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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


真夜中を駆け抜ける
▼オープニング
最近、ニュースで話題になっている不思議な事件があった。
それは、タクシーの運転手が深夜、自分のタクシーの中で絞殺されるという事件である。
何件か同じ事件が起きているが、場所はいずれも東京の八王子市内。
タクシー会社に恨みを持つ者の犯行だという見解もあり、タクシー会社から草間の所に依頼が舞い込んだ。
「しかし痕跡ひとつ残さない殺人っていうのは…本当に犯人は人間か?」
凶器は不明、目撃証言も一切ない。
草間は何人かの腕利きの調査員を集め、調査に向かわせることにした。

▼PM5:00
「タクシーの中で殺人事件?物騒ねぇ」
傾きかけた夕日の差し込む、草間興信所。
ボディラインのはっきりわかる服をまとった、色っぽい女性がソファに座っていた。
深いスリットからのぞく、組んだ足が艶めかしい。
「私もよくタクシー使うし、早いとこ解決してくれないと困るわ」
ふぅ、とため息をつく女性に、草間は微苦笑した。
彼女は湖影華那(こかげ・かな)。
都内某所のSMクラブで『女王様』をしているということなので、この色気と気位の高さは納得である。
「解決してくれないと、というか、君も行くんだろう?」
窓に寄りかかって煙草をくゆらせていた真名神慶悟(まながみ・けいご)が、華那に視線を投げかけた。
金に脱色された髪は、夕日を受けてオレンジ色に染まって見える。
「仕方ないから、行ってあげるわよ」
「…それは有り難い」
深い微笑で言い放つ華那に、慶悟は草間と顔を見合わせ、苦笑した。
「っていうか…」
それまで沈黙を守っていたもうひとり、胸元の大きく開いたシャツを着た女性が、口を開いた。
着ているものも紅、美しいロングヘアも紅。
何箇所かから覗くタトゥーが印象的だ。
「あたしは自分で単車出すけど、あんたたちはどうすんの?」
紅臣緋生(べにおみ・ひおう)――現在はタトゥーアーティストとして、それなりに落ち着いた生活をしているが、かつては『峠の赤い彗星』などと呼ばれたこともある。
「俺は少し考えがあるからな。悪いが、別行動をとらせてもらう」
「そっか。あんたはどうする?なんならあたしの後ろに乗せてやっても良いけど」
緋生は、慶悟から華那に視線を移す。
華那はフンと小さく鼻を鳴らすと、
「やぁよ、バイクなんて」
「単車…なんて…?」
一瞬にして場の雰囲気が凍りつく。
それを判った上で、さらに華那は言い募った。
「足開くのは、いい男と一緒のときだけで十分。バイクなんて野蛮な乗り物、乗ってられないわよ」
「ちょっとねぇ…!!」
「まあ、待て」
振り上げられた緋生の手を、慶悟が後ろから掴んで制止した。
「湖影嬢は、どうするつもりだ?」
「誰か車出してくれる人いないの?いないなら、客呼び出すけど」
華那が尋ねると、やれやれといった風に草間が首を振る。
「別ルートで調査に行ってる連中が、車を使うらしいぞ」
「そう。だったらその人たちに合流するわ」
あくまでもソファで足を組んだ姿勢を崩さず、華那は微笑む。
それを見て緋生は舌打ちし、興信所を出ていった。
「俺も出発するとしよう」
吸殻を灰皿に投げ入れ、慶悟も後に続く。
「ああ、頼んだぞ」
彼らを見送って、草間はハタと華那を振り返った。
「行かないのか?」
「あら、だって」
華那は怪訝そうに尋ね返した。
「当然、車でここまで迎えにきてくれるのよね?」

