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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・陰陽の都 朧>


陰の章 玉藻の影 後編 

<オープニング>

「よぉ、また会ったな」
 狐狸狗で食事をしていた貴方に声をかけてきたのは須佐ノ男であった。
「今暇か?もし暇なら花町に行って見ないか?もうじき藤の時期は終っちまうけどよ」
 花町とは中心街と木街の中間にある町で、芸者や茶屋が寄り集まった場所とでも言うべきところである。ただし、それだけではなく、町の名前どおりここは四季折々の花が植えられて、花見の時期にはたくさんの花が咲いて一大観光スポットになる。今の時期は藤の花が咲いているので、藤の花見に訪れる客がたくさん集まっている。
「実はここの茶屋の中に俺が探している女が出入りしてるって聞いてな。そいつが本当にいるのかどうか調べたいんだよ。ただ、一人で調べるんじゃあの町は少々広くてな。手伝ってほしいんだよ。どうだ?」
 女が現れる時間は深夜。ある男と連れ添っているのを目撃されているという。

(ライターより)

 難易度 普通

 予定締切時間 5/14 24:00

 中心街から少し離れた花町。藤の花が見頃を迎えていますのでお花見をするのも悪くないかもしれません。勿論その合間に須佐ノ男に協力するのもOKですし、茶屋で芸者と遊ぶのも悪くないかもしれません。丁度満月の日なので風流な気分を味わえます。
 目的の女は遊女風の姿をした美女で、年のころは二十代後半から三十代くらいの妖艶な熟女だそうです。連れの男は噂によるとここの市長であるとかないとか・・・。
 花町を満喫するのは良いのですが、遊びだけに集中しすぎると依頼が失敗する可能性があるのでお気をつけください。
 それでは花見と、芸者の三味線を楽しみたい方のご参加をお待ちして居ります。ちなみに茶屋に女性が入ることは可能です。

