コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


呪い人よ、こんにちは【激動編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『呪い人よ、こんにちは』――。
 金沢の神崎神社で発見された中年男の変死体。死体には外傷はなく、死因は心臓麻痺であった。だがその時、アトラス編集部には『怨呪神社(おんじゅじんじゃ)』と揶揄される神社、温州神社(うんしゅうじんじゃ)があるとの情報が送られてきていた。その昔、呪いたい者の名前を書いた紙を中に入れたわら人形をそこへ納めたというのだ。
 編集長の命により、変死体と温州神社の関連性を金沢に赴いて調べることになった一行。ある者は懐かしい顔と再会し、またある者は温州神社へわら人形を納めていた者の姿を目撃する。そしてまた別の者は変死体となった中年男、吉岡正樹(よしおか・まさき)の通夜へ向かう。
 各々情報収集を終え、ホテルで情報交換を行っていたその時、1本の電話がかかってきた。夜中の張り込みに出かける途中だった七森沙耶が、浅野川に架かる梅ノ橋のたもとで中年男の死体を発見したというのだ。
 これは最初の事件と関連性はあるのだろうか――?

●勇気を出して【−1】
「呪殺……なの?」
 そうつぶやく沙耶の唇は震えていた。それはそうだろう、何せ目の前に本物の死体があるのだから。
(しっかり……しなくちゃ)
 沙耶は銀の十字架のペンダントをぎゅっと握り締めた。ほんの僅かだが、勇気が出てきたような気がした。
 正直この場から早く逃げ出したい。けれども、その前に確かめなくてはいけないことがある。
 恐る恐る死体に近付いてみる沙耶。喪服姿の髪の薄い中年男はうつ伏せに倒れていた。血は流れておらず、外傷も見られない。鞄はどうやら死体の下にあるようだ。死体を動かす訳にもいかないので、鞄の中身を確認するのは諦めることにした。
 沙耶は少ししゃがむと、中年男のポケットに目をやった。携帯電話が少しだけ顔を出していた。ハンカチを取り出し、指紋を付けぬよう慎重に取り出す沙耶。そして着信や発信の履歴を調べてみた。発信の履歴には吉岡の名前もあった。
「あ……」
 着信履歴の中に、ただ1つだけ非通知の着信があった。他の着信や発信の履歴は、全て登録済みの物であったのに。
 着信時刻は今日の午後7時前だった。

●怯えるのは何故?【1C】
「……怖くないんですか?」
 色々と調べている沙耶に対し、短髪の少女が声をかけてきた。
「怖いです」
 きっぱりと答える沙耶。ペンダントはずっと握ったままであった。
「それでも……手がかりをつかむため、今やれることはやっておきたいんです」
 そう答えると、沙耶は霊視を行った。死体の真上に、死体と同じ顔の中年男の姿がうっすらと見えた。
「あの……」
「知らん!」
 沙耶が問いかけるより早く、中年男が怯えた顔で言った。
「俺は何も知らん! 何も……あれは俺のせいじゃない……!」
 次第に声は小さくなり、中年男の姿も見えなくなった。
(何をそんなに怯えているの?)
 吉岡の霊と似たような反応を返した中年男の霊に、沙耶は疑問を抱いた。
「不思議な能力をお持ちなんですね」
 細い声で、長髪の少女が沙耶に話しかけてきた。驚き振り返る沙耶。
「ですが、また間に合いませんでした……」
 目を伏せる長髪の少女。そして短髪の少女が自分たちの名前を名乗る。長髪の少女が和泉葛葉(いずみ・くずは)、短髪の少女が高川めぐみ(たかがわ・めぐみ)といった。
「不動産屋さん……後ろめたいことがあるから知らん知らん……死んだひとが知らん知らん……」
 不意にそんな声が聞こえてきた。驚き身を固くする3人。そこへソネ子が姿を見せた。
 ソネ子はゆっくりと周囲を見回し、やがてある方角を向いてすっと指を差した。
「今は……あっちに何か感じる」
 その方角は温州神社のある方角であった――。

