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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


将門七人侍〜復活への階V〜

<オープニング>

「将門の復活に応え、面白い連中が復活しましたよ」
「なるほど。確かに腕は立ちそうだが・・・、どう使う?」
「任せてください。恰好の場所がありますから」

「はあ!?青木ヶ原樹海で惨殺死体ばかり見つかる!?」
「ええ。この頃、何か鋭利な刃物で袈裟懸けに切られて死んだ人間がたくさん見つかるんです」
 そう言って依頼人は深々とため息をついた。自殺の名所青木ヶ原樹海で次々と人が殺されている。自殺志願者だけでなく一般の人間まで。目撃者の話によると甲冑を着た時代劇に出てきそうな鎧武者達が、突然樹海の中から現れ道を歩いている人間に切りかかり死を確認すると消えてなくなるらしい。それも鎧武者は複数いるらしい。
「それで警察としても樹海に向ってみたのですが・・・」
 依頼人の顔に苦渋の色が浮かぶ。
「見つけられなかった?」
「いえ、見つけられたのですが返り討ちにあいました。銃や警棒がまったく効かずいいように何人も切り殺されてしまったのです。こちらは100人体制で対応していたというのに・・・。あれはまるで幽霊のような感じでした。実体のある幽霊のような・・・」
「それでウチなんかにどうしろと?」
「こちらの事務所で以前もそんな、オカルトと言うんですかね、こういう事件を解決していただいたことがあると警察の仲間から聞きまして、なんとかご協力願えないものかとお願いにきた次第です」
 こんな私設の興信所に天下の警察が頭を下げるなど屈辱以外の何ものでもないだろう。だが、今は面子などに構っている暇はない。自分たちでは手におえない化け物が相手なのだから。
「だそうだ。誰か行って見ないか?危険かもしれないがな」

(ライターより)

 難易度 やや難

 予定締切時間 5/5 24:00

 死霊シリーズ将門復活篇第三話です。
 今回は富士は青木ヶ原樹海が舞台となります。敵は正体不明の鎧武者。警察の情報によると敵の出現ポイントは樹海を通る公道か樹海の中となります。ただし樹海の中はコンパスなどが使えず、また方向感覚が狂いやすくなるので危険度が増す場所です。樹海を散策するのであればそれなりの対応が必要となるでしょう。公道は現在交通規制がかけられているので一般人の往来はありません。その代わりこちらは深い霧に覆われており視界が悪いという悪条件がつきます。どちらで散策するかを決めてプレイングをかけていただければ幸いです。
 鎧武者の撃破が依頼内容ですが、なぜこのような事が起きているのか、その原因を調べるのもいいかもしれません。色々とお試し下さい。
 シリーズとなっていますが、私の依頼は全て一話完結型となっているので死霊シリーズを知らない方でもまったく問題なくご参加いただけます。お気軽にご参加ください。
 それでは呪われた森の中でお客様のご参加を心よりお待ち申し上げます。  

<富士>

「また、富士か・・・」
 依頼内容が書かれたメールを見て、陰陽師久我直親はその愁眉を顰めた。富士では以前苦い経験をした覚えがある。宿敵である陰陽師の一族の当主を後一歩というところまで追い詰めながら、その目の前で逃げられ、挙句の果てに異形の怪物キメラによって戦闘を強いられて一族の者たちの大半を逃がす事になってしまった。
 しかし、今度の依頼は別の意味で問題がある。それは樹海という場所である。ただでさえ広大でコンパスが狂う迷いやすい場所で、しかもこの地は自殺の名所に数えられるほど自殺者が多い。毎年多数の死体や遺骨が見つかり、この地はこの世に未練を残し死にきれるぬ亡者の魂が彷徨いつづけている。しかも霊峰富士の麓であり、常に富士から放たれる霊気を常に帯びた霊場とも言える場所なのだ。そんな場所に現れるという幽霊のような鎧武者。もし久我の予想が正しければ、この事件の裏で糸を引いていると思われる男が用意している手駒はこれだけではあるまい。
 彼はおもむろに携帯電話を取り出すと、電話帳を呼び出しあるところにかけ始めた。2、3回コールしたかと思うと繋がった。
「もしもし、俺だが」
「久我か。どうした?」
 旧知の間柄である雨宮薫。同業者の陰陽師であり、数多くの事件を一緒に解決してきた間柄である。
「お前のところにもメールは着たか?」
「ああ、着ている。例の依頼だろう。やはり奴が関わっていると思うか?」
「おそらくな」
 二人は今回の事件の首謀者に関して共通の認識を持っていた。死霊を扱い、何度となく自分達の前に立ちふさがってきた邪悪なる男。
「相手が相手だというのに、今回は場所も悪い。準備は万全にしておいたほうがいいだろうな」
「ああ。俺も今回は破魔矢を用意していくつもりだ。一体一体相手にしている訳にもいかないだろう」
「俺もそれなりの準備はしておくつもりだ。樹海の入り口で落ち合おう。恐らく元凶は樹海の中にいる」
 それは彼の感でしかなかったが、公道に出てくるのは操られた者たちで操っている者は樹海の中で待ち構えている。そんな気がするのだ。
「ああ、俺もそう思う。じゃあな。俺はこれから準備に取り掛かることにする」
 電話が切れると久我はため息をついて立ち上がった。今回は不安定要素が多すぎる。だが、そうだからといって諦める訳にはいくまい。今回の事件の首謀者があの男ならば放っておくわけにはいかないのだから。

