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不思議トンネル
------＜オープニング＞--------------------------------------
『トンネルって…天井がП型のと∩型のがあるって、知ってますか？』
瀬名雫はその書き込みを見た瞬間、丸い瞳をくるりと動かし、輝かせた。
言われてみなければ気付かなかったかもしれない、そういえばトンネルには二種類ある。
『大抵はどちらかなんだけれど、私が住む町にある『不思議トンネル』って呼ばれるトンネルは、中央でПと∩が変わるんです。途中で切って貼り付けたみたいに。だから東から見るとП型の入り口なのに、西に出て振り返ると∩型っていうわけ。今そのトンネルは壊れてもいないのになぜか使用禁止。けど、色んな噂が沢山。午後３時に現れる幽霊の話とか、西と東、同時に人が入ると何かが起きるとか…。上にはお墓も立ってるし、ありきたりだけど工事にかかわった人が亡くなったとかいう噂だってあるし、帰ってこられなかった人もいる。だからちょっと怖いけれど…でも……。』
その思わせぶりな語尾に引かれて、スクロールマウスをくりくりと動かし、続く文章を読む。
『帰って来ることが出来た人の噂。あのトンネルは入った人を幸せにも不幸にもするんだって…。ねえ、もし幸せになれるなら…ってそう思いませんか？』
「ふぅ〜ん。なんか面白そうだね☆」
じっと画面を見詰めて何事かを考えていた瀬名雫は、漸く身体を起こしてにっこり微笑んだ。「不思議なトンネル…中で何が起きるのかな。幽霊に追いかけられちゃうのかな？ それとも誰かに会えるのかな…死んでしまった身内？ 殺してしまいたいほど憎い人？ それともそれとも、いとしい恋人に？」
瀬名雫はかたん…と椅子を引いて立ち上がった。
そして、こちらを振り返ると笑って可愛く小首をかしげた。
「ねえ行ってみない？ このトンネル。…なんだかすっごく楽しそうだよ！」
--------<本文>------------------------------------
ゴーストネットＯＦＦに流れた噂が、町へ広まる速度は驚くほど速い。
そして今日もそれを聞きつけた少年が一人、興味を抑えきれず、延々と続く山道を、なかなか高価そうなロードレーサーに乗って走っていた。
彼の目的地は『不思議トンネル』。幸い噂のそのトンネルはたまたま彼の居た町からさほど遠くない場所にあったため、元気者の彼は「そうだ！ 自転車で行こう！」などと考えたのである。
だが。
「あっれ〜〜！！？ 二人いる！？ っかしいなぁ〜？」
すばらしい勢いで目的地にたどり着いた少年は、素っ頓狂な声を上げた。「伝説の強者…ってのは普通一番強い奴だから…え〜っと、二人いたらヘンだよな〜？」
彼はやや高い声で、めったに人が来ないという噂であったトンネルの入り口で何かを言い合っていた二人…青年と、自分より少しだけ年上の少女…を見て、ぶつぶつと呟いた。そしてヘルメットのベルトを外し、自転車を降りた。
「あなた…誰ですか？」
少女が、少し面食らった様子で突然やってきた彼に尋ねてくる。
「君とかって呼ばないでよね。僕には水野想司っていう格好いい名前があるんだからさ。」
だが、言葉とは裏腹にそんなことは気にもしていない。「君たちこそこんな所で何してるの？ …僕はこれからトンネルに入るんだけどさ。『伝説の強者』を探しに行くんだ！」
「伝説の……」
「強者？」
青年と少女は面食らったように想司を見詰めた。が、彼は二人の困惑など何処吹く風で一つ大きく笑った。
「知ってる？ このトンネルってさ、自分が探してる相手に会えるんだよ！？」
