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調査コードネーム:邪神 〜嘘八百屋〜
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :界鏡線シリーズ『札幌』
募集予定人数 :1人〜2人
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‥‥困りました‥‥。
侵蝕がここまで速いとは‥‥。
このままでは、あの病気が蔓延するのも時間の問題かもしれません。
やはり、誰か信頼の出来る方にマサチューセッツまで飛んでもらうしか‥‥いや、駄目ですね。必ずしも、かの地に答えがあるとは限りません‥‥。
では、もう一度、西岡水源地を調査してみるしかないでしょうか‥‥。
しかし、あのような危険な場所に行きたがる方など‥‥。
やはり私が行くべきでしょう。
ああ、それに、公園への立入を禁じてもらうよう市にも働きかけなくては。
どのていど効果があるかは判りませんが、何もせぬでは、この地を築いた人たちに申し訳が立ちませんし。
‥‥あ、いらっしゃいませ。
大変申し訳ありませんが、ただいま立て込んでおりまして‥‥。
いえ、大したことではないのですよ。
ちょっと外出しなくてはならなくて。
あの、もしよろしければ一緒に来ていただけませんか?
もちろん報酬はお支払いします。
ただ、なにぶん危険がありそうですので‥‥無理にとは‥‥。
何でしたら、当店自慢の武器類をお持ちください。
どれも複製品ですが、それなりの効果が期待できるかもしれません。
何卒、お願いいたします。
※『不動尊』の流れを汲んでいます。まだ、シリーズになるかどうかは未定です。
※バトルシナリオです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日と木曜日にアップされます。
※4月20日 4月23日の新作アップは、著者MT13執筆のためお休みいたします。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
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邪神 〜武神・さくら編〜
突き抜ける蒼穹に花の香りが混じる。
晩春から初夏にかけての北海道は、過ごしやすさという一点において、他の都府県とは比較にならない。
あの鬱陶しい梅雨がないのだ。
これだけでも特筆に値するだろう。
とはいえ、ここしばらくの晴天で、農業関係者は深刻な不安を抱いているという。
うまくはいかないものだな。
車内紙から目を上げ、武神一樹は苦笑を浮かべた。
雨が少ないことで農業従事者は悲しみ、観光業者は喜ぶ。
これも需要と供給のバランスということになるのだろうか。
埒もない考えに半ば身を委ね、安っぽいシートに沈み込む。
と、正面に座る人物と視線が合った。
「お疲れですか? 一樹さま?」
優しく柔らかな声。
金色の髪が、窓から入る穏やかな風に揺れている。
草壁さくら。
黒髪の骨董屋が心から大切に思う女性だ。
「いや。疲れてなどいない‥‥」
伸ばされた彼の手がさくらの長い髪に触れる。
「くすぐったいです‥‥」
頬を染めながらの微弱な抗議。
編み物を続ける手元が狂いそうだ。
たまにはこういうのも悪くない。
鈍行列車で春の景色を楽しみながらの旅。
まあ、新千歳空港から札幌までの短い距離だが。
と、金髪をもてあそぶ武神の手が、突然止まった。
「‥‥なんだ? この気は‥‥?」
「‥‥とても強く邪な‥‥」
青ざめた表情でさくらも呟いた。
せり上がる恐怖感が心臓を締め付け、思わず両手で自身の躰を抱く。
それは異質な、まったく異質な気配だ。
妖気とも仙気とも違う。
例えていうなら‥‥。
そこまでで、さくらは思考を停止させた。
あまりに怖ろしい考えだったので。
「‥‥これは‥‥仕入れどころではないな‥‥」
呟く武神の額にも、汗の玉が浮かんでいた。
中央区の片隅に、その雑貨屋はある。
嘘八百屋という奇妙な屋号を持った店だ。
古ぼけた外観に相応しい雑多な店内を、一人の男が忙しく動き回っている。
黒い和装に身を包んだ若い男。
何故か両手には一杯の刀剣類を抱えている。
作業に没頭しているためか、武神とさくかが入ってきたことにも気が付いていないようだ。
「忙しそうだな。主人」
仕方なく、調停者が声をかける。
びくっと震え、両手の刀剣を取り落とす嘘八百屋。
「‥‥なんだ‥‥武神さまですか‥‥」
「なんだとはご挨拶だな」
「申し訳ありません‥‥ただいま立て込んでおりまして‥‥」
「それは見れば判る。何かあったのか?」
