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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


壊れた季節の中で【事件編】
▼1通の手紙
ある日、草間武彦のもとに一通の招待状が届いた。
個人的な知り合いである相沢縁(あいざわ・ゆかり)の自宅の新築パーティへの招待状である。
相沢といえば有名な貿易会社で、一度だけ自宅を訪ねたら、ものすごい豪邸で驚いたことを良くおぼえている。
その相沢の家のパーティということは、各界の大物や芸能人も来るに違いない。
そういう雰囲気が好きではないし、フォーマル・ウェアも持ち合わせていない草間は、はなから行く気はない。
ただ招待状はもったいないので、誰か行きたい者がいれば、譲っても良いかなと思っていた――。
「さぁて、こういうのが好きそうなのは、誰だろうな…?」
ふわりと煙草の白煙が宙に消えた。


▼恋人たちの待ち合わせ
パーティ当日。
相沢邸の最寄駅で、4人は待ち合わせていた。
いちばんに到着した男性は、上品に着こなしているスーツの袖を少しまくって、腕時計に目をやった。
「ちょっと早すぎたかな…」
仕事で海外に行ったときに買った、有名なブランドのものである。
彼自身はブランドものに執着はないのだが、ひとつぐらい持っていても問題ないだろう、と同僚にすすめられて購入した。
約束の時間までまだ30分近くある。
初めて来たところなので、時間の予想がうまくいかなかった。
どこかに入って待つか、と辺りを見まわすと、ちょうど待ち合わせ場所が見える位置に喫茶店がある。
彼がそちらへ向かおうとすると、後ろから肩を叩かれた。
「和馬さん?」
彼――工藤和馬(くどう・かずま)が振り向くと、オーロラブルーのドレス姿の女性が微笑んでいた。
和馬の同業者にして恋人の、高橋理都(たかはし・りと)である。
「ずいぶん早かったんですね?」
「あ、ああ、うん…」
理都のドレス姿に見とれながら、和馬はうなずいた。
想像していたよりも、すごく綺麗だ。
「いつもの制服姿も素敵ですけど、フォーマルウェアもよくお似合いですね」
「理都も、すごくよく似合ってるよ」
照れたように言う和馬をほほえましく見つめ、理都は恋人の胸元に手を伸ばした。
「ありがとうございます。でも、ネクタイが曲がっていますよ、和馬さん」
「ああ、ごめん…」
頭を掻く和馬の後方に、知った顔が見えて理都はそちらに笑みを向ける。
「あら…」
「わぁっ、りとちゃんと和馬ちゃん、新婚さんみたーい♪」
きゃあっと黄色い声をあげたのは、保月真奈美(ほづき・まなみ)。
タッチセラピストをしている22歳の女性である。
年齢よりだいぶ若く見られてしまうことを気にしてか、今日の服装は大人っぽいドレスだ。
その真奈美と腕を組み、エスコートしているのは、花房翠(はなぶさ・すい)である。
「おいおい和馬。もう大人なんだから、ネクタイくらい自分で締めてくれよな?」
にやっと不敵に笑う彼は、めずらしいデザインのタキシードを身につけていた。
フリーのジャーナリストとして活躍している翠は、ふだんは移動に単車を使うため、動きやすい服装をしていることが多い。
そのため友人である理都や和馬の目から見ても、新鮮な印象だった。
「なんだ、ふたりとも早いじゃないか」
「ん?もうちょっとふたりだけで居たかったって?」
「そうじゃないけど」
翠にからかわれて、否定する和馬。その横で理都が唇をとがらせる。
「あら、違うんですか?せっかく、久しぶりに一緒のお休みがとれたのに」
国際線のパイロットとスチュワーデスとして働くふたりが、同じ日に休めることは珍しい。
「い、いや、そういう意味じゃなくてな」
「じゃあどういう意味なんです?」
ぷいっと理都にそっぽを向かれて、和馬は慌てて弁解した。
その様子を見ながら、翠と真奈美のカップルはクスクスと笑った。
「さて、少し早いけど…行くか、マナ?」
「うん、そうしよぉ!」