<狐狗狸にて>

 朧中心街に立つめし処「狐狗狸」。安くて上手いと評判で、昼時ともなれば中心街で働く者たちで常に満席となる。久しぶりにこの町に訪れていた二人の兄弟、守崎啓斗と守崎北斗は店員に満席と告げられて待つことにしたもののあまりの長蛇の列にうんざりしていた。
「兄貴〜。俺腹減ったよぉ」
「我慢しろ。俺も腹減ってんだ」
 弟の北斗の情けない声に、兄の啓斗はむっつり顔で答えた。二人とも育ち盛りの高校生。成長期の少年たちに空腹を堪えろというのもいささか酷な話なのかもしれない。
「うう、むかつくなぁ。すり抜けしちまおうかな」
「馬鹿。んなことしていいわけねぇだろ」
 啓斗は北斗を諌めてはいるが、空腹によるストレスでだんだんイライラしてきている。特に弟の空腹の方は限界のようで、実力行使で割り込みをしかねない様子だ。
 そんな時、思いもかけない声が店の方から聞こえてきた。
「よぉ、誰かと思えば守崎じゃねぇか。こんなところで何してんだ?」
 啓斗は自分にかけられたその声の主の方を向いてみると、見覚えのある顔をした男が蕎麦をすすっていた。かつて無気力になって朧に来た時に面倒を見てくれた相手。
「須佐ノ男!」
 それは遊び人の須佐ノ男であった。たまに狐狗狸で飯を食っていたかと思えばいきなり下水道に潜ったり、妖の者と戦ってみたりと訳の分からない行動をする男である。名前に関しても偽名のようで謎の多いの人物なのだが、その明るい話し方や考え方からそんなに悪い人間とは思えない不思議な男であった。
「くっくっく、そうかそうか。お前ら、腹減ってんだろ。顔に書いてあるぜ。ったくしょうがねぇな。こっちに来な。席が空いてるからよ」
「まじかよ!?サンキュー」
「お、おい北斗!」
 現金なもので、飯が食えるとなって顔をほころばす北斗に、啓斗は自分たちの前に立っていた者たちのきつい視線を気にしながら弟を止めようとした。だが、食欲魔人に変貌している弟を止める術などない。さっさと初対面であるというのに須佐ノ男の隣に座っている。
「いいのか須佐ノ男?」
「かまわねぇよ。ここは馴染みの店だしな。お前ら好きなもん注文しな。お〜い、親父さん!こっちに水ふたつだ」
「へい、毎度っ」
 店の親父が威勢のいい声を出して水を持ってきた。最初は渋っていた啓斗だか、もう自分も席についてしまったし、何より腹が減っていることは事実なわけで弟ともどもお品書きに目を通し始める。
「何にしやすか?」
「そうだな・・・。前に蕎麦を奢ってもらったわけだし筍飯頼めますか?」
「筍ねぇ。時期は少しづれてますけどやってますよ」
「じゃあそれを。おい北斗。お前は何にするんだ?」
「なんだよここ、和食しか扱ってねぇのかよ。もちっと洋風なもん食いてぇよな!・・・いてぇ!」
 バチあたりな発言をした北斗に頭に兄の拳骨が炸裂した。あまりの激痛に頭をかかえる北斗。
「食えるだけでも有難いと思え、馬鹿」
「手加減しろよ・・・。まじいてぇ」
 二人のやり取りを見て須佐ノ男は大笑いした。
「あっはっはっは!面白いなぁお前達は。守崎、こいつお前の弟か?」
「ああ、弟の北斗だ。北斗、挨拶ぐらいしろ」
「・・・どうも」
「よろしくな、北斗」
 そう言って手を差し出す須佐ノ男の手を握りながら、北斗はうさんくさい奴という印象をもった。町中の人間が着物やスーツ姿のものが大半だというのに、Tシャツにジャケット姿で銀のアクセサリーまでつけている。顔は整っているものの、にやけ面でどうにも信用ならないようにしか見えないのだ。
「まぁ、飯を食い終わってからでもいいんだが、お前らも俺と一緒に花町まで来ないか?ちょっと手伝ってもらいたいことがあってよ」
「花町?」
 初めて聞く名であった。朧は五行の即した五つの町と中心街しか存在しなかったはずではないか。そんな啓斗の顔を見て取って須佐ノ男は説明した。
「中心街からちょっと離れたとこにある町でな、ま、簡単に言うと芸者遊びするところのことだ。ついでに今の時期は藤の花見にも丁度いい季節だな」
「それってつまり旨い物が出て綺麗なねぇちゃんがいて三味線の音色にあわせて踊っちゃうんだろ?行く行く!やっぱ人生にゃ潤いが無きゃよぉ」
 花町の説明を受けて俄然やる気が出たのか、勢いこんで参加意思を表明する北斗。やはり思春期の少年、綺麗な女性には興味があるらしい。
「俺や北斗には目の毒のような町だな。だが、まぁ俺も行くかな」
「げ、兄貴も来んのかよ?潤わねぇじゃん!」
「お前一人にさせたら遊びほうけて真面目に仕事しないだろうが」
「な、なんだよ。まるでいつも俺がさぼっているような言い方じゃねぇか」
「そうだろうが」
「何〜!?」
 二人のやり取りを見て楽しげに笑う須佐ノ男の顔に、ときおり羨ましさと懐かしさが同居したような寂しげな表情が浮かんでいたことを、しかし口げんかしている二人が気が付く由も無かった。 

