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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


壊れた季節の中で【事件編】
▼1通の手紙
ある日、草間武彦のもとに一通の招待状が届いた。
個人的な知り合いである相沢縁(あいざわ・ゆかり)の自宅の新築パーティへの招待状である。
相沢といえば有名な貿易会社で、一度だけ自宅を訪ねたら、ものすごい豪邸で驚いたことを良くおぼえている。
その相沢の家のパーティということは、各界の大物や芸能人も来るに違いない。
そういう雰囲気が好きではないし、フォーマル・ウェアも持ち合わせていない草間は、はなから行く気はない。
ただ招待状はもったいないので、誰か行きたい者がいれば、譲っても良いかなと思っていた――。
「さぁて、こういうのが好きそうなのは、誰だろうな…?」
ふわりと煙草の白煙が宙に消えた。


▼ナンパ師と少年
パーティの始まった相沢邸。
早すぎず遅すぎない時間に着くよう、家を出た夢崎英彦(むざき・ひでひこ)だったが、知り合いの顔は見えない。
今回は、立食式のガーデンパーティとして開かれているので、英彦は庭の片隅でグラスを傾けていた。
彼の公式年齢は16歳だが、とてもそうは見えない。
グレーのスーツを来ているその姿には、『七五三』の少年が紛れ込んでしまったかのような違和感がある。
とはいえ、誰かの連れなのだろうと、客たちはさして気にもとめていなかった。
グレープジュースを飲みながら、英彦は目を細める。
(馬鹿な奴らだ…人を外見でしか判断できないとは)
見たところ、どうやら芸能人や政治家なども多数来ているようだ。
鋭い視線を投げかけ、会場内を観察する。
(ふぅん、たしかあれは…)
人気俳優の遠藤慎二(えんどう・しんじ)。
一時期、その遠藤とのスキャンダルがささやかれたアイドル、三菱(みつびし)アリカ。
アナウンサーの大谷育也(おおたに・いくや)や、政治家の荒城禎人(あらき・さだと)などの姿が見えた。
そのほかにも、商業界の有力者なども多いのだが、話しかけにくそうだ。
英彦は荒城に目をつけ、そちらに接近した。
「あの、こんにちは!荒城さんですよね」
こういうときは『子供』であることを利用し、にこやかに接する。
そのほうが、相手の警戒心が弱まるからだ。しかも、多少は無礼なことを言っても構わないという利点もある。
「そうだが、なんだね君は」
既にアルコールが入って、やや顔を赤くしている荒城は、けげんそうに英彦を見下ろした。
「僕、この前テレビで荒城さんが、ご自分の主張を堂々とされているのを見て、感動したんです」
「ほぅ」
心にもない英彦の言葉に、荒城の顔がゆるむ。
「僕も大きくなったら、荒城さんのようになりたいなあって」
トドメに、英彦はにっこりと笑ってみせた。その視界に、ふいに長身の男の姿が飛び込んでくる。
その男には、黒を基調としたゴシックテイストなスーツがよく似合っていた。
やや長めの髪を後ろになでつけ、メンズ雑誌のモデルでもやっていそうな雰囲気だ。
(なんだ…ナンパか…?)
目を細める英彦の視線の先で、男は、いろいろな女性に手当たり次第に声をかけているようだった。
男の名は大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)。
彼もまた、草間の紹介を受けてやって来たひとりである。
大学生だが大学にはほとんど行かず、バイトと合コンを繰り返していたりする。
それというのも、運命の相手を見つけるためだ。
隆之介には、3年より前の記憶がない。
なぜ記憶がないのかもわからないのだが、漠然と、運命の相手がいるような気がして、日夜それを探しているというわけだ。
はたから見ればただのプレイボーイなのだが…。
「えっ、マジで?新曲出すんだ?」
「そうなのぉ。まだ内緒だけど、来月にねっ」
ちゃっかりと三菱アリカをつかまえて、会話を楽しんでいる。
「そっか。俺、アリカちゃんの歌聞いてると、不思議と癒される気がするんだよねー」
「ホントにぃ?」
「ホントだって。一日中聴いていたい声だなって思うよ?」
キラリ、と笑った隆之介の歯が光った…ように見えたとか見えなかったとか。

