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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


空遊び(からあそび)

Opening 遊び相手は『普通』かしら?

『少し、私と遊びませんか?』
そんな紙切れが添えられて、送られてきた長形3号の茶封筒。
普段、投稿で送られてくる長4封筒よりも一回り大きいサイズであった。
少し暗い封筒の中から折りたたみ式の携帯電話がコロン、と机の上に転がる。

「…ねぇ、これ面白そうじゃない?」
碇麗香がそう云ってふふん、と鼻を鳴らす。
そして、小さなディスプレイに映し出されたメッセージを透る声でゆっくりと読み上げた。

『来週の日曜日、白凪<しらなぎ>公園で待ってます。ただし、必ず二人で来て下さい。その他は全て「普通」です。お弁当もお茶もオヤツも「普通」に。集合時間も「普通」です。とにかくこの遊びは「普通」に乗っ取って行います。遊びはあなたが考えて下さって結構です。あなたの「普通」を私に提示して下さることを期待しています』

「な…何ですか…? フ、『普通』…??」
別の用件で呼び付けられ、麗香の傍に立っていた三下は、その内容にあたふたと疑問をブツけ始める。
「しかも、お弁当やお茶って、遠足じゃないですか…!? 遊びだって…」
そんなお決まりな部下の反応を無視して、麗香はイスをくるりと回した。

「ね、興味ない? よく人って『私、普通よね?』って云うわよね。意識調査としても面白いと思うんだけど…引き受けてくれないかしら?」
クス、と艶やかな微笑みを見せた後、麗香はスッと視線を再び携帯のディスプレイに落とした。
「まぁ、大した内容だとは思わないけど…くれぐれも『普通』って言葉に捕らわれないようにね。まずは、紙切れや封筒、メールの内容から推測できる相手像を書き出してみたら?あなた達の洞察力テスト、とでも思うとヤル気も出るんじゃない?」


Story-1 湖影龍之助

クラクションが煩く響く賑やかな街角。
颯爽とマウンテンバイクに跨って、愛しの…もとい、月刊アトラス編集部があるビルを目指す青年が一人。健康的な小麦色の肌に太陽の光を反射する元気のいい茶髪、笑顔の似合う大きな口に人懐っこい黒目がちの瞳――湖影龍之助だ。
高校を少しエスケープして彼がこんなにも必死で自転車をこいでいるのは、そりゃあもう「事件の為です」「調査の為です」なんて云えばカッコいいものなのかも知れないが、「愛の為です」って即答しそうなイキオイで。も一つ加えれば「愛しいハニーの為に」と返ってきそうで、尋ねるのに少し気が引ける今日この頃…。
「まぁってってねぇ〜三下さん♪」
もちろん当の本人は至って『普通』の男子高生で、本能の赴くままに正直極まりない思春期真っ只中の青年である。欲望…と云えば生生しいが、それに順ずるものが青年の中にもちゃんと存在しているわけだ。

キキッとブレーキ音を響かせて自転車を止めると、龍之助は目的のビルへと入る。ガラス張りの両扉をぐいっと押しやって、正面にあるエレベーターの▲印のボタンポチっと押した。ふふんふーん…と鼻歌を歌いながら待ち時間に今回引き受けた調査について考えてみた。
(『普通』ッスか。集合時間…うーん、弁当持っていくならお昼前、10時くらいかなぁ〜。弁当は…いつもと同じ母手作り弁当でいいっしょ)
斜め前のランプが点滅する。どうやらエレベーターがやって来たようだ。
(おやつは500円まで、バナナはおやつに入りません。飲み物は…ウーロン茶500ペットで〜…っとそーいや、今回コンビを組む十桐にーさんはどう考えてんだろ?)
エレベーターに乗り込むと、4階のボタンを押す。青年は変わり行く階数ランプを見上げながらふと今回調査を共にする、物静かな十桐朔羅<つづぎりさくら>のことを思いだした。
(まぁ、アノ人ならそれなりに考えてくれてるかな? 乞う期待って所ッスね)

ピンポーン。
到着を知らせる音に龍之助はキッと顔を引き締めた。ネクタイを整える仕草をして――実際ネクタイなど付けていないのだが――エレベーターから降りると、すぐさまデスクに視線を向ける。もちろん、この真面目な顔は三下を発見すると究極に緩んでいくのだったが…。


Story-2 爽やか何組?

