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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ラブホテル呪術殺人事件

◆オープニング
 瀬名雫がウェブマスターをしているホームページには、毎日怪しげな書き込みが掲示板を埋める。その大半‥‥いやほとんどは他愛ないうわさ話にすぎないのだろうが、わかって読んでいれば楽しめるものもある。そんな書き込みの中にそれもあった。注意して読んでいなければ見逃してしまうほどあっさりとしていた文章だった。

発言者:レイ
 はじめて書き込みをします、レイです。こんなHPがあるなんて知らなかったよ。僕が知っている話を紹介するね。それは呪術を使った殺人事件。殺人現場はラブホテルの部屋で、遺骸のそばには必ず『注連縄』と『形代の人形』と『呪符』が残っているんだって。もう3件の被害が出ているんだけど、そんなに特徴的な遺留品があるのに犯人は見当もついてないらしいよ。あ、新聞やテレビのニュースでは扱っていないみたいだね。少なくても僕は見ていないな。報道管制とかじゃないと思うけど、誰も『呪いで人が死ぬ』なんて信じていないんじゃないかな。そりゃあそうだよね。僕はこれで終わりじゃなくて、まだ事件は続くって思ってる。もし、興味があるなら現場に行ってみたらどうかな? 内緒だけど現場のラブホテル、書いておくからね。じゃあまたね。
 渋谷区道玄坂:ホテルキャッスル

◆怜
 ネットの書き込みを見れば、現場はわかる。渋谷の道玄坂をのぼった辺りはいわゆる『ラブホテル』が林立している一画だった。そんな場所をたった1人で歩いている和泉怜(いずみ・れい)は酷く目立っていた。さすがに服装は目立たない物を身につけていたが、その怜悧な美貌と人を寄せ付けない厳しい雰囲気は他を圧倒する。なにより青白色の長く美しい髪と、銀色の瞳が美貌を更に際だたせる。道行く者達はひそひそと声をひそめて怜の事を噂している様だったが、その様な事に怜はまったく関心がなかった。
「ここか‥‥」
 塀を巡らせ、コンクリートの亀裂の様に小さな入り口にホテルの名が書いてあった。それはあのネットの書き込みと同じ名前だった。同じ名前のホテルはまだあるのかもしれないが、ともかくここから探索しようと思う。怜は躊躇せずホテルへ入ろうとして、背後から呼び止められた。

◆怜・ラブホテル前
 夕日が空をあかね色に染めている。夜になればこの辺りはもっと賑やかになるだろう。ただそれは怜にとってはどうでもいいことだった。興味を惹かれたのは自分達の世界での常識が覆されているということだ。事の真相がわかればそれでいい。
「あの‥‥」
 勇気を振り絞って、といった感じで声がした。明らかに自分に向かっての声だと判断して振り返る。立っていたのは若い女‥‥だった。明るい茶色の髪の一部を編み込みにしている。普段は元気120%という感じなのだろうが、今は緊張で震えている様だ。
「こういう場所に1人って‥‥あのもしかして掲示板の書き込みを見て来た人ですか?」
 語尾が震えているのは緊張しているからなのかもしれない。
「おまえもか」
 娘は怜の言葉になんとなくホッとした様に表情を崩す。ただ、めざとく右手首に数珠を見ているところはなかなかに鋭い。
「なんだかお揃いの様ですね。僕の書き込みを見て興味を持ってくださった方でしょう?」
 声は娘のさらに背後からした。振り返ると、4人の人間が立っている。娘よりも若そうな小柄な少女が1人。そして娘と同じぐらいの歳の男の子が2人、そして少し年かさでサラリーマン風の男が1人だった。話ぶりからすると、一番手前にいる若い男が発信者であるレイの様だった。
「僕があの掲示板に発言をしたレイです。そしてこのラブホテルが殺人の現場になった場所です」
 レイは何気ない事の様にそれを告げる。
「こんな場所で立ち話もなんですね。どうしますか? 入りますか?」
 年長の男がラブホテルの入り口を示して言う。なるほどよく見れば集った者達は男女3人ずつだった。
「行きましょう。私の占いがもし当たるとしたら‥‥今夜またここで事件が起こります」
 夢見るような楚々とした少女は強い意志を現し、まっさきにラブホテルへと入る。怜も足音も立てずに続く。初めて来る場所であったが、特別感慨を持つわけでもなかった。入ったところはロビーとなっていて、そこで部屋を選ぶ事が出来る。基本的には従業員と顔を合わせなくても済むシステムを採用している。
「ここだよ」
 一番最後に声を掛けてきた娘と一緒に入って来たレイは、空室だった部屋のボタンを押した。そして続けてボタンを押し両隣の部屋も確保してしまう。
「何故2つも追加するのだ。私達に用があるのは現場だけだ」
 怜は不審そうに言う。レイはニコッと笑った。その笑顔の向こうに何かの策略があるのが怜にはわかる。
「僕達は3組ですからね。それに、こうしてしまえばこの階ではもうこの部屋しか空いてないでしょ?」
 レイは1つだけライトが灯ったままの部屋を指した。

