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白い跡（シュライン・エマ）
調査コードネーム：白い跡
執筆ライター ：周防きさこ
調査組織名 ：草間興信所
募集予定人数 ：１人〜４人
------＜オープニング＞--------------------------------------
その日、草間興信所には不釣合いな客が訪れていた。
応接ソファーの身を静め、じっと武彦を見ている。
依頼人の口が重いのはいつものこと、安い煙草をふかしながら喋るのを待った。
「家族とか、友達は誰も信じてくれなくて……探偵サンならって……」
女子高生はクマの濃い目元に涙を浮かべた。
「助けてください……私、殺される……！！」
少女はあの噂の漁明駅の伝言版に、悪戯の伝言をしたそうだ。
噂とは−−−ある書き方で名前を書くと、その人物が死ぬ、というもの。
「一緒に名前を書いた友達が、1週間前に死んだの！
お願い、私を助けて……！」
------草間興信所 午前九時二十四分--------------------------------------
シュライン・エマは泣きじゃくる少女にハンカチを手渡した。
かすかに香水が染み込ませあり、田端頼子をほっとさせた。
「まずは泣き止んで。落ち着いてから話しましょう」
「あの……私、あまりお金がないんですけど……」
恐怖のあまり考えずに興信所へ飛び込んできたらしい。
頼子た頭に、シュラインはそっと手を乗せた。
料金などいらない−−−その態度を見て、草間は喉の奥で笑った。
「……何か？」
「いや。さてお仕事お仕事、と」
煙草を草間は灰皿に押し付け、応接間から出て行った。
金にならない依頼に興味がないらしい。
頼子の反対側のソファーに、シュライン、静、虎之助は腰を降ろした。
座る瞬間、虎之助がシュラインにウインクをしたが、受け流す。
「まず友人の死因についてだが」
いきなり本題に入った静を、虎之助が肘で殴った。
「伝言版のことを話してくれませんか、お嬢さん」
「漁明駅の改札口にある、ぼろぼろの掲示板があるんです。
そこにある書き方で名前を書くと、呪い殺されるって噂があって。
私と友達の佳苗で書いてみたんです。本当かって……。
赤いチョークでフルネームを書いて、その後ろに、時間を書くんです。
『夜明けの深夜二時にお待ちしています』って」
「夜明けの深夜二時……？」
シュラインは刻むように繰り返した。
上目使いに頼子は三人を見た。
ためらいながら制服のブラウスのボタンを外す。
「その日から、夜寝るごとにこれが増えるんです」
まだ幼い二つのふくらみや、淡い下着の中に、赤黒い掌の跡があった。
やきごてを押し付けたような痕だ。
「佳苗は何も言わなかったけど、お通夜の時、死体を見せてくれなくて……。
話によると、全身に掌の痕があって、とても見せられなかったって。
死因は心臓麻痺だそうです」
------漁明駅 午前十時三十五分--------------------------------------
シュラインは一人、漁明駅のホームに降り立った。
依頼人の安全を考え二手に分かれたのだ。
男どもに傷心の少女を預けるのは危険かもしれない。
「早く終わらせて戻りましょう」
問題の掲示板は、改札を出た右手にあった。
「これね」
木製で表面に緑の塗料が塗られている。所々はげ、腐っていそうだ。
『伝言は六時間後に駅員によって消されます。
いたずらの伝言はおやめください』
悪戯の伝言とは、暗に呪いの伝言を指しているようだった。
携帯電話などの機器が発達し、伝言版はその必要性を失いかけているという。
だが、漁明駅だけは例外のようだ。
所狭しと呪いの伝言が連なっている。
「嫌な時代ね。人のことを喜ぶより、うらやむことが好きなんだから」
掲示板をじっくりと見るが、依頼人やその友達の名前はない。
話から察するに、もう消されているのだろう。
否定形を書くことで、呪いを回避できるかもしれないのに。
シュラインの望みは文字通り、消されてしまった。
「佳苗さんの調査が先のようね。
でも……若い子が突然心臓麻痺ですって？」
一度、虎之助達に携帯で連絡をしようと、きびすを返す。