「…さて、どうしたものか」
カチン、と音をさせて十桐はアトラス編集部・フレッシュルームにて麗香から受け取った携帯電話を開いた。右にある『電源』のボタンを数秒押すと「Hello!」の文字と共にミッギーマウスの可愛らしい絵がディスプレイに映し出される――いつもながらの爽快且つ如何わしい微笑みのミッギーだった。
フム、とそれを見て男はある意味感心すると、中央にある十字キーを適当に押してみる。大抵の携帯電話はこの操作で着信履歴やリダイヤル・電話帳などの機能を見られるはずだ。普段、あまり携帯自体に興味がない十桐だったが、よく利用する機能の一つだったので、何となく予想できた。
(それにしても…やけに『普通』にこだわるにも関わらず、場所と人数の指定だけはある…何か目的でもあるのか?)
履歴・リダイヤル等、特に目を引く情報もなかったので、男は先日送られてきたメールを表示させると不意に思う。携帯番号を元に持ち主特定の調査をしてもいいが…この依頼はそういったことを目的としているようには思えなかった。つまり、それこそ普通の事件とは全く別物の『何か』が存在しているようにしか男には思えなかったのだ。

「あー…それ、この間送られてきたケータイッスか?」
お目当ての三下と思う存分スキンシップを交わした後、漸く龍之助は十桐のいるフレッシュルームへとやって来た。携帯片手に俯く男を他所に、割り箸を口で加えながらパチンと割り、お湯を入れたカップラーメン片手にドッカリと腰を十桐が座っていた向かい側のソファに落ち着ける。ここ、アトラス編集部に設けられているフレッシュルームでは締め切り前には徹夜組も多いせいか、簡易なキッチンの他に冷蔵庫、湯沸し器、ちょっとした食器など思いのほか便利な代物が多数揃っている。
「十桐にーさんはどー思うッスか?『普通』とか…俺は難しいことは、あんま分かんないんスけど」
ビリッとカップラーメンの蓋を器用に破って、青年はズルズルと麺を貪り始める。
「ここまで『普通』にこだわられるとねぇ、なーんか微妙な感じッスけど」
モクモクと湯気を顔に被りながら龍之助は一生懸命熱い麺と格闘する。まさにこの年頃の青年は食欲の塊みたいなもので、一日五食ぐらいは食べないと育ち盛りのお腹は満足しない。学校を出る前に購買のパンを食べては来たが、すっかり日も落ちた時間帯だ。腹ごしらえという考えも頷ける。
「黙ってないで何か云って下さいよ…あ、そうだ集合時間どうします? ってか、普通は前もって時間を決めておくのが『普通』なんじゃないッスか?」
やや呆れながら青年は箸を置いて「ごっそーさん」と大げさに両手を合わせた。早い…僅か30秒足らずの夕餉だった。

「日曜は夜にでも向うつもりだが…?」
男はそれを脇目に相変わらずの落ち着いた声で龍之助に返す。もともと口数の少ない男だ。こうして尋ねないと意見を云ってくれない。
「ええーー! にーさん、なーに寝ぼけたこと抜かしてんスか。『普通』なんスよ、フ・ツ・ウ! 『遊ぶ』のに夜行くなんて『普通』じゃないッスよ! しかもお弁当のことまで書いてあったから、昼前には行くのが『普通』ッス!!」
「しかし、昼は人の目もあるだろう」
「それにしたって、夜だとなぁ…バトミントンが出来ないじゃないッスか」
「…バトミントン?」
少し口ごもりながら、十桐は龍之助を見た。すると彼は恐ろしいまでにニッカリと眩しい笑顔を男に向けた。
「イエス・バトミントーン!」
妙なイントネーションの日本語訛りな英語科白と共に青年は立ち上がり、スカした素振りをし始める。しかし、ソレはスマッシュのポーズなのか…一見すれば野球のバッティングの素振りとテニスのサーブの素振りとを足して3分の2で割ったような実に微妙な動きを龍之助は十桐に見せた。
「『日曜日』『遊び』『公園』と云えば、もうバトミントンしかないッス!!」
目をランランと輝かせて青年は云う。何故か額には爽やか青春像の典型とも云える光る汗が迸<ほとばし>っていた。もちろん、呆然と見据える男にキラリと白い歯を見せながら。


Story-3 『普通』の定義は何処から来るの?