<七人将門>

 今回の依頼は一筋縄ではいかない。それは依頼を受けた者総てに共通する思いであった。特に一足先に現地に赴き、樹海を探索していて襲われた警官隊から聞き込みをしていた天薙撫子は敵の正体について自分の予想していた考えの通りであることを実感していた。
「では樹海から現れた鎧武者のようなものは六人いたのですね」
「ああ、樹海から出てきた奴らは全部で六人だったはずだ。奴らは俺達の制止を振り切り、突然日本刀で切りかかってきたんだ。だから銃で応戦したんだが何の効果も無かった。まるで何も存在してないみたいにすり抜けてしまって・・・」
 警官の話は大体興信所で予め聞いてきたものと大差は無かったものの一つだけ気がかりな点があった。鎧武者は六体であったということだ。六体の幽霊鎧武者。彼女がこの事を聞いて思い浮かべたのは将門の影武者「七人将門」と呼ばれる存在である。
 かつて東国の大半を押さえ、朝廷に反旗を翻した武士平将門。なぜ一介の地方武士に過ぎない彼が関東の全域を支配できるような大物になれたかというと、勿論比類なき戦闘指揮能力や、カリスマなどがあったのだが、その他に己と瓜二つな顔形を持つ6人の影武者を持っていたということが上げられる。彼らはどこに行くのも将門と一緒で、その仕草も総て同じだったという。ただ一つ本物はこめかみをかくくせがあったが、偽者をかかないという違いがあり、最終的にはそれを見破られて将門は討ち取られてしまうのだが、それまではその影武者に囲まれ将門を討ち取る事は誰にもできなかった。
 この将門の六人の影武者こそが今回の事件の敵ではないのか。そう天薙にそう思わせるにはもうひとつ理由がある。それは平将門の復活を目論む者がいるということである。かつて彼女は東京の様々な場所で将門を復活させようとする者と対峙してきた。首塚に鎧神社、それに兜神社。どれも将門の体の一部が納められた場所で、なんとか将門本人に開放は防いできたが、それでも将門の霊の封印が弱まってしまった事は確かだ。となれば今回の敵はその復活し始めた将門に呼応した影武者たちかもしれない。
 勿論この事は未だ予測でしかなく、確たる証拠があるわけでない。しかし敵の正体が皆目不明である現在少しでも手がかりが欲しいところである。そこで天薙は七人将門伝説にある七つ石山に手懸かりを求めに行くことにした。ここに七人将門を弔った祠らしきものあるかもしれないと考えたためである。
 深い森の中、それはあった。小さな石で作られたその祠は完全に破壊されていた。何か爆弾のようなもので、強烈な衝撃により粉々になっている。もはや再建は不可能であろう。
「やはり、今回の事件は七人将門なのでしょうか・・・」
 天薙は破壊された祠を暗然とした思いで見つめるのだった。