いささか意地の悪い質問であろう。
取引相手の店主が慌てている原因は、大方予想がついているのだ。
「あるいは、あの気配のせいか」
「‥‥ご明察です」
「‥‥あれは何なのですか?」
調停者の後ろに控えていたさくらが訊ねる。
「あの、こちらの方は?」
「草壁さくら。俺の店を手伝ってくれている。目利きのトレーニングのために連れてきたんだが」
よろしくと挨拶し、一瞬の間だけ金髪の美女を観察すると、主人は済まなそうに頭を垂れた。
「ああ、それは申し訳ないことをしました。あいにくと‥‥」
「判っている。俺も手伝おう」
「もちろん私も」
二手先を読んだように骨董屋コンビが宣言する。
「恐縮です」
嘘八百屋が微笑む。
正直にいって、一人では心細かった。
同行の女性の実力は判らぬが、武神がともに来てくれるのは頼もしい限りだ。
「ちゃんと報酬はお支払いしますね」
「べつに恩に着せるつもりはないから報酬は結構だ。だが、どうしてもというならアレでも戴こう」
ちらりと武神が視線を走らせた。
店の片隅に無造作に置かれた壺が視界に入る。
「アレですか? あんなものでよろしければ幾らでも」
気軽に応える主人。
興味津々で、さくらが壺を見つめる。
「‥‥価値のあるものなんですか?」
高さが三〇センチメートルほど。白地に青い魚の絵。優美な造形だが、武神が指定するほどの逸品なのだろうか。
「青花蓮池魚藻文壺。元の時代、一四世紀の作品だな」
「そうなんですか‥‥」
感心したように言って壺を手に取る。
「気を付けてくださいよ。けっこう値打ちものですから」
なぜか笑いながら、注意を促す主人。
「お幾らくらいなんです?」
彼女の質問には武神が答えた。
「一〇億ってところだな」
あまりの金額に驚いて壺を落としそうになり、慌てて両手で抱きしめる。
悪戯っぽく見守りつつ骨董屋が付け加えた。
「ただし、本物だったらな」
「‥‥もう! 一樹さまったらお人が悪い!」
「すまんすまん。だが、青花蓮池魚藻文壺は重要文化財だぞ。こんなところにあるわけがないだろう」
もっともである。
現物を見て名前まで聞いて思い当たらぬとは、さくらの勉強不足というところだろうか。
頬が朱に染まる。
「まあ、これだけそっくりだと素人には見分けがつかんだろうが」
恋人から壺を受け取り、くるりと回転させる。
裏を見ると、嘘と銘があった。
「ほう。主人が焼いたのか」
「お目汚しでございます」
「いやいや、大したものだ。窯は?」
「江別に良い窯がございまして」
「なるほど。この青も、なかなか味わい深いな」
「コバルトを使うと発色は良いのですが少々生臭くなります。そこで、青函トンネルの採掘時に出た海底の土を使ってみました」
「なんとも深いな。まるで太古の海を思わせるようだ‥‥」
「ええ。この星の往古が目に浮かぶようでございましょう」
「一樹さま。ご主人」
呆れたような声がかかる。
事実、さくらは呆れていた。
焼き物談義に花を咲かせている場合ではあるまい。
だいたい、大の男が二人して、うっとりと壺を眺めいてるという構図も気色悪い。
「さ、左様でございました」
「う、うむ」
やや慌てたように男たちが頷く。
たしかに、そんな場合ではないのだ。
「それでは、順を追って説明いたしましょう」
表情を引き締め、嘘八百屋が言った。
満月期に入った月が、頼りなげな光で地上を照らす。
西岡水源地。
かつては水源として活用されていた湖水に、月が歪んだ円形を映す。
「‥‥静かなものですね‥‥」
嘘八百屋の呟き。
「‥‥まず、それを疑問に思って欲しいものだな」
武神が答える。
表情は苦笑をたたえているのかもしれないが、弱々しい光の下では、それを読みとることができない。
「どういうことです?」
「夜に活動する動物や昆虫などは幾らでもおります。彼らの声や気配が感じられないこと、不思議とはお思いになりませんか」
説明したのは桜だった。
右手には剣呑な武器が握られている。
嘘八百屋から借りた剣である。
その名は天叢雲。八岐大蛇の尾から発見されたという名剣。日本武尊が愛剣。天皇家の三種の神器の一つ。
‥‥複製品であるが。
「怯えて隠れている、ということでしょうか」
「何に怯えているか、考えるまでもないだろう」
武神が言う。
圧倒的な力の存在が、動物たちの本能を負の方向に刺激しているのだ。
むろん、三人も本能も。
「るーるるる。るーるるる」
突然、さくらが奇声を発した。
男二人が怪訝な顔をする。
「なんですか?」
道産子であるはずの嘘八百屋が問うた。
「何か情報が訊けるかと思い、ソマリを呼んでみたのですが」
にっこりと笑って答えるさくら。
ちなみにソマリとは、キタキツネのことである。
「‥‥本当か?」