▼四季の館
相沢貿易とは、日本一大きな貿易会社である。
社長を務めるのは、相沢忠道(あいざわ・ただみち)。
今年で57歳になるが、自分自身で世界中を飛び回って、最前線で活躍しているという。
その妻、春恵(はるえ)も、もともとは相沢貿易で働いていた。
女性ながらもその腕を買われ、社長と共に現在の相沢貿易の礎(いしずえ)を築きあげたのである。
そのふたりの一人娘が、今回草間を招待した張本人だ。
名を縁(ゆかり)といい、草間の学生時代の友人である。
こうやって時々、向こうから連絡がくるほかは、全く交流がない。
草間が無精だということもあるが、それ以外にも、あまり会いたくない理由があったから。
「久しぶりね、草間くん」
ベビーピンクのドレスをまとった縁は、草間たちが挨拶に行くと、笑顔で歓迎してくれた。
漆黒のロングヘアはアップにされており、メイクも上品なものが施されている。
草間興信所チームのメンバーは、結局強引に連れてこられた草間武彦(くさま・たけひこ)を筆頭に、興信所でアルバイトをしているシュライン・エマ、不思議と草間に懐いている小日向星弥(こひなた・せいや)、宝飾デザイナーの慧蓮(えれん)・エーリエルと共の斗南。
それからフライト・アテンダントの高橋理都(たかはし・りと)に、その恋人でパイロットの工藤和馬(くどう・かずま)。彼らの友人で、フリージャーナリストをしている花房翠(はなぶさ・すい)と、タッチセラピストの保月真奈美(ほづき・まなみ)。彼らもまた恋人同士だ。
そして記憶喪失の大学生、大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)と、子供のような容貌ながらも頭のキレる夢崎英彦(むざき・ひでひこ)。
総勢11名が、縁の周りに集まっていた。
「ずいぶん大勢誘ってくれたのね?嬉しいわ」
全員の顔を見回して、縁はクスクスと笑った。
たしかに、思わず笑ってしまうくらいの大所帯ではある。
「どうも、パーティって響きに弱いらしくてな」
「ふふ…みなさん、今日はお越しいただいてありがとうございます。どうぞ楽しんでいらしてね」
草間と縁が並んでも、とても同級生には見えない。
それほど縁は若く――言い方を変えれば、童顔だった。
「あの、今日は招待してくれて、ありがとうございますっ」
ニコッと笑うのは真奈美である。
直接の面識はないが、挨拶はより良い人間関係を作るための基本だ。
その後ろから木箱を差し出したのは、理都。
「新築おめでとうございます。こちらは祖母の家で作っているワインなのですが、よかったら…」
「まあ、素敵だわ。産地はどちら?」
「フランスですわ。お口に合うと宜しいんですけれど…」
その後もそれぞれ簡単にが挨拶を済ませ、話題はこの豪邸のことへと移っていった。
この館は、広い正方形の土地の中心に立っている。
土地は、ちょうど東西南北に四隅が位置するように整地され、高い白壁が囲っている。
それぞれの隅から屋敷に向かって道が作られており、主な出入り口として使われるのは南側だ。
そして最大の特徴は、この豪邸は『四季の館』と名付けられていて、庭が季節ごとに4つに区域分けされている。
南東のエリアが春、南西のエリアが夏、北西のエリアが秋、北東のエリアが冬。
それぞれの季節にいちばん美しく咲く植物を、各庭に植えてあるのだ。
ちなみに、このパーティは『春』と『夏』の庭で行われている。
「ずいぶんと凝った設計なんですね。どなたが考えられたんです?」
熱い視線を送りながら、隆之介が訊いた。さりげなく、シュラインが彼の靴を踏みつける。
縁は、相変わらずの微笑で答えた。
「父に頼んで私が考えました。とはいっても、全体だけですけれど」
建物自体のデザインは、忠道氏の知り合いの建築家に任せたのだという。
「さて…」
近くのテーブルの料理に視線をやりながら、草間がつぶやいた。
「せっかくだから、そろそろ何か食いたいな。行くか、星弥」
「うん♪せーやも、ごちそう食べる〜」
トトト、と星弥が草間の後をついていく。
「じゃあ、俺たちも行こうか」
と、隣に立つ理都に優しく囁くのは、和馬である。
理都は笑顔で和馬を見上げ、うなずいた。
そのふたりの姿を羨ましそうに見ていた真奈美は、翠のスーツの袖を引っ張る。
「翠ちゃん。真奈美たちもいこっ」
「…だな。相沢さん、別の庭を散歩しても構わないか?」
翠が問うと、縁は申し訳なさそうにかぶりを振った。
「すみません。『秋』と『冬』は木々の手入れ中で、とてもお見せできるような状態じゃないのよ」
「そうかい…それは残念だ」
言葉ほど残念そうではないながらも、翠が肩をすくめた。
それから、隆之介と慧蓮はパーティを満喫することにし、シュラインと英彦は、縁の案内で四季の館の内部を見せてもらうことになった。