<公道>

 一般に自殺の名所などと悪名高き富士の青木ヶ原樹海と言えど、総てが木に埋め尽くされているわけではない。人間が生み出した自然を退けるアスファルトによって作り出された道公道。車が走り、人が歩くこの道は、だが今濃い霧に覆われている。霧が出ている場所では警察による交通規制が行われ、今やこの道を歩く者は誰もいないと思われた。だが、その濃い霧をものともしないで歩く一人の女性がいた。ファッションモデルの美貴神マリヱである。どちらかと言えば海外で活動していることが多いのであまり日本で知っている者は少ないが、とにかく一応有名人に入る彼女が何ゆえこんな危険な場所を一人でうろついているのかと言えば、彼女もまた興信所で依頼を受けた者の一人だからである。
 切れ長の目で油断なく辺りを見回しながら、彼女はぶつぶつと文句を言った。
「何でこんなとこまで来なきゃなんないのよ〜。しかも一人で〜」
 美貴神は海外での生活が長いため、日本に関しての知識はあまり明るくない。青木ヶ原樹海に関してもどこにあるのか分からず、横浜のあたりではなどと思っていたほどである。それがこんな山間の外れの森だと聞かされて不平不満たらたらなのだ。おまけに道は霧で覆い尽くされている。幸い、己が身に飼し虫のお陰で、方向は誤らずに済むが視界が効かないことには変わりない。敵に襲われれば苦戦は免れないだろう。さらに、これは美貴神をさらに不愉快にさせている事でもあるのだが、依頼を受けた者の大半が元凶がいると思われる樹海に入っており、公道を探索しているのは彼女一人なのである。
「でもマサカドって確かこめかみが弱点なのよね。なら手が無いわけでもないわ」
 一応依頼を受けたからには、幾ら面倒な事でも真剣に臨む覚悟で、彼女は将門七人影武者の話と本体はこめかみが弱点ということについて調べておいた。さらに霊的な存在に対する対処法に乏しいため、成田不動の札も用意してきた。これだけあれば問題は無いだろう。
 そう思って公道を歩いていると、突然体の中の虫が主に身の危険を知らせてきた。彼女が体の中に飼っている虫は、俗に言う「虫の知らせ」を知らせる呪われた虫である。
「来たわね・・・。こそこそ隠れてないで出てらっしゃい!」
 彼女が油断なく身構えると、霧の中からヌッと異形の者が姿を現した。真っ赤な、血で染め上げたかのような甲冑を身に纏い、巨大な日本刀をだらりと下げた鎧武者である。霧の中のため、その顔ははっきりと見えぬが、鎧よりも赤き双眸が彼女を見つめる。
「先手必勝!行くわよ!」
 虫の力で人間離れした筋力を発揮し、一気に間合いを詰める美貴神。鎧武者はその鈍重な外見を裏切らず咄嗟に対応することができなかった。彼女は兜を掴むと引き剥がし、札を貼ろうとした。だが、兜は空中に固定されているかの如く動かなかった。
「ち、ちょっと何なのよ!これ!?」
 さらに彼女を驚かせたのはその鎧武者に顔が無かったことである。いや、顔だけでなく本来ならそこに存在していなくてはいけないはずの腕や足の部分もまったく何も無いのだ。ただ、空中に鎧だけが浮いているだけのような存在。これではこめかみをつくことはできない。こめかみなど無いのだから。
