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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


呪い人よ、こんにちは【調査編】
●オープニング【0】
「金沢で変死体ねえ……」
 新聞に目を通していたアトラス編集長、碇麗香はその場に居る者全員に聞こえるような声で言った。そして新聞から顔を上げ、笑みを浮かべた。
「興味あるでしょ?」
 そういう言い方をされると……はい、興味あります。
「新聞によると、亡くなったのは吉岡正樹(よしおか・まさき)さん、44歳。早朝、神崎神社にお参りに来た人が吉岡さんが倒れているのを発見したみたいね。外傷はなく、死因は心臓麻痺らしいわ」
 それって……単なる自然死では?
「ところがね、最近うちに届いたこんな情報があるのよ」
 麗香はそう言うと、机の中から何やらメモ用紙を取り出した。
「金沢の天神橋って橋の近くに『怨呪神社(おんじゅじんじゃ)』なんて揶揄される神社があるんですって。その昔、呪いたい者の名前を書いた紙を中に入れたわら人形をそこへ納めたとか何とか……」
 編集長……まさか、今回の変死体はその神社が関係してるって言いたいんですか?
「記事としては面白いんじゃないかしら? 関係はなくとも、その神社のネタだけで1本書けるでしょう?」
 麗香はそう言うと、にっこりと微笑んだ。
 まあ、取材費は出るらしいからいいけど……。

●特急『はくたか』【1】
 越後湯沢と金沢を結ぶ特急『はくたか』。越後湯沢駅で上越新幹線と連絡し、北陸と首都圏を繋ぐ足として活躍している列車だ。この3月のダイヤ改正では1往復の増発がされていた。
 その指定席車両、7割方の座席が埋まっている中に、1つのグループが居た。
 がっしりとした初老の男に、スーツのよく似合う美男子、それから細身で中性的な女性に、涼やかな微笑みを浮かべている金髪の女性。通路を挟んだ反対側には、細身の少女と小柄な少女、そして金髪スーツ姿の青年と青い瞳に白い肌の青年。この8人が同じグループだと言っても、すぐには信用されないだろう。
「へっ、不動産屋かよ。恨まれやすい職業かもしれねぇな」
 初老の男、渡橋十三は手元の資料を見てそうつぶやくと、窓際に置いてあったビール缶に手を伸ばした。すでに新幹線で3本ビールを空けていて、これが4本目である。
「碇さんから朝一番で受け取ってきました」
 十三の隣に座っていた美男子、都築亮一が他の面々にも資料を配りながら言う。昨日のうちに麗香に吉岡の経歴等を調べてもらうよう頼んでいたのだ。
「ふうん……東京の大学を出た後で、金沢に戻って実家の不動産屋を継いだのね」
 細身で中性的な女性、シュライン・エマは吉岡の経歴の書かれたページをしげしげと見つめていた。経歴には出身大学等が書かれている。
「『吉岡不動産』ですね。この資料によると、40年以上も金沢で営まれているのですね」
 シュラインの隣に座っていた金髪女性、草壁さくらが吉岡不動産についての簡単な説明が書かれている部分を指でなぞった。
「40年か。高度成長期の時代や、バブル経済の時代を経てきているということだな」
 通路を挟んだ反対側、金髪スーツの青年、真名神慶悟が指折り数え確認する。
「……土地転がしやってないだろうな」
 資料をパラパラと捲る慶悟。その間に亮一が静かに答える。
「そこまでは書いてないものの、評判は芳しくなかったようですね。資料の5枚目です」
 亮一の言葉で、皆一斉に5枚目を捲る。確かにそのような旨の文章が記されていた。
「するってぇと、こいつを呪いたい奴が居ても別に不思議じゃねえってこったな」
 十三が資料をパシパシと叩いた。
「じゅ、呪殺の疑いあり、ってことですよね」
 慶悟の向かいに座っていた細身の少女、七森沙耶がごくりと唾を飲んだ。心なしか、表情が強張っている。
「ただ、人を殺す程の呪いをかけるのは普通の『人』には無理だと思う」
 慶悟の隣、窓際に座っていた青い瞳の青年、ライティア・エンレイがぽつりつぶやいた。視線は車窓を流れてゆく景色に向いていた。
「人ならざる者が手を貸しているのなら阻止しなければ……」
 再度つぶやくライティア。向かいに座っていた小柄な少女、戸隠ソネ子が不意にくすくすと笑い出した。
「のろい神社に首一つ……誰か殺すの? 誰か死ぬの? うふふふ……」
 沙耶がぎょっとしてソネ子を見た。亮一が思わず眉をひそめる。笑えない冗談だ。
「……この手の人の暗い情念というものは、今も昔も変わらないものなのですね」
 さくらがしみじみとつぶやいた。古来より伝わる呪いの術、それは現代にも脈々と受け継がれてきている。少なくとも、これは確かだろう。
「ああ、そうだわ。『怨呪神社』の件だけど、ネットで調べてみたらちゃんと正式名称があるのね」
 シュラインが思い出したように言った。
「『温州神社(うんしゅうじんじゃ)』と言うんですって。想像だけど、『うんしゅう』が『おんじゅ』に訛ったんじゃないかなって……」
 話し続けるシュライン。列車は一路金沢を目指し走り続けていた。

