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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


壊れた季節の中で【事件編】
▼1通の手紙
ある日、草間武彦のもとに一通の招待状が届いた。
個人的な知り合いである相沢縁(あいざわ・ゆかり)の自宅の新築パーティへの招待状である。
相沢といえば有名な貿易会社で、一度だけ自宅を訪ねたら、ものすごい豪邸で驚いたことを良くおぼえている。
その相沢の家のパーティということは、各界の大物や芸能人も来るに違いない。
そういう雰囲気が好きではないし、フォーマル・ウェアも持ち合わせていない草間は、はなから行く気はない。
ただ招待状はもったいないので、誰か行きたい者がいれば、譲っても良いかなと思っていた――。
「さぁて、こういうのが好きそうなのは、誰だろうな…?」
ふわりと煙草の白煙が宙に消えた。


▼いざ、相沢邸へ
草間興信所の応接室に、真剣な表情の男女が3人いた。
無論、ひとりは草間武彦である。
草間は、依頼人が来たときに使う応接セットの『指定席』に座り、テーブルの上に視線を落としていた。
その膝の上に座って、同じようにテーブルの上を見ているのは、小日向星弥(こひなた・せいや)だ。
見た目も言動も6〜7歳の少女だが、実は由緒正しき天孤(てんこ)の一族の『姫』であり、年齢も100歳をこえる。
出し入れ自由の『耳』と『尻尾』を、今はオープンにしていた。
そして、彼らの正面に座っているのが、この興信所でバイトをしているシュライン・エマである。
本業は翻訳とゴーストライターなのだが、ささやかな生活レベルの上昇とネタ収集も兼ねて、アルバイトをしているのだ。
そのシュラインもテーブルの上――いや、テーブルの上に置かれた招待状をじっと見つめていた。
「もちろん、パーティには行ってみたいけど…」
逡巡しながら、上目遣いに草間に視線を送る。
「武彦さん、ホントに行かないの?」
「ああ。何年か前にも行ったことがあるんだが、俺の肌には合わん」
キッパリと言いきって、草間はポケットの煙草を探った。が、膝の上の星弥の存在に気付いて、手を戻した。
それを聞いて、口ごもるのはシュラインである。
「そ、そうなんだ…一緒に行きたかったなぁ、なんて…」
「は?何だって?」
後半は今にも消え入りそうな声の大きさだったので、草間は眉間にしわを寄せた。
「な、なんでもないっ」
慌てて両手を振るシュライン。草間が鈍感で助かったと感じる反面、いつまでも気付いてくれないことに、もどかしさも感じる。
「せーやは武彦といっしょに行きたいな〜」
それまで膝の上で大人しくしていた星弥が、草間の首にしがみついた。
星弥は、先日草間に子供用のドレスを買ってもらったので、それを着ていくのだと張りきっている。
「シュラインが一緒だから、いいだろう?」
「でも、せーやはシュラインと武彦とお出かけしたいんだもん。だめ?」
小首をかしげて、星弥は訊ねた。
ぐっ、と言葉に詰まる草間。
子供の頼みを無下に断ることもできない…しかしあの雰囲気は苦手だ…と苦悩する。
その時、興信所のインターホンが来客を告げた。
「お、依頼かな…」
草間は『天の助け』とばかりに腰を上げる。それよりも早く、シュラインがドアを開けた。
「こんにちは」
「あら…貴女はたしか」
ドアの向こうには、ウェーブのかかった銀色の髪と赤色の瞳という、ミステリアスな容貌の少女が立っていた。
黒猫を片手で抱き、微笑を浮かべている彼女の名は、慧蓮(えれん)・エーリエルという。
『Kaether(ケテル)』というブランドで宝飾デザイナーを手がける慧蓮も、星弥と同じく、見た目どおりの年齢ではない。
12〜3歳のまま外見は成長することなく、ゆうに500年は生きているのだ。
「お久しぶりね、シュラインさん。草間さんはいらっしゃる?」
「ええ。もしかして、貴女もパーティの件で?」
慧蓮と愛猫の斗南を招き入れつつ、シュラインは訊いた。
「わー、猫さんだぁ☆」
トテトテと星弥が走ってきて、斗南の前にしゃがみこむ。
動物と話をする能力のある星弥は、何事かを斗南と話し始めた。
「よう、慧蓮。呼びだして悪かったな」
軽く片手をあげて、挨拶する草間。
「いいえ。でも草間さんが私に用だなんて、珍しいわね。…それで、パーティの件っていうのは?」
「まぁ、これなんだけどな…」
慧蓮にソファをすすめ、草間は招待状を渡した。
シュラインはコーヒーをいれるため、一旦部屋を去る。
「代わりに行けってことかしら?…駄目よ、相手の方に失礼だわ」
悪戯っぽい瞳で草間を見上げ、慧蓮は苦笑した。
「まぁ、あなたがそう言う場所が苦手なのはわかっているけど…どなたからの招待状なの?」
「相沢貿易」
「あら。そういうことなら、私は役に立てそうもないわ」
慧蓮はゆったりとかぶりを振った。
「なんでだ?」
「だって、相沢の縁(ゆかり)お嬢様は、私のお得意さまだもの。当然、ご招待を受けているわ」
慧蓮が答えると、草間はガックリと肩を落とした。とにかく、なにがなんでもパーティには参加したくないらしい。
それに気付いた慧蓮は、わざと意地の悪い提案をした。
「ねぇ、私がフォーマルウェアを見立てて差し上げるわ。だからご一緒しましょう?シュラインさんと、あの子もね」
と、斗南と戯れる星弥に目をやる。
「そうよ、武彦さんも一緒に行ったほうがいいわよ」
コーヒーをトレーに乗せて帰ってきたシュラインも、横から口を添えた。
「初対面の相沢さんに謝ったりするの、イヤよ」
「まあ、それはそうだがな…」
「武彦がいっしょに来てくれないと、せーや、まちがってお耳としっぽ出しちゃうかも〜」
ぎゅっと斗南を抱きかかえ、星弥も言った。斗南もニャアと小さく鳴く。
「っていうかそれ…脅しか…?」
うなだれて、星弥の頭をなでる草間。ハードボイルドな探偵業を営んでいても、子供には弱いらしい。
「わかったよ、行けばいいんだろ」
その一言に、星弥は歓声をあげ、シュラインと慧蓮は顔を見合わせて微笑んだ。