<両手に華>

 本来花町は夜こそが真の顔であり、昼間はさほど賑わったりはしない。だが、花見の時期となれば話は別である。四季折々の花が織り成す幻想的な光景は、訪れた者をさながら桃源郷に来たかのような夢見ごこちの気分へと誘う。
 現在は、上品でどことなくミステリアスな雰囲気を漂わせた紫の花をつけた藤が満開である。花町の茶屋の軒先には藤棚が設けられ、花町全体が紫に包まれていた。
 そんな町中を歩く人間の中に、二人の女性を伴った須佐ノ男がいた。一人はこの朧に合わせたかのような着物姿をしており、凛とした面差しと静かな立居振舞は大和撫子を連想させるような、奥ゆかしい日本の美を感じさせる。もう一人は小柄な少女で、こちらは洋服を着ているもののその手には蜻蛉の羽を何枚も重ねて織ったような、薄く光沢のある服が握られていた。
「見事な藤ですね」
 花町を飾る藤に感嘆のため息をついたのは着物姿の女性であった。神社の後継ぎである天薙撫子である。
「ああ、ここの見所だな。普段は一般の女や子供には開放されてない場所なんだが、花見の時期だけは開放されるんだ」
「女や子供に開放されていない?」
 訳が分からず天薙は首を傾げた。どういうことなのであろうか。
「ここは青年男子以外禁制の場所なんだよ。本来は男が芸者と遊びに来る場所だからな」
「女は芸者と遊んではいけないのですか?」
「遊ぶつってもな。ただ三味線を聞きにくるわけじゃないぜ。分かるだろ、これだよ」
 須佐ノ男が小指を掲げて見せたが、それでも天薙は分からない。深窓の令嬢的な育ち方をしているため一般的な社会常識に疎いのだ。
「ああもう、男が金だして女と二人っきりになったら何するか分かんだろっ。交わりだよ交わり」
「交わ・・・!!!」
 ようやく須佐ノ男が言わんとしている事を理解して天薙は赤面した。
「あの、須佐ノ男さん」
 黙ってしまった天薙に代わって今度は小柄な方の少女が須佐ノ男に話しかけた。高校生の神崎美桜である。
「ん?どうしたい」
「あの、これ・・・。ごめんなさい。一生懸命洗ったんですが落ちなくて」
 彼女が頬を赤くして差し出したのは、先ほどの薄い作りの衣であった。以前の依頼で須佐ノ男から譲り受けた八卦紫寿仙衣と呼ばれる宝貝である。下水道の依頼で汚してしまったので彼に嫌われてしまったのではないかと気が気でなかった。
「ああ、そいつか。別に気にすんなよ。そいつはお前さんにやったもんだしな。好きに使いな」
「でも・・・」
 消え入りそうな声で呟く神崎。今まで人を避けてきた自分が、彼の傍にいると不思議に安心できる。だが、今ではそれだけでは無く自分の胸がどきどきと高鳴り落ち着かなくもなる。こんな感情を抱いたことの無い彼女はこの事に非常に困惑していた。
「と、ところで須佐ノ男さんが探している人ってどんな方なんですか?」
「そうですね。それに関しては私も聞きたいところです」
 二人に尋ねられ、須佐ノ男の顔に意味深な表情が浮かんだ。
「あいつねぇ。一言で言えば最低最悪の女だな。煮ても焼いても食えやしねぇとんでもない女狐だ」
「女狐?」
「何百年にも渡り、この朧を脅かしてきた妖の者。その中でもっとも危険な奴だ。あいつに虜にされて滅んだ男は星の数ほどいるだろうな。勿論戦闘力も馬鹿にならないんだが・・・」
 須佐ノ男の説明を聞いて、二人とも知らず知らずのうちに体が緊張していた。正直、単なる人探しの依頼かと思っていたものが、最強の妖の者を相手にしていると言われたのだからそれも仕方のないことだろう。
「まぁ、そいつを倒すというのが俺の目的なんだが、今日決着がつけられるとは思っていねぇ。逃げ足も天下一品だからな、あの女。とりあえずあいつが何を企んでいるか、それを知りたいだけさ」
 そう言うと須佐ノ男は、緊張している二人に、
「ま、気にすんな」
 と笑いかけた。
 しかし、そんなことを言われても二人の気持ちが晴れやかになるはずも無かった。

<調査>

 日が沈み、辺りに闇の帳が下りる頃花町は嬌声に包まれていた。茶屋からは三味線の音色が聞こえてきて遊女と男たちの戯れる姿が至るところで見受けられる。
 そんな中で守崎兄弟は一人の女性に振り回されていた。黒髪と黄色の肌はごく日本人的なものの、珍しい黄金色の瞳を持つ高校生あたりのまだ幼さを残した少女。彼女は茶屋を指差すと二人に告げた。
「さぁ、次はここ行って見よう!」
「ここって、もう10件目だぜ。少し休まねぇか・・・?」
 彼女に振り回されて疲労困憊の北斗が懇願した。兄の啓斗も口にこそださないものの、その顔に疲労の色が濃い。
「何言ってるかなぁ。まだまだこんなの序の口だよ。須佐ノ男のためにも頑張らなくっちゃ」
 右も左も分からないこの朧で困り果てていた自分に声をかけてくれた須佐ノ男に、彼女矢塚朱姫は恩義を感じていた。昼間は花見に連れていってくれたし、花町の遊女の艶やかさに負けないくらい着飾ってみたいと思っていた自分に着物までプレゼントしてくれた。おかげで今彼女が着ているのは藤の花が縫い取られた薄紫色の着物である。これだけの事をしてもらったのだからお礼はしなくてはならない。そう考える彼女のペースに、ふたりは完全に乗せられていた。
「とにかくその女を見つけないと大変なんでしょ。急ぎましょう」
 そういってズンズンと店に入っていく矢塚を見て、兄弟は顔を見合しため息をつくのだった。忍者すら振り回す女のパワーたるや恐るべし。

