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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


不思議トンネル

------<オープニング>--------------------------------------
『トンネルって…天井がП型のと∩型のがあるって、知ってますか?』
 瀬名雫はその書き込みを見た瞬間、丸い瞳をくるりと動かし、輝かせた。
言われてみなければ気付かなかったかもしれない、そういえばトンネルには二種類ある。
『大抵はどちらかなんだけれど、私が住む町にある『不思議トンネル』って呼ばれるトンネルは、中央でПと∩が変わるんです。途中で切って貼り付けたみたいに。だから東から見るとП型の入り口なのに、西に出て振り返ると∩型っていうわけ。今そのトンネルは壊れてもいないのになぜか使用禁止。けど、色んな噂が沢山。午後3時に現れる幽霊の話とか、西と東、同時に人が入ると何かが起きるとか…。上にはお墓も立ってるし、ありきたりだけど工事にかかわった人が亡くなったとかいう噂だってあるし、帰ってこられなかった人もいる。だからちょっと怖いけれど…でも……。』
 その思わせぶりな語尾に引かれて、スクロールマウスをくりくりと動かし、続く文章を読む。
『帰って来ることが出来た人の噂。あのトンネルは入った人を幸せにも不幸にもするんだって…。ねえ、もし幸せになれるなら…ってそう思いませんか?』
「ふぅ〜ん。なんか面白そうだね☆」
じっと画面を見詰めて何事かを考えていた瀬名雫は、漸く身体を起こしてにっこり微笑んだ。「不思議なトンネル…中で何が起きるのかな。幽霊に追いかけられちゃうのかな? それとも誰かに会えるのかな…死んでしまった身内? 殺してしまいたいほど憎い人? それともそれとも、いとしい恋人に?」
 瀬名雫はかたん…と椅子を引いて立ち上がった。
 そして、こちらを振り返ると笑って可愛く小首をかしげた。
「ねえ行ってみない? このトンネル。…なんだかすっごく楽しそうだよ!」

