていた。案の定何かにつまづいた絵里佳が前のめりに転びそうになる。
「あ‥‥」
 悲鳴をあげる絵里佳の身体に腕を廻す。間に合ったのは幸運だった。
「え?」
 びっくりした顔で振り返った絵里香は咲耶を見て驚いている様だった。
「やっぱりあなただったね」
 咲耶は務めて優しい笑顔を絵里佳に向ける。
「さすがですね」
 助け起こされた絵里佳は、咲耶の隣に高御堂将人が一緒にいるのが見えた。そしてもう1人‥‥それがあの駅で絵里佳を助けてくれた人だった。
「この人がレイ」
 咲耶の説明は簡潔だったが、絵里佳も掲示板を見ているのでそれ以上の言葉は要らなかった。
「あなたもそうだったんだね。じゃ一緒に行きましょう」
 レイは笑って絵里佳を招いた。
 問題のラブホテル前には2人の女性が立っていた。
「どうやらあのお2人も私達と同じの様ですね」
 将人がのんびりと言う。レイは一足先に彼女達に向かって歩く。
「あの‥‥」
 口ごもっているのはまだ若い女性だった。絵里佳とそう違わないだろう。茶色の髪を綺麗に編み込みにしている。対するのは青白色の長い髪をした非人間的なまでに完璧な美貌を供えた女だった。
「こういう場所に1人って‥‥あのもしかして掲示板の書き込みを見て来た人ですか?」
 若い女性の語尾が震えているのは緊張しているからなのかもしれない。
「おまえもか」
 青白色の髪の女は言葉を飾らないタイプらしい。その右手首に数珠を巻いているのは、少しミスマッチな気がした。
「なんだかお揃いの様ですね。僕の書き込みを見て興味を持ってくださった方でしょう?」
 レイは場の雰囲気を読まない男なのだろうか、2人のある意味緊迫したやりとりなど知らない振りで話しかけたのだ。
「僕があの掲示板に発言をしたレイです。そしてこのラブホテルが殺人の現場になった場所です」
 レイは何気ない事の様にそれを告げる。
「こんな場所で立ち話もなんですね。どうしますか? 入りますか?」
 将人がラブホテルの入り口を示して言う。なるほどよく見れば集った者達は男女3人ずつだった。3組のカップルとして中に入るのは容易い事だ。
「行きましょう。私の占いがもし当たるとしたら‥‥今夜またここで事件が起こります」
 それが絵里佳がここに来た理由だった。自慢ではないが絵里佳の占いは当たる。それはここで誰かが殺されるということを示すのだ。絵里佳はまっさきにラブホテルへと入る。すぐ後ろから髪の長い女も足音を立てずに続いて入ってきた。初めて来る場所であったが、不思議な場所だと思った。入ったところはロビーとなっていて、そこで部屋を選ぶ事が出来る。基本的には従業員と顔を合わせなくても済むシステムを採用している。
「ここだよ」
 絵里佳と同じ歳くらいの娘と一緒に入って来たレイは、空室だった部屋のボタンを押した。そして続けてボタンを押し両隣の部屋も確保してしまう。
「何故2つも追加するのだ。私達に用があるのは現場だけだ」
 髪の長い美女が不審そうに言うとレイはニコッと笑った。
「僕達は3組ですからね。それに、こうしてしまえばこの階にはもうこの部屋しか空いてないでしょ?」
 レイは1つだけライトが灯ったままの部屋を指した。

◆将人・現場は薔薇の間
 そのラブホテルは部屋に花の名前をつけていた。百合、スズラン、カトレア、ひまわり、椿‥‥そして問題の現場は『薔薇の間』であった。3組のカップルの筈なので、薔薇の両隣にあるカトレアとスズランもおよそ2時間は彼らが使うことが出来る。
「あの、こういう場合って本当の名前を明かすのも色々な意味で危険だと思うの。だから、本名で呼び合わない様にしよっ」
 部屋につくなり若い娘が言った。 
「いいですね。では僕の事はクロウと呼んでください」
 将人は楽しんでいる様で、すぐに通り名を告げた。クロウとは鴉という意味だ。いつも黒い服を着ているからだろうか。、絵里佳はエンジェル、娘はシスター、美女はドールと名乗ることになった。咲耶はウルフと呼ばれる。なんとなくこそばゆいがどうせ今だけのことなのだからと割り切る。
「どう思いますか‥‥ウルフ」
 小さな窓を開けて、外を確かめならが将人は言った。実際に使ってみると妙に言いにくい。多分、咲耶を知っているからだろう。
「ここが現場だというのなら‥‥この事件は俺達みたいな者が介入するべき事件じゃない。レイ、あなたもそれは知っていたんじゃないんですか?」
 咲耶は厳しい目をレイに向ける。ここにいる誰もがわかっている。呪術を使った跡が全く存在しないのだ。もっと手軽が呪いを用いたとしても、何かしらわかるだろうに、ここにはそういうものが全く存在しないのだ。
「なるほど‥‥ここには何もないのだ。術を使えばなんらかの跡が残る。それがここにはないということは‥‥」
 ドールはその名通りの美しい顔のまま素っ気なく言う。
「ここでは術は使われてないということ‥‥だよね」
 シスターにもそれは薄々わかっていた。もしも本当にここで呪殺が行われたのならば、建物の外からでもわかっただろう。
「でも!」
 絵里佳は堪えきれない様に叫んだ。