「……自分が探す相手って…。」
青年はぽつりと呟いた。「俺が聞いたのは…死んだ身内に出会えるとか…そんな話だったような気がするが…。」
少女がやや呆然とした様子で言葉を続ける。
「私が聞いたのは午後３時に幽霊がでるという事でした。」
二人の呟きを聞いて、想司は軽く肩をすくめて言い切った。
「騙されたんじゃないの？ 兎に角僕は行くけど。君たちはどうするの？」
突然現れた少年の勢いに押されて、初対面の二人は思わず顔を見合わせた。
そして、どちらからとも無く彼へ向き直った。
「行こう。」
「行くけど…月乃はあなたたちとは一緒に行きませ……。」
言いかけた少女の言葉をさえぎるように、水野想司は大声で答えた。
「そっか。じゃ、一応僕が二人を守ってあげる。その代わり僕が伝説の強者を倒す時の目撃証人になってよね！」
彼はすっかりその気らしかった。「…あ、ところで僕、君たちの名前、聞いたっけ…？」
というわけで少女の名が雫宮月乃。青年の名が七森慎であると互いに分かったのは、その後であった。
暗いトンネルの中、水野想司は背負ったディパックの中から懐中電灯を取り出した。彼自身は夜目が効くのだが、彼にしては珍しく一応他の二人のことも気遣ったつもりである。
「♪出〜て来い 出〜て来い 僕の敵〜☆ どんな奴でもぶっ飛ばす〜！ 僕にかかってあの世行き〜♪」
うきうき気分である。後ろについてくる二人が、調子は外れていないがとんでもなく物騒な歌詞の続く歌に困惑しているのにさえ気付かない。
だが彼は、歌いながらも後ろの二人の会話に耳をそばだてていた。
特にストーカー癖があるわけでもないが、職業柄耳は敏感なのである。
前を行く彼の変な歌に困惑しながら、七森慎と雫宮月乃は並んで歩いていた。
途切れ途切れに聞くに、二人は当初考えていたように知り合い同士ではないらしい。七森と名乗った青年が、少女と会話を続けようと努力しているようだ。
なんだか、少女が連れている犬の話をしているらしいが…
「犬じゃないです。」
突然、少女が鋭く言った。「雪羅は…」
「セツラ？」
七森慎の困惑したような声。
「あなた気付いているくせに。雪羅は犬神の白狼…実体化はするけど現実のものじゃない。それに…あなたは…陰陽師でしょう？ トンネルに入る前、あなたは式神を飛ばしたわ。あの男の子は気付かなかったみたいですけど、月乃には見えました。白い鳥…。」
一息に言い終わるとそのまま彼女はそこで立ち止まった。
慎もつられて歩みを止めて振り返る。
「………やはり君も、陰陽師か。」
慎はぽつりと呟いた。「雫宮という名、聞いた事がある。七森の一族とは直接かかわりないが、謎の多い陰陽の一族だ…。」
「…っ…月乃は…。」
彼女はぎゅっと拳を握って立ち竦んだ。白い頬に赤みが差す。「月乃は雪羅を使うだけ。…っ陰陽師なんて嫌です。だから…あなたのこともっ…。」
「あ……。」
くるりを背を向けた少女の背中に、慎は手を伸ばしたが、次の瞬間彼女は銀の名残を残して掻き消えていた。
「……陰行……？」
「あ〜あ、行っちゃった。」
呟いた背中に水野想司は暢気に声を掛けた。「可愛いコだったのに☆」
立ち止まった二人を、一応待っていたのだ。なんせ大事な目撃証人。しかし一人減ってしまった。大変残念なことである。
「君も一癖ありそうだな。」
七森慎が低く呟いたので、彼は軽く肩をすくめ、ケロっとした表情で答えた。
「僕は陰陽師じゃないけどね〜。実は吸血鬼ハンターなんだ☆ ちょっと格好イイでしょ？」
思っても見なかった答えに、慎は眉を潜めた。
「…噂には聞いた事がある。」
吸血鬼は実際にいる…物語の中だけではなく。慎は、不思議トンネルの異名もあながち嘘ではないなと思い、溜息をついた。少なくとも尋常でない人種の集まる場所ではあったわけだ。