『弁当持参の10時集合! 場所は白凪公園前ッ! 遅刻は10分までなら許すッス!』
その日、龍之助はいつも通り母親に弁当を作ってもらい、おやつ・お茶、そして忘れてならないバトミントン道具一式をリュックサックに無造作に入れ、家を後にした。
マウンテンバイクに跨り、風を切りながら五月の空気をめいっぱい吸う。天気はカラッと五月晴れで、抜けるような青が見事なグラデーションを描いていた。空には薄白く飛行機雲が線を引き、青年はそれを仰ぎ見る。
「絶好のバトミントン日和ッスね〜」
自転車で軽快に坂を下る。彼が通る路地は一方通行ばかりで、車が進入してくることはまずない。だからと云ってこんなに余所見をして運転していいとは限らないのだが…青年の持っている優れた運動神経からか、今だかつてそんなに大きな事故は起こしたことは無い。
(それにしてもー…十桐にーさん、ちゃぁんと来るんスかねぇ?)
シャーっと車輪が音を立てて来た頃、龍之助はハンドルから手を離し、両手を頭の後ろで組んだ。普段、三下大好きでアトラスに通っているものの、そこは勤勉なバイト生。引き受けた仕事はきちんとこなすし、何より三下に迷惑をかけてはならない。龍之助は先に見える町並みを眺めながら、キリリと顔を引き締めた。
(それにしてもなー…。にーさんが調べた感じでは特に何もなかったし…。白凪公園ってったって、変な噂とか訊いたことねぇし…)
十桐が白凪公園について調べてみたが本当に『普通』の公園で、何か過去に事件が起こったとか、飛びぬけて面白い遊具があるとか…そんなことは一切なかった。広さも『普通』であるし、立地条件も住宅街の一角にあることから、別に気に止める所は何も無い。まぁ公園にアリガチな桜の名所、と云うことで多少有名であるには違いないが…。

(何か、『変』…なんだよな。そもそも、どうしてそこまで『普通』にこだわるんスかねぇ〜? 普段他の人に『普通じゃない』って云われてるとか…?)
坂を下りきった所でハンドルに手を戻し、右折する。ここら辺の路地は完全に熟知していた。
(確かに、手紙ん中に携帯いれてくる様な人は普通とは言って貰えないかもなぁ。紙切れ入れるんなら、普通に手紙に全部書いて送ればイイのに…。しかも…茶封筒っスか)
考えれば考えるほどに『普通』でないこの送り主。十桐はやけに、場所と人数の指定があったことに疑問を抱いていたが…恐らく、それが男の『普通』の観点なのだろう。
そもそも『普通』という定義は非道く曖昧なもので、当然、個人個人差があってなんぼのものだ。調査開始前に麗香が云ったことは間違いじゃない。「私、普通よね」と云う人間に限って「チョット待て」とツッコミを入れたくなるのは常識じゃないか。
ん?『常識』…? そう云えば、『常識』も『普通』と対なす曖昧な定義なような…。

「あ゛ーーーーッ!! 分ッかんねぇよッ!!!」
思わず龍之助は声にして叫んだ。何でそんなに頭カッテェこと云ってんだ! 考えれば考えるほど訳が分からなくなる。
青年は頭をガシガシと掻いて雑念を飛ばすかのように、左右にかぶり振った。そして前を向いた時、前方に何やら見覚えのある人影を発見する。

「うぉ〜い、にーさん!」
急にぱぁあああっと顔が綻び、ぶんぶんと龍之助は右手を振った。
「おはよッス。ぶーたれながらもちゃんと来たんスね〜」
相変わらず表情に変化のない十桐が先行く路を歩いていた。
まるでお日様でも背負っているかのような元気な笑顔と共に、青年は自転車を止める。
「……………」
男は龍之助の声にゆっくりと振り返りながら…途端に青年が背負っているリュックサックへと視線を釘付けにした。
「おい、それは…」
十桐の視線が一点に向けられてるのに気付き、龍之助も肩越しに振り返りその物体を見る。
「あ、これッスか? バトミントンのラケットッスよ。大丈夫、ちゃぁんと人数分持って来ましたッス」
「……………」
「安心して下さいッ! シャトルも大量に持って来ましたから!」
親指をグッと立ててニッカリと笑う。
彼の笑顔に何一つ曇りは無かった。


Scene-4 遊び相手…?

