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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下の受難物語

■冒 頭
 今日も月刊アトラス編集部は、慌しい一日を消化している。
「編集長ぉぉぉぉ、どうしてですかぁぁぁぁ」
「どうしてですって!?これのどこら辺が面白い記事なのか、説明してごらんなさい!」
 そんな中、三下の相変わらず情けない声が木霊した。場所は編集長である麗香の机の前。眼鏡の奥で
必死に涙を堪える三下の目前で、無情にも遂先ほど書き上げた原稿は、シュレッダーによって粉砕されて
いく。
 ガクリと両肩を落とす三下に、麗香ははぁと深い溜息を洩らした。
「全く……。ほら、この取材にでも行って来なさい」
「えっ?」
 差し出された一枚の用紙に、三下は麗香の顔を覗き込む。
「オリエンテーリングの怪……?」
「そう。此処の大きな広場は、オリエンテーリングの場所としても利用されているんだけど、4つあるポイント
毎に、必ず変なことが起こるらしいのよ。どう?取材する?」
「編集長、ありがとうございます!この三下、必ずきっちり取材して参ります!!」
 三下は麗香に抱きつかんばかりに喜んだ。
 しかし次の瞬間には、それは奈落の底へと突き落とされることになる。
「あっ言い忘れていたけど、恐らく霊が関係してると思うから、それらに耐性のある人間を連れて行くように
してね。じゃないと取材にならないでしょう」
「編集長??……ボクそういうのは、チョット……」
「あら、そう。別に行かなくてもいいわよ。但し今度没原稿持ってきたら、クビを覚悟しなさいね」
「へんしゅうちょぉぉぉぉぉぉう」
 麗香の厳しいお達しに、三下は取材に行くことを渋々承諾した。

■集合─龍之助・想司・凪・朱姫─
 アトラス編集部入り口付近には、今回の取材に同行する人間が勢揃いしていた。
 長身に褐色の肌をした高校生、湖影龍之助。小柄で一見すると少女と見間違ってしまいそうな、水野想司。
長い黒髪とどこか浮世離れした雰囲気を纏っている、白霞凪。凪同様、長い黒髪に金色の瞳が印象的な矢塚朱姫
の四人だ。
「三下さんと一緒に散歩ッスか!?勿論一緒に行くに決まってるじゃないッスか☆」
 龍之助は元気一杯、愛情一杯で、三下にむぎゅうと抱き付く。
 この龍之助。何故か三下に淡い恋心を抱いていたおり、抱き付き終わると今度は両手をガシリと掴んで、上下
にブンブン振り回している。心はもう果てしなく、“三下ラヴ”な状態らしい。
 しかしそんな彼らの横で、凪がおや?と不思議顔をしてみせた。
「今日は三下さんと、散歩だったのですか?」
 それもそのはず。
 凪を初めとする想司も朱姫も、霊的な場所を取材するからという理由で此処に来てはいたが、決して三下と
散歩がしたくて足を運んだわけではない。そんな理由なら、絶対に来なかっただろう。
 龍之助を除いては………。
 だから凪の疑問に、朱姫が即答した。
「いや、違うぞ」
「そうそう。今回の取材は三下さんの真の力を覚醒させる、絶好の機会なんだよっ☆(はあと)」
「えっ!?」
 辛くも龍之助から逃げ切っていた三下は、想司の後ろに回り込みながら青褪め、絶句する。
「ちょーっと待つッス!!なんなんすか!?その最後の“はあと”は。三下さんは俺とラブラブするんです
から、横槍は駄目ッスよ」
「それ以前に、同性同士というのは問題ではないのか?」
 朱姫が根本的な問題を口にする。凪に至ってはきょとんと、取り残されたような表情を浮かべていた。
 どうも龍之助と想司の攻防には、常識では測れないものがあるらしい。
 ただ想司に関しては、単純に三下を気に入っているだけなのだが……。
「龍之助クンは判ってないなぁ。あれだけの不幸を呼び寄せ、生還している三下さんは、内に僕と同じ修羅を
秘めているからなんだよ…☆それに散歩じゃなくて、取材でしょ」
「同じ修羅なんて関係ないッスよ。俺は愛しの三下さんの為なら、どこまでも〜ってね♪」
 龍之助は逃げた三下に名残惜しそうな視線を送りつつ、決してへこたれない精神を全身で表した。
 どうやら龍之助の熱意……もとい恋心は、そう簡単に鎮火するものではないらしい。
「取り合えず、龍之助くんの気持ちはさておき、さっさと行ってくれないかしら?」
 このままでは埒が開かないと、麗香は目を通していた原稿から一旦視線を外し三下を見る。
「はっ、はい。そうします!」
「それでは、私達も向かいましょう。各ポイントについて、どこを始めに行くかは、私よりも土地勘のある
三下さんにお任せします」
 凛とした姿勢で、凪が一歩前に出て扉を開く。
「それじゃ行って来るねっ☆」
 想司は麗香にヒラリと手を振って、凪の後を追った。
「三下のことは大丈夫。私が守ってあげるから。そうだ!不安なら手を繋いで行こうか?」
「いっいいんですか!?」
 麗香に声を掛けた後、三下へと手を差し出してくる朱姫。それに三下はほんのりと頬を染めて、手を差し出
そうとした。こういう機会でもなければ、朱姫のように綺麗な女の子と手を繋ぐことなどない!と、三下の脳内
で叫び声が上がったのだ。
 しかし三下の手が朱姫と繋がることはなく、その手は龍之助がガッチリ掴む結果になる。
「三下さんは俺と手を繋げばいいッスよね♪」
「えぇぇぇぇぇえ!!」
 手を離しそうにない龍之助に、三下はこれでもかというくらい落胆の色を表した。
「そう?それじゃ早く取材してこよう」
「矢塚さぁぁぁぁん」
 さっさと編集部を後にする朱姫に、助けを求める三下の声が木霊する。
 その体を引き摺るようにして、龍之助と三下も扉の向こうへと消えて行った。