そうこうしているうちに『草間チーム』が全員到着したようだ。
一行は、揃って相沢縁(あいざわ・ゆかり)に挨拶しに行くことになった。


▼四季の館
相沢貿易とは、日本一大きな貿易会社である。
社長を務めるのは、相沢忠道(あいざわ・ただみち)。
今年で57歳になるが、自分自身で世界中を飛び回って、最前線で活躍しているという。
その妻、春恵(はるえ)も、もともとは相沢貿易で働いていた。
女性ながらもその腕を買われ、社長と共に現在の相沢貿易の礎(いしずえ)を築きあげたのである。
そのふたりの一人娘が、今回草間を招待した張本人だ。
名を縁(ゆかり)といい、草間の学生時代の友人である。
こうやって時々、向こうから連絡がくるほかは、全く交流がない。
草間が無精だということもあるが、それ以外にも、あまり会いたくない理由があったから。
「久しぶりね、草間くん」
ペールブルーのドレスをまとった縁は、草間たちが挨拶に行くと、笑顔で歓迎してくれた。
漆黒のロングヘアはアップにされており、メイクも上品なものが施されている。
草間興信所チームのメンバーは、結局強引に連れてこられた草間武彦(くさま・たけひこ)を筆頭に、興信所でアルバイトをしているシュライン・エマ、不思議と草間に懐いている小日向星弥(こひなた・せいや)、宝飾デザイナーの慧蓮(えれん)・エーリエルと共の斗南。
それからフライト・アテンダントの高橋理都(たかはし・りと)に、その恋人でパイロットの工藤和馬(くどう・かずま)。彼らの友人で、フリージャーナリストをしている花房翠(はなぶさ・すい)と、タッチセラピストの保月真奈美(ほづき・まなみ)。彼らもまた恋人同士だ。
そして記憶喪失の大学生、大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)と、子供のような容貌ながらも頭のキレる夢崎英彦(むざき・ひでひこ)。
総勢11名が、縁の周りに集まっていた。
「ずいぶん大勢誘ってくれたのね?嬉しいわ」
全員の顔を見回して、縁はクスクスと笑った。
たしかに、思わず笑ってしまうくらいの大所帯ではある。
「どうも、パーティって響きに弱いらしくてな」
「ふふ…みなさん、今日はお越しいただいてありがとうございます。どうぞ楽しんでいらしてね」
草間と縁が並んでも、とても同級生には見えない。
それほど縁は若く――言い方を変えれば、童顔だった。
「あの、今日は招待してくれて、ありがとうございますっ」
ニコッと笑うのは真奈美である。
直接の面識はないが、挨拶はより良い人間関係を作るための基本だ。
その後ろから木箱を差し出したのは、理都。
「新築おめでとうございます。こちらは祖母の家で作っているワインなのですが、よかったら…」
「まあ、素敵だわ。産地はどちら?」
「フランスですわ。お口に合うと宜しいんですけれど…」
その後もそれぞれ簡単にが挨拶を済ませ、話題はこの豪邸のことへと移っていった。
この館は、広い正方形の土地の中心に立っている。
土地は、ちょうど東西南北に四隅が位置するように整地され、高い白壁が囲っている。
それぞれの隅から屋敷に向かって道が作られており、主な出入り口として使われるのは南側だ。
そして最大の特徴は、この豪邸は『四季の館』と名付けられていて、庭が季節ごとに4つに区域分けされている。
南東のエリアが春、南西のエリアが夏、北西のエリアが秋、北東のエリアが冬。
それぞれの季節にいちばん美しく咲く植物を、各庭に植えてあるのだ。
ちなみに、このパーティは『春』と『夏』の庭で行われている。
「ずいぶんと凝った設計なんですね。どなたが考えられたんです?」
熱い視線を送りながら、隆之介が訊いた。さりげなく、シュラインが彼の靴を踏みつける。
縁は、相変わらずの微笑で答えた。
「父に頼んで私が考えました。とはいっても、全体だけですけれど」
建物自体のデザインは、忠道氏の知り合いの建築家に任せたのだという。
「さて…」
近くのテーブルの料理に視線をやりながら、草間がつぶやいた。
「せっかくだから、そろそろ何か食いたいな。行くか、星弥」
「うん♪せーやも、ごちそう食べる〜」
トトト、と星弥が草間の後をついていく。
「じゃあ、俺たちも行こうか」
と、隣に立つ理都に優しく囁くのは、和馬である。
理都は笑顔で和馬を見上げ、うなずいた。
そのふたりの姿を羨ましそうに見ていた真奈美は、翠のスーツの袖を引っ張る。
「翠ちゃん。真奈美たちもいこっ」
「…だな。相沢さん、別の庭を散歩しても構わないか?」
翠が問うと、縁は申し訳なさそうにかぶりを振った。
「すみません。『秋』と『冬』は木々の手入れ中で、とてもお見せできるような状態じゃないのよ」
「そうかい…それは残念だ」
言葉ほど残念そうではないながらも、翠が肩をすくめた。
それから、隆之介と慧蓮はパーティを満喫することにし、シュラインと英彦は、縁の案内で四季の館の内部を見せてもらうことになった。


