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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


調査コードネーム:エメラルドの勾玉
------<オープニング>--------------------------------------
「あなたがたが、碇麗香さんと三下忠雄さん、ですね」
 麗香と三下の二人は、非常に珍しいとされる玉石について、アンティークショップである『蓬莱倉庫』に来ていた。
 ここは、一般の客が買い求める手頃な石や宝石、そして非常に高価な指輪や玉石を取り扱っている店でもある。
「はい、私は月刊アトラス編集部長の碇麗香、そしてこの男は、私の部下の三下忠雄です。」
「それでは、お見せいたします」
 蓬莱倉庫の主人は、奥の部屋へと二人を招いた。
 するとそこには、ケースに収められた、割と小さなエメラルドの勾玉があった。
「綺麗な勾玉ですねぇ。でも何の変哲もないようにみえるけど……」
「店長、この勾玉が何か? どこがかわっているんですか?」
 三下と麗香が、勾玉を見ながら店長に質問する。
「それでは、実験してみましょう。よく見ていて下さい」
 店長はケースを開け、勾玉を外に出す。そして側にあった水を勾玉にかけると、いきなり出てきたのは、まるで血液のような色の水だった。
「ひい! す、凄い色の水が……」
「ふうむ、これは……店長、これを手に入れた場所というのは?」
「私にも分からないのです。お客様が気味が悪いからということで、頂戴したまででして」
「気になるわ……。こんなに綺麗で純粋に見えるエメラルドの勾玉なのに、どうして水をかけると血のような水を吐き出すのか……。これは特ダネになりそうね」
 すると三下は抗議する。
「ええ〜?! やめましょうよ、麗香さん。気味悪いですよ。それに何か曰く付きだったらどうするんですか〜」
「三下くん。私は編集長よね?」
「へ? は、はい、そうですけど……。それが何か」
「この勾玉の調査、宜しくってこと。言っておくけど、手抜きしたりしたら……、分かってるわね?」
「はあ、いつもこんな役なんですかぁ?」
「運命だと思って諦める事ね。じゃ、私は倉庫の中見ながら帰るから。頼んだわよ」
 こうして三下は、エメラルドの勾玉について調べることになったのだ。