▼PM10:50
ワインレッドのゼファーが、キップをきられないギリギリのところで、制限速度オーバーして走っていた。
八王子市は東京都内とはいえ、ちょっと奥に入るととたんに人通りが少なくなる。
ちょうどいい駐車スペースを見つけて、紅臣緋生(べにおみ・ひおう)は愛車を停めた。
真っ赤なヘルメットを外すと、真紅のロングヘアがこぼれる。
身にまとうライダースーツも赤。瞳も、ルージュも、そして価値観も、すべて基準は『真紅』なのだ。
もちろん好みの色なのだが、それだけではない。
能力を行使する際、赤色は人の気を引くために丁度いいからだ。
緋生の能力は『邪眼』――目を合わせた相手の行動を封じ、暗示をかけることができる。
殺すことも可能だが、それだけは決してしない。
近くにあった自販機で缶ビールを購入して、それを口にした。あまり好きな銘柄ではなかったが、それしかなかったので仕方がない。
「ったく…怪しいタクシー探すって言ったって、八王子なんて広すぎるじゃないよ」
薔薇の刺青の入った右手で、髪をかき上げた。
緋生は新宿裏の『SACRED BAD TATOO』専属の彫り物師である。
ナイトライディングのつもりで走っていたが、全くといっていいほど怪しいタクシーなど目撃しない。
はあ、と嘆息したその時、急激にブレーキを踏む音が聞こえた。
慌てて目をやると、タクシーである。
蛇行しているそのタクシーの車内では、女が運転手の首を自らの髪の毛で絞めている!
「ラッキー!」
ニヤリと口の端に笑みをのせると、緋生は愛車に飛び乗った。
タクシーと、それを追跡しているらしきもう1台の車を追いかけ始める。

▼PM11:45
黒のカワサキにまたがった依神隼瀬(えがみ・はやせ)のエアガン、ダブルイーグルが、タクシーのタイヤを撃ち抜いた。
一発ではたいした威力ではなくとも、同じ箇所に何十発も連続して撃つことによって、タイヤをパンクさせるほどの威力を発揮する。
高校時代まで住んでいたアメリカで、銃の腕は『これ以上ない』くらいに磨いてきた。
前輪をやられたことによって、制御の利かなくなったタクシーに、『借りた』バイクで駆けつけた真名神慶悟(まながみ・けいご)が術をかける。
くわえていた煙草を吐き捨てると、運転しながら器用に懐から符を取り出すと、子鬼型の式神を召喚した。
式神はタクシーの動力系に干渉し、徐々にスピードを落としていく。
さらに懐から取り出したライターに火をつけて放り投げ、
「我火気奉じ難退けたり!往く道は悉く固め封ず!」
路面を這う炎が、さらにタイヤをバーストさせた。
それにより、タクシーは道路をすべるようにして減速していく。
隼瀬が、タクシーの中にいる怪しい女性に向かってエアガンを撃つと、女はガラスを突き破って外へ飛び出してきた。
そこへワインレッドのゼファーを走らせて、紅臣緋生(べにおみ・ひおう)が到着した。
タクシーを追跡していた車から降りてきた慧蓮(えれん)・エーリエルが、水の魔法を使い、タクシーの炎を鎮火させる。
そのタイミングを見計らって、緋生はバイクをタクシーに横付けすると、気絶している運転手の頬をパチパチと叩いた。
「ちょっとオッサン!大丈夫!?」
「う、うう…」
なんとか運転手は無事なようだ。
「まったく、ずいぶん手荒な真似するじゃない」
首を絞められたのと、パンクした衝撃と、どちらのダメージが大きいのか判ったものではない。
そのころ、謎の女と草間興信所一行は、戦闘に入っていた。
慧蓮同様、追跡者から降りてきた宮沢正宗(みやざわ・まさむね)は、護身刀『正宗』を抜き放ち、女と対峙している。
湖影華那(こかげ・かな)も、商売道具でもある『鞭』をダラリと垂らし、臨戦体制だ。
「凶器は髪の毛、しかも人外の者――これでは痕跡など残るはずもないな」
バイクを停め、ノーヘルだったために煽られた髪をかき上げ、慶悟はつぶやいた。
女の正体は、『タクシーに乗ったはずの女が、途中でいなくなる』という怪談が生みだした、妖怪なのである。
「なんでこんなことしたのか…なんて聞いても無意味かな、こいつは」
エアガンを構えて、隼瀬が肩をすくめた。彼女の視線の先で、緋生が凄絶な笑みを浮かべる。
「いいじゃん、とっとと逝かせちゃえば」
「そうね。話が通じないっていうなら、容赦しないわよ」
ピシャリと華那の鞭が地面を叩いた。
初対面から仲の悪かった彼女たちだが、こういう時だけは気が合うようだ。
「キシャァァァァアッ!!」
妖怪が、鋭く呼気を吐きながら飛びかかってきた。
その先には正宗が、剣を構って立っている。
剣道部に所属しているだけあり、正宗は素早い足さばきで妖怪をかわすと、『正宗』を上段に振り上げた。
が、妖怪の髪が伸び、『正宗』を絡めとる。
「ちっ…」
小さく舌打ちし、髪を切り裂こうとする正宗だが、ものすごい強度であるため、なかなか切ることができない。
「斗南、宮沢さんを助けてあげて」
慧蓮が命じると、斗南が手のひらから炎の塊を放った。
慧蓮は水、斗南は炎、それぞれ相対する属性の魔法が、彼らの最大の武器である。
「グェッ」
潰れたカエルのような声をあげて、妖怪は跳びずさった。
どうやら炎が弱点のようである。
「女王様とお呼び!」
華那の、霊力をこめた鞭が妖怪の顔面を襲った。
続けて隼瀬のエアガンが、妖怪の肉体をぶち抜く。こちらも霊力がこめられているので、妖怪はひとたまりもなく地面に転がった。
そして、転がった先で待ち構えるは緋生。
じっと、妖怪の血走った目を見つめて、動き封じの術をかける。
力の行使のあと、激しい頭痛が襲うので、できるだけ使いたくない手だてなのだが――今は邪眼』の力を全開にしていた。
「今だよ、真名神ッ」
「承知」
慶悟は両の手を妖怪に向けると、念を込めて真言を唱え始める。
「オン・マリシエイ・ソワカ!!」
手のひらから放たれた光の矢――摩利支天法・光の調伏矢――が、妖怪を吹き飛ばした。