 鎧武者の兜の内にひそむ紅蓮の双眸が妖しく輝くと、その篭手激しく美貴神のわき腹を強打した。
「つう!」
 強烈な衝撃を受けて彼女は道の端まで吹っ飛ばされた。切り傷であれば体内の虫で再生することもたやすいが、内部の内臓や骨に達するダメージは癒しにくい。あまりの痛みに立ち上がる事ができずにいると、幽鬼のごとき鎧武者がガシャリ、ガシャリと足音を立てて近づいてきた。
「お、女を殴るなんて最低よ・・・うっ・・・」
 何とか立ち上がろうとするが、あばらが悲鳴を上げて立ち上がることができない。あばら骨を数本折られたらしい。そうこうしている内に鎧武者は彼女の目の前に立つと、鈍く光る太刀を振りかぶった。絶体絶命の危機に、美貴神は観念して目を閉じた。日本刀で切られた経験など無いが、激痛が走るに違いない。そう覚悟して痛みにこらえようとした。
 だが、いつまで経ってもその痛みはやってこなかった。おかしく思って目を開けると、なんと眼前で二本の刀が噛みあっているではないか。鎧武者の刀を着物姿の女性がなんとか食い止めている。
「早く立ってください!あまり持ちません!」
 中身の無い鎧の、どこにそんな力があるのか分からないが刀を押し付けてくる力は凄まじく、いかに日々鍛錬を積んでいようと彼女、天薙の細腕ではそれを食い止め続けるのはかなり辛い状況である。
「わ、分かったわ!」
 何が起こっているのかイマイチよく把握できないが、とにかく急いだほうがいいようなので、美貴神は華麗にバク転を決めて、後方に飛んだ。
「ムゥ・・・」
 それを見て鎧武者はひとまず自分の太刀を引いた。天薙も美貴神の傍らにより実家に伝わる神刀『神斬』を油断無く構える。
「オヌシラ・・・。タダノひとデハアルマイ・・・」
 どこから発しているのか、酷く聞き取りにくい声ではあるが鎧武者が二人に向って喋り出した。
「ナルホド、不人殿ガモウシテイタテキトハオヌシラノコトカ」
「不人ですって!」
 天薙が気色ばんで叫んだ。ある程度予測はしていたが、やはりこの鎧武者たちを操っているのは死霊使いであるあの男のようだ。
「答えなさい!あの男はどこ!?」
「ソレヲシリタクバワシヲタオスコトダナ」
 鎧武者は彼女の問いには答えずに、刀を構えた。天薙もそれに応じて刀を上段に構え、美貴神もアシストのために虫の力を解き放つ。
 一触即発の気配が、濃霧の立ち込める公道に張り詰めた。お互い隙を探りあい、動きが取れなくなる。
だが、その状態を先に破ったのは鎧武者の方だった。
「ナニ、モドレトイウノカ?・・・ワカッタヒクトシヨウ」
 この場にいない何者かと会話をすると、鎧武者は二人に刀を突きつけながら徐々も後退しだした。できれば追いかけて攻撃をしたいところだが、敵の構えに油断がないため、下手に打ち込んでは返り討ちにあう怖れがある。二人が手を出しかねていると、鎧武者の体はやがて霧の中に溶け込んで行き消えた。どうやら完全に立ち去ったようで、鎧武者の放っていた強烈な殺気も無くなった。激しい緊張から開放され、二人はがっくりと肩を落とした。
「一体何が・・・」
 何かが樹海の中で起きたのであろうか。天薙は不安げな視線で鎧武者の消え去った方向を見つめるのだった。
 