●梅ノ橋にて【2A】
 沙耶から詳しく状況を聞いた後、さくらと十三はタクシーに乗り、浅野川大橋手前で降りた。梅ノ橋付近には数台のパトカーが止まっていたのが見えたからだ。
 浅野川大橋から梅ノ橋まで徒歩で移動する2人。梅ノ橋のたもとでは集まっていた野次馬をよそに、警察の人間が慌ただしく動いていた。
「嬢ちゃんの姿はねぇようだが……懐かしい顔がありやがる」
「あれは……葛葉様たちでは……」
 現場には、警官に事情聴取をされている葛葉とめぐみの姿があった。尾崎神社の事件に続いて、またしても第1発見者になったというのか?
(やはり偶然ではないのかも……葛葉様にお話を伺わないといけませんね)
 こんな短期間で2件の事件の第1発見者になるとは普通は考えられない。そこに何らかの要因があると考えた方が自然だ。
「お……あそこに2人居やがった」
 十三が顎で方向を示した。梅ノ橋の正面、路地に入る所に沙耶とソネ子の姿があった。こちらを見つけ、沙耶が手招きをしていた。
 すぐに合流し、一時現場を離れる4人。
「おい、死体見つけたんじゃねぇのか?」
「それがその、彼女たちが『ここは任せてください』って言ってくれたんで……」
 どうやらめぐみたちが気を遣ってくれたようだ。
「それよりもあの人、吉岡さんの知り合いみたいで……携帯電話に履歴が残ってました」
「死体はどんな感じだ?」
 電話で状況は聞いていたが再度確認する十三。沙耶は死体の外見特徴を説明した。
「そりゃ福島だな、間違いねぇ」
 断言する十三。さくらが溜息混じりに言った。
「やはり今回の事件絡みなんですね」
「だろうぜ。どら……ちょっくら様子伺ってくっか。嬢ちゃんたち連れて、先帰ってくれていいぜ」
 十三が再び現場の方へ向かった。
「あ! あの、真名神さんは今どちらに?」
 沙耶がさくらに尋ねた。
「こちらには向かっていないようですが……シュライン様がホテルに残っていますから、お尋ねになられては?」
「分かりました、すみません!」
 沙耶はぺこりと頭を下げると、その場から慌ただしく立ち去った。狐に摘まれたような表情のさくら。
「どうされたんでしょうか……。ともあれ、後は渡橋様にお任せし、私たちはこの場を離れましょうか……あら」
 いつの間にか、ソネ子も姿を消していた。

●呪いの理由【3B】
 横森の家に上がった慶悟と沙耶は、横森が台所でお茶の準備をしている合間に部屋の中を見回していた。通された部屋の隣の部屋には仏壇があった。
「上等な物ではないんじゃが」
 準備を終えた横森が再び2人の前に姿を見せた。そして湯呑みにお茶を注ぎ、2人の前と自分の前に置いた。
「気になったんだが、あの写真はいったい誰なんだ?」
 慶悟は手で仏壇に置かれていた写真を示した。写真に写っている人のよさそうな老人と、横森の関係が知りたかったのだ。
「今から話して聞かせるとも」
 横森はお茶を飲み口を湿らせると、2人に話を始めた。
「あの写真はな、わしの古くからの友人じゃ。いや……じゃったと言った方が正しいか」
「……亡くなられたんですか?」
 沙耶が尋ねると、横森が頷いた。
「10年前にな。交通事故じゃった。それ以来じゃよ……わしがあの神社へわら人形を納めるようになったのは」
「ちょっと待った。交通事故の加害者を呪ったということか? しかしそれならすでに法で裁かれているんじゃないのか?」
「違うんじゃよ。わしが呪っておったのは、その交通事故の遠因を作った奴らじゃ……」
 横森は膝に置いていた手をぐっと握り締めた。
「奴らは、わしの友人の土地を騙し取ったんじゃよ……!!」
「……騙し取ったとは穏やかじゃないな」
 慶悟が眉をひそめた。
「元々、友人は土地の一部だけを売るつもりじゃった。契約書もそうなっておった。だが奴らは訂正印だ何だと友人を言い包めおって、欄外に捨印を押させたんじゃ……そして契約書を改竄しおった。土地を全部売るとな!!」
「そんな、酷い……!」
 沙耶が口元を覆い、言葉を漏らした。許し難い話である。
「もちろんそんなことになり、友人は息子夫婦を引き連れて何度も抗議に行ったとも。だが、契約書を盾に抗議を全く受け付けん。何度目かの抗議の帰りじゃよ……交通事故に遭ったのは。友人も、その息子夫婦も即死だったそうじゃ……。唯一、学校に行っておった孫娘だけが無事だったんじゃ」
「だからか。あの時『こういう手段に訴えるしかない者の気持ち』と言ったのは」
 慶悟の言葉に、横森が頷いた。
「わしも分かっとるよ……こんなことをしても何にもならんとはな。しかし通じるもんなんじゃな……先日、友人を騙した奴らのうちの1人が亡くなるとは。吉岡という奴じゃ」
 そして横森は残る2人の福島と川田の名前を挙げた。
「亡くなりましたよ……福島さんも」
 沙耶がそう言うと、横森はかなり驚いていた。
「人を呪わば穴二つ……です。もう呪いなんてことは止めてください……」
 横森に呪いを止めるよう説得する沙耶。
「うむ……かもしれんな……」
「ところで、その友人の名前は? それと孫娘の名前も教えてほしい」
 慶悟が尋ねた。聞いておいて損はないだろう。
「坂中(さかなか)じゃよ。孫娘は多恵(たえ)ちゃんじゃな。あれから遠い親戚に引き取られていったようじゃが……年の頃なら、あの神社の巫女さんと同じくらいじゃろうなあ」

