コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


呪い人よ、こんにちは【激動編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『呪い人よ、こんにちは』――。
 金沢の神崎神社で発見された中年男の変死体。死体には外傷はなく、死因は心臓麻痺であった。だがその時、アトラス編集部には『怨呪神社(おんじゅじんじゃ)』と揶揄される神社、温州神社(うんしゅうじんじゃ)があるとの情報が送られてきていた。その昔、呪いたい者の名前を書いた紙を中に入れたわら人形をそこへ納めたというのだ。
 編集長の命により、変死体と温州神社の関連性を金沢に赴いて調べることになった一行。ある者は懐かしい顔と再会し、またある者は温州神社へわら人形を納めていた者の姿を目撃する。そしてまた別の者は変死体となった中年男、吉岡正樹(よしおか・まさき)の通夜へ向かう。
 各々情報収集を終え、ホテルで情報交換を行っていたその時、1本の電話がかかってきた。夜中の張り込みに出かける途中だった七森沙耶が、浅野川に架かる梅ノ橋のたもとで中年男の死体を発見したというのだ。
 これは最初の事件と関連性はあるのだろうか――?

●動機が見えない【1E】
 慶悟は1人夜の住宅街を歩いていた。場所としては、温州神社よりずっと南東の方角だろうか。
(ここを曲がって……)
 煙草を銜えたまま、歩く慶悟。式神が場所を教えてくれていたので、迷うことなく目的の家に着くことができた。
「ここか」
 慶悟は古く小さな家の前に立っていた。木の表札には『横森』と書かれていた。家の明かりは消えている。
(あの老人は出かけたままだったな)
 この家は慶悟が昼間に出会った老人の家だった。その際に放った蛾の式神を通じ、老人の動きは分かっていた。現在老人は他の者の家を訪れているようだ。
(この隙に)
 慶悟は新たに小鬼型の式神を放った。
「この家の中を調べよ」
 小鬼型の式神に慶悟が命じると、小鬼型の式神は家の中へ潜り込んでいった。
 小鬼型の式神を通じ、情報を得る慶悟。どうやら家の中には誰も居ないようだ。恐らく老人は1人暮らしなのだろう。
 暮らし振りは質素なようで、高価な品物は全く見当たらない。
(む?)
 小鬼型の式神がとある部屋に入った時、机の上に見覚えのある物がいくつも置かれていた。
「わら人形か……」
 そばには材料となるわらもある。老人がここでわら人形を作っていたのは明らかだった。
(これだけあるということは、呪いたい者が多いのか、それとも呪いたい想いが強いのかのどちらかだな。まあ、何度もあの神社へ足を運んで納めていることは間違いなさそうだが)
 小鬼型の式神の視線が壁を向いた。そこには『吉岡正樹』『川田耕三』『福島博樹(ふくしま・ひろき)』という名前が並んで書かれていた紙が貼られていた。そして吉岡の名前には朱で2本線が引かれ消されていた。
(吉岡は最初の事件のだな。川田はあの神社で見た名前で、福島は……この2人の仕事仲間だったか。吉岡の名前が消されているのは、呪う必要がなくなったからだろう)
 慶悟は考えを巡らせた。老人が呪っていたのはこの3人かもしれない。
(しかし、動機は何だ?)
 3人の共通点が不動産屋であることから推測すれば、その関係の何かが老人の家族・身内に起こったことが動機なのだろうか。
 慶悟はさらに小鬼型の式神に調べさせた。すると別の部屋にあった仏壇に、位牌とは別に1枚の写真が置かれていることが分かった。写っていたのは人のよさそうな老人の男性である。位牌は女性の物だったので、この老人とは別物であることは明らかだ。では、この写真の老人は何者なのか?
 その時、胸ポケットに入れていた携帯電話が震えた。
「もしもし」
 携帯電話を取り出して出る慶悟。電話の相手は沙耶であった。ホテルには居ないようだったので、こちらに電話したとのことだ。
 内容は今どこに居るのかという物で、慶悟は現在地を簡単に伝えて電話を切った。
「何をしとるのかね」
 不意に慶悟に声がかかった。見ると、そこには昼間に会った老人――横森の姿があった。