「へ〜。僕らって結構有名なんだ！ん〜でも、ま。そんなことはどうだっていいじゃん？ 先へ進もうよ！」
と、彼は歩を進めようとし、ふと気付いたように天井に明かりを向けた。「…あ、ここ……。」
七森慎も、同じく上を見上げてそれに気付いた。∩型とП型の天井が、二人の立つ場所の上で切り替わっている。
水野想司は一つ頷くと勢いよく一歩踏み出した。
「ちょっとまて…安全を確認しなくてもいいのか……。」
それを静止しようとする七森慎の、目の前で。
「あ、あれ…っ ここってちょっとヘンじゃ…。」
呟きながら水野想司の姿は、透明な壁に吸い込まれるように消えていった。
そして、後にはしんと静まった暗闇と、七森慎だけが残された。
通行止めのトンネルほど、薄ら寒いものは無い。
ウォレス・グランブラッドはだが、ゆっくりとではあるが迷いの無い歩調で歩みを進めていた。明かりは持たない。ここは彼にとってむしろ居心地のよい暗闇であった。数十年…眠りにおちていたあの漆黒の闇に似ている。
── こうしていると…まるで全てが夢の中の出来事だったかのように思えてきますね…。
追われ続けた数十年、そして『彼女』を愛した僅かな時も。
闇の中で軽く見上げた彼の緑の瞳が、鈍く光る。П型の天井には何も見えない。ただ明かりの灯らなくなった電灯が等間隔に並ぶだけだ。
ウォレス・グランブラッド。彼は……吸血鬼である。
今、西の入り口から吸血鬼ハンターがやってくるなどとは夢にも思わず、彼はただ古い思い出に身を浸しながら歩いていた。
「君を共にすごした時間は、あまりにも短すぎた…。」
暗闇が、彼を彼自身に戻していく。普段押し殺している感情が徐々に露になっていく。そして彼は詠うように呟き続けた。「なのに、君に会えない時間は…これからの永遠。」
なぜこのトンネルに足を向けてしまったのか、今なら分かる。
愛するが故、離れることが出来ずに牙を立てた。ゆえに彼女は彼女の一族に追われ、討たれた。そして自分も彼らに追われている。
共に生きたかった。それが身勝手な望みだとしても。
こちら側に来て欲しかった。…こんな結果になると分かっていたのに。
いや…分かってなどいなかったのかもしれない。あの時の自分は…忌まわしい吸血鬼…湧き起こった衝動が押さえ切れなかった…ただ、それだけ。
「だから君は、私を恨んでいるかもしれないね。こんな風に一目だけでも会いたいなどと望むのは…おこがましい願いなのかもしれない。」
彼の腕時計が、午後三時を指し示した。
彼は立ち止まり、天井を見上げた。П型と∩型の天井がつながるその場所で。
「君に会いたい。……今もまだ…愛しているから。」
空間が、僅かにゆがんだ気配がした。
彼はもう信じていた。この気配。この雰囲気。このトンネルには確かに何かがある。…きっと、彼女に出会える。
丁度つなぎ目から垂直に降ろしたように、壁が出来上がってゆく。鏡のように自分の姿を映し出す。やがて、ウォレスが食い入るように見詰めるその前で白雪のようなドレスを身にまとった女性が形を現し始めた。
白いうなじ、長い腕、細い腰…後ろを向いたその姿は、確かに彼女のもの。
その名を呼ぼうと手を差し伸べた、その時。
「う、うわわぁああ！？」
すっとんきょうな声がして、浮かび上がりかけた女性の姿がまるで水面の影のように薄らいで消えた。
ウォレスは思わず手を引き込め、そのまま身体を守るように構えた。
「あ、痛たたた…。腰打っちゃったよ〜。」
倒れこむように壁の向こうから転がり出てきた少年は、腰をさすりながら顔をあげ、ウォレスを認めるとぱっと身体を起こした。
「あ！」
と、短く叫んで指で彼を指し示す。「君が噂の強い人だね！ 僕の名は水野想司☆ お命頂戴だよ！」