<樹海>

 鬱蒼と木々が茂り、昼なお夜のごとく暗い樹海の中。神崎美桜は適当な木に白いリボンを結び付けていた。日本に数多くある森の中でも、この青木ヶ原樹海は特に異質な場所の一つである。どこまで歩いても同じような景色が続き、おまけにコンパスや磁石が狂ってしまうため方向感覚が狂い自分の現在いる場所が分からなくなってしまう。さらに、自殺の名所の名に違わず死人の魂が至るところに彷徨い、冷たく肌寒い気が立ち込めている。精神感応能力がある彼女にとって、ここは決して居心地のいい場所とは言えなかった。むしろ様々な気持ちが入り込んできて情緒不安定になっていた。
「戦いをやめさせないと・・・」
 真っ青に青ざめた顔色をしながら、何とか歩きづらい樹海の土を一歩一歩踏みしめて、この事件を引き起こしていると思われるものの悪意を感じ取ろうとする神崎。だが、死にきれぬ者たちの思念は、まだ高校生のこの儚げな少女の無垢な心に容赦なく入り込もうとする。
「ああ・・・たくさんの人の心が・・・」
(苦しい・・・)
(つらい・・・)
(恨めしい・・・)
(死にたくない・・・)
 怒り、憎しみ、悲しみ、嘆き。それらの声は彼女の秘められた記憶を呼び起こす。
 人の気持ちが分かるという力のせいで化け物といわれ、一人牢の中に閉じ込められていた時。両親にも誰にも愛されず、他人を憎んで何とか自我を保っていたものの、そんな自分に耐え切れずよく手首を切り自殺しかけた事が思い出された。あの時は死にたくて手首を切っても、治癒能力が発動してしまい傷が癒され、いつも兄がわりの青年に怒られていた。また自分はあの頃に戻ってしまうのだろうか。力が抑えきれずに人々の無念の声が次々と耳に聞こえてくる。私はやはり化け物なのだろうか・・・。
(そっちにいったら迷ってしまうよ)
 突然、死人の声にしてはやけにはっきりとした思念が彼女の心に聞こえてきた。
「え?」
 思わず振り返る神埼。声に気を取られて彼女は地中から飛び出ていた気の根っこに足をひっかけてしまった。
「きゃあああ!」
「危ない!」
 前のめりに倒れる彼女を支える温かい手。
(亮兄さん?)
 従兄弟が助けてくれたのだろうか。自分をあの地獄から救い出してくれたあの人がまた・・・。
「大丈夫?顔色が悪いよ」
 だが、彼女を助けたのは神崎と同年代くらいの小柄な少年であった。見覚えの無い顔だが、その体から発せられる穏やかな気を感じて自然と緊張が抜けていく。
「貴方は・・・?」
「僕?僕の名前は卯月智哉。それよりこんな場所に一人で来たのかい?無茶だなぁ」
 卯月はやれやれとため息をついた。古木の精たる彼にとって森は自分の庭も同然である。辺りの木々たちと会話をしながら例の鎧武者がいる居場所を探っていたのだが、死霊の魂が彷徨うこの森に一人で歩いている少女がいると聞いて駆けつけたのだ。
「ここは危険だよ。早く道に戻ったほうがいい」
 この森には予想以上に死霊の魂で満ち満ちている。森の穢れはよくないので祓ってみようかとも考えたが、あまりの霊の数に断念せざるを得なかった。数百年間、死人の魂がたまりつづけた場所だけあって浄化はかなり難しいだろう。感のいい者や霊感のある者にはその場にいるだけで精神力を削られてしまう。
「いいえ。私は・・・帰れません。戦いと止めなくてはいけませんから・・・」
 卯月の言葉に神崎は首を横に振った。相変らず顔色が悪く気分も冴えないが、だからといって引き返すわけにはいかない。なんとしても樹海の奥にいる男と話し合わなければならないからだ。
「でもさ・・・!?」
「どうしたん・・・!!!」
 突然血相を欠いた卯月の視線の先にあったもの。それは長大な刀を振りかぶり、今にも二人に向ってそれを振り落とそうとする鎧武者の姿であった。