●法で裁けぬ【2C】
(しまったな……電話に気を取られていた)
 慶悟は前髪を掻き揚げた。見つかった以上は、じたばたしても仕方がない。
「あんた……昼間の青年か」
 横森は慶悟の顔を覚えていた。しらばっくれる意味もないので、慶悟は小さく頷いた。
「何をしとる、こんな所で。ここはわしの家じゃぞ」
「ああ、分かってる。だからここに居るんだ」
 半ば開き直り、慶悟は横森に答えた。
「何じゃと?」
 慶悟の言葉に訝る横森。当然の反応だろう。
「あんたの言葉がどうも気になってな。それでどこに住んでいるか調べて、やってきた訳だ」
 横森に説明する慶悟。嘘は言っていない。もっとも調べたのは式神だが。
「そうか、気になったか……」
 横森は慶悟から視線を外した。
「何が原因であのようなことを行っているかは俺には分からないが……『人を呪わば穴二つ』と言う。決していいことなど1つもありはしない」
「……分かっとるよ、そんなことは」
 ぽつりと横森がつぶやいた。
「しかしな、今のわしにできることはこれしかないんじゃよ……」
「呪う以外の方法がないのがはなはだ疑問なんだが」
「仕方ないんじゃよ……法で裁けぬ相手じゃからな」
「何?」
 『法で裁けぬ』とはいったいどういう意味なのか?
「立ち話も何じゃ。詳しい話は中で聞かせよう……聞くかね?」
 横森の申し出を渡りに船とばかりに承諾する慶悟。その時、やってきた沙耶と共に、横森の家で詳しい話を聞くこととなった。

●呪いの理由【3B】
 横森の家に上がった慶悟と沙耶は、横森が台所でお茶の準備をしている合間に部屋の中を見回していた。通された部屋の隣の部屋には仏壇があった。
「上等な物ではないんじゃが」
 準備を終えた横森が再び2人の前に姿を見せた。そして湯呑みにお茶を注ぎ、2人の前と自分の前に置いた。
「気になったんだが、あの写真はいったい誰なんだ?」
 慶悟は手で仏壇に置かれていた写真を示した。写真に写っている人のよさそうな老人と、横森の関係が知りたかったのだ。
「今から話して聞かせるとも」
 横森はお茶を飲み口を湿らせると、2人に話を始めた。
「あの写真はな、わしの古くからの友人じゃ。いや……じゃったと言った方が正しいか」
「……亡くなられたんですか?」
 沙耶が尋ねると、横森が頷いた。
「10年前にな。交通事故じゃった。それ以来じゃよ……わしがあの神社へわら人形を納めるようになったのは」
「ちょっと待った。交通事故の加害者を呪ったということか? しかしそれならすでに法で裁かれているんじゃないのか?」
「違うんじゃよ。わしが呪っておったのは、その交通事故の遠因を作った奴らじゃ……」
 横森は膝に置いていた手をぐっと握り締めた。
「奴らは、わしの友人の土地を騙し取ったんじゃよ……!!」
「……騙し取ったとは穏やかじゃないな」
 慶悟が眉をひそめた。
「元々、友人は土地の一部だけを売るつもりじゃった。契約書もそうなっておった。だが奴らは訂正印だ何だと友人を言い包めおって、欄外に捨印を押させたんじゃ……そして契約書を改竄しおった。土地を全部売るとな!!」
「そんな、酷い……!」
 沙耶が口元を覆い、言葉を漏らした。許し難い話である。
「もちろんそんなことになり、友人は息子夫婦を引き連れて何度も抗議に行ったとも。だが、契約書を盾に抗議を全く受け付けん。何度目かの抗議の帰りじゃよ……交通事故に遭ったのは。友人も、その息子夫婦も即死だったそうじゃ……。唯一、学校に行っておった孫娘だけが無事だったんじゃ」
「だからか。あの時『こういう手段に訴えるしかない者の気持ち』と言ったのは」
 慶悟の言葉に、横森が頷いた。
「わしも分かっとるよ……こんなことをしても何にもならんとはな。しかし通じるもんなんじゃな……先日、友人を騙した奴らのうちの1人が亡くなるとは。吉岡という奴じゃ」
 そして横森は残る2人の福島と川田の名前を挙げた。
「亡くなりましたよ……福島さんも」
 沙耶がそう言うと、横森はかなり驚いていた。
「人を呪わば穴二つ……です。もう呪いなんてことは止めてください……」
 横森に呪いを止めるよう説得する沙耶。
「うむ……かもしれんな……」
「ところで、その友人の名前は? それと孫娘の名前も教えてほしい」
 慶悟が尋ねた。聞いておいて損はないだろう。
「坂中(さかなか)じゃよ。孫娘は多恵(たえ)ちゃんじゃな。あれから遠い親戚に引き取られていったようじゃが……年の頃なら、あの神社の巫女さんと同じくらいじゃろうなあ」