「でも、ここで人が死んだのは確かです。その人達は今も苦しんでいて‥‥ここから上に上がることが出来ないの」
「‥‥その通り。この部屋には2柱の霊が縛されています。殺された恨みが重りとなって、上に上がることが出来ないのです。ねっ‥‥」
 レイは見えない誰かに声を掛ける様に言った。絵里佳の視線とレイの視線は同じ場所を見つめている。そこにこそ、この部屋で死んだ女達の霊がいるのだろう。
「あなたは俺達に何をさせる気だ。そして、何故‥‥」
 咲耶の言葉は最後まで続かなかった。遠くで女の悲鳴があがったからだ。こんなに防音の効いた場所で聞こえてくるのだ。余程大きな声なのだろう。
「どこだ!」
「いやー!!」
 絵里佳は抱えてしゃがみこんだ。何が起こっているのかわからなかったが、とにかく部屋を出る。廊下に出るとたった1つだけ扉の開いている部屋があった。そして半裸の女が扉にはさまれる様にして倒れている。咲耶が先頭で部屋に入り、続いて将人が後に続く。シスターも勇気を出して部屋に飛び込んで来た。

◆将人・真相
 部屋の中には男が1人立っていた。様々な呪術道具が散乱している。だが、どれも土産物の様に価値がないものばかりだった。
「おまえが犯人か‥‥つまらぬ」
 ちらっと部屋を見ただけで、ドールはすぐに出ていってしまった。これ以上見るべき物はないと判断したのだ。
「な、なんだ‥‥おまえ達は‥‥こ、ここは俺の部屋だぞ‥‥」
 男は唾を飛ばしながら耳障りな声を荒げる。
「なんだ。呪術の事、なんにも知らないのね。‥‥まぁだからこそ、こんなに各流派取り混ぜたわけわからないグッズを揃えられるんだろうけどね」
 シスターは妙に感心した様子だった。確かに散らばっているアイテムは神道も密教もごちゃ混ぜになっている。
「殺人事件の現場で犯人に会うなんて、そうそう体験出来る事じゃありませんね。なるほど、レイ‥‥私はあなたに礼を言わなければならない」
 将人は平然としていたが、咲耶は不愉快な様だった。眉をひそめ、汚い物を見るかの様な視線を男とレイに向けている。これは全く呪術とは関係のない事件だ。そして最初からレイはそれを知っていた筈なのだ。咲耶が騙されたと感じても不思議ではない。
「俺は‥‥こんな下らない事件には関わりたくない」
 咲耶の目がキラリと光った様に見えた。それはようやく理性を保っていた犯人を錯乱させるには十分なものだったのかもしれない。急に奇声を発すると男は窓をから飛び降りた。一瞬の出来事だった。
「感謝します、皆さん。これであの者達もきっと上に行くことが出来る」
 レイはにっこりと笑って皆に頭を下げた。
 将人はラブホテルを出たところで咲耶や絵里佳と別れた。シスターは先に帰ったらしい。長居をすれば、すぐに駆けつけるだろう警察に色々と聞かれるだろう。それは面倒だ。
「ここから離れた方がいいですよ、じゃあ‥‥」
 レイは片手をあげて別れの挨拶をする。
「もう言ってもいいでしょう。ここには私とあなたしかいない。本当の目的は霊ではなく、あの男を殺すことでしたね」
 将人は決めつけた。
「何故、そう思うのかな?」
「薔薇の間ならば、窓から外に飛び出しても死なないですよ。そこはすぐ隣のビルの屋上なんですから。それが逃走経路だったのかどうかはわかりません。でも、あの男は薔薇の間にいるつもりになってしまったのでしょう」
 投身自殺などするつもりはなかったのだ。
「別にいいですよ。私は告発する者はありません。興味が湧くかどうか、それだけなんです」
 将人はにっこりと笑う。レイは何も言わずに駅とは逆の方へと向かって歩きだした。遠くでパトカーのサイレンが聞こえ始めていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0092/高御堂将人/男性/25才/図書館司書
0046/松浦絵里佳/女性/18才ぐらい/学生
0427/ドール/女性/18才より上/??
0293/シスター/女性/18才ぐらい/??
0475/御上咲耶/男性/18才/高校生
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■         ライター通信          ■
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 おまたせ致しました。ライターの深紅蒼(しんく・そう)です。私にとって、東京怪談初仕事にエントリーいただいき、ありがとうございます。一生懸命務めさせていただいたつもりですが、まだまだかもしれません。今後も精進していきますので、どうぞよろしくおねがいしたします。
 高御堂将人様
OMCのイラストを拝見させていただきました。とっても素敵な方ですね。その様な方を描写しきれたかと言うと‥‥式神も書けなくて申し訳ありません。今回は集まってくださった方に対して簡単すぎる依頼だった様です。また、本文中妙なニックネームを付けてしまってすみません。他の方の文章もちょこっとずつ違いますので、もしお読みいただけると嬉しく思います。では、またご一緒出来ることを楽しみにしております。