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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


呪い人よ、こんにちは【激動編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『呪い人よ、こんにちは』――。
 金沢の神崎神社で発見された中年男の変死体。死体には外傷はなく、死因は心臓麻痺であった。だがその時、アトラス編集部には『怨呪神社(おんじゅじんじゃ)』と揶揄される神社、温州神社(うんしゅうじんじゃ)があるとの情報が送られてきていた。その昔、呪いたい者の名前を書いた紙を中に入れたわら人形をそこへ納めたというのだ。
 編集長の命により、変死体と温州神社の関連性を金沢に赴いて調べることになった一行。ある者は懐かしい顔と再会し、またある者は温州神社へわら人形を納めていた者の姿を目撃する。そしてまた別の者は変死体となった中年男、吉岡正樹(よしおか・まさき)の通夜へ向かう。
 各々情報収集を終え、ホテルで情報交換を行っていたその時、1本の電話がかかってきた。夜中の張り込みに出かける途中だった七森沙耶が、浅野川に架かる梅ノ橋のたもとで中年男の死体を発見したというのだ。
 これは最初の事件と関連性はあるのだろうか――?

●連絡役【1D】
 シュラインは1人ホテルへ残っていた。何かあった時の連絡役が居た方がいいだろうと判断しての行動だった。
 シュラインはベッドに腰掛け、沙耶から受けた電話のメモを読み返していた。
「うーん……この特徴だったら、死体は福島って人みたいよね」
 情報を総合して、そう判断を下すシュライン。
「通夜にはこの人の他に、川田って人も居た訳よね。で、人形にあった名前も川田……何だかこっちも危なそう」
 シュラインが難しい顔になる。最初の事件と今回の事件が関連性のあることは、ほぼ明白だろう。となると、これで終わりだとは到底思えなかった。
「それから気になるのは、温州神社神主とその代理の巫女かぁ」
 見た所、温州神社には住居部分は敷地内に見当たらなかった。しかし、他の人の話を聞くと巫女さんである冴香は長時間居たようである。そのことがシュラインには引っかかっていた。
(他の人には『見守ってる』なんてことも言ってたようだし……妙よねぇ?)
 たかが巫女さん1人。されど巫女さん1人である。気になって仕方がない。
「……神主って、団体か何かに登録してないのかしら」
 ふとそんなことを思い、シュラインはホテルのフロントへ行き、職業別電話帳を借りてきた。もしかしたら登録されているかもしれないからだ。
 そしてそれは当たっていたようである。県の神社庁の電話番号が掲載されていたのだ。ここに問い合わせれば、詳しい事情が聞けそうだった。
「さっそく電話を……」
 途中まで番号を押したシュラインの指がぴたっと止まった。こんな時間に電話して、誰か応対してくれるとも思えない。シュラインは明日朝改めて電話をすることにした。
 なお、温州神社の電話番号も掲載されていたので電話をかけてみたが、あいにく留守番電話になっていた。