<蛇使いと死霊使い> 
 
 樹海奥深く霧が立ち込める中、巳主神冴那はその一種神秘的とも言える雰囲気を楽しんでいた。普通の人間ならば狂気にかられそうな陰気の充満した空間は、しかし蛇神の化身である彼女にとって都会の喧騒の中を生きるより遥かに心地よいのだ。
(霧深い森はまるであの人の心の中の様・・・。そこで何かを求めて彷徨う私・・・気付けば森に囚われて・・・不思議なものね・・・蛇だけに森は心地良い・・・なんて・・・)
 思い人の事を考えて微笑を浮かべる。このまま森の中で眠りについたらどんなに幸せだろう。だが生憎そんなことをしている暇は無い。この森の中に潜む元凶を探し当てなければいいのだ。
 その時、数匹の蛇たちが木々から這い下りてきて、彼女も元に近づいた。中には猛毒を持った蝮も存在しているようだ。これらは彼女にとって最も近しい下僕である。
(そう・・・。やはりこの近くにいるのね。元凶は)
 下僕の報告を聞いて彼女は満足げに頷いた。
 彼女の周りの霧がねっとりと絡みつくように蠢き、陰気の濃さが増してきた。やがて遠くの方から足音が聞こえてくる。複数いるのだろうか、ガシャリガシャリと重たげな音を立てるものが何重にもなって耳に響いてくる。そして、それは姿を現した。
 彼女の周りを取り囲むように、赤い甲冑を身に纏った鎧武者が四体。さらにそれらの後ろにはもう一人白いコートを着た男が立っていた。
「不人、だったかしら?」
「これはこれは・・・。このような場所でお会いできるとは」
 不人と呼ばれた男は彼女に向って慇懃にお辞儀をした。白銀の長い髪と、赤玉の瞳が印象的な男である。だが、なによりも彼の特徴的なものはその身に纏った陰気であろう。寒々しく、体を突き刺すような冷気のごとき陰気。
「やっぱり今回の事件は貴方が裏で糸を引いていたわけね」
「その通り。ちょっとした実験だったんですけどね。やはり将門が復活しないことには本来の力が発揮できないらしい」
「本来の力?」
「彼らは七人将門とも呼ばれる将門の影武者たち。死してもなお主を守ろうとする彼らは、単なる剣技以外にも色々と能力があるんですよ。でもそれは将門あって初めて発揮できるもののようでしてね。今は生前の刀が扱えるのみ・・・」
 七人将門。かつて将門を守護しその近辺に控えていた六人の守護者たち。彼らは常に将門の傍らにおり守護していたが、将門が討ち取られてしまうと、彼らもまた処刑されることとなった。その魂は死してなお主を守りつづけようと怨霊と化していた。将門の復活が近づくにつれ、その影響を受けて活発化し始めたこの者たちを、不人は己が力で支配下に加えたのである。もっとも将門を復活させるという前提での事であるが。
「これではいささか面白くないのでね。今回はひとまず貴女達のような力を持つ者と戦わせて見て、どれだけ戦えるのか試してみたんですよ」
「なるほどね・・・。それでどうだったわけ?」
「それは・・・」
 ヒュン!
 一本の矢が風を切って不人に襲い掛かった。彼は腰に下げた刀を抜き放つとそれをあっさりと叩き落とす。
「誰かな?こんな真似をするのは?」
「俺だ」
ゆらりと木々の中から現れたのは弓を構えた雨宮であった。隣には退魔刀を抜き放った久我がいる。
「ほう、君たちも来ていたのか。こんな森の中でもご苦労なことだ」
 不人は二人を見るとニヤリと口を歪ませた。
「何が実験だ。そのために罪も無い人々を襲わせたというのか?」
「その通りだよ。もっとも君たちのような異能者をおびきよせるためでもあったんだがね」
「そしてお前の狙いどおりまんまと俺達はおびき寄せられたというわけか・・・」
「そして、最早その実験も完了した。将門が復活しなければ実戦に耐えうる力を得ることはできそうにないようだ。今回はこれで・・・」
「不人!」
 今度は反対側の方向から彼を呼びかける者がいた。高校生らしきまだ幾分幼さを残した顔立ちの少女氷無月亜衣である。彼女はその緋色の目で彼を見つめた。
「やれやれ、君まで来たのかね・・・」
「貴方に会いに来たのよ、私」
 魔女である彼女は、風の精霊を使役してこの場まで何とかたどり着いた。それは単に不人への思慕の情のためだ。彼に会いたい。彼に近づきたい。その一心でここまで来たのである。正直、将門の影武者たちの事も気がかりであったが、自分のこの思いほど重要ではない。
「なるほど・・・。それでどうするのかね?」
「貴方の傍にいたい・・・。ただそれだけ」
 不人の胸へと飛び込んでいく氷無月。不人はそんな彼女を優しく抱きしめると、耳元で呟いた。
「ではきたまえ、暗黒の冥界へ」
 ズブリ。
 鈍い音を立てて、不人の持つ刀が彼女の胸を貫いた。鮮血が溢れ出しその胸を紅に染め上げる。
「あ・・・」
 胸に走る灼熱感に身を悶えさせながら、氷無月はスローモーションのようにドサリと地に倒れ付した。
「氷無月!不人、貴様!!!」
 仲間の叫び声を遠くに聞きながら、自分の意思が徐々に遠のいていくことを感じていた。だが、その心は満足感に満ちていた。ねば現世のしがらみから解放されて、心のままに生きることができるかもしれないと考えていたから。それは不人へ近づく唯一の道のようにも思えた。だんだん回りが暗くなっていく。耳が遠くなり、何も聞こえない。闇が自分を包み込んでいく。そんな感触が不思議と心地よかった。