「…な、何…あなたは一体誰ですか？」
それまでの雰囲気はすっかり消し飛び、ウォレスは自分を指し示す人差し指から逃れるように一歩横に退いた。だが、水野想司は全くお構いなしだ。
「しらばっくれなくてもいいよ！ 僕はずっと君に会いたかったんだ。そして……」
言うが早いか彼は目にも留まらぬ速さで、ハーフパンツの腿に装備された銀のナイフを引き抜いた。「君を、殺したかったんだから！」
「何！？」
ウォレスの表情が一変する。水野想司は微笑んだままナイフを投げた。
ウォレスは瞬間、半身を捻ってそれをかわす。
「…ふーん、やるね☆ 流石は伝説の強者？ こんなにすぐ会えるとは思わなかったからキャンプ道具とか持ってきたのに…」
水野想司は背中のディパックを指で指し示した。どうやら彼はここで伝説の強者が現れるまでじっくり野宿するつもりでいたらしい。「無駄になっちゃったし、その上……君、血の匂いがするよ……。」
その言葉を聞くと、ウォレスは黙ったまま静かに喉もとのスカーフを緩めた。
突然の攻撃と、いきなりの出会いと、そして少年のどこか不穏な気配、それに常軌を逸した行動にも、だが我を忘れるほどには動揺していないようだ。
水野想司は、そんな相手の様子に、わくわくと心を躍らせた。
「僕ね、吸血鬼ハンターなんだ。あ〜あ…楽しみしてに来たのに、結局いつもの仕事じゃあねぇ…。」
言葉はがっかりしたかのようだが、黒い瞳はきらきらと輝いている。
「それは…因果なことですね……。」
少年と僅かな距離を置いて円を描きつつ移動しながら、ウォレスは薄い唇の片端を皮肉げに持ち上げた。
「名前からして君は日本人かな。私は日本…好きですよ。桜も綺麗ですし女性も美しい。ですからここでどなたかに討たれるならば、それもいいかと思っていました。」
緩めたスカーフをそっと手の中に納めて、ウォレスは微笑む。「…けれどあなたは私と彼女の逢瀬の邪魔をした！！」
整った眉がきっと上がり彼を包む物静かな雰囲気が、一変した。
「はぁ？ 逢瀬？ 吸血鬼が誰と会うって言うの！？」
「…珍しく私は本気ですよ…。さあ、相手をして差し上げましょう…。」
そして、水野想司とウォレスの戦いが始まった。
── 手ごわいなぁ〜。でも、僕の敵じゃないよね！
吸血鬼ハンターギルドの切り札、目標殲滅率百％のハンターは、心の中で密かに呟いた。まだ息が上がるほどではないが、相手は確かに伝説の強者の名に恥じない吸血鬼だった。
「『影化』」
その相手…英国紳士風の姿をした背の高い男は、よく通る低い声で一言呟いた。途端にその体の輪郭がぼやけ、辺りの闇に同化し始める。
「させないよっ！」
だが水野想司の異名は伊達ではなかった。背中にしょったザックから、なにやら取り出し、手際よく火をつけてウォレスに向かい投げつける。
カッ…と火花が散り、大爆発が起きた。地面が揺れる。
そして同化しようとした暗闇が、一瞬真昼のように明るくなった。
「チッ…なんて舌打ちは、行儀がよくないですね…しかし、なんてことするんですか…。ここはトンネルの中ですよ。」
アスファルトにあいた大穴を流し見て、ウォレスは姿を現した。
「でもこれが一番手っ取り早いんだ！」
水野は嬉しそうに答えた。ウォレスはやや呆れたように答える。
「そうですね…。あなたの腕を認めましょう。」
影化を阻止されたものの、まだまだ余裕の表情だ。
「え〜。こんなの常識だよ〜。今までの相手が弱すぎたんじゃない？」
「これでも百数十年ほど無敗なんですけどね…。」
「じゃあ僕がその連勝、止める人だ♪」
