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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


神薙神社祭【皐月】
●オープニング【0】
 神薙北神社と神薙南神社。この2つの神社は旧冬美原城を守るように南北に配置されている。
 その2つの神社では毎月のように祭り――神事が執り行われている。恐らくこの土地の平穏を祈るために行われ続けてきたのだろう。
「これより、今月の奉納試合の受付を開始いたします」
 祭りの行われていた境内では、ハンドマイクを手にした巫女さんたちが奉納試合の参加者を募っていた。その近くには試合内容に関する説明の書かれた看板が立てられている。
 何気なくそれを見て驚いた。じゃ……じゃんけん? 奉納試合がじゃんけんですか?
「昔は相撲や剣術大会も行われたのですが、子供から大人まで幅広く参加できるようにと、危険性のないじゃんけんに変わったんですよ」
 こちらの様子に気付いてか、巫女さんの1人が親切にもそう説明してくれた。
「1回戦は1対1による勝負です。そして勝ち残られた方、負け残られた方、各々のグループの中より優勝者と裏優勝者を決定するのです」
 なるほど。つまり必ず2回勝負することになるようだ。
「優勝者か裏優勝者になりますと、賞品が贈られますよ」
 え、賞品が出るの――?

●熱き抱擁の後で【1D】
 冬美原の旧市街にとある類のホテルが立ち並ぶ場所があった。ビジネスホテルといった物ではなく、いわゆるファッションホテルといった類の物だ。そのうちの1軒――怪し気な部屋があると噂だ――の入口前にとあるカップルが居た。
「ん……」
 養老南は少し踵を浮かせて背伸びすると相手の首に腕を回した。右手首には紐でできたような痣があった。そして自らの濡れた唇を、相手の厚く熱い唇に押し付ける。
 相手のたくましい腕が南の細い腰に回り、ぎゅうっと抱き締める。熱い抱擁の中、互いの舌の触れ合う音だけがその場に聞こえていた。
 数分はそれが続いただろうか、やがて2人は抱擁を止め、唇を放した。
「それじゃあまたニャ」
 くすりと微笑む南。そして小走りで相手の前から去ってゆく。
(ニヘヘ、いつものいつもの楽しいひとときニョ……)
 先程の感触を思い出すかのように、南はぺろりと舌舐めずりをした。そんな時、視線の先に見知ったカップルを見つけた。南宮寺天音と海堂有紀の2人である。
(あ、またボクをのけ者にして……)
 そう思ったが、南はあることに気付いた。有紀が浴衣姿なのである。そういえば、今日は神社で祭りが行われると先程の相手から聞いたような……。
 ニィと笑みを浮かべる南。何か思い付いたらしい。
(後で驚かせてやるニャ♪)
 南はこっそり2人の後を尾行して神社へ向かったのを確認した。どうやら2人は奉納試合に出るつもりらしい。
 南は着替えを済ませてから、自分も参加の手続きを行った。参加順を表す木の札に書かれていた数字は『六』であった。

●参加者紹介【2】
 夜7時半を回った頃、本殿前に特設の舞台――学校の朝礼台より一回り大きい程度だが――が設置され、いよいよ奉納試合が始まることとなった。
「さあさあ、今月もやって参りました奉納試合! 果たしてどの方が優勝者に、また裏優勝者になるのでしょう!」
 舞台の上に、マイクを手にした紺のスーツ姿の青年が現れた。いったい何者だ?
「今月の司会進行は、アサギテレビ入社3年目アナウンサー、わたくし唐沢敦(からさわ・あつし)が担当いたします。どうぞよろしくー!」
 見物客から拍手が沸き起こった。まあ、唐沢が必死に煽ってた部分もあるのだが。
「それでは今月の参加者を紹介させていただきます!」
 参加者の待機席には7人の男女の姿があった。宮小路皇騎、海堂有紀、南宮寺天音、養老南、倉実鈴波、倉実一樹、そして北一玲璃の7人である。
「……何であんたがまた居るねん」
 天音はじとっとした視線を南に向けていた。その腕は、隣の有紀に絡めてある。
「だって〜、またボクをのけ者にするからいけないんだニョ」
 くすくすと笑いながら答える南。ちなみにその格好は、鈴丘温水プールのマークが入ったトランクス型水着の上に、幼児用の水着を無理矢理着込んだという物であった。
「ウン〜、これがアングラフッションってやつだニャ」
「絶対違う!」
 南の言葉に天音はすかさず突っ込みを入れた。
「お、ひょっとしてあれテレビカメラか?」
 鈴波が隣の一樹を肘でちょんっと突いた。
「……見ての通りだよ」
 答える一樹は何故か少しうつむいていた。テレビカメラがちょうどこちらを撮っているのか、玲璃がしきりにVサインを出していた。
「そうかあ……これで俺も全国デビューかあ」
「ローカルだよ」
 一樹はそっけなく鈴波に言った。どうもテレビカメラに映されたくないらしい。
 そうこうしているうちに、巫女さんがやってきて木の札を回収した。回収した木の札を木箱の中に入れて抽選を行うようだ。
「ふむ、直前まで組み合わせは分からないという訳か」
 皇騎が作業の様子を見つつ言った。
 間もなく試合開始である――。