●呪いの方法【4C】
 翌朝――シュラインは近江町市場の果物屋で、果物の詰め合わせを買っていた。自分で食べる訳ではない。お見舞いに持ってゆこうというのだ。
 朝になり神社庁に電話して色々と話を聞いてみた。すると神主は病院に入院しているということが分かったのだ。
 そこで病院名と神主の名前を聞き出し、今からお見舞いと称して詳しい話を聞きに行こうということを決めたのだった。
 シュラインは果物籠を手に病院行きのバスに乗ると、そのまま終点まで揺られていった。
 病院に着き面会時刻を確認するシュライン。ちょうど面会時刻になったばかりであった。
 受付を済ませ、シュラインは目的の病室へ向かった。
「ええっと……」
 病室の前の名前を確認しつつ歩いてゆく。やがて『三浦(みうら)』と名前の出ていた個室の病室前に着く。
「ここみたいね」
 シュラインは小さく深呼吸してから、扉を2度叩いた。
「どうぞ」
 中から男の声が聞こえてきた。
「失礼します……」
 扉を開けて中へ入るシュライン。中にはベッドの上で上体を起こし、シュラインを見ている細身の青年の姿があった。頬がこけてやつれてはいるが、目は病人とは思えない程生き生きとしていた。
「……どなたですか?」
 面識もない相手だから、三浦の反応は至極当然な物だった。
「初めまして。シュライン・エマと申します。実は温州神社の神主であるあなたにお聞きしたいことがあってやって来たんですけれど……」
「そうですか。どうぞおかけください」
 三浦はそばにあった椅子を指差した。シュラインは促されるままに椅子に腰掛けた。
「これ、つまらない物ですけれど」
「ありがとうございます。ただ胃をやられているため、そうは食べられないんですが……看護婦さんたちに分けてもらうことにしましょう」
 三浦は静かに微笑んだ。
(お花の方がよかったかしら……)
 まあ持ってきてしまった物は仕方がない。一応こちらの誠意は伝わったと信じ、シュラインは本題を切り出すことにした。
「今、金沢で起こっている妙な事件をご存知でしょうか?」
「妙な事件……?」
「先日、神崎神社で1人の死体が発見されました。名前は吉岡正樹」
「ああ、あの事件ですか……」
 三浦はそうつぶやくと、窓の外へ視線を向けた。
「そして昨夜、梅ノ橋のたもとでまた死体が発見されました。名前は福島と言うようです。先の死体にもこの死体にも外傷はなかったそうです」
 話を続けるシュラインに対し、三浦は何も答えなかった。
「聞く所によると、あなたが神主を務めておられる温州神社ではその昔呪いを行っていたそうですね」
「……言いたいことは分かりました。僕がその呪いを今でも行っているんじゃないかということでしょう?」
 三浦は視線をシュラインに戻した。
「残念ですが、僕は方法は知っていても呪いは行えませんよ。ですが……やはりこのようなことになりましたか」
「心当たりがお有りなんですか?」
「ええ。責任の一端は僕にありますから……」
 薄く微笑む三浦。その笑みは自嘲気味にも感じられた。
「こんな話があります、聞いてみますか?」
「ええ」
「ある青年の前に、幼馴染みの少女が10年振りに現れました。彼女は祖父を騙した奴らを呪い殺したいと言います。そんなことをさせる訳にはいかないと、青年は何とかして断念させようと努力しました。ですが少女の意志は固く、青年は仕方なく呪いの方法を教えることにしました。実はその呪いは、女性にしか使うことができなかったのです……」
「女性にしか……?」
「青年は呪いを行うために必要な物を作るため、少女の乙女の証を奪いました。何故ならその呪いには、乙女の証である血に染まった布が必要だったからです……」
 淡々と語る三浦。
「乙女の証って……あの……?」
「ええ、ご想像通りです。呪うにはそうして作り上げた布で呪いたい相手の髪などを包み、強く念じればよいのです。そうすれば、術者の精神が波動となり呪いたい相手の元へ飛んでゆくのですよ。ですが、それを使えるのは乙女の証である血の主、本人だけ……」
 シュラインは三浦の話を聞きながら、軽いめまいを覚えていた。何だか聞いてはならない話を聞いてしまったような気がしていた。
「で……その少女の名前は、冴香と言うのでしょう?」
「ええ、その通りです。今は田中冴香と名乗っていますか」
「今は……?」
「本名は坂中多恵(さかなか・たえ)、17歳の少女ですよ」
「偽名……!」
 まさか偽名を使っていたとは思わなかった。それにその名前、確か慶悟と沙耶が横森なる老人から聞き込んでいた名前で……。
「走り出した以上、僕にはもう止めることはできません……情けない話ですが。そして、今の法律では彼女を殺人罪で裁くこともできないんですよ……呪いによる殺人を認めた判例はないんですから」

●情報交換、そして【6】
 福島の死体が見つかった翌日の夕方――8人はさくらの部屋に集まって情報交換を行っていた。
「情報を総合しておくけど……」
 シュラインがカレーパンを片手に言った。武蔵ヶ辻にあるデパートの地下食品売り場で揚げられていた物を買ってきたのだ。ちなみに、冷めても油臭くなく美味しいので、皆から好評であった。
「吉岡たち3人は、契約書を悪用していた。それで10年前に坂中(さかなか)って人の土地を騙し取ったのよね」
 シュラインが慶悟と沙耶に確認した。頷く2人。
「それで抗議に行った帰りに、息子夫婦共々交通事故で亡くなったんだ」
 慶悟がシュラインの言葉に補足する。
「で……その坂中って人には多恵(たえ)って孫娘が居て、その娘があの温州神社の巫女さんなのよ」
 溜息混じりにシュラインが言った。
「復讐ってこったな……」
 十三はそうつぶやくと、カレーパンを口の中へ押し込んだ。
「呪いを施していたのは、彼女で間違いありませんよ。昨夜呪いの波動を辿った所、そこへ行き着いたんですから」
 原因が根深い物だと分かり、亮一は険しい表情をしていた。
「それでね……」
 シュラインが話を続けようとしたその時、部屋の電話が鳴った。
「はい、もしもし」
 さくらが電話に出る。が、たちまち表情が固くなった。
「葛葉様が飛び出していったんですか? どちらへ……野町の方……ですか?」
 地名を出されてもいまいちピンと来ないさくら。
「野町てぇと、川田の住所が確かそっちだったな……」
「広小路交差点の辺りですね」
 十三と亮一が口々に言った。そして気付く。今から何か――最後の事件が起ころうとしているのではないかと。
 外を闇が覆おうとしていた――。

【呪い人よ、こんにちは【激動編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0622 / 都築・亮一(つづき・りょういち)
                   / 男 / 24 / 退魔師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。今回はマイナスの場面番号も存在しますので。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全17場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました。金沢を舞台にした調査の第2回目をお送りします。情報が散らばっていますので、他の参加者の方の文章にも目を通されることをお勧めします。
・本文中では触れていないんですが、夜と朝の間で1度情報交換は行われています。
・状況としては厳しいです。バッドエンドの可能性、それなりにあります。全ては次回のプレイング次第ですが……どうぞ頑張ってください。
・シュライン・エマさん、15度目のご参加ありがとうございました。神主をあたったのは正解ですね。ただ、それなりに重めの話を聞くことになりましたが。ちなみに某所のカレーパンは高原好きです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。