●チェックイン【2】
 2時過ぎに金沢駅に着いた一行は、駅前のホテルにチェックインを済ませると、夜まで各々調査に出かけることにした。
「さて、夜まで一眠りするかい……」
 大欠伸をする十三。見ると十三の荷物には何故かスーツが混じっていた。果たして何をする気なのだろうか?

●通夜【8A】
 夜8時半過ぎ。それまでホテルのシングル部屋で仮眠をとっていた十三は、持参してきた喪服に身を包んで吉岡の通夜へ出かけた。風呂に入り髪も整え、普段の十三の姿とは別人のようであった。
 手には数珠、懐には三下が快く出してくれた――向こうは巻き上げられたと思ってるかもしれないが――金の一部が入った香典袋。準備万端である。
(さーて、鬼が出るか蛇が出るか、見物だぜ)
 そんなことを考えつつ歩いてゆく十三。通夜の行われている金沢駅から程近い吉岡の自宅へ着くと、すでに多くの弔問客が自宅を訪れていた。十三はそれに紛れて、中へ入っていった。
 中では吉岡の友人やら知人、仕事相手やらが車座になって話をしていた。奥の部屋では吉岡の妻と思われる女性が、弔問客の応対をしていた。散々泣いたのだろう、目がかなり赤く腫れぼったい。
 十三はまず奥の部屋へ向かい、吉岡の妻から故人の人柄等を尋ねてみることにした。
「この度はどうも……」
 神妙な顔付きで頭を下げる十三。吉岡の妻は涙を浮かべて頭を下げ返した。そして勧められるままに十三は吉岡の死に顔を拝むことになった。手を合わせ拝んでから、吉岡の顔を覆う白い布を取った。正直言って、人相は悪い。しばし観察してから再び白い布で顔を覆う。長い間見ていて気分のいい物ではない。
「先日の人間ドックではまるで悪い部分は見当たらなかったというのに、どうしてこんなことに……」
 吉岡の妻が悔しそうに言った。事実なら、心疾患の持病はなかったということか。
「すみませんがねぇ……彼は朝っぱらから何故神社へ? いや、散歩好きたぁとんと知らなかったんですがね」
 吉岡の古い知人を装っていた十三は、当日の行動を尋ねてみた。しかし吉岡の妻は首を横へ振った。
「分かりません。普段は散歩どころか、朝早くから出かけるなんてことはなかったのに。あの日はただ『ちょっと出てくる』とだけ言って……」
(つまり、普段の行動パターンと違う行動ってことかい……匂うぜ、こりゃ)
 もしかすると、誰かに呼び出された可能性があるのかもしれない。しかしだとすれば、誰に呼び出されたのか? その疑問は残る。
「いい奴だったのに、俺より早く逝くとはねぇ……」
 残念だと言わんばかりの十三。
「ええ。仕事で少々強引な面もあったようですが、それでも私には優しい夫でした……ううっ……」
 吉岡の妻はハンカチを取り出して目を覆った。すすり泣く吉岡の妻。ここらが潮時と判断し、十三は隣の部屋へ移動した。