--------<本文>------------------------------------
 日が中天から傾き始めた午後2時半。山の陰に隠れた東のトンネルの入り口に、タクシーが留まり、黒い人影降り立った。彼は両手をポケットに収めたまま、山肌からП型の入り口を覆う深緑の蔦をじっと見上げると、小さく呟いた。
「不思議トンネル…ですか。」
 ぱっと見30代前半というところか。落ち着いた雰囲気をまとったすらりと背の高い男である。淡い茶色の髪はきっちりと櫛が通されているが硬すぎず、整った顔立ちをしている。。
 彼の名はウォレス・グランブラッド。
 彼がこのトンネルの噂を聞きつけたのはもう一週間ほど前だった。ゆえに、まるでデマカセのオンパレードなこのトンネルに関する噂の数々も全て聞き知っている。そして彼の性格上、そんなわざわざ足を伸ばしても何も起こりそうに無い場所へ来ることなど、今までであればありえなかったのであるが…
 今、彼がトンネルを見上げる視線は鋭く細く、だがどこか悲哀に満ちていた。
「死んだ者…いとしい恋人に会うことが出来る……。」
 ぽつり、と思わず唇から漏れた自分の言葉に、彼は僅かに整った眉を寄せた。 こんな噂を信じるなど、どうかしている。
 なのに、どうしてこんな辺鄙なところまできてしまったのだろう。
 通行止めのこのトンネルへたどり着くまでも、人っ子一人居なかった道のりに思いを巡らせ溜息をついて、ウォレスは呟いた。
「そう…この時代…こんなに簡単に彼女にまた会えるはずが……」
 そしてその後の言葉は、彼の喉から音となって出ては来なかった。
 と、その時。
 近くの藪ががさっと動いて、彼ははっとそちらを見た。獣の気配ではない。では…『彼ら』か…。
 が、出てきたのは…女性だった。ウエーブのかかった長い金の髪。彼と同じ緑の瞳。美人だが…彼と同じく明らかに日本人ではない。そして…修道女の格好をしていた。
「あら…まだ行ってなかったの。」
 彼女は金の髪に片手を通し、けだるく掻き上げながらウォレスに近づいてきた。修道女らしからぬセクシーな仕種である。
「…君は?」
「あたし? あたしはシュマ・ロメリアよ。…ついでにどうせ聞かれるだろうから答えておくけど、今は愛車を隠して来たところ。ついでに言えばライダースーツを脱いでこっちに着替えてお化粧もしたわよ。…見たかった?」
 聞いて、思わずウォレスは小さく咳き込んだ。
「げふんっ…別に見たくはありませんし聞く気もありませんでしたよ。」
── やはり私は日本女性のほうが慎み深くてよいかと……
 そんなウォレスの心の呟きになど、全く気付かず彼女はあっさり頷いた。
「あら、そう。…ところで先刻見てたんだけど、あなたはリッチにタクシーだったわね。帰してしまって良かったの?」
「…日が落ちれば帰る術があるのでね。」
 不思議なことをウォレスは言ったが、シュマは気にも留めなかった。
「ならいいけど。今日はメットが一つしかないから聞いただけよ。」
「見知らぬ人間に親切なことですね。」
「シスターってそういうものよ。知らなかった?」
 言いながら、紺色のスカートのポケットを探る。少しうつむいた頬に長い睫の影が落ちた。
 ウォレスが黙って眺めていると、彼女は煙草を取り出し、慣れた調子で火をつけた。
「……何? 女が煙草を吸うのが珍しいの?」
 ちら、と視線を上げて彼女が言った。
「いえ。ただ吸殻はきちんと片付けてくださいね。」
 生まれは分からないが二人の外国人が日本語で話し合う不思議な光景。
 ウォレスの言葉を聞きながら、シュマは胸の奥まで吸い込んだ煙を吐きだした。
「…ねえ。もしかしたらと思うんだけど…私たち同じ目的でここに来ているのかしら?」
 ウォレスとシュマの緑の瞳がお互いを探るように交錯する。そして二人の瞳は種こそ違えど同じ色を灯していた。
「……噂は噂ですよ……。」
 ウォレスの静かな答え。シュマは自分の予測が正しかったことを知る。
「まあね…。他にもなんだか『午後3時の幽霊』とかそんな話もあるわね。」
「生きて出られない、なんていうのもね。」
 ウォレスは悪戯げに彼女をちらりと眺めた。
「あ…はん。脅かさないでよ。」
彼女は肩をすくめて携帯灰皿に煙草を押しこんだ。そして「やだ。口紅落ちちゃった。…ウォレス、先に行っていいわ。」
「様子見ですか?」
 ウォレスが言うと、彼女は微かに微笑んで一言、言った。
「…悪いわね。…もし…もしもあの人に会えるなら、あたしは一人で行きたいの。」
「同感です。ミス・ロメリア。」
「シュマでいいわ。」
 そしてウォレスは、その場にシュマを残し。
 軽く唇を引き結び、トンネルの中へと足を踏み入れていった。