「日曜の公園にしては…静かなもんスね」
木彫りの『白凪公園』という看板に肘をついて、龍之助はぽつんと呟いた。
「俺がガキの頃は、雨の日でも公園に遊びに行ったもんスがねー…」
今日の日差しは初夏の陽気を漂わせ絶好の行楽日和。公園をぐるりと囲うようにソメイヨシノの青々とした新緑に包まれている。
なのに…人っ子一人いないのはどうしたものか。
別に昨日雨が降ったとかで、遊具が濡れているわけでもない。近くで通り魔や殺人事件など物騒な事件が起こったわけでもない。
(何だ…この奇妙なまでの静寂さは…?)

「だぁ〜ッ! 『普通』の待ち合わせにしたら早すぎたッスか?!」
龍之助は頭を抱えて「ガッデーム」と唸る。
おかしい、おかしいッスよぉ〜と叫びながら走り、巨大なリュックサック砂場に投げ捨て滑り台へ向う。
奇妙な雰囲気に辺りを見渡す十桐を他所に、青年は小さな滑り台に熱中する。もちろん、「何故だぁ〜」のBGM付きで。
「龍之助、少し静かにしろ」
十桐は確かに何かの『普通でない』気配を感じ取っていた。
(一…? 否、二…か?)
隙のない視線を左右に配らせる。右手に微かに力が入った。

『ねぇ、おにーさん。少し、私と遊びませんか?』

背後から掛けられた声に十桐は咄嗟に振り返った。
桜色の着物を着た少女と少年が手をつないでじっとこちらを見ている。
「君達、いつからそこに…?」
男は警戒心を心のうちに潜めたまま、物腰和らげに二人に尋ねた。まるで存在感の全くない二人…いや、違う、生気が全くない二人だった。
『ずっといましたよ、ねぇ?』
『ええ、ずっといましたよ。貴方が来るずっと前からお待ちしてましたよ』
外見は非道く幼いのに言葉づかいは実に巧みだ。
十桐は形の良い眉をやや寄せる。そして…
「ずっと前からとは…いつ頃からか」
『それはもう一週間前から。いやいやお手紙をお出ししたあの時からとても楽しみにしておりました』
『そうそう、遊んで下さる方が待ち遠しくって』
二人は手を取り合ってニッコリと笑う。
「では、貴方方が…」
「にーさん、どうしたんスか? おりょ? 子供…?」
十桐の問いが龍之助によって遮られる。
「おーガキンチョ! にーさんをナンパしてんのか! おうおう、俺らは待ち人来たらずだ、いっちょ一緒に遊ぶか!」
両手を腰にあてて龍之助はニッカリと笑う。ちょっと待て、という男の静止を無視して投げ捨てたリュックサックからバトミントンのラケットを抜いた。
「イエス・バトミントーン!」
ラケットを空に立てて、幼い二人を見る。龍之助の人懐っこい笑顔に二人はとても微笑ましく笑った。
『イエス・バトミントーン!』
とてとて…と走り寄り、少女と少年は青年にジャレつく。
「やっぱ時代はバトミントンだろ?」
『イエス・バトミントーン!』
先ほど十桐に見せた、あの大人びた仕草や科白は一切無く、龍之助にまさに『年相応』に懐く二人。心地よい風に揺られて勢いよくシャトルが青空に舞った。


Scene-5 桜色の送り火

「どうして携帯と郵便を使ってあのようなメッセージを?」
日もとっぷり暮れた公園にぽつんと残る男と二人と汗だくの青年。
くたびれ顔の中にも清清しい満足した表情が少年と少女に浮かんでいた。
「え…にーさん、何を…?」
状況がよく読めていない青年は男と子供を交代交代にキョロキョロと見渡した。
少女は小さな石ころを足で蹴っ飛ばし、それの行方を視線で追いながら…
『最近は、テレビゲームやカード、パソコンですか? あのような物が浸透しているせいか、公園に子供が全く遊びに来てくれませぬ』
「それにしては…『普通』にやけにこだわっていたが…」
西の空から登った細い月を仰ぎ見る。少女は何処か物悲しい表情を浮かべながら、
『我等は今までその時代、その時の遊びをずっとして参りました。しかし、最近の「普通」はどう「普通」なのか我等には全く分かりません。だって、公園に遊びに来てくれないんですもの…。待ち合わせ一つも「携帯電話」という滑稽な代物を使ってなさるのでしょう? どうやって誘っていいものか…二人で結構悩んだのです。…で、私達の分からない「普通」を教えて貰おうと思いまして』
「じゃあ、君達があの手紙の送り主…」
目を丸くしてこちらを見る青年に少女の傍らにいた少年はにっこりと笑った
『でも、今日は楽しかった。本当に楽しかった。こんな日がずっと続けばいいのに…といつも思いますが、そう思うときに限って…中々儘ならぬものです…』