<終結。そして・・・>

「美桜!」
 今にも自分の頭の上に振り下ろされそうな刀を前にした彼女は、懐かしい声を耳にした。死を前にした幻聴だろうか。
 だが、どうやら幻聴ではなかったらしい。いきなり鎧武者の顔に蹴りが入れられたかと思うと、自分を庇うかのように前に立ちはだかった青年が現れたからである。
「ムゥ・・・」
 鎧武者はうめき声を上げながら後ろに倒れた。予想外の攻撃を受けてかわすことができなかったのだ。蹴りを入れた青年は黒いコートをはためかせて神崎の方に振り返った。
「もう大丈夫だ。兄さんが傍にいる。何も怖がる事はないんだよ。」
「都築兄さん・・・」
 彼は彼女が兄のように慕う従兄弟であった。神崎は誰にも告げずに一人で来たつもりであったが、退魔師である都築亮一は、彼女について占ったところ式盤に危険が訪れていると出ていたので、急いで追ってきたのである。
「どうしてここが・・・」
「こいつがね、教えてくれたよ」
 そう言って彼が示したのは、肩に止まっている一羽の鳥であった。先に鳥の式神に先行させ神崎を探させていたのである。
「あのさ、どうでもいいかもしれないけどその鎧立ち上がってるよ」
 自分一人蚊帳の外に置かれ感動のご対面をしている二人に、不貞腐れながら卯月は告げた。後ろを見てみると確かに鎧武者が立ち上がっているではないか。都築に刀を突きつけ怒りに震えている。
「オノレ・・・。ワガガオヲアシゲニスルトハ。コノウラミハラサデオクベキカ・・・!」
「いいでしょう。こちらこそ大切な妹が傷つけられそうになったんです。覚悟してもらいましょうか」
「待ってください。都築兄さん」
 意外にもその彼を止めたのは神崎であった。
「美桜?」
「戦っては駄目です。話し合うことができればきっと・・・」
「この状態じゃ、そんなこと言ってられないと思うんだけど」
 卯月は神崎の言葉にあきれ返った。確かにいきなり刀で切り付けられ、今もいつ切りかかってくるかわからないほど殺気を充満させている相手に交渉も何もないだろう。都築も口には出さないが考えは同じようで懐から数枚の呪符を取り出す。だが・・・。
「ナニ・・・?ヒケトイウノカ。コノヨウナクツジョクヲウケテ・・・」
 突如鎧武者が意味不明な事を言い出した。どうやらこの場にいない何者かと話しているようだが、事情の分からない三人にとっては何が何だかさっぱり分からなかった。
「・・・ワカッタ。オヤカタサマノタメヒトマズココハヒコウゾ」
 不承不承頷くと、鎧武者の体は忽然と消え去るのだった。

 結局あまり手がかりは掴めなかったが、それは仕方が無いだろう。それ以来、公道に立ち込めていた霧も晴れ、鎧武者が出ることも無くなったとのことだ。重傷を負った氷無月は、病院に運ばれ、何とか一命は取り留めたらしい。不人もあの後すぐに撤退したが、これで引き下がるとは思えない。
 彼は言っていた。これは実験だと。ならば、将門が復活したその時彼らもまた再びその姿を現すのであろうか。 
   
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
    (あまなぎ・なでしこ)
0516/卯月・智哉/男/240/古木の精
    (うづき・ともや)
0376/巳主神・冴那/女/600/ペットショップオーナー
    (みすがみ・さえな)
0622/都築・亮一/男/24/退魔師
    (つづき・りょういち)
0413/神崎・美桜/女/17/高校生
    (かんざき・みお)
0442/美貴神・マリヱ/女/23/モデル
    (みきがみ・まりゑ)
0368/氷無月・亜衣/女/17/魔女
    (ひなづき・あい)
0095/久我・直親/男/27/陰陽師
    (くが・なおちか)
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
    (あまみや・かおる)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 将門七人侍〜復活への階V〜をお届けします。
 今回は樹海ということもあり、道を歩く対策をしていない方は迷ってしまう可能性があったのですが、大半の方が何らかしらの対策をされていたので、無事依頼を完了することができました(一部無事では無い方もいましたが)。
 おめでとうございます。
 影武者たちはいずこかへと消え去ってしまいました。彼らが再び現れる時、それは将門公の復活が為される時かもしれません。これからの作品にご期待いただければと思います。
 この作品に対するご意見、ご感想、ご要望等ございましたら、お気軽に私信を頂戴できればと思います。お客様のお声はなるだけ作品に反映させていただきたいと思います。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。