●仲間【8B】
 十三は弔問客の集まる部屋へ入り、ビールを飲みながら話に耳を傾けていた。
「まさかあいつが死ぬとはなあ」
「ああ。昔からの仕事仲間だったのになあ……」
 十三の隣で、2人の中年男がしみじみと話をしていた。年格好は吉岡よりやや上か。すでにそこそこ飲んでいるのだろう、顔がうっすらと紅い。
 十三のすぐ隣に居る男はがっしりとした体格で、黒いフレームの眼鏡をかけていた。その隣の男は髪も薄く、温厚そうな顔付きをしていた。
「人生、何があるか分からんもんだ」
「本当にな。……と、もうこんな時間か。俺はそろそろ失礼するよ。ちと用事があるんでな」
 髪の薄い男がそう言って立ち上がった。
「帰るのか、福島? なら俺も行くよ」
 眼鏡の男が立ち上がる。そして2人は部屋を出て、奥に居る吉岡の妻に挨拶を済ませると、そのままこの場を後にした。
「……今のは誰だい?」
 十三は近くに居た弔問客を捕まえ2人について尋ねた。
「あの2人かい? 吉岡さんの仕事仲間の福島さんと川田さんだよ。2人とも不動産屋を営んでて、仲はよかったはずだよ」
「ほぉ、そうかい……どうもありがとよ」
 十三は礼を言うと、グラスの中のビールを一気に飲み干した。この場ではそれ以上たいした情報も手に入らず、十三は1時間程してから家を後にした。

●情報交換【9A】
 午後11時前。宿泊先のホテルの1室に7人の人間が集まっていた。シングル部屋なので、7人も集まると足の踏み場もない。
「1人足りねぇな」
 喪服のネクタイを緩めながら十三が言った。吉岡の通夜へ参列してきた帰りなのだ。
「先程、少し出てくると言ってましたが」
 亮一が十三の言葉に答える。
「買い出しか?」
 すでに買い出しを済ませていた慶悟が、缶ビール片手に言った。ソネ子がくすくすと笑う。
「いい? 説明するわよ」
 パンパンと手を鳴らすシュライン。たちまち視線が集まる。それを確認してさくらが手に入れてきた情報を皆に話し出した。
「偶然、吉岡さんの遺体を発見された方にお会いすることができたのですが、やはり外傷等はなかったそうです。現場に何か落ちていたとか、怪しい人影を見たということもなく」
「まあ……顔見知りだったんだけど」
 ぼそっとシュラインが付け加えた。
「なら、病死か呪いかのどちらかですか?」
 ライティアが誰ともなく尋ねるように言った。
「通夜で聞いてきたけどよぉ、心疾患の持病はなかったようだぜ」
 慶悟の買い込んでいた缶ビールを1本奪う十三。慶悟はつまみのさきいかを死守していた。
「誰が何のために呪ったのか……」
 亮一が神妙な顔付きになった。そこへ部屋の電話が鳴った。近くに居たライティアが電話を取る。
「はい、もしもし。あ、七森さんですか」
 電話は沙耶からだった。
「……はい?」
 眉をひそめるライティア。
「浅野川の、梅ノ橋のたもとで、男が1人亡くなっている……?」
 一同の間に衝撃が走った――。

【呪い人よ、こんにちは【調査編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0622 / 都築・亮一(つづき・りょういち)
                   / 男 / 24 / 退魔師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました。金沢を舞台にした調査の第1回目をお送りします。ちなみに温州神社は実際の金沢には存在しません。神崎神社にはモデルはありますが。プレイングをかけるために資料等を調べる際、その点を注意してくださいね。
・皆さんの扱いですが、次回以降不参加でも金沢に居ることになります。次回以降の途中参加は可能になっていますので、人数が増える可能性もありますね。どうぞご自身のペースでご参加ください。
・次回ですが、夜から話は続きます。すぐに梅ノ橋へ向かわれる方は、その旨を記してください。もっとも到着時に警察が来ているかもしれませんが。それは移動手段によるということで。ちなみに駅前から徒歩だと20分程度でしょうか。
・予め言っておきますけれど、辛い終わり方になる可能性もありますので……。
・渡橋十三さん、18度目のご参加ありがとうございます。1人傾向の違うプレイングでしたね。よかったと思いますよ。ちなみに告別式は通夜の翌日です。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。