「どう?なかなか似合うだろ?」
 新条アスカは連れの男にそう話すと、くるりと回って見せた。折角花町に来たのだからと遊女たちが着るのと同じような派手な着物で着飾った彼女に、しかし連れの男高坂仁は何の反応も見せない。
「・・・・・・」
 だが、こちらも粋な気流し姿をしていて、この町にしっかりと溶け込んでいる。長身でやや細身の彼は眉目秀麗というほどではないが、凛としたその顔は野獣のような猛々しさと魅力があり、道行く遊女が時折振り返るほどであった。もっとも高坂は女たちに注目されようと同じように何の反応も見せはしなかったのだが。
「何、その顔。あんたが興味ありそうだったから着てみせてやったのに」
「別に興味など無い・・・」
 どちらかというと、いささか呆れた顔で高坂は新条を見た。確かに遊女のような格好をした新条は普段の白衣姿とは違った魅力に溢れていたが、高坂にとってはそれはどうでもいいことであった。むしろ彼が気にしていたのは新条が須佐ノ男の依頼を引き受けた事である。
「なぜ奴の依頼などを受けたりした?」
「奴って須佐ノ男の事?別にいいじゃないか。面白そうだし」
「面白そうってお前な・・・」
 相棒の気楽な返答に高坂は頭痛を覚えてこめかみを抑えた。彼はどうにも須佐ノ男という男が信用ならなかったのである。以前依頼を受けた時から感じていた違和感、普段何をしているのか皆目不明な点、そしてその金の出所など怪しい点をあげればキリがない。一体何を目的に動いているのか、単なる遊び人の一言で片付けるにはあまりにも謎が多すぎる。彼は一体何者なのであろうか。
「さてと、とにかくこんなところで突っ立っていても仕方が無い。あそこの茶屋にでも行くとしよう」
 彼女は適当な茶屋を選ぶと、その軒先でどこからか調達した三味線を弾き始めた。いきなりのその行動に高坂はいささか戸惑う。
「お、おい。何をするつもりだ?」
「何をするって調査さ。私は今日は芸者なんだから、仁、キリキリ護衛してよ?」
 花町の喧騒の中に三味線の音色が響き渡る。

<復讐>

 雲ひとつ無い夜空には満月がその顔をのぞかせ、幻想的な光景を作り出している。月明かりが地上を照らし出す中、一羽の鷺がそれを眺めていた。その視線に移りしは二人の男女。男が女を追っているようである。もっと近くで見ようと高度を落とすと、その顔がはっきりと見えてきた。
 女の方は十二単のように幾重にも重ね着した着物を纏いながら、並みの人間をはるかに凌駕する速度でひた走る。その走り方は軽やかでとても動き辛い着物を着ているとは思えむ動作である。男の方はといえば、何やら符を片手にその後を必死に追いかけている。よく見てみればその顔は須佐ノ男のものではないか。ということは目的の女を発見したということだろうか。
 式神「白鷺」から得られた情報を啓斗は北斗と矢塚に伝えた。
「って事はそいつらはこっちに向っているんだな」
「多分な。女のほうは須佐ノ男が言ってた容姿とそっくりだし、須佐ノ男自身が追っかけているところから見ても目的の奴が見つかったんだろうな」
「じゃあ、後は掴まえるだけね」
 矢塚の言葉に啓斗は頷いた。
「そういうことだな。おい、北斗。例の鼠で近くにいる連中にも伝えておけよ」
「あいよ」
 北斗は須佐ノ男から預かった呪符を取り出し、「式神招来」と唱えた。すると符は光に包まれ見る見るうちに一匹の鼠に変化した。萱鼠とよばれる式神である。
「じゃあ、適当に皆を探すとするか」