3日後の日曜。パーティ当日である。
慧蓮の見立てでフォーマルウェアを揃えた一行は、そろって相沢邸へと向かった。


▼四季の館
相沢貿易とは、日本一大きな貿易会社である。
社長を務めるのは、相沢忠道(あいざわ・ただみち)。
今年で57歳になるが、自分自身で世界中を飛び回って、最前線で活躍しているという。
その妻、春恵(はるえ)も、もともとは相沢貿易で働いていた。
女性ながらもその腕を買われ、社長と共に現在の相沢貿易の礎(いしずえ)を築きあげたのである。
そのふたりの一人娘が、今回草間を招待した張本人だ。
名を縁(ゆかり)といい、草間の学生時代の友人である。
こうやって時々、向こうから連絡がくるほかは、全く交流がない。
草間が無精だということもあるが、それ以外にも、あまり会いたくない理由があったから。
「久しぶりね、草間くん」
ペールブルーのドレスをまとった縁は、草間たちが挨拶に行くと、笑顔で歓迎してくれた。
漆黒のロングヘアはアップにされており、メイクも上品なものが施されている。
草間興信所チームのメンバーは、結局強引に連れてこられた草間武彦(くさま・たけひこ)を筆頭に、興信所でアルバイトをしているシュライン・エマ、不思議と草間に懐いている小日向星弥(こひなた・せいや)、宝飾デザイナーの慧蓮(えれん)・エーリエルと共の斗南。
それからフライト・アテンダントの高橋理都(たかはし・りと)に、その恋人でパイロットの工藤和馬(くどう・かずま)。彼らの友人で、フリージャーナリストをしている花房翠(はなぶさ・すい)と、タッチセラピストの保月真奈美(ほづき・まなみ)。彼らもまた恋人同士だ。
そして記憶喪失の大学生、大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)と、子供のような容貌ながらも頭のキレる夢崎英彦(むざき・ひでひこ)。
総勢11名が、縁の周りに集まっていた。
「ずいぶん大勢誘ってくれたのね?嬉しいわ」
全員の顔を見回して、縁はクスクスと笑った。
たしかに、思わず笑ってしまうくらいの大所帯ではある。
「どうも、パーティって響きに弱いらしくてな」
「ふふ…みなさん、今日はお越しいただいてありがとうございます。どうぞ楽しんでいらしてね」
草間と縁が並んでも、とても同級生には見えない。
それほど縁は若く――言い方を変えれば、童顔だった。
「あの、今日は招待してくれて、ありがとうございますっ」
ニコッと笑うのは真奈美である。
直接の面識はないが、挨拶はより良い人間関係を作るための基本だ。
その後ろから木箱を差し出したのは、理都。
「新築おめでとうございます。こちらは祖母の家で作っているワインなのですが、よかったら…」
「まあ、素敵だわ。産地はどちら?」
「フランスですわ。お口に合うと宜しいんですけれど…」
その後もそれぞれ簡単にが挨拶を済ませ、話題はこの豪邸のことへと移っていった。
この館は、広い正方形の土地の中心に立っている。
土地は、ちょうど東西南北に四隅が位置するように整地され、高い白壁が囲っている。
それぞれの隅から屋敷に向かって道が作られており、主な出入り口として使われるのは南側だ。
そして最大の特徴は、この豪邸は『四季の館』と名付けられていて、庭が季節ごとに4つに区域分けされている。
南東のエリアが春、南西のエリアが夏、北西のエリアが秋、北東のエリアが冬。
それぞれの季節にいちばん美しく咲く植物を、各庭に植えてあるのだ。
ちなみに、このパーティは『春』と『夏』の庭で行われている。
「ずいぶんと凝った設計なんですね。どなたが考えられたんです?」
熱い視線を送りながら、隆之介が訊いた。さりげなく、シュラインが彼の靴を踏みつける。
縁は、相変わらずの微笑で答えた。
「父に頼んで私が考えました。とはいっても、全体だけですけれど」
建物自体のデザインは、忠道氏の知り合いの建築家に任せたのだという。
「さて…」
