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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


呪い人よ、こんにちは【激動編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『呪い人よ、こんにちは』――。
 金沢の神崎神社で発見された中年男の変死体。死体には外傷はなく、死因は心臓麻痺であった。だがその時、アトラス編集部には『怨呪神社(おんじゅじんじゃ)』と揶揄される神社、温州神社(うんしゅうじんじゃ)があるとの情報が送られてきていた。その昔、呪いたい者の名前を書いた紙を中に入れたわら人形をそこへ納めたというのだ。
 編集長の命により、変死体と温州神社の関連性を金沢に赴いて調べることになった一行。ある者は懐かしい顔と再会し、またある者は温州神社へわら人形を納めていた者の姿を目撃する。そしてまた別の者は変死体となった中年男、吉岡正樹(よしおか・まさき)の通夜へ向かう。
 各々情報収集を終え、ホテルで情報交換を行っていたその時、1本の電話がかかってきた。夜中の張り込みに出かける途中だった七森沙耶が、浅野川に架かる梅ノ橋のたもとで中年男の死体を発見したというのだ。
 これは最初の事件と関連性はあるのだろうか――?

●空間を越えて【1A】
 ライティアは自室へ戻ると、すぐに空間変異能力を持つ悪魔『ゲート』を召喚した。
「温州神社へ」
 そうライティアが命令すると、周囲の空間がまるで石を投げた水面に写っている風景のようにぐにゃりと揺らぎ出した。ゲートの空間変異能力が発動したのだ。
 10秒後、ライティアの姿は温州神社の前にあった。位置関係を確認するライティア。温州神社のそばにある橋が天神橋、そして向こうの方に見えるライトアップされている橋が沙耶が居る梅ノ橋だ。何人かがそちらへ向かっているはずだった。
「ネイテ、どうだい。呪いの発信源はありそうかい?」
 小声でネイテに問いかけるライティア。その声に、ネイテが姿を現した。
「んー……別に感じないけど、何か居るかもね」
 少し気怠そうに答えるネイテ。もしかすると発信源はここではないのかもしれない。
「調べてみよう」
 境内に足を踏み入れるライティアとネイテ。現在人の気配は感じられない。
 ネイテに気配に対する警戒を頼み、ライティアは祠や本殿を調べてみた。祠には昼間と同様に何もなく、本殿にも昼間と変わった様子は見られない。
(考え違いをしているのかな)
 そんな考えがライティアの脳裏をよぎった時、ネイテが耳元でささやいた。
「誰か来るわよ」
 それだけ伝えると、ネイテは姿を消した。ライティアは神社の入口に目を向けた。人影がある。
「……どなたですか?」
 それは昼間に会った冴香の声だった。冴香がライティアに近付いてくる。その姿は昼間と同じく巫女装束であった。
「あら……昼間にお会いした方ですよね。このような時間に何かご用でも?」
「ああ、いえ……夜の散歩を。自然とこちらに足が向いたんです」
 当たり障りのない理由で誤魔化すライティア。またしてもネイテが耳元でささやいた。
「ね、妙よ。微か……ゴミみたいな感じだけど、目の前の娘から波を感じるの。昼間に別の場所で感じたのと同じ系統の、嫌な波」
 ライティアは眉をひそめた。確かネイテがそう言ったのは神崎神社でのことだった。そして波が同じ系統であるということは――。
(ネイテ。すまないけれど、彼女に憑依してほしい)
「了解」
 ライティアの念話に対し、ネイテはくすっと笑って答えた。
「昼間にも言いましたが、ここには興味を引く……」
 冴香はそこまで話すと、身体をビクンとさせた。ネイテが憑依した瞬間だった。
 ライティアは冴香の動向に注目した。もしただの人間でなく、何か負の力で生まれた存在であれば、ネイテを拒絶するであろうと思い。
 しかし一向にそんな様子は見られない。身動きすることもなく、虚ろな目でただ一点を見つめていた。
(どうだい、ネイテ?)
 念話で問いかけるライティア。ネイテから念話が返ってくる。
(抵抗もなく、あっさりとしたもんね。もう拍子抜け……あらっ? へえ……ふうん……)
 前半はつまらなさそうであったが、何かに気付いたのか様子が変わっていた。
(何か見つけたのかい?)
(うふふ……たいしたことじゃないけど、ね。この娘、乙女の匂いがしないわ……人は見かけによらないのねー)
 楽しそうに語るネイテ。乙女の匂いがしないということは、すなわちそういうことである。
(……もういいよ、ネイテ。憑依を解いたら、一時退散だよ)
 少し呆れつつも、ライティアはネイテにそう指示を出した。
(はいはい)
 ネイテの念話が返ってくると、再び冴香の身体がビクンと反応した。虚ろだった目に光が戻ってくる。
 ライティアはすぐにこの場から去ろうとした。すると、タクシーを降りて境内に駆け込んでくる青年――亮一の姿が視界に入った。