■第1のポイント
「どうやら……此処みたいですね」
 凪は表情一つ変えないまま、目印となるポイントを眺める。
 此処に辿り着くのに、何度地図を読み違え、方位を反対方向に進んだことか。全て三下のミスなのだが、
それらを問題にする者はいなかった。したところで時間が取り戻せるわけではないし、ポイントに辿り着ければ
それで問題はないのだ。
 それに探している最中、三下の横で龍之助のセクハラに近い行為を目の当たりにしていた一行は、到着出来た
ことに心底ホッとしていた。
 理由は簡単。
 最初は学校のことや世間話をしていた龍之助に、朱姫や想司も口を挟んで楽しい会話を弾ませていた。
 しかし時が経つにつれ龍之助の“隙あらば!!”と三下に抱きつく・手を繋ぐ・愛を囁くには、誰もが
げんなりしていたのだ。
 ただ一人。凪だけは興味がないためか、我関せずな態度だったが。
「って、なんで白霞さんは、衣装チェンジしてるんスか?」
「いつの間にか巫女姿だし」
 龍之助と想司は、鮮やかな深紅の巫女衣装に身を包んだ凪に「何処で着替えたんだよ!」と、突っ込みを入れ
そうになりながらじぃと見つめた。
 組紐のようなもので結い上げている黒髪がサラリと風に揺れて、凪の周りだけ一種独特の空気を生み出して
いる。
「この姿の方が落ち着きますから」
「そういうものなのか。……それより三下。さっきからこちらを見ている子供が、問題の霊なのか?」
 凪の巫女衣装に気を取られていた三下達は、朱姫が指差すポイントのある木の方を注意深く見つめた。
 とそこには一人の男の子が木に隠れながら、こちらの様子を伺っているのが見える。少年は何処か警戒して
いるようだ。
 すると朱姫は一歩前に出て少年の正面へと移動すると、膝を折って目線を一緒の高さにした。
「キミは此処で何をしているの?」
『…………』
「此処にいつまでも居てはいけない。キミはもうこの世の者ではないのだぞ?」
『………』
 尚も朱姫が話し掛けるが、少年は黙ったまま口を開こうとはしない。
 それに痺れを切らしたのか、想司は徐に三下へと向きを変えると、何処に隠し持っていたのか謎なアイテムを
一つ差し出した。
「みっ、水野くん。これは……?」
「吸血鬼ハンターの由緒正しい武器だよっ♪フォースで使うの☆」
 少女と間違われる想司独特の可愛らしい笑みとは裏腹に、三下が手渡されたのは1本の釘バット。見た感じ、
霊的なものに効果があるようには見えない。
 三下は手にしたそれを暫く眺め、途方に暮れた。これでどうしろと言うのか。
「さっ、頑張ってね♪三下さんっ☆」
「いや、でも、ボクは………」
 ジリジリと後退していく三下。にじり寄る想司。
 そして──…。
「頑張って下さい☆大丈夫ッスよ、三下さん。何かあれば俺が抱えて、逃げたげますから♪」
「そんなぁぁぁぁぁあ!!」
 龍之助の応援に、三下は釘バット片手にうっすらと涙を浮かべる。
 頑張るのも嫌だけど、抱えられて逃げるのも嫌だ。
 究極の選択を迫られ、三下は意を決したように手に力を入れた。
「やっやってみますぅう!!」
 釘バットを振り上げて、おおよその位置目掛けて三下が走り出す。
 それに凪と朱姫が身を返して避けた。
 刹那──
「ちょっと待ちなさい!」
 オリエンテーリング場に何処からともなく、女性の声が響き渡ると、釘バットを振り上げていた三下が、