二人の攻防は接近戦に移っていた。銀のナイフを構えた水野の動きは驚くほど素早く、長身のウォレスの懐に、ともすれば飛び込みそうになる。だがウォレスは手に持ったスカーフ一枚で、そのナイフを絡めとるように、最小限の動 軽口を叩きながらも、攻防は激しくなっていく。そして激化すればするほど二人の本能は高まっていく。
瞬間。
銀のナイフが、ウォレスの喉下を狙った。ウォレスは反射的にそれを手のひらで防ぎ、更に長く伸びた爪で同じく彼の急所を狙った。
交錯する二つの影。
血の匂いが香った。
「ち、痛いなぁ、もう。」
「それはこちらの台詞です。」
「だけど君はすぐ治癒しちゃうんだよね〜。それってずるいよね〜！」
「仕方無いことです。」
お互い飛び退った二人は、ふざけた会話を交わしながらも改めて構えを取る。その視線は真剣そのもの。
「…ですが、次で決めましょうか…。」
「それっていい考えだね☆ 賛成するよ。だってもう、飽きてきたもん。」
そして空気が凝縮した、その時だった。
「そこまでだ！！」
張りのある青年の声が、飛んできた。
二人は意識を離さぬまま、僅かに身体をそちらに向ける。青年と少女と白い大型犬、そしてなんとシスターの格好をした女性がそこに居た。少女が切羽詰った様子で言う。
「ここは危ないです。逃げましょう！！」
水野は二人の姿には見覚えがあった。先程入り口で一緒になった二人組み。 もう一人は知らないが…
「あっれ〜？ どうしたの二人とも慌てて。」
暢気な彼の様子に、月乃が言った。
「ここ、もうすぐ崩れてしまいます。」
想司が投げた爆弾のせいだ。トンネルは丈夫に出来ていたが確かに古く、しかも内部からの衝撃にはあまり強くない。
「あっちゃ〜。それってマジ！？」
それを聞いたウォレスはひっそりと構えを解いた。どうやら邪魔が入ったようだ。他の二人に見覚えは、勿論無いがこの吸血鬼ハンターと顔見知りではあるらしい。
── 興ざめだな…。
スカーフを締め直し、身を翻す。…が。
「ちょっと君、待ちなよ！！ 勝負はまだついてないんだよ！？」
「水野想司、そんなことを言ってる場合か？」
慎は、思わず彼の前に立ちふさがった。相手のことは知らないが、ＴＰＯが間違っているのは明らかだ。
「あのね…七森クン。」
水野想司は年上の七森を「君」づけで呼んで軽く肩をすくめた。「このヒトって吸血鬼なんだよね。ここで逃すと何をするかわかんないわけ。で、僕は吸血鬼ハンターで…だからつまり…。」
「吸血鬼……？」
雫宮月乃は、警戒を解かぬまま立ち止まったウォレスの背中をじっと見詰めた。
「あら、ウォレス…そうだったの。」
修道女は、どれほどか知らぬが彼を知っている様子であった。だが正体を今知った割には動揺がない
七森慎は、月乃の様子には気付かず、水野の両肩をしっかりと掴んでその目を覗きこんだ。この妙な少年、置いて行ってもいいような気がしたが、それでは寝覚めが悪そうだったからだ。
「いいか水野想司。初めの目的をしっかり思い出すんだ。」
「え…なんだっけな……そうそう、伝説の強者を探すこと？」
「そう、その通りだ。…そこでそこのあなたに質問だが…」
慎はウォレスを見て尋ねる。「あなたは伝説の強者なのか？」
もうすぐトンネルは崩れる。必ず帰ると可愛い弟妹達に約束したのに、こんなところでぐずぐずしては居られない。
ウォレスは、自分をじっと見詰める月乃の視線から、ゆっくりと二人へ目を向け、短く答えた。
「…いいえ。違いますね。」
「というわけだ、水野想司。今日の目的はこの人と戦うことじゃなかっただろう？」
「……そう…言われればそうだったっけ？ うん、そうだった♪」
肩をガタガタ揺すられて、水野はあっさり頷いた。攻撃的らしいが素直な性格をしている。
「そうだ。じゃあ行こう。今すぐ。」