近くのテーブルの料理に視線をやりながら、草間がつぶやいた。
「せっかくだから、そろそろ何か食いたいな。行くか、星弥」
「うん♪せーやも、ごちそう食べる〜」
トトト、と星弥が草間の後をついていく。
「じゃあ、俺たちも行こうか」
と、隣に立つ理都に優しく囁くのは、和馬である。
理都は笑顔で和馬を見上げ、うなずいた。
そのふたりの姿を羨ましそうに見ていた真奈美は、翠のスーツの袖を引っ張る。
「翠ちゃん。真奈美たちもいこっ」
「…だな。相沢さん、別の庭を散歩しても構わないか?」
翠が問うと、縁は申し訳なさそうにかぶりを振った。
「すみません。『秋』と『冬』は木々の手入れ中で、とてもお見せできるような状態じゃないのよ」
「そうかい…それは残念だ」
言葉ほど残念そうではないながらも、翠が肩をすくめた。
それから、隆之介と慧蓮はパーティを満喫することにし、シュラインと英彦は、縁の案内で四季の館の内部を見せてもらうことになった。


▼ナンパ師と探偵、少女たち
「慧蓮ちゃん、何か食べる?」
隆之介はブランドものの皿を手に取り、慧蓮に訊ねた。
相手が子供であれ(とはいっても慧蓮は実は500年ほど生きているのだが)、女性には優しいのだ。
黒のレースをふんだんに使ったドレス姿の慧蓮は、小さくかぶりを振る。
「飲み物だけ、いただこうかしら」
「そうか。何がいいかな――あ、すいません」
給仕の男を呼び止めて、隆之介は『子供でも飲めるものを』と頼んだ。
給仕は銀のトレーの上からグラスをひとつ取り、隆之介に渡した。
「白ブドウのジュースだって。どうかな?」
「ええ、どうもありがとう」
グラスを渡しながら慧蓮の胸元に目をやると――決していやらしい気持ちではない――、趣向を凝らしたデザインのペンダントが輝いているのに気がつく。
ジュースのグラスを渡しながら、隆之介はそっと手を伸ばした。
「ずいぶんと綺麗だな…これはどこで?」
身じろぎひとつせず、慧蓮は微笑んで答える。
「これは私がデザインしたものなのよ」
「えぇ!?マジで?」
普段は、いらぬ混乱を招かないよう職業を隠している慧蓮だったが、草間を通じての知り合いだということであれば、今後も一緒に仕事をする機会があるかもしれない。
そのため宝飾デザイナーをしているということを、あっさりと明かした。
まるで小学生のような外見の少女が、宝飾デザインの仕事をしているとは、夢にも思うまい。
「りゅーのすけー、せーやもごちそう食べるのー」
「はいよ、お姫様…ってもう食ってるじゃんか」
隆之介の長い足にまとわりついてきた星弥の手には、お皿いっぱいのデザート。
「まあ、あんまり食べ過ぎると虫歯になるわよ?」
くすくすと慧蓮が笑うと、星弥もニパッと笑顔になった。
「だいじょーぶ、あとで武彦といっしょに歯磨きするもんっ」
「すっかりお父さんだな、草間さん」
笑いをかみ殺しながら、隆之介はチラリと草間に目をやった。
「せめてお兄さんにしてくれ…」
なんだかんだで料理をしこたま皿に載せて、草間はため息をついた。
『義理は果たしたから、今すぐにでも帰りたい』といったふうである。
「あっ、あのコ、めちゃめちゃ俺好み♪」
「大上…お前、少しは人の話を聞けよ」
遠くを歩いている若い女性を目で追う隆之介に、草間はさらに深々とため息をついた。
隆之介はアハハと頭を掻き、
「いやでも彼女、俺の運命の娘かもしれねぇし」
「せーやも、うんめいがいいのー♪」
「そうだな。もうちょっと大人になったら、お兄ちゃんと付き合おうな?」
隆之介と星弥が笑い合うのを見て、草間が間に割り込んだ。
「絶対に、お前だけは駄目だっ!」
やはり気分は『お父さん』らしい。
「星弥ちゃんの恋人になる人は、きっと大変ね?」
慧蓮がいたずらっぽく微笑むと、草間は気まずそうに沈黙する。
それを見て隆之介はさらに大爆笑し、状況を把握していない星弥は、ぴょんぴょんとドレスの裾を翻しながら、飛び跳ねるのだった。