ピタリと動きを止める。止めたというよりは止めざるえなかったと、言った方が正しいかもしれない。
 なんせ三下の足元には、紅い瞳をしたカラスが「全く…」と、どう考えても日本語を話しているのだ。
「カ……ラ…ス?」
「カラスではありません、鴉です。須和野鴉と申します。ある方から頼まれて、三下様のお手伝いに
参りました」
 鴉の自己紹介に三下だけじゃなく、今度は他の者も驚き、まじまじとカラスを凝視した。
「カラスが喋ってるよ!?」
 指差しながら想司は、へぇと感心している。
「カラスという生き物は、喋るものなのですか?」
「う〜ん、喋るカラスも存在はするッスねぇ…」
「しかしここまで弁は立たないだろ」
 凪の疑問に龍之助が答え、それに朱姫がすぐさま言葉を畳み掛ける。
 カラス談義に花を咲かせた四人は、鴉に対してすっかり警戒心を解いてしまったようだ。
 ただ一人、三下だけは振り上げた釘バットを、下ろすことも忘れて呆然としている。
 鴉も自分は此処の霊とは関係なく、同行する者だと説明しようと思っていたが、今更そんなこと言わなくても
平気みたいだわ、と気にした素振りを見せなかった。説明をしないで済んで、ラッキーというところだ。
「それより。いきなり殴り掛かっても、何も解決しないんじゃないかしら?
ほらあの子供、益々怯えていますよ?」
「えぇぇぇえ!!!」
 見れば木に隠れるようにしていた子供の霊は、今にも泣きそうな表情をしながら、こちらに視線を向けて
いた。よく考えれば、いきなり自分目掛けて釘バットを振り上げた人が近づけば、誰だって吃驚して怯えて
しまうことだろう。それが子供ともなれば、例え霊とて怖いはずである。
 霊の目は三下だけじゃなく、同行している人間全てを怖がっていた。
『どうして苛めるの?』
 今にも消え入りそうな、小さな呟きが聴こえる。
『僕、何も悪いことしてないのに……どうして?』
 そう言った瞬間、男の子の霊はスーッと静かに消えてしまった。
「あっ、待って下さい…」
 凪が追いかけるように、さっきまで男の子が居た木へと近づくが、そこにはもう霊的なものはない。
「もしかして、駄目っぽい?」
「逃げてしまいました」
 想司の問いに、凪は首を左右に振ってみせた。
「すみません。ボクの責任です…」
 三下が申し訳なさそうに、頭を垂れる。
「しっ仕方ないッスよ!次のポイントに行きましょう☆ねっ、三下さん」
 龍之助がポンッと肩に腕を回して慰めた。落ち込む三下がそれを振り払うことはなく、龍之助にしたら
ちょっぴり役得である。がそんなことは言っていられない。このままでは取材が出来ず、三下の首も危うい
のだ。
「三下様。わたくしは生き物なら、一時的に同化することが出来ます。そうすれば霊と接触もしやすくなると
思います。どうでしょう?同化しませんか?」
 それを見ていた鴉は内心、どうしてヒトにここまでしなくてはいけないのか、と甚だ疑問に思いつつも、
それをした方がいいと提案した。そうすればこのような事態は避けられるだろう。序にさっき得た情報も、
教えなくてはならないのだ。
「おっお願いします!」
 三下の言葉を待って、鴉は実体化していたカラスの姿を解き、三下の体の中へと消えていく。
「これで出発出来るんだな」
 朱姫の呟きを合図に、一行は次のポイントへと歩を進めることにした。