ぴりっと電気が耳に入ってきたような感覚がした。
シュラインは驚いて左耳を押さえる。
「なんなの？」
痺れのような音が耳に響く。音源を探ろうとして駅を見渡した。
午前中だというのに、人影がない。気温も下がってきたようだ。
シュラインの鋭敏な聴覚は、瞬時に音の方向を探り当てた。
すぐ後ろにある−−−伝言版だ。
振り向くと、先刻までなかった伝言が現れていた。
『田端頼子なんて大嫌い。死んじゃえ』
じわじわと、掲示板の内側から文字が染み出てくる。
『夜明けの深夜二時にお待ちしています』
血のように赤いチョークで書かれていた。
「……冗談じゃないわ」
手や背中の皮膚が粟立った。
「もしもし、静？ 危ない感じよ……頼子さんに」
携帯電話で通話を始めた瞬間、肩を叩かれた。
「お嬢さんも呪いにきたのかい？」
顔にべっとりと掌の痕がある、サラリーマンだった。
「呪い書いてくれよ。そうすりゃ俺も許されるんだから」
「……そうね。話を聞かせてくれたら考えてもいいわ」
にへら、とサラリーマンはいやな笑い方をした。
「一人や二人いるだろ？ 憎い奴、殺したい奴。
それを掲示板に書けば良いんだよぉ」
「そうすると死ぬのね、貴方が殺すのかしら？」
「さぁてなぁー」
シュラインは、男だったらぞくっとするようなあでやかな笑みを浮かべた。
「あら、残念。頼りがいのある方だと思ったのに−−−」
「アンタのためだったら誰だって殺してやるよ！」
「嬉しいわ」
死んでいようが生きていようが、男ってわかりやすいのねぇ、と溜め息。
「ああ、でもやめといたほうが良いな。
誰かを呪い殺してもらったら、違う奴の望みを叶えないといけねぇんだ。
そうしないと俺みたいにずっと、掲示板に縛り付けられる……。
あんたにゃそうなってほしくねぇなぁ……」
サラリーマンの言葉が終わるか終わらないか、駅に普段の雑踏が甦った。
まるで違う世界に引っ張り込まれていたようだ。
「人を呪わば穴二つってことかしらね」
今まであった場所に、掲示板の姿は無かった。
------ホテル・ロイド 午後七時時五十分--------------------------------------
シュライン・虎之助・頼子−−−そして何故か今日子という少女。
四人は都内でも有名なホテルのディナーを楽しんでいた。
もちろん、虎之助のおごりだ。
静の姿がないが、三人がそれについて語らないので、シュラインは追求しなかった。
「あの伝言版、呪う心のある人の場所に、現れるのかもしれない……」
食前のワイングラスを片手に、夜景を眺めた。
「この夜景の中には、いくつあるのかしら？」
ボーイが厳かにフランス料理を運んでくる。
「仕事は忘れて、食事にしよう」
人の心は呪いにもなる。
けれど、それを救ったりやり直させたり出来るのもまた、人の心なのだ。
虎之助の合図で、四人は和やかな食事を始めるのだった。 ＥＮＤ
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
0086／シュライン・エマ／女性／２６／翻訳家＆幽霊作家＋時々草間興信所でバイト
0425／日刀・静／男性／１９／魔物排除組織ニコニコ清掃社員
0689／湖影・虎之助／男性／２１／大学生（副業にモデル）
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、周防きさこです！
「白い跡」はいかがでしたでしょうか？
初めての依頼なので、緊張してしまいました。
今回はプレイングから、護衛派と調査派に分かれました。
章ごとに時刻がありますので、他の方のも合わせて読んでみてください。
ご感想をいただければ幸いです。
シュラインさん、はじめまして。
ご参加ありがとうございました。
イラストを見て、ああなんてステキなお姉様なのかしら……ｖとくらくらしました。
プレイングで、調査等を書かれましたので、孤軍奮闘していただきました(笑)
他の方は護衛をされました。
その分出番が多い形になりました。
それでは、またお会いできる事を祈って。 きさこ。
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