●情報交換、そして【6】
 福島の死体が見つかった翌日の夕方――8人はさくらの部屋に集まって情報交換を行っていた。
「情報を総合しておくけど……」
 シュラインがカレーパンを片手に言った。武蔵ヶ辻にあるデパートの地下食品売り場で揚げられていた物を買ってきたのだ。ちなみに、冷めても油臭くなく美味しいので、皆から好評であった。
「吉岡たち3人は、契約書を悪用していた。それで10年前に坂中(さかなか)って人の土地を騙し取ったのよね」
 シュラインが慶悟と沙耶に確認した。頷く2人。
「それで抗議に行った帰りに、息子夫婦共々交通事故で亡くなったんだ」
 慶悟がシュラインの言葉に補足する。
「で……その坂中って人には多恵(たえ)って孫娘が居て、その娘があの温州神社の巫女さんなのよ」
 溜息混じりにシュラインが言った。
「復讐ってこったな……」
 十三はそうつぶやくと、カレーパンを口の中へ押し込んだ。
「呪いを施していたのは、彼女で間違いありませんよ。昨夜呪いの波動を辿った所、そこへ行き着いたんですから」
 原因が根深い物だと分かり、亮一は険しい表情をしていた。
「それでね……」
 シュラインが話を続けようとしたその時、部屋の電話が鳴った。
「はい、もしもし」
 さくらが電話に出る。が、たちまち表情が固くなった。
「葛葉様が飛び出していったんですか? どちらへ……野町の方……ですか?」
 地名を出されてもいまいちピンと来ないさくら。
「野町てぇと、川田の住所が確かそっちだったな……」
「広小路交差点の辺りですね」
 十三と亮一が口々に言った。そして気付く。今から何か――最後の事件が起ころうとしているのではないかと。
 外を闇が覆おうとしていた――。

【呪い人よ、こんにちは【激動編】 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0622 / 都築・亮一(つづき・りょういち)
                   / 男 / 24 / 退魔師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。今回はマイナスの場面番号も存在しますので。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全17場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました。金沢を舞台にした調査の第2回目をお送りします。情報が散らばっていますので、他の参加者の方の文章にも目を通されることをお勧めします。
・本文中では触れていないんですが、夜と朝の間で1度情報交換は行われています。
・状況としては厳しいです。バッドエンドの可能性、それなりにあります。全ては次回のプレイング次第ですが……どうぞ頑張ってください。
・七森沙耶さん、9度目のご参加ありがとうございました。勇気を出して持ち物を調べてみたのはよかったかもしれません。読みは鋭かったかも。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。