▼AM0:10
深夜の草間興信所。
珍しくこれまでの事件のファイルなどの整理をしながら、草間が煙草をふかしていた。
そこへ入る1本の電話。
「はい、草間興信所……ああ、紅臣か」
事件は妖怪による怪奇事件で、調伏に成功したとの報告だった。
「ご苦労だったな。もう遅い、帰ってゆっくり休んでくれ」
気にかけていた事件だっただけに、無事解決の報告は嬉しい。

草間は最新の依頼書を取り出すと、『解決済』の印を押した。

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■      登場人物(この物語に登場した人物の一覧)     ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神慶悟(まながみ・けいご)/男/20歳/陰陽師】
【0487/慧蓮・エーリエル(えれん・―)/女/500歳/旅行者(兼宝飾デザイナー)】
【0490/湖影華那(こかげ・かな)/女/23歳/SMクラブの女王様】
【0493/依神隼瀬(えがみ・はやせ)/女/21歳/C.D.S.】
【0566/紅臣緋生(べにおみ・ひおう)/女/26歳/タトゥアーティスト】
【0665/宮沢正宗(みやざわまさむね)/男/17歳/学生】

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■              ライター通信               ■
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大変お待たせいたしました。
『真夜中を駆け抜ける』をお届けいたします。
今回の依頼は大成功です。
みなさん、調査の方法が上手くバラバラになっていたので、多方面から調査をすることができました。
時間があったら、他のPCさんの作品を読んでみると、さらに物語に広がりが生まれるかもしれません。
なにより、私の依頼に参加していただけたことを、心より嬉しく思います。
今後とも、もっと良い作品を書けるように努力いたしますので、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。
ご意見、ご感想、また「ここはもっとこうして欲しかった」など、どんな些細なことでも構いませんので、何かありましたらお気軽に、テラコンかクリエーターズルームよりお手紙をいただければと思います。

▼紅臣緋生さま
初めてのご参加、ありがとうございました。
イラストを拝見させていただいたところ、とても私好みなお姉さまだったので、はりきって書かせていただきました。
少しでも気に入っていただければ幸いです。
プレイングは、ちょっと漠然としていたかな?というかんじでしたが、外れていたわけではないので、使えるところはできる限り反映させてみたつもりです。
私の場合は横道プレイングも大歓迎ですので、これからもどんどん、自由にプレイングをかけて下さいね。
それでは、また別の依頼でお目にかかれることを祈りつつ、今日のところは失礼いたします。
どうもありがとうございました!