●嘘【1B】
 亮一は何やら動作を起こした後で境内に駆け込んでくると、ライティアや冴香に声をかけることなく、真っ先に祠へ向かった。中を確認しようというのだ。
「何をされるんですか!」
 それに気付いた冴香が慌てて亮一を止めようとした。
「無礼は承知しており、大変申し訳ない。しかし思う所があり、祠の中を確かめさせていただきたい」
 言葉遣いは丁寧だが、亮一の言葉には有無を言わさぬ勢いがあった。
「ですが……」
「見られては困る物が納められていると言うのですか?」
 渋る冴香に対し、亮一はそう言った。
「……どうぞ」
 冴香から許可を取り、亮一は祠を開けた。中には何もない、空っぽだった。
(元々なかったのか、処分された後か……)
 そんなことを考えながら、亮一は祠を閉じた。
「あなたはずっとこちらへ?」
 冴香に尋ねる亮一。どこに居たのか、確認しておこうと思ったのだ。
「いえ、自宅へ戻っていましたが」
「でしたら、どうしてここへやって来たんですか?」
 ライティアが口を挟む。冴香がつい先程ここへ現れたのはライティアが見ていた。
「夜中に祠や本殿に悪戯がされていないか、見回るためです。私にはこの神社を見守る義務がありますから」
 別におかしな理由ではない。ただ、現れたタイミングがよすぎるのが問題なのだが……。
「自宅からまっすぐこちらへ、ですか? 例えば、梅ノ橋に寄ったとかは」
 さらに尋ねる亮一。冴香はじっと亮一の目を見つめた。
「さて、何のことでしょうか」
 冴香が静かに微笑んだ。その時、1羽の鳥が亮一の肩へ降りてきた。それを見て、亮一の表情が険しくなった。
「そうか……」
 ぽつりつぶやく亮一。そして冴香に向き直る。
「あなたは嘘を吐いていましたね。この神社では、現在でも呪いが行われているようだ。呪いの波動を辿らせた所……あなたに辿り着いた。これをどう説明するのか、お聞かせ願いたい」
 亮一は冴香の反応を待った。しばしの沈黙後、冴香が口を開いた。
「嘘……ですか。それは何を根拠とした言葉なのでしょう。証拠もなしに、そのようなことを言われるのは大変迷惑です。第一……」
 冴香がくすっと笑った。
「呪いに実体はありませんよ。それをどうやって証明すると言うのでしょう? それから
……呪いで人が殺せるということは、裁判所では未だ認めてはいなかったと思いますが……」
 この冴香の言葉を聞き、亮一もライティアも同じことを思った。どうやら『確信犯』であるようだと。
「このままどうぞお帰りください。これ以上、何かと仰られるのでしたら、私の方にも考えがありますので」
 考えがあるとは、つまり警察を呼ぶなり何なりするということなのだろう。事実上の脅しである。
「人を呪い殺したとしても後には何も残らない。ただ虚しいだけだというのにな……」
 亮一は哀しい目で冴香を見つめた。そして背を向け、神社を後にした。
「それじゃあボクも……」
 亮一が居なくなってから、ライティアもそそくさとこの場を立ち去った。

●情報交換、そして【6】
 福島の死体が見つかった翌日の夕方――8人はさくらの部屋に集まって情報交換を行っていた。
「情報を総合しておくけど……」
 シュラインがカレーパンを片手に言った。武蔵ヶ辻にあるデパートの地下食品売り場で揚げられていた物を買ってきたのだ。ちなみに、冷めても油臭くなく美味しいので、皆から好評であった。
「吉岡たち3人は、契約書を悪用していた。それで10年前に坂中(さかなか)って人の土地を騙し取ったのよね」
 シュラインが慶悟と沙耶に確認した。頷く2人。
「それで抗議に行った帰りに、息子夫婦共々交通事故で亡くなったんだ」
 慶悟がシュラインの言葉に補足する。
「で……その坂中って人には多恵(たえ)って孫娘が居て、その娘があの温州神社の巫女さんなのよ」
 溜息混じりにシュラインが言った。
「復讐ってこったな……」
 十三はそうつぶやくと、カレーパンを口の中へ押し込んだ。
「呪いを施していたのは、彼女で間違いありませんよ。昨夜呪いの波動を辿った所、そこへ行き着いたんですから」
 原因が根深い物だと分かり、亮一は険しい表情をしていた。
「それでね……」
 シュラインが話を続けようとしたその時、部屋の電話が鳴った。
「はい、もしもし」
 さくらが電話に出る。が、たちまち表情が固くなった。
「葛葉様が飛び出していったんですか? どちらへ……野町の方……ですか?」
 地名を出されてもいまいちピンと来ないさくら。
「野町てぇと、川田の住所が確かそっちだったな……」
「広小路交差点の辺りですね」
 十三と亮一が口々に言った。そして気付く。今から何か――最後の事件が起ころうとしているのではないかと。
 外を闇が覆おうとしていた――。

【呪い人よ、こんにちは【激動編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0622 / 都築・亮一(つづき・りょういち)
                   / 男 / 24 / 退魔師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。今回はマイナスの場面番号も存在しますので。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全17場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました。金沢を舞台にした調査の第2回目をお送りします。情報が散らばっていますので、他の参加者の方の文章にも目を通されることをお勧めします。
・本文中では触れていないんですが、夜と朝の間で1度情報交換は行われています。
・状況としては厳しいです。バッドエンドの可能性、それなりにあります。全ては次回のプレイング次第ですが……どうぞ頑張ってください。
・ライティア・エンレイさん、3度目のご参加ありがとうございました。空間移動はよかったかもしれません。ちなみに文中のネイテの言葉は、他の方の文章に目を通されると納得できるかと思います。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。