■第2、第3のポイント
 がしかし。
 第2ポイントに行った一行は、霊的な存在を確認することが出来ずにいた。それどころか第3ポイントに
来ても、それらしい気配は存在していない。
「どういうことかな?」
 いくらなんでもこれはマズイと、想司が首を傾げる。同じように朱姫も首を捻り、凪はポイントが設置されて
いる方向へと心眼を試みた。
「どうやら此処にも、いないようです」
 結果を別段残念がる表情もせず、凪は淡々と口にする。
 来る途中、三下の体内に入った鴉から、此処に存在している霊のことを教えてもらった。
 遠足で此処に来る途中に事故にあった小学生が、霊となって数人残ってしまっていること。そしてその子達は
来る人に混じって、一緒に遊んでいるだけなこと。けれど家に帰りたくないわけじゃないらしいこと。
 それらを総合して、ちゃんと成仏させてあげないと、と誰もが思っていた。
 だが対象となるものがいないとなると、話しは先に進まない。
「こうなったら最後のポイントに行ってみるッス!」
「そうだね。此処に居てもしょうがないよ、三下さんっ☆」
 元気一杯に振る舞う龍之助と想司に吊られるように、一行は最後のポイントへ向かうことにした。

■第4のポイント
 辿り着いた最後のポイントは、少し大きめな広場が近くにあった。
 全ポイント共通で、木に作られたポイントは、見えにくいように工夫されている。
“三下様、よく目を凝らして下さい。何か見えてくるものはありませんか?”
 内から鴉の声が聴こえ、それに応えるように三下は辺りを凝視した。
「あっ!あそこに居るよっ!三下さんっ!」
 想司が少し離れた木を指差す。全員の首が、想司の指差した方向へと向けられた。
 するとそこには第1ポイントで見た少年の他に、数人の子供が木に隠れるようにしてこちらを見ている。
 今度は伺うような視線ではなく、攻撃的な視線。……睨みつけてきていた。
「なんか……さっきと様子が違くないッスか?」
 ポソリと龍之助が、異変に気づいて口を開く。どうやら龍之助にも、霊は見えているらしい。
 子供達はそんな三下達を前にして、ゆっくりと木の陰から出て来た。
 そこに一人の大人を連れ立って。
 見た目は中年の男性。腕を子供達の背に回して、目はクッとこちらを睨んでいる。
『この子達が、何かしただろうか?』
「あなたはこの子供達と、どのような関係なのですか?」
 凪が冷静に霊へと問い掛けた。
『俺はこの子達の担任教師だよ』
「ということは、お前が責任者だな」
 腕組みをしながら、想司が相手を見据える。
『この子達を置いて成仏なんか出来なくてね。此処に一緒に留まっている。けれどこの子達が悪さをしたこと
なんかないんだ。それを君達は……』
 男性の目がジロリと三下を睨み付けた。どうやら第1ポイントの出来事は、既に耳に入っているのだろう。
 担任教師として教え子を守ろうとする思いが、理不尽な行いをした三下への怒りとなって現われる。
「あっ、いや、ボクは………」
 気迫に押される形となって、三下は数歩後退してしまう。
「しかし。担任だと言うなら、どうして成仏させようとしなかったんだ?いつまでも此処に留まっていること
が、よくないことくらい判るだろう」
「それはこの男が、教師として甘ちゃんだからだぞ」
 想司に続いて、男を指差しながら朱姫が、ハッキリとした口調で言い切った。
『何!』
「やっ、矢塚さん??」
 龍之助は横で聞いてて驚き、チラリと覗いた霊の表情が更に険しくなるを見てしまう。
「本当に生徒を思っている教師というのは、ちゃんと説得して成仏させるものだ」
『確かに先生って、優しいけど怒ったことないよねぇ』
『そういえばそうだね。注意しても、あんまり効果なかったし』
 朱姫の言葉に子供達も先生について、各々思い出を口にする。
「先生。あなたも気づいているはずです。子供達と一緒に成仏して、静かに眠りなさい」
 感情を込めている感のしない音調で、凪は教員だと名乗る霊に話し掛けた。
 このまま此処に留まっても、決して良いことにはならないだろう。いつまでも成仏出来ずに彷徨って、最悪の
場合、上に昇ることも出来なくなってしまうかもしれない。
 凪の言葉は男の心を大きく揺さ振った。
『……判りました。キチンとこの子達を説得して上に行きます。それが俺の最後の役目ですから』
「判ればいいんだよ。判ればさっ♪」
 霊に肉体があればその背をバシリと叩く勢いで、想司はにこやかにそう口にした。