 超人的な速度で通りをひた走っていた女がその歩みを止めた。須佐ノ男は荒い息をついて立ち止る。必死に追いかけてきて此方は息が上がっているというのに、女の方はといえば涼しい顔をしてこちらを見つめている。
「はぁはぁ・・・。やっと追いついたぜ」
「ほほほ。随分と息が上がっているではないか。鍛錬が足らんのう」
「うるせぇ!」
 激昂した須佐ノ男は先手必勝とばかりに手にした呪符を投げつけた。呪符は数羽の鴉となって女に襲い掛かった。陰陽師の使う式神の一つ八咫鴉だ。
 だがしかし、女がその鋭い嘴が届く寸前に手を翳すと、鴉たちは皆元の呪符に戻り地に落ちた。一瞬にして呪符に込められていた術を解除したのである。
「児戯よのう。こんな玩具でわらわと相対しようとは・・・」
「玉藻・・・。てめぇだけは許すわけにはいかねぇんだよ!」
 憎悪に燃える目で玉藻と呼んだ女を睨みつける須佐ノ男。そこに。
「須佐ノ男〜!!!」
 北斗の萱鼠の連絡を受けた者たちが駆けつけてきた。彼らは艶然と微笑む玉藻の放つ妖気の凄まじさを感じて身構えた。尋常ならざる妖気。とても普通の人間が発せられるものではない。
「須佐ノ男!何なのよこいつは!?」
「玉藻っていう妖だ。こいつは、こいつは俺の親父とお袋を殺した女なんだ。だから俺はこいつを殺す!」
 普段の須佐ノ男からは感じられぬ殺気を感じて神崎はビクリと反応した。
「須佐ノ男さん・・・」
「なるほどな。こいつは相手にとって不足はなさそうだ」
 対照的に不敵な笑みを浮かべて前に出たのは高坂だった。今回は愛用の刀を用意していなかったが、無手でも敵と渡りあえるように鍛錬している。賞金稼ぎなどという仕事を生業にしているものの、彼の一番の願いは強い者と闘り合い勝つ事。抑えきれぬ喜びが顔に出ている。
 それを見て相棒の新条は肩をすくめた。
「また出たね。悪いクセが・・・」
「いくぞ」
 高坂はその細く引き締まった体をバネにして一気に加速、玉藻との間合いを詰めた。そして反動をつけてその胸に向って容赦の無い蹴りを繰り出す。
「これも児戯じゃのう」
 あくまで優雅な身のこなしでその蹴りをかわす玉藻。
「甘い!」
 だが、高坂は蹴り上げた足を踵からカクンと折り曲げ、踵落しの容量でそれを叩きつける。
「無粋な輩め」
 玉藻は大きく後方に跳び退りその一撃をかわした。その距離たるは5m以上。人間離れした跳躍力である。
「所詮はこの程度か・・・」
「何だと!?」
「ならこれでもくらいな!」
 新条が放ったのは糸であった。だがそれはただの糸ではない。気を通し、あらゆるものを切断する糸。天薙も同じように、こちらは鋼糸と呼ばれる鋼を薄く糸のように鍛えた武器で玉藻を捕らえようとする。
 二人の手から放たれた何条もの糸は、しかし、玉藻が一薙ぎした扇子が生み出した旋風で切り刻まれる。守崎兄弟はその隙に苦無を投げつけたがこれも叩き落された。玉藻の戦闘力は異常と呼べるものだった。人間を遥かに越えた肉体能力と魔力。
「ほほほ。この程度かえ。ならばわらわが直々に相手をしてやるまでも無い。我が配下の者たちがお前達もろとも朧を滅ぼしてくれようぞ」  
 彼女は哄笑を上げながら上空へと舞い上がった。
「待ちやがれ!玉藻!!!」
 須佐ノ男は逃がさじとばかりに呪符を投げつけたが、効果を発揮したかは分からない。玉藻は悠然と空に浮かぶ満月と重なり合うように上空へ上がり、消え去った。

 玉藻と一緒にいた市長は無事であった。どうやら何かの術をかけられていたようで、玉藻と一緒にいた時の記憶は一切残っていないという。数日間の間、彼女は市長と一緒に何を行っていたのか。それは今もって不明である。
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 属性】

0550/矢塚・朱姫/女/17/高校生/火
    (やつか・あけひ)
0554/守崎・啓斗/男/17/高校生/木
    (もりさき・けいと)
0568/守崎・北斗/男/17/高校生/水
    (もりさき・ほくと)
0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)/金
    (あまなぎ・なでしこ)
0413/神崎・美桜/女/17/高校生/水
    (かんざき・みお)
0499/新条・アスカ/女/24/闇医者/水
    (しんじょう・あすか)
0507/高坂・仁/男/25/賞金稼ぎ/金
    (こうさか・じん)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 陰の章 玉藻の影 後編をお届けいたします。
 今回は13人ものお客様にご利用いただき満員御礼の状況となりました。誠に有難うございます。大人数のため二部構成となりましたがご了承ください。
 先日前編が公開されましたので、こちらをご覧頂くと、後半部分が分かりやすくなるかと思います。途中までは前編、後編とも時間軸は同じなのですが、全体パートの部分で前半と後半に分かれます。
 後半は玉藻との戦闘となったのですが、いかがだったでしょうか?現状玉藻に戦闘で勝つのは難しいようです。直接戦わずに勝つ方法が必要になってくるかもしれません。
 この作品に対するご意見、ご感想、ご要望、ご不満等ございましたらお気軽の私信を頂戴できればと思います。お客様のお声はなるだけ作品に反映させていただきたいと思っておりますのでよろしく御願いします。
 それではまた別の依頼でお目にかかれることを祈って・・・。