── さて、そろそろいいかしら?
 シュマは彼が去ってから3本目の煙草をもみ消して、顔を上げた。
 暇があるとつい吸ってしまう…というよりは吸わずにはおれない。愛煙家という奴である。シスター姿に煙草は異様な光景だが、久々に禁煙教会の中から出たのだ。思う存分吸っておかなければ損というものである。
 トンネルの中は寒々としていた。人が来なくなってどれくらいが経つのだろう。ふと腕時計を見ると時刻はそろそろ三時。いくつもの噂の中で時間が指定されていたのは一つだけであったからこの時間を選んだが、結果何が起きるかはまだ分からない。
── 会えるかどうか分からないのに。こんなところまで来ちゃったわ…。
 彼女はそんな自分に呆れたように笑ったが、その頬には僅かに朱がかかっている。つまり彼女は、心底のところあの噂を信じていた。
「ねえ…この責任とって、出てきてよね…ライ……。」
 彼女は艶めいた唇を僅かに開き、求める相手の名を囁いた。その呟きはトンネルの中に酷く反射して戻ってくる。気付くとここはПと∩型の天井がつながる、その部分だった。先を進んだはずのウォレスの姿は何処にも無い。
 じゃり…と立ち止まったローヒールの下で砂が音を立てる。その時、彼女の持つ時計の針が午後3時を示した。
 そして、僅かに流れていた空気が動きを止めた。
 コツ…
 びくり、とシュマは背を震わせた。
 コツ…・コツ…コツ……。
 足音。
 そして懐かしいその気配。
── まさか…本当に…?
 思うより早く、彼女は振り返っていた。
 そこには青み掛かった黒髪と陽気な眉、そして悪戯気な瞳を持った青年が立っていた。そして彼はシュマに向かって大きく手を広げる。
 彼女は、一瞬の迷いも無く彼の腕の中に飛び込んで行った。
「──っ…ライッ!!」
その腕に長い金の髪ごと抱きしめられる。「会いたかった…っ。会ってあたし、伝えなきゃいけないことが…。」
 彼の匂いが鼻先をくすぐり、彼の息遣いが耳元に聞こえる。
「だってあたし、あの時返事をしないままだったから。まさか居なくなるなんて思っても見なかったから…。」
 そっと身体を離し、シュマはゆっくりライの頬に手を添えた。その手に触れる彼の肌の感触もそう、覚えている。昔のままだ。
「ライ…あたし……。」
 彼女はしようとした。最後に会ったあの日の、彼のプロポーズへの返事を。
 けれど。
 ライの指先が彼女の艶めいた唇に触れ、その先を留める。そして彼女を抱き寄せる。
── ライ…。
 彼の腕の中は心地よい。微かに聞こえる彼の鼓動がまるで子守唄のように聞こえる。そして彼女はうっとりと緑の瞳を閉じた。
「ライ…なんだかあたし…眠い……。」
── 折角会えたのに…。
 だが、ライはそれでいいというように彼女の背を軽くリズムをつけて叩く。
── でもあたし…あなたの腕の中でなら、眠ってしまってもいいわ……。
 が、その時だった。
 大きな獣のうなり声と共に、一陣の風がごうと吹き、シュマの長い金髪が煽られ彼女の視界を一瞬遮った。
 そして。
 その風が止んだとき…彼女の前にライの姿は無かった。
 その代わり、立っていたのは大きな白狼。
「……幻…だったの…。」
 そして白狼は彼女の長い服裾を噛み、ぐいと引いた。

 白狼につれてこられた場所では、年若い少女が蹲って泣いていた。白い頬に涙を流しながら膝を抱えて目を閉じている。どうやら彼女がこの白狼の主人であるらしい。
「助けてくれたのは、アンタなの…?」
 シュマは尋ねた。すると少女がはっと顔を上げた。銀色の長い髪を右頬で一房螺旋に編みこんでいる。シュマはその蒼い瞳の印象に一瞬驚く。
「壁が…消えて……。」
だが彼女はそう呟くとシュマを完全に無視して白狼に抱きついた。「雪羅! …無事だったのですね!」
 白狼は彼女にいたわるような視線を投げる。
 そして彼女は聞いた。少女の名は雫宮月乃、そして白狼は名をセツラといい、彼女はここに出来ていたらしい壁の向こうへ消えた雪羅を追おうとしたが、越えられずに居たのだということ。
── その壁が、あたしの掴まっていたあの空間との境…だったんだろうね。
「でもこのコはきっと…月乃、アンタを心配してあたしを呼びに来た…ただそれだけじゃないのかな。」
自分の状況も簡単に少女へ伝えると、カチ…と、彼女は細い指に挟んだ煙草に火をつけ、さも美味そうに一口飲み込んだ。「ま…おかげで一服、こうして吸える訳よ。…ありがと。」
 彼女はシスターというだけではなく、本質的に誰もを大きく包み込むような暖かい雰囲気を纏っていた。…その言動は別としても。殆どパニックに陥っていた月乃が落ち着くまで傍にいたのも、彼女の気質なのだろう。
 幻に会っていた、というからには、彼女自身も酷い目に合ったに違いないのに。と、月乃はそう思った。
 …その時。切ないほどの叫び声を聞いて、二人は顔を見合わせた。
「…この声は…七森さん?」
 陰陽師、七森慎の声だ。
「知り合い?」
 シュマは軽く尋ねた。聞かれて月乃は一瞬迷うそぶりを見せた。が。
 決心したように雪羅に頷いて、声のしたほうに走り出した。