「往くのか…」

さぁっと昼間と違った肌寒い風が四人の横をすり抜けるように舞い上がった。ひらひらと…少し次期外れの桜吹雪と共に。

『はい。仕方のないことです…だから最後に、最後に遊んで欲しかった。あんな呼びたてをごめんなさい。ベンチで拾った携帯電話をどうしても使ってみたくて』
申し訳なさそうにこちらを上目遣いで見る少女に、男は思わず柔らかい微笑みを称えた。
「そうか…では、最期の手向けは私が行おうか」

男はすっと瞼を閉じ、中指と人差し指を軽く唇にあて、念を込める。
そして――それはそれは盛大な桜色の送り火が白凪公園の夜空を包み、龍之助はそれを無言で眺めていた。


Epilogue RYUNOSUKE-SIDE

「はぁー…何か今回、色々と考えさせられちゃったッスよ…」
龍之助はボンヤリとアトラス編集部の入っているビルの屋上にて大の字に寝そべり、両手を頭の後ろに組んだ。
(結局…あの子達は、『普通』ってことよりも遊んで欲しかっただけなんだろな…仲間に入りたくて、でもどうしたらいいのか分からなかった)
少し複雑だった。
楽しかったと云ってくれたのは嬉しかったが…結局あの二人は…
「おーい」
青年は頭上から降り注いだ声にはた、と何時の間にか瞑っていた瞳を開いた。そこには三下のずり落ちそうな大きなメガネ。
「な、どうしたんスか?」
「ああ、編集長が呼んでるから…ってあれ? 何をそんなに握ってるんだい?」
「え?」
起き上がってこちらを向いた青年に、三下が不思議そうな顔をして龍之助が握り締める拳を見つめる。
「何も握ってなんか…」
三下の科白に不信に思った龍之助も自分の右手の拳に視線を落とす――そしてゆっくり開くと…淡い桜吹雪が零れるように青年の手から溢れて、空へと飛び立った。
「うわぁ…!」
「これ…」
驚く三下と共に龍之助は風に乗って空を舞う花弁を仰ぐ。
そして。

(ありがとう…ありがとう、ね)

…そんな声が龍之助の耳に届いた。

FIN



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0218 / 湖影・龍之助 / 男 / 17 / 高校生】
【0579 / 十桐・朔羅 / 男 / 23 / 言霊使い】

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■         ライター通信          ■
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* 初めまして、本依頼担当ライターの相馬冬果(そうまとうか)と申します。
 この度は、東京怪談・月刊アトラス編集部からの依頼を受けて頂きありがとうございました。
* 今回の依頼はそれぞれのプレイングにより、EDが大きく二手に分かれるものでした。
 しかし、蓋を開けてみれば2人プレイングがまさに「相談したの?」と問いたくなるくらい、
絶妙にお互いを補っていて、ケンカすることなく遊びに行けたと思います(笑)。
* 他の参加者の方の文章を読んで頂けると、考え方やそれぞれの『普通』に対する視点など、
 より一層楽しんで頂けると思いますので、機会がございましたら是非目を通してみて下さい。
* そして、余談ですが…初めてのライトコミカルを目指して書いてみました。
 ツッコミ等、ご遠慮なくメッセージをお送り下さいませ(汗)。


≪湖影 龍之助 様≫
 とても楽しいノリで書かせて頂きました。
 私的に『バナナはおやつに入りません』に激しく同意です(笑)。
 龍之助さんの言動が話しをとても引っ張ってくれましたし、プレイングも的確にポイントを
 押さえていらっしゃいました。三下さんとのツインピンナップも執筆中に拝見し、
 ますます龍之助さんの元気を見せ付けられた感じです。
 またの機会がありましたらどうぞよろしくお願い致します(深々)。
 


 相馬