 結局、教師の霊は自分でなんとかすると言い、子供達と一緒に成仏することを約束した。
 それに異を唱える者は誰なく、三下達はオリエンテーリング場を後にする。
 途中で三下の中に入っていた鴉が、フーッとその体から抜け出して、また黒い羽根を生やしたカラスへと姿を
変えた。
「それではわたくしは、このへんでお暇させて頂きます」
「ありがとうございます、須和野さん!!助かりました!」
 三下は目前の鴉へと、何度も頭を下げる。
“別に貴方を助けようと、思ったわけではないのよね”
 そんなことを鴉語でカァーと鳴きながら、鴉は空高く舞い上がって消えて行った。

■アトラス編集部■
「…ということです」
 三下は額に汗して取材内容を説明しながら、書き上がったばかりの原稿を麗香に渡した。
「なるほどね。まっ、今回はこの原稿でいいわ」
「ほっ本当ですかぁぁぁぁああ!!!」
「良かったッスね!三下さん。やっぱり愛の力ッスよ☆」
 OKが出たことに三下が手放しで喜ぶと、それに続けとばかりに龍之助が抱き付いて一緒に喜ぶ。
「違うんじゃないの?これはやっぱり僕と同じ修羅を……」
「ちーがーうーッス!三下さんと俺の愛の結晶のおかげッスよ!!」
 ムーッと対峙する龍之助、想司からこそりと抜け出した三下は、女性陣の前に移動してペコリと頭を下げた。
 表情はとても嬉しそうだ。
「矢塚さんも白霞さんも、本当にありがとうございました」
「私は普通のことをしたまでです」
「私も大したことはしていないぞ」
 出されているお茶に口を付けながら、凪と朱姫は冷静に言葉を返す。凪の服装はいつの間にか、普段着に
戻っていた。それを気にする者もなく、美少女二人の前で三下は安堵感でお喋りに花を咲かせる。
 がそれは突然聴こえた麗香の言葉により、いとも簡単に中断することになった。
「そういえば三下。貴方いつから巫女マニアになったのかしら?」
「えっ?」
 三下だけじゃなく、全員の動きが止まる。
「貴方が巫女衣装を着た少女と歩いていたって、他の編集から言われたんだけど?貴方……そういう趣味が
あったのね」
 そう言われ、一斉に視線は凪に向けられた。
 確かに凪が巫女衣装を着ていたのだが、それは凪が落ち着くからであって、三下が「着て下さい」と頼んだ
わけではない。
「ちっ違いますよぉぉぉぉお!!!!!」
 必死に否定する三下を見つめたまま、目を点にしている想司。
 だがしかし。龍之助は驚いた顔をした後に、ツカツカと凪の前へと移動するや否や、顔の前で両手を合わせて
頭を下げる。
「白霞さん!!俺に巫女衣装貸して下さいッス!!」
「えっ!?」
 龍之助の申し出にさすがの凪も吃驚して、困ったように口元へと手を持っていく。
「ちょっと聞きたいんだけど。龍之助は凪に巫女衣装を借りて、どうするつもりなんだろう?」
 朱姫は横にいる想司に尋ねた。
「………着るつもりなんじゃない?」
「想像すると随分恐ろしい絵が、出来上がってしまったぞ」
「それは言わないで欲しかったよ……」
 朱姫と想司は巫女衣装を着た龍之助が、三下に迫る絵を想像して眉間に皺を寄せる。