 七森慎…陰陽師は、護符を額の前にかざして叫んでいた。
「…父さん…! どうして俺を…っ!」
 異様な光景だった。彼は、彼自身の式神を自分に向かわせ、そして戦っていたのだから。
「操られてる……。」
 シュマは呟くように言って煙草を投げ捨てた。一瞬環境保護云々を思ったが、今はそれどころではない。月乃を振り返って一声叫ぶ。
「月乃、雪羅を……。」
 月乃は素早く頷いた。そして一声。
「行って! 雪羅!!」
 しなやかな指先で、月乃が命を下す。雪羅はそれに呼応して、七森慎とその式神の間に飛び込む。それで駄目なら自分が入ろうと構えていたシュマだったが、七森慎の表情の変化を読み取って、構えを解いた。そしてどこか切なそうな声で呟いた。
「そうそう…こうやって助けてくれたのよ…。」
 月乃はそのまま慎に向かって一声叫ぶ。
「何をしてるんですか!!?」
「…雪羅……?」
 慎は飛び込んできた白い塊が雫宮の白狼と気付くと、自分を取り囲んでいた壁が音を立てて崩れたのを知った。
「あなたが戦っていたのはあなた自身の式神……。」
 シュマが一言伝えてやると七森慎はやや呆然としながらも、すばやく我を取り戻して呟いた。
「俺の……そうか…。」
「幻を見たのですか…?」
 月乃の問いに、慎は微かに疲れたように頷いた。
「ああ…。両親の幻をね……。」
僅か遠い目をして、呟く。「ずいぶん昔に亡くなったんだ。」
「陰陽師だったからですか…?」
 雫宮月乃は、彼女らしからぬ興味を示して、だが遠慮深げに思ったことを尋ねた。同じ陰陽師ということが、そうさせたのかもしれない。彼女は認めていなくとも。
 シスター、シュマ・ロメリアは二人を見守る調子で少し離れた場所に立ち、再び煙草に火をつけた。一瞬トンネルの中がほのかに明るくなる
「そうだ…。」
 慎は、雫宮の少女の蒼い瞳をじっと覗き込むようにして、答えた。
「それでもあなたは陰陽師でありたいのですか? 何もかも投げ出して…消えてしまいたいと思ったことはないのですか?」
 慎は、上ずった彼女の声の向こうにある何かを、僅かながら嗅ぎ取り、静かに答えた。
「俺は…この任を投げ出したりはしないだろう。なぜなら俺には守るべき七森の技と一族と兄弟がいる。…そしてそれを誇りに思っているから…。」
「あなたは…月乃の兄に…少しだけ似ています…。」
 ややあって、彼女はただ、それだけをぽつりと呟いた。
 そんな月乃の頭を、慎はつい撫でたくなって手を伸ばしかけた…が。
 ドウン……と地鳴りが響いて彼らは目を見交わした。
「爆発音…向こうから?。」
 月乃ははっとしたように顔を上げた。
 シュマは軽く肩をすくめる。
「嫌ね。おちおち吸ってもいられやしない…。」
「水野か? …行こう。」
 三人は音のした方へ向かって走り出した。