長男気質の七森慎の言葉に、ウォレスが素早く頷いた。そして先を走りだした。その後に意外と運動神経の良い月乃、雪羅。そしてすばしこい水野が続き、慎が後を追う。
地鳴りが、はっきりと分かるほど大きくなっていった。全て潰れる事は無かろうが、しかし入り口が塞がれたらまずい。
そして……。
小さな入り口の光が、皆の前に現れ、どんどん大きくなっていった。
「…っ出るぞ！」
誰の声だったのかは分からない。全身が夕暮れの光の中にさらされたと思ったその瞬間、大きな地鳴りと共にトンネルの入り口が崩れて落ちた。
５人は上がる土煙の中、目を細めてその様子をじっと見詰めていた。
そして。
＜水野想司＞
── あ〜あ…何しに来たんだか分からなくなっちゃったなぁ。
伝説の強者には会えないまま、入り口は潰れてもう入れない。折角ギルドの仕事をエスケープしてやってきたのに元も子もない。
── しかもなにか、騙されたような気がするしなぁ…。
ちら、と隣に同じく佇む吸血鬼に目を遣ったが、彼は先程までの戦闘など無かったかのようにじっとトンネルを見詰めていた。
うずうずと、その続きをやりたい気持ちが芽生えそうになったが、水野想司はディパックの中で鳴る携帯音に気付いてそれを取りだした。
『ギルド』
そのまんまである。彼はその表示を見て嫌そうに…眉をしかめた。
「も〜。休む間も無いよねぇ。でも僕ってスーパー吸血鬼ハンターだからしょうがないか！」
と、肩をすくめて彼は行こうとして「あ…あれ？ 自転車山の向こう側じゃん！！ がーん！！」
頭を抱える。
…が。
「……ま、いっか☆」
彼はあっさりにっこり微笑んだ。そして元気よく走り出す。
どうやら麓の町まで走っていくつもりらしい…なんという体力。
そして駆け去っていく想司の小柄な背中は、だが夕焼けの血の色を映して、何処までもはっきりと見えた。
＜終わり＞
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【0565／七森慎（ﾅﾅﾓﾘ･ｼﾝ)／男性／２７／陰陽師】
【0526／ウォレス・グランブラッド／男性／１５０／自称英会話学校教師】
【0666／雫宮月乃（ｼｽﾞｸﾐﾔ･ﾂｷﾉ)／女性／１６／犬神（白狼）使い】
【0424／水野想司(ﾐｽﾞﾉ･ｿｳｼﾞ)／男性／１４／吸血鬼ハンター】
【0660／シュマ・ロメリア／女性／２５（外見）／修道女】
※ 申し込み順に並べさせていただきました。
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■ ライター通信 ■
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長々と失礼いたしました。不思議トンネル。いかがでしたでしょうか？
七森さん、今回も参加有難うございました。とても嬉しいです。
ウォレスさん、雫宮さん、水野さん、沢山の魅力的なライターさんの中から選んでいただけて光栄です。有難うございます。m(__)m（ＰＣ名で失礼します）
今回皆さんのＰＣそれぞれの見せ場を作らせていただいたつもりです。メンバーも絶妙でしたね。皆さんそれぞれの秘められた過去。持っているトラウマ…というか傷、それに優しさ。大変興味深いです。
これからどんどん色々な物語を進めていくことで、私も少しずつ彼らのことを理解していけたらと思っています。人数が増えるとプレイング全てを反映することはできませんが、ＰＣの考え方や色んな情報は私の中に蓄積されていきます。どうぞ色々なことを書いてみてください。
では、もし宜しければ、また！
蒼太より
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