▼事件発生
「キャアァ―――ッ!!」
突如、切り裂くような悲鳴が響いた。
パーティ会場はもちろん、屋敷の中にいても聞こえた。
どうやら悲鳴の出所は、『秋』か『冬』の庭のほうらしい。
ざわめくパーティ会場は、冷静な社長・忠道の対応により落ち着きを取り戻した。
忠道はすぐにガードマンを呼び、様子を見に行かせる。
ややあって、緊迫した表情でガードマンが戻ってくると、何事かを忠道に耳打ちした。
そして縁にもそれは伝えられ、その縁は草間を呼ぶ。
「何があった?」
真剣な面差しで問う草間に、縁は少し青ざめて、こう言った。

「『冬』の庭で、招待客の遠藤慎二さんが『殺されて』いるのが見つかったって――」


 壊れた季節の中で【調査編】 につづく

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■      登場人物(この物語に登場した人物の一覧)     ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】

【0365/大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)/男/300歳/大学生】

【0366/高橋理都(たかはし・りと)/女/24歳/スチュワーデス】

【0375/小日向星弥(こひなた・せいや)/女/100歳/確信犯的迷子】

【0487/慧蓮・エーリエル(えれん・―)/女/500歳/旅行者(兼宝飾デザイナー)】

【0505/工藤和馬(くどう・かずま)/男/27歳/パイロット】

【0523/花房翠(はなぶさ・すい)/男/20歳/フリージャーナリスト】

【0555/夢崎英彦(むざき・ひでひこ)/男/16歳/探求者】

【0633/保月真奈美(ほづき・まなみ)/女/22歳/タッチセラピスト】

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■              ライター通信               ■
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大変お待たせいたしました。
担当ライターの多摩仙太(たま・せんた)です。
今回は9人もの方に参加していただけて、とても嬉しく思います。
パーティはいかがでしたでしょうか?
次回の【調査編】に話は続きますが、参加は強制ではありませんので、もし興味があれば参加してみて下さい。
その場合は、初回からの参加ということで、プレイングへのプラス修正なども考えています。

それから、テラコンよりファンレターを送って下さったプレイヤーのみなさま。
お返事が滞っていて、大変申しわけありません。
いつも狂喜乱舞しながら読ませていただいております。
ヒマを見て必ずお返事いたしますので、もうしばらくお待ち下さい。

▼慧蓮・エーリエルさま
はじめての参加、ありがとうございました。
プレイングとイラストからのイメージが、執筆にとても役立ちました。
可愛い外見に反して、ピリリと大人なところを表現できていると良いのですが、いかがでしたでしょうか?
慧蓮さんのおかげで、草間をパーティに引っ張っていくことができました。
そういった意味では、今回いちばんの功労者かもしれませんね。
黒猫・斗南氏ももう少し書いてみたかったのですが、それはまたの機会に。
それでは、このへんで失礼いたします。