◎アンティークの秘密
 三下は麗香に取り残され、不思議なエメラルドの勾玉を真摯に見つめ、あちこちから観察しながら何の変化もないかを調べていた。
 しかし、それは無為な時間でしかない。勾玉には、何の変化もないのだから。
 その時だった。
「あら? 三下さんじゃないの。どうしたの? こんなところで」
 声をかけてきたのは、この蓬莱倉庫で仕入れをしている慧蓮エーリエル(えれん・ー)だった。三下とは顔なじみ、外見年齢13歳くらいだが、本当の年齢は500歳という、世にも変わった人生を送る女性だ。
「ああ、慧蓮さん。いえ、このショップに来て見せて貰ったんですが、凄い勾玉を見つけたんですよ! これはスクープです! ほら、実験してみますね」
 三下はエメラルドの勾玉を手に持って、側にあった水をかけた。すると血液のような水が勾玉から案の定噴き出したのだ。
「どうです、慧蓮さん。これ、スクープですよね?!」
「さあ、どうかしら。私の持つ勾玉、一つ貸して上げるわ。それを見てから、もういっぺん驚くのね」
 三下は慧蓮から借りた無色透明な水晶の勾玉を持ち、再び水をかけた。すると、これも血液のような水が噴き出してくるではないか。
「ええ?! な、なんでなんですかぁ?! 教えてくださいよ、慧蓮さん!」
「三下さん。あのね、新品の宝石とアンティークの宝石の違いって知ってる?」
「い、いえ、はっきりとはわかりませんが、新しい古いの違いですよね?」
「単純に言えばそうね。でも、古いものは古いなりに、その持ち主の人生をどんどん刻み込んでいくものなの。歴史の証人でもあるワケよ。だからそれなりに輝き方も新品とは雲泥の差、非常に美しいものだわ」
「はあ、なるほど、そうなんですかぁ」
 三下は慧蓮の説明をメモっていた。
「ふうむ、このエメラルドの勾玉だけど、やはり曰くありげね。私の名前で、持ち主を遡ってみましょうか。ちょっと触れさせてもらうわね」
 慧蓮はエメラルドの勾玉に手をかざし、自分の名前をいうなり、難しいことばをひとこと言って瞑想の状態に入った。
「この……持ち主の二代前の人、吐血して死んでいるわ……それから五代前の人も不慮の事故で死んでいる」
 いきなり縁起でもない言葉が飛び出してきた。それでも三下はメモを続けた。
「ふう、そうねぇ。あまり良い人生を送っていない勾玉ね。でもね、エメラルドっていうところがミソよ」
「と、いいますと?」
「エメラルドは代々、不滅・不老ということでも有名な石なの。あのイエス・キリストの最後の晩餐で使われた聖杯もエメラルドだったと言うし。縁起の良い石であることには変わりないのよ」
「ほお、そうなんですかぁ。それは僕も知らなかったです」
「それにね、ちょっともう一度実験」
 慧蓮は持っていた紐を勾玉にくぐり付け、手の着いていない状態でコップの水に勾玉を付ける。
 するとどうだ。何の変化もおこらない。血の色をした水さえ出てこないのだ。
「こ、これって、どういう意味なんですか?」
「私の持っている勾玉全部なんだけど、この石も同じようね。これは霊的現象でね? 人や動物の皮膚にある毛細血管から、何らかの力が生じて幾分自分の血を吸い取られているという証拠でもあるモノらしいの。私も微細なことは分からないけど、長年生きてきて出した結論がそれね」
 なるほど、と三下は手を打った。しかし、気味の悪い現象であることには変わりはない。
 この蓬莱倉庫に並んでいる宝石や宝玉、勾玉などがそうだとすれば。三下は少しだけ背中をゾワリとさせた。
「何、怯えた顔してるのよ。大丈夫よ、全部が全部、不幸の品物でないことは、私が保証してあげる。言うでしょ? ほら、幸運の玉石とか、仕事運を良くする石とか。まあ、私としてはこのラピス・ラズリだけれどもねぇ」
「あ、これ知ってますよ! 色々な幸運を授けてくれる石なんですよね?」
「それだけじゃないわ。健康にも良いのよ。これを付けてから、肩こりなんて一切したことないんだから。凄いパワーだと思わない?」
 三下はうんうんと頷いた。彼でさえ、ラピス・ラズリのパワーは、依頼調査でわかっていたからだ。
 奥から支配人が現れた。どうやら様子を見に来たらしい。
「おや、慧蓮さんじゃありませんか。仕入れですね?」
「ええ、そうよ。三下さんがあまりにも悩んでいるものだから、手伝ってあげていたってワケ」
「そうですか。それで振込のほうの金額はどうなりますか」
 慧蓮は電卓を出し、慣れた手さばきでボタンを押していく。慧蓮はこれでも大金持ちで、この商売を初めてからは、更にお金持ちになった、とさえ噂になっているほどだ。
「そうね、概算でこの金額よ。悪い値段じゃないとおもうけど」
「ふうむ、そうですねぇ。しかしながら、慧蓮さんはお目が高い。もう少し何とかして貰えませんか。そこまで振込依頼されますと、我が社の運転資金にも悪影響が出ますので……」
「むう、そうねぇ。そうだわ、このエメラルドの勾玉で、何とかさっ引いてあげられるかも」
「それですか? ふうむ、我が社の目玉だったのですが、仕方ありませんな。分かりました、そのエメラルドの勾玉で手を打ちましょう」
「本当ね? やったわ! これだけは手に入れたかったの。大事にしてあげるからねぇ」
 因みに慧蓮が支配人に提示した額は、2500万円。いくらアンティークショップとはいえ、一括して払える額ではない。
「慧蓮さん、やるなぁ。僕もそのぐらいの度胸持たなきゃ!」
 こうしてエメラルドの勾玉は慧蓮のものとなり、三下の調査も終わった。

◎調査終わって……
 麗香は一足先に編集部に戻り、腕輪のように連なったラピス・ラズリを片手にはめていた。
「編集長、調査終わりましたぁ」
と、調査文を提出する。
「ほお、ほおほお、ふぅん……。なかなか良くできてるじゃないの。あんたにしては」
「あんたにしては、は余計ですよ〜」
「誰かに手伝って貰ったってことくらい、お見通しよ。……慧蓮さんでしょ?」
「え、な、なんで分かったんですかぁ?」
「こんな事分かってる人物なんて、慧蓮エーリエルしかいないでしょ? まあ、今回は難題だったから、助っ人が来てくれて助かったようなモノよ? 礼は言っておいたでしょうね?」
「はい、それはもう」
 チラリと目に入った麗香のラピス・ラズリの腕輪。三下は途端に欲しくなった。
「何よ、その目」
「ください! 麗香さん! そのラピス・ラズリの腕輪ー!」
「ダメー! 貯金はたいて買ったんだからダメー!」
 こうして今日も、編集部は賑やかになっていくのだった。

                    FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0487 慧蓮・エーリエル(えれん・ー) 女 500歳 旅行者(兼宝飾デザイナー)
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■         ライター通信          ■
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○勾玉の謎、意外な展開が見られて良かったのではないかと
ホッとしています。
○言っておきますが、「血のような水が出る」というのは設定上の
ことですのでフィクションです。こんな勾玉あったら、とっくに
博物館行きですしね。
○しかし、エメラルドの逸話に関しては、不滅・不老というのは
よく言われています。勇気が出るというのも本当らしいですよ。
○さて、これが私の書く文体(文章)でございます。まだまだ拙い
ところもございますが、どうぞ今後ともご愛顧お願い申し上げます。

                  夢 羅 武 市 より