「ボクは巫女マニアなんかじゃありませぇぇぇぇぇん!!!!」
 無情にも三下の叫びは誰にも聞き入れられることはなかった。
 これこそ三下の受難物語かもしれない、とその場に居た誰もがそう思ったに違いない。

■水野・想司
「しっかし…結局三下さんを、覚醒させることが出来なかったよなぁ」
 アトラスからの帰り道。想司はブツブツと口にしながら、家路を急いでいた。
「まっ、今度会った時にでもいっか☆」
「何がいいんですか?」
「えっ?」
 背後の声に振り向けば、そこには生真面目で学級委員をしている森里しのぶが、仁王立ちをして立っている。
 想司は何故かそれに、身の危険を感じずにはいられなかった。
「どうして学校に来ないんですか?今日は土曜日でもなければ、日曜日でもないんですよ!」
「あっ……」
 すっかり忘れていたと、想司はポリポリと頬を掻くが、それで誤魔化せるような相手ではない。
「もうちょっと………真面目に学校へ来て下さーーーい!!!」
 すっぱん!!すぱあああああん!!ぱぱん!!
「いってーーーー!!!!」
 はりせん突込みを頭で受け、想司は踏んだり蹴ったりだと頭を抱えて思った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0424】水野・想司(みずの・そうじ)/男/14歳
→吸血鬼ハンター
【0218】湖影・龍之助(こかげ・りゅうのすけ)/男/17歳
→高校生
【0550】矢塚・朱姫(やつか・あけひ)/女/17歳
→高校生
【0553】須和野・鴉(すわの・からす)/女/999歳
→古木の精
【0581】白霞・凪(しらがすみ・なぎ)/女/15歳
→巫女(退魔師)

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■         ライター通信          ■
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東京怪談「三下の受難物語」にご参加下さり、ありがとうございました。
ライターを担当しました佐和美峰と申します。
作成した作品は、少しでもお客様の意図したものになっていたでしょうか?
今回の依頼には三下が同行ということで、楽しいプレイングを書いて下さる方が多く、
佐和本人、とても楽しい気分を持続したままで書くことが出来ました。
ただ少し長くなってしまいました。(汗)どうしても規定文字数では収まらず……。
また遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
この作品に対して、何か思うところがあれば、何なりとお申し出下さい。
これからの調査依頼に役立てたいと思います。

***水野・想司さま
 初めてのご参加、ありがとうございます。
 プレイングの無邪気に無茶なことを口にする想司くんに、惚れ惚れしました。
 小悪魔的というのでしょうか?そんな部分をまたお会いする機会がありましたら
 表現出来ればいいな、と思っています。

それではまたお会い出来るよう、精進致します。