●情報交換、そして【6】
 福島の死体が見つかった翌日の夕方――8人はさくらの部屋に集まって情報交換を行っていた。
「情報を総合しておくけど……」
 シュラインがカレーパンを片手に言った。武蔵ヶ辻にあるデパートの地下食品売り場で揚げられていた物を買ってきたのだ。ちなみに、冷めても油臭くなく美味しいので、皆から好評であった。
「吉岡たち3人は、契約書を悪用していた。それで10年前に坂中(さかなか)って人の土地を騙し取ったのよね」
 シュラインが慶悟と沙耶に確認した。頷く2人。
「それで抗議に行った帰りに、息子夫婦共々交通事故で亡くなったんだ」
 慶悟がシュラインの言葉に補足する。
「で……その坂中って人には多恵(たえ)って孫娘が居て、その娘があの温州神社の巫女さんなのよ」
 溜息混じりにシュラインが言った。
「復讐ってこったな……」
 十三はそうつぶやくと、カレーパンを口の中へ押し込んだ。
「呪いを施していたのは、彼女で間違いありませんよ。昨夜呪いの波動を辿った所、そこへ行き着いたんですから」
 原因が根深い物だと分かり、亮一は険しい表情をしていた。
「それでね……」
 シュラインが話を続けようとしたその時、部屋の電話が鳴った。
「はい、もしもし」
 さくらが電話に出る。が、たちまち表情が固くなった。
「葛葉様が飛び出していったんですか? どちらへ……野町の方……ですか?」
 地名を出されてもいまいちピンと来ないさくら。
「野町てぇと、川田の住所が確かそっちだったな……」
「広小路交差点の辺りですね」
 十三と亮一が口々に言った。そして気付く。今から何か――最後の事件が起ころうとしているのではないかと。
 外を闇が覆おうとしていた――。

【呪い人よ、こんにちは【激動編】 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0622 / 都築・亮一(つづき・りょういち)
                   / 男 / 24 / 退魔師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。今回はマイナスの場面番号も存在しますので。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全17場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました。金沢を舞台にした調査の第2回目をお送りします。情報が散らばっていますので、他の参加者の方の文章にも目を通されることをお勧めします。
・本文中では触れていないんですが、夜と朝の間で1度情報交換は行われています。
・状況としては厳しいです。バッドエンドの可能性、それなりにあります。全ては次回のプレイング次第ですが……どうぞ頑張ってください。
・真名神慶悟さん、7度目のご参加ありがとうございました。老人をあたったのは正解です。今回の事件の背景を知ることができましたから。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。