▼再会
「ここが我が家の書斎です」
縁の案内で、シュラインと英彦は大きな部屋に通された。
『書斎』と草間興信所がまるまる2つくらい入りそうな、広い部屋である。
ずらりと並べられた世界中の本に、シュラインは悲鳴をあげた。
もちろん、歓喜の声である。
「すごいわ…これ、もう絶版になっている詩集シリーズですよね?」
書架に駆け寄って、恐る恐るハードカバーの本を手に取った。
「ええ。父が以前、贈り物として頂いたものなんだけど…どなたからだったかしら…」
縁は小首を傾げ、それから諦めたふうに苦笑する。
「忘れてしまいました」
「あの、しばらくこちらを見せていただいて構いませんか?」
「もちろん」
シュラインの申し出を快諾し、退屈そうにしている英彦に尋ねる。
「夢崎くんは、どこか見たいところは?」
「ここで構いませんよ」
『余所行きの顔』で英彦は答えた。
「じゃあ、気が向いたらまた会場のほうにいらしてね。なにかあったら、家の者に申し付けてくれればいいし」
言って、縁は書斎を後にした。
「また会えたな」
英彦は窓に歩み寄り、外の様子を観察しながら、シュラインに声をかける。
シュラインは詩集を熱心に繰りながら、
「そうね。偶然だけど」
そのそっけない返事に、英彦は唇をゆがませた。
以前、別件で知り合ったときに『ひとめぼれ』し、そしてすぐに玉砕した。
直接会うのはそれ以来なのだが、こうもそっけなくされると笑うしかない。
英彦は、もしかしたら会えるかもしれない、と賭けてきたというのに…。
「本当にあなたは、つれないな…」
「ちゃんとお断りしたでしょう?しつこい人は嫌いだわ」
本から顔を上げることなく、シュラインはぴしゃりと言い放った。
別に想い人がいる彼女の気持ちは、変わることはないのかもしれない。
それでも、英彦は諦めるつもりなどなかったが。
「井関悠(いせき・ゆう)、来てる?」
「…誰だって?」
突然の問いに、英彦は振り返る。
相変わらずの姿勢で、シュラインはそこにいた。
「元冬季五輪のスキー選手で、現在スポーツアナの井関」
「ああ…あいつか」
その人物の姿を庭に探すと、会場の中心で盛り上がっている一団の中に、井関がいた。
「なにか関係が?」
「前に仕事――本業のほうで、ね」
井関は、現役スキー選手時代の自伝を『自ら執筆』と称して発行したのだが、実はそれはシュラインが書いたのである。
いわゆるゴーストライターだ。
「ふん…」
つまらなそうに英彦は鼻を鳴らす。
そして静寂が訪れた。
ただしそれは、決して冷たい雰囲気の静寂ではなかったけれど。


▼事件発生
「キャアァ―――ッ!!」
突如、切り裂くような悲鳴が響いた。
パーティ会場はもちろん、屋敷の中にいても聞こえた。
どうやら悲鳴の出所は、『秋』か『冬』の庭のほうらしい。
ざわめくパーティ会場は、冷静な社長・忠道の対応により落ち着きを取り戻した。
忠道はすぐにガードマンを呼び、様子を見に行かせる。
ややあって、緊迫した表情でガードマンが戻ってくると、何事かを忠道に耳打ちした。
そして縁にもそれは伝えられ、その縁は草間を呼ぶ。
「何があった?」
真剣な面差しで問う草間に、縁は少し青ざめて、こう言った。

「『冬』の庭で、招待客の遠藤慎二さんが『殺されて』いるのが見つかったって――」


 壊れた季節の中で【調査編】 につづく

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■      登場人物(この物語に登場した人物の一覧)     ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】

【0365/大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)/男/300歳/大学生】

【0366/高橋理都(たかはし・りと)/女/24歳/スチュワーデス】

【0375/小日向星弥(こひなた・せいや)/女/100歳/確信犯的迷子】

【0487/慧蓮・エーリエル(えれん・―)/女/500歳/旅行者(兼宝飾デザイナー)】

【0505/工藤和馬(くどう・かずま)/男/27歳/パイロット】

【0523/花房翠(はなぶさ・すい)/男/20歳/フリージャーナリスト】

【0555/夢崎英彦(むざき・ひでひこ)/男/16歳/探求者】

【0633/保月真奈美(ほづき・まなみ)/女/22歳/タッチセラピスト】

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■              ライター通信               ■
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大変お待たせいたしました。
担当ライターの多摩仙太(たま・せんた)です。
今回は9人もの方に参加していただけて、とても嬉しく思います。
パーティはいかがでしたでしょうか?
次回の【調査編】に話は続きますが、参加は強制ではありませんので、もし興味があれば参加してみて下さい。
その場合は、初回からの参加ということで、プレイングへのプラス修正なども考えています。

それから、テラコンよりファンレターを送って下さったプレイヤーのみなさま。
お返事が滞っていて、大変申しわけありません。
いつも狂喜乱舞しながら読ませていただいております。
ヒマを見て必ずお返事いたしますので、もうしばらくお待ち下さい。

▼夢崎英彦さま
はじめての参加、ありがとうございました。
なかなかキャラを掴むのに苦労しましたが、今回の描写はいかがでしたでしょうか?
パーティ参加への2つの目的は、ともにクリアすることができた(2つ目は微妙でしょうか)と思います。
もしも続けてご参加下さる場合は、今回した『人間観察』はプラスの方向で働いていくと思いますよ。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
それでは、またの機会にお会いできることを祈りつつ、失礼いたします。