◆怜・現場は薔薇の間
 そのラブホテルは部屋に花の名前をつけていた。百合、スズラン、カトレア、ひまわり、椿‥‥そして問題の現場は『薔薇の間』であった。3組のカップルの筈なので、薔薇の両隣にあるカトレアとスズランもおよそ2時間は彼らが使うことが出来る。
「あの、こういう場合って本当の名前を明かすのも色々な意味で危険だと思うの。だから、本名で呼び合わない様にしよっ」
 部屋につくなり娘は言った。 
「いいですね。では僕の事はクロウと呼んでください」
 サラリーマン風の男が言った。なるほど鴉っぽい黒い服装をしている。今日日サラリーマンでももう少し明るい色合いの物を身につけるだろう。高校生っぽい男はウルフ、夢見る少女はエンジェル、娘はシスターと名乗ることになった。怜はドールと呼ばれる。なんとなく気に入らないがどうせ今だけのことなのだからと割り切る。
「どう思いますか‥‥ウルフ」
 小さな窓を開けて、外を確かめならがちょっと言いにくそうにクロウが言った。どうやら2人は以前からの知り合いなのだろう。仕草や話し方が初対面とは違う。
「ここが現場だというのなら‥‥この事件は俺達みたいな者が介入するべき事件じゃない。レイ、あなたもそれは知っていたんじゃないんですか?」
 ウルフは厳しい目をレイに向ける。
「なるほど‥‥ここには何もないのだ。術を使えばなんらかの跡が残る。それがここにはないということは‥‥」
 怜はドールという名通りの美しい顔のまま素っ気なく言う。
「ここでは術は使われてないということ‥‥だよね」
 シスターにもそれは薄々わかっていた。もしも本当にここで呪殺が行われたのならば、建物の外からでもわかっただろう。
「でも!」
 その時、エンジェルが叫んだ。
「でも、ここで人が死んだのは確かです。その人達は今も苦しんでいて‥‥ここから上に上がることが出来ないの」
「‥‥その通り。この部屋には2柱の霊が縛されています。殺された恨みが重りとなって、上に上がることが出来ないのです。ねっ‥‥」
 レイは見えない誰かに声を掛ける様に言った。エンジェルの視線もレイと合っている。
「あなたは俺達に何をさせる気だ。そして、何故‥‥」
 ウルフの言葉は最後まで続かなかった。遠くで女の悲鳴があがったからだ。こんなに防音の効いた場所で聞こえてくるのだ。余程大きな声なのだろう。
「どこだ!」
「いやー!!」
 エンジェルが頭を抱えてしゃがみこんだ。何が起こっているのかわからなかったが、とにかく娘は部屋の外に出る。たった1つだけ扉の開いている部屋があった。そして半裸の女が扉にはさまれる様にして倒れている。ウルフが先頭で部屋に入り、続いてクロウが後に続く。シスターも勇気を出して部屋に飛び込んだ。

◆怜・真相
 部屋の中には男が1人立っていた。様々な呪術道具が散乱している。だが、どれも土産物の様に価値がないものばかりだった。
「おまえが犯人か‥‥つまらぬ」
 ちらっと部屋を見ただけで、怜はすぐに出ていってしまった。これ以上見るべき物はないと判断したのだ。そして、これまでその判断が間違っていたことは5%程しかない。怜は部屋の外でレイとすれ違った。
「おまえはわかっていた筈だ。これが呪術などではなく、ただの殺人事件だとな。なのに何故私達を呼んだのだ」
 銀色の瞳が射すくめる様にレイを見つめる。あまりに綺麗なモノは畏怖の念を人に喚起させる。だが、レイは平静としていた。すくなくても平静を装っていられた。
「証拠もなしで警察は動きません。でも、僕はあの男を野放しにはしたくなかった。どうです、これであの男は破滅です。彼は3人の殺人犯人なのですから‥‥」
「3人目の被害者はたった今だ。それでよかったのか?」
 やり方次第でその3人目は助けられたのではないかと思う。怜はそう思うことはあまりないが、人間は救える命ならば救いたいと思う者が多い。
「仕方ありませんよ。僕もエンジェルも霊なら見えるけど、それには被害者には死んで貰わないとならない。霊をとばせる人はあまり居ませんからね。さぁ、最後の幕です」
 レイは会釈して怜の横を通り抜ける。
「面妖な男よ」
 常々人の感情は不思議だと思うが、その中でもこういう事件で知り合う者達の感情は更に捉えどころがなくて難解だ。だが、ともかくこれがただの殺人事件ならば長居をする理由はない。怜はたった1人で建物の外にでた。もう空は真っ暗だった。来た道を戻って歩き出そうとした時、建物のすぐ脇で何か重い物が上から落下した様な音と衝撃を感じた。それももう怜には関心のないことであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0427/和泉怜/女性/95才/陰陽師
0046/エンジェル/女性/18才より下/??
0293/シスター/女性/18才ぐらい/??
0092/クロウ/男性/18才より上/??
0475/ウルフ/男性/18才ぐらい/??
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■         ライター通信          ■
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 おまたせ致しました。ライターの深紅蒼(しんく・そう)です。私にとって、東京怪談初仕事にエントリーいただいき、ありがとうございます。一生懸命務めさせていただいたつもりですが、まだまだかもしれません。今後も精進していきますので、どうぞよろしくおねがいしたします。
 和泉怜様
遺留品はまだ警察に保管されていて見る事は出来ませんでした。本職の方々に集まって頂いた割には、肩すかしな依頼で申し訳ありませんでした。次回はもっとデンジャラスでディープな事件を持ち込みたいと思います。よろしくお願いします。また、本文中妙なニックネームを付けてしまってすみません。他の方の文章もちょこっとずつ違いますので、もしお読みいただけると嬉しく思います。では、またご一緒出来ることを楽しみにしております。