「いました! あそこです!」
 月乃は叫んで七森とシュマに指し示した。そこに居たのは一人の少年とそしてウォレス。どうやら戦っていたらしい彼らの足元には大穴が開いて、足元にはトンネルの天井から礫片が崩れ初めていた。
「そこまでだ!!」
 七森が叫び、月乃が続ける。
「ここは危ないです。逃げましょう!!」
 二人がゆっくりと振り返り、少年が暢気な声を上げた。
「あっれ〜? どうしたの二人とも慌てて。」
「ここ、もうすぐ崩れるわよ。アンタたちなにかしたでしょ。」
 シュマは彼に向かってそう言った。どうやら少年はこの二人の連れか知り合いであるらしい。
「あっちゃ〜。それってマジ!?」
 そんな彼らの会話を横から聞いていたウォレスはひっそりと構えを解き、スカーフを締め直して身を翻した。
「ちょっと君、待ちなよ!! 勝負はまだついてないんだよ!?」
「水野想司、そんなことを言ってる場合か?」
 七森慎が、思わずといった様子で彼の前に立ちふさがる。すると少年は
「あのね…七森クン。」
年上の七森を「君」づけで呼んで軽く肩をすくめた。「このヒトって吸血鬼なんだよね。ここで逃すと何をするかわかんないわけ。で、僕は吸血鬼ハンターで…だからつまり…。」
「吸血鬼……?」
 月乃が、警戒を解かぬまま立ち止まった男の背中をじっと見詰めた。
 そしてシュマは僅かに目を細めて言った。
「あら、ウォレス…そうだったの。」
 そして七森慎は、水野の両肩をしっかりと掴んでその目を覗きこんだ。この妙な少年、置いて行ってもいいような気がしたが、それでは寝覚めが悪そうだったからだ。
「いいか水野想司。初めの目的をしっかり思い出すんだ。」
「え…なんだっけな……そうそう、伝説の強者を探すこと?」
「そう、その通りだ。…そこでそこのあなたに質問だが…」
慎は男を見て尋ねる。「あなたは伝説の強者なのか?」
 もうすぐトンネルは崩れる。必ず帰ると可愛い弟妹達に約束したのに、こんなところでぐずぐずしては居られない。
 男は自分をじっと見詰める月乃の視線からゆっくりと逃げ、短く答えた。
「…いいえ。違いますね。」
「というわけだ、水野想司。今日の目的はこの人と戦うことじゃなかっただろう?」
「……そう…言われればそうだったっけ? うん、そうだった♪」
 肩をガタガタ揺すられて、水野はあっさり頷いた。攻撃的らしいが素直な性格をしている。
「そうだ。じゃあ行こう。今すぐ。」
 長男気質の七森慎の言葉に、ウォレスは素早く頷き先導するように走りだす。その後に意外と運動神経の良い月乃、雪羅。そしてすばしこい水野が続き、慎が後を追う。
 地鳴りが、はっきりと分かるほど大きくなっていった。全て潰れる事は無かろうが、しかし入り口が塞がれたらまずい。
 そして……。
 小さな入り口の光が、皆の前に現れ、どんどん大きくなっていった。
「…っ出るぞ!」
 誰の声だったのかは分からない。全身が夕暮れの光の中にさらされたと思ったその瞬間、大きな地鳴りと共にトンネルの入り口が崩れて落ちた。
 5人は上がる土煙の中、目を細めてその様子をじっと見詰めていた。

そして…


<シュマ・ロメリア>

 ライダースーツに着替えて、崩れたトンネルの前、彼女はじっと立っていた。
 もう日は落ちた。そして他の4人の姿も無い。
 つ……と彼女の頬に一筋の涙が流れて、金の髪が風に揺れた。
 今は誰もその涙を見る事は無い。気丈な彼女の、切ない心を。
「幻だって…分かってたわ。」
 彼は人間界に堕ちた男。そして自分は「闘神」。
 こんな場所で、会えるはずがなかった。
 分かっていたから、連れ戻す術も共に居る術も考えず、ただこのトンネルへ来た。
 彼女の脳裏に、ウォレス…吸血鬼の姿とその瞳に潜んだ色が過ぎる。
── あたしもあんな目を…してるのかしらね。
 けれど彼女は、一つ首を振ると長い髪をメットの中に押し込み、バイクに飛び乗った。エンジン音が爆風となってマフラーから溢れる。
「行こう。あたしはこんなところで立ち止まったりしない。」
 彼にもう一度出会うまで。
 シュマ・ロメリアはこの世界で生き続ける。

<終わり>

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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0565/七森慎(ナナモリ・シン)/男性/27/陰陽師】
【0526/ウォレス・グランブラッド/男性/150/自称英会話学校教師】
【0666/雫宮月乃(シズクミヤ・ツキノ)/女性/16/犬神(白狼)使い】
【0424/水野想司(ミズノ・ソウジ)/男性/14/吸血鬼ハンター】
【0660/シュマ・ロメリア/女性/25(外見)/修道女】
※ 申し込み順に並べさせていただきました。
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■         ライター通信          ■
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長々と失礼いたしました。不思議トンネル。いかがでしたでしょうか?
七森さん、今回も参加有難うございました。とても嬉しいです。
ウォレスさん、雫宮さん、水野さん、沢山の魅力的なライターさんの中から選んでいただけて光栄です。有難うございます。m(__)m(PC名で失礼します)

今回皆さんのPCそれぞれの見せ場を作らせていただいたつもりです。メンバーも絶妙でしたね。皆さんそれぞれの秘められた過去。持っているトラウマ…というか傷、それに優しさ。大変興味深いです。
これからどんどん色々な物語を進めていくことで、私も少しずつ彼らのことを理解していけたらと思っています。人数が増えるとプレイング全てを反映することはできませんが、PCの考え方や色んな情報は私の中に蓄積されていきます。どうぞ色々なことを書いてみてください。

では、もし宜しければ、また!
蒼太より