▼恋人たちのパーティ
「和馬さん、何を召し上がります?」
かいがいしくお皿に料理を取りながら、理都は隣を歩く和馬に尋ねた。
立食式のパーティ会場は、大勢の人で賑わっている。
ぱっと見ただけでも、テレビや雑誌で見かけたことのある人が沢山いた。
「そうだな…あのパエリアなんか、美味しそうだけど。あ、理都はワイン飲めたっけ?」
「ええ、大好きです」
パエリアを盛りつけながら、理都はうなずいた。
さきほど相沢縁に渡したのと同じワインが、祖母の家からたくさん送られてくる。
「じゃあ、ワイン貰ってくるから…」
和馬は給仕の男性に言って、赤ワインのグラス2つを受け取る。
「はい」
「ありがとうございます」
「…あいつらは?」
グラスを手渡して、和馬はキョロと辺りを見回した。
あいつら、とはもちろん、翠と真奈美のことである。
理都が、スッと白くて長い指をあげ、会場のスミをさした。
「あそこです。たぶん、花房さんが取材中なのではないかしら?」
そちらでは、翠がなにやら談笑している。その相手は大谷育也(おおたに・いくや)というアナウンサーだ。
女性絡みのトラブルが絶えないので、理都も和馬も、彼のことを良く知っていた。
とは言っても、もちろんプラウン管を通してのことだが。
「そんなことより…」
理都が、和馬の服の袖を、軽く引いた。
「お散歩がてら、お屋敷の中を見せていただけないでしょうか?」
「そうだな」
貿易会社を経営する相沢の屋敷だ。
世界各国のめずらしいものが、きっとたくさん置いてあることだろう。
その時、先に屋敷の中にシュラインと英彦を案内していった縁が戻ってきた。
申し訳ないと思いつつも、声をかけ、屋敷の中を見せてもらえるように頼んでみる。
「ええ、構わないわ。母のコレクションの食器は、見ていて楽しいと思いますけど」
縁は優しく笑うと、ふたりを『四季の館』へ招き入れてくれた。
「どうぞ、自由に御覧になってね」
案内された大広間――ちょっとした博物館のような雰囲気のそこには、様々な食器や置物、絵画などがディスプレイされていた。
縁は、他のパーティ客の相手をすると言って先に庭に戻った。
残された和馬と理都は、並んで、ゆっくり調度品を見ることにする。
「珍しいものばかりだな…」
職業柄、海外に行くことの多いふたりだが、それでも珍しいものばかりが集められていた。
「まぁ、和馬さん。このティーセット、とっても可愛いですよ」
ボヘミアン調の模様が細かく描かれたティーセットに、理都が目を輝かせた。
「そうだね」
うなずきながら、和馬はそのティーセットを記憶に焼き付けた。
いつか『ふたりの』家には、きっと同じものを…と思いながら。


▼事件発生
「キャアァ―――ッ!!」
突如、切り裂くような悲鳴が響いた。
パーティ会場はもちろん、屋敷の中にいても聞こえた。
どうやら悲鳴の出所は、『秋』か『冬』の庭のほうらしい。
ざわめくパーティ会場は、冷静な社長・忠道の対応により落ち着きを取り戻した。
忠道はすぐにガードマンを呼び、様子を見に行かせる。
ややあって、緊迫した表情でガードマンが戻ってくると、何事かを忠道に耳打ちした。
そして縁にもそれは伝えられ、その縁は草間を呼ぶ。
「何があった?」
真剣な面差しで問う草間に、縁は少し青ざめて、こう言った。

「『冬』の庭で、招待客の遠藤慎二さんが『殺されて』いるのが見つかったって――」


 壊れた季節の中で【調査編】 につづく

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■      登場人物(この物語に登場した人物の一覧)     ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】

【0365/大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)/男/300歳/大学生】

【0366/高橋理都(たかはし・りと)/女/24歳/スチュワーデス】

【0375/小日向星弥(こひなた・せいや)/女/100歳/確信犯的迷子】

【0487/慧蓮・エーリエル(えれん・―)/女/500歳/旅行者(兼宝飾デザイナー)】

【0505/工藤和馬(くどう・かずま)/男/27歳/パイロット】

【0523/花房翠(はなぶさ・すい)/男/20歳/フリージャーナリスト】

【0555/夢崎英彦(むざき・ひでひこ)/男/16歳/探求者】

【0633/保月真奈美(ほづき・まなみ)/女/22歳/タッチセラピスト】

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■              ライター通信               ■
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大変お待たせいたしました。
担当ライターの多摩仙太(たま・せんた)です。
今回は9人もの方に参加していただけて、とても嬉しく思います。
パーティはいかがでしたでしょうか?
次回の【調査編】に話は続きますが、参加は強制ではありませんので、もし興味があれば参加してみて下さい。
その場合は、初回からの参加ということで、プレイングへのプラス修正なども考えています。

それから、テラコンよりファンレターを送って下さったプレイヤーのみなさま。
お返事が滞っていて、大変申しわけありません。
いつも狂喜乱舞しながら読ませていただいております。
ヒマを見て必ずお返事いたしますので、もうしばらくお待ち下さい。

▼高橋理都さま、工藤和馬さま、花房翠さま、保月真奈美さま
みなさん、今回は参加していただいて、本当にどうもありがとうございました。
4人で相談なさって参加していただいたようで、とても嬉しいです。
ご期待に添えるよう、今回は4人+各カップルの行動に重点を置いてみました。
いかがでしたでしょうか?
今回のパーティで知り得た情報に関しては、もしも次回以降にも参加される場合には、きっと役に立つ情報になると思います。
またの機会にお目にかかれることを祈っています。
作品への感想やご意見はテラコンよりお気軽にお願いいたします。
それでは。