●予選・第2試合【3B】
「第2試合の組み合わせは……倉実鈴波さんと養老南さんです!」
 唐沢が抽選結果を紹介し、呼ばれた2人が舞台へ上がった。
「うーん、緊張するなあ」
 舞台に上がると、鈴波は何故か屈伸運動を始めた。気合いを入れるためか、何のためかは定かではないが。見物客の間から、小さな笑い声が起こった。
「鈴波兄ちゃんてば……」
 鈴波の行動が少し恥ずかしくて、一樹はつい舞台から視線をそらしてしまった。
 一方相手の南はというと、妖し気な笑みを浮かべ鈴波を見つめていた。
「ふふ……負けないニャ」
「さてさて、お2人とも心の準備はよろしいですか? それでは1本目参りましょう! 最初はグー、じゃんけんぽん!!」
 唐沢のかけ声に合わせ、2人が手を出した。鈴波がグー……南がパーを出していた。
「またしても1本目は決着がついております! 養老さん、まずは1勝!!」
「あれ? おかしいなあ」
 手をじっと見る鈴波。そして何度も手を閉じたり開いたりを繰り返す。
「続きまして2本目です! 最初はグー、じゃんけんぽん!!」
 2本目の手は、鈴波がまたしてもグーを出した。対する南はまたしてもパー。結果は一目瞭然であった。
「おおっと、第2試合はここで決着がついてしまいました! ストレート、ストレートです!」
「ん〜、勝っちゃったニョ」
 くすっと笑う南。鈴波は手を見ながら首を傾げていた。そんな鈴波を見て、一樹は深く溜息を吐いた。
「勝負あり! 養老さん勝ち抜けです!!」
 2勝、ストレートで南の勝利だ。

●優勝者決定戦【4B】
 裏優勝者決定戦から5分の休憩を挟み、いよいよメインイベントである優勝者決定戦が始まった。
「改めて、優勝者決定戦のメンバーを紹介いたします。宮小路皇騎さん、養老南さん、北一玲璃さん、そして南宮寺天音さんです!」
 唐沢によって紹介される4人。この中で一番気合いの入っていたのは、天音であった。
「ふっふっふ、うちの力見せたるで!」
 びしっと指差して宣言する天音。ちなみに指差したのはテレビカメラである。
「では、お手並み拝見といこうか」
 皇騎がぽつりと言った。その眼差しは真剣であった。
「あたしだって負けないからねっ☆」
「ボクも負けないニャ」
 笑みを浮かべて言う玲璃と南。もっとも南の笑みには妖しさがつきまとっているのだが。
「それでは優勝者決定戦の1本目、参りましょう! 最初はグー、じゃんけんぽん!」
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
 先程と同じく、大きな声でかけ声をかける玲璃。各々出した手は、皇騎がパー、南がパー、玲璃もパー、そして天音までもパーであった。
「うーん、さすがは勝ち残ってきた方々です! 全員がパーを出して引き分けです!」
 横一線のまま、勝負は2本目に入る。
「続いて2本目参りましょう! 最初はグー、じゃんけんぽん!」
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
 玲璃の大きなかけ声が唐沢のかけ声と重なっていた。各々出した手は、皇騎がチョキ、南がパー、玲璃がチョキ、そして天音もチョキであった。
「うわっ、直前でチョキに変えてよかったわ〜」
 大きく息を吐き、天音は胸を撫で下ろした。さすがはギャンブラーといった所か。
「見事に2つに分かれたぁっ! 養老さん、1歩後退だぁっ!」
 この時点で、南以外の3人が1勝で並んだ。もう1勝すれば、優勝の目が出てくる。しかし次で南だけが勝つと、4人で決定戦を行うことになってしまう。
「いよいよオーラス、運命の3本目! 最初はグー、じゃんけんぽん!」
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
 玲璃のかけ声が一際大きくなった。最後の手は、皇騎がグー、南がパー、玲璃がグー、そして天音がチョキであった。
「おおっと、あいこだ、引き分けだぁっ! この瞬間、養老さんの敗退が決定! そして3人での決定戦突入だぁっ!」
 サイコロを抱えた巫女さんがそそくさと舞台に上がってくる。ここで一番大きな目を出した者が、優勝者となるのだ。
「まずは宮小路さんです、お願いします!」
 唐沢がそう言うと、巫女さんが舞台の上からサイコロを放り投げた。サイコロはころころと転がって……1の目を上にして止まった。
「1です……これは厳しいかぁっ?」
 皇騎は出た目を見て、肩を竦めた。ほぼ諦め状態に入っていた。
「続いては北一さんです、お願いします!」
 再び巫女さんが舞台の上からサイコロを放り投げた。サイコロはころころと転がって……5の目を上にして止まった。
「5だ! ほぼ勝負あったか!? いや、だがまだ分からない!!」
 玲璃は早くも勝利を確信したのか、見物客に向かってVサインを送っていた。これに勝つにはもう6を出すしかない。
「最後は南宮寺さんです、お願いします!」
 再び巫女さんが舞台の上からサイコロを放り投げた。サイコロはころころと転がって……何と6の目を上にして止まったではないか。
「出たぁっ! 6! 6が出た、この瞬間に南宮寺さんの優勝が決定だぁっ!!」
 大きな拍手が沸き起こった。喜び、舞台から飛び下りる天音。そこへやってきた有紀が、ぎゅうっと抱きついた。
 決定戦の末、天音が今回の優勝者となった瞬間である。

●優勝者・裏優勝者インタビュー【5】
 優勝者の天音と裏優勝者の鈴波は各々別の和紙に手形を押し、筆で署名をすることとなった。この優勝者の分を神薙北神社へ、裏優勝者の分を神薙南神社へ奉納することによって、一連の奉納試合は終わりを迎えるのである。
「裏優勝、おめでとうございます。今、どんなお気持ちですか?」
 舞台上で鈴波にインタビューする唐沢。鈴波は少し思案してから、こう答えた。
「息抜きで従妹の家に遊びに来たんですけど、まさかこんなことになるとは思わなかったです。いやあ、来てみるもんですね」
「そうですか、ありがとうございます」
 続いて、唐沢は天音にインタビューを始めた。
「優勝、おめでとうございます。今、どんなお気持ちですか?」
「これ、何言うてもええのん?」
 天音はマイクを手で差して尋ねた。
「ええ。構いませんけれど」
「ほな、失礼して……」
 軽く咳払いをする天音。
「ええっと、この勝利を……」
 そこまで話した時、舞台下に居たディレクターらしい男が激しくぐるぐると指を回し出した。『巻き』、つまり『早く終われ』という指示だ。そして文字の書かれた紙を出した。そこには『至急移動!』と大きく書かれていた。
「そうですか、ありがとうございました!」
 唐沢はディレクターの指示を受けて、強引にインタビューを切り上げた。
「え? あの、ちょお、うちまだ……」
「それでは皆様、また来月お会いいたしましょー!」
 呆然とする天音をよそに、唐沢は無理矢理まとめてしまったのだった……。

●誘い惑わす【6C】
「うーん、惜しかったニョ〜」
 南は露店の食べ物をあれこれと食べていた。焼そば、焼きいか、フランクフルト、わたあめにりんごあめと、これでもかこれでもかという程に。
(けどまあ、楽しかったし、これも美味しいからいいニャ)
 程なくして食べ物を全て平らげた南。今度は金魚すくいでもしようかと思ったその時、向こうから巫女さんがやってきた。
(ニヘヘ……綺麗な巫女さんニャ)
 南は擦れ違いざまに、その巫女さんを呼び止めた。
「ねぇ、ちょっといい?」
「はい?」
 足を止める巫女さん。すかさず南は巫女さんの耳元で妖しくささやいた。
「ボクと一緒に、あっちの奥の薮の方へ行こうニャ……」
 唇をぺろりと舐め、小悪魔な笑みを浮かべる南。巫女さんの頬が赤らんだ。
 南が巫女さんから離れ薮の方へ向かうと、少し遅れてその巫女さんもついてきた――。

【神薙神社祭【皐月】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 15、6? / 高校生/男娼 】
【 0634 / 赤井・三郎(あかい・さぶろ)
                 / 男 / 70 / 俳優&怪盗 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0702 / 北一・玲璃(きたいち・れいり)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全22場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、ようやくお届けすることができました。この手の依頼は、普通の依頼に比べて行動しにくいとは思いますが、恐らく今後も出てくると思いますので……。
・奉納試合の組み合わせですが、ダイスを振りランダムに決めさせていただきました。決定戦でのサイコロも、実際にダイスを振って結果を出しています。ただし、能力を使われた方の場合はまた別に判定作業を行っています。
・アイテムのことですが、冬美原では基本的にアイテムを使用できるのは入手した本人のみです。ですが、プレイング上でアイテムの譲渡や貸与が行われている場合はその限りではありません。
・養老南さん、3度目のご参加ありがとうございます。ある意味限界にチャレンジという感じのするプレイングだったかな、と。それでも、南さんが祭りを一番楽しんでいたような気がします。バストアップ参考にさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。