「冗談です。場を和ませようと思って」
「‥‥そうか‥‥」
疲れたような声で武神が曖昧な返事をする。
まあ、
「和まんわ! ボケ!!」
などという罵声は彼の為人に似合わないのだから、やむをえなからざるところだろう。
「真面目にいきます。この地に住まうソマリよ。我が召喚に疾く応えよ」
鈴が鳴るような呼びかけ。
やがて、一匹の仔狐が彼らの前に姿を現した。
ふさふさの尻尾が愛らしいが、やはり怯えた動きである。
「大丈夫ですよ。さあ、何があったか話してください」
両手を広げ、優しく呼びかける。
とんっと、仔狐が彼女の胸に飛び込んだ。
「はい。良い子ですね」
「‥‥あのー」
「どうしました? ご主人?」
「あとで、ちゃんと手を洗った方がいいですよ」
「はいはい」
むろん、彼はさくらがエキノコックスには絶対感染しないことを知らない。
「俺は、ちょっと池の様子を見てくる」
武神が二人から離れた。
一ヶ所に固まっていても仕方がない。
さくらが情報を集めている間に、彼自身も調査を進めるのだ。
すなわち、水質の調査である。
汚染されているかどうか。
もっとも、さほど深刻なものはないだろう。
水源地に暮らす動植物も、この水を糧としている。
もし異変があるなら、彼らに影響が出ないはずがない。
湖水へと近づく。
「‥‥やはり、汚染はないな。いや、むしろ水全体が活性化しているような‥‥」
「それはそうでしょう。ダゴンは、邪神ではありますが豊饒の神でもありますから」
いつの間にか背後に寄っていた嘘八百屋が解説する。
「豊饒? 豊漁じゃないのか?」
「水神としての側面と、地神としての側面があるのですよ」
「そこだけ聞くと善神だと思えるんだがな」
「邪神の邪神たる所以は何だと思いますか?」
「‥‥生け贄‥‥か」
「ご明察です。ダゴンは豊饒と豊漁をもたらす見返りに‥‥」
「喰うのか?」
「半分だけ正解です。まぐわって眷属を増やすのですよ。まあ、最終的には用済みになりますから。武神さまの予想通りの結末になるわけですが‥‥」
「だが、こんな池で生け贄など‥‥」
声に不快感が混じる。
「それが問題ですね。例えばここが漁港だとすれば筋が通るのですが‥‥」
「既に生け贄は捧げられたと思うか?」
「道警からの情報では、ここ一年間に西岡で行方不明になった女性が四人いるそうです」
「‥‥短絡しすぎじゃないか? 行方不明者など、毎年万単位で出ているだろう」
「いいえ、一樹さま。その四名は、この湖に投げ込まれています」
さくらが会話に加わった。
もう仔狐は抱いていない。
これからのことを考慮し、森へ避難させたのだ。
「なるほどな。動物たちはちゃんと見ていたということか」
行方不明者が四人。投げ込まれた女性が四人。巫たちが遭遇した怪物が四匹。
偶然の一致で片づけるほど、彼らは太平楽ではない。
問題は、誰が何のためにそのようなことをしたか、ということである。
その点が解決できれば、なぜ西岡にダゴンが現れたのか、という疑問も自ずと解決する。
「‥‥この地の平和を願って、などという目的ではないだろうな。どう考えても」
「同感です。もっと利己的で、それだけに深刻な事情があると思いますが」
「ところで、敵がでてくるのをこのまま待つのですか? 一樹さま?」
さくらが問う。
「いいえ。おびき寄せます」
応えたのは嘘八百屋だ。
懐から、不気味な像を取り出す。
浄化屋と陰陽師が回収してきたものだ。
「偶像というものは、それなりに意味があるのですよ。とくに原始宗教においては」
言いつつ、百円ライターで像に火を付ける。
「‥‥なるほど。ちゃんと繋がっているってわけだな」
感心したように言って、武神が少し後退した。
水に近づきすぎては危険である。
引きずり込まれて水中戦ということになれば、人間たちには分が悪すぎよう。
行動から意図を察したのか、他の二人も退がる。
湖水の揺れが、烈しさを増したような気がした。
やがて、影が地上に這い上がる。
圧倒的な存在だった。
大きさではない。
むろん、人間に比較して大きいが、神という言葉から空想するほど大きくはない。
圧倒的なのは圧迫感と恐怖感だ。
どんよりと濁り突き出した眼球。
分厚くたるんだ唇。
水掻きのついた手足。
もし蛙を擬人化したら、このようなものになるだろうか。
醜悪な姿である。
せり上がる嘔吐感と戦いながら、さくらが両手で天叢雲を構える。
その左右では、武神と嘘八百屋も戦闘態勢を整えている。
誰ひとりとして口を開かなかった。
説得や話し合いが通じる相手ではない、と判りきっているからだ。
思考形態が違いすぎる。
人間を食料としてしかみなしていない相手なのだ。
会談のテーブルになど着けるはずがない。
どぎつい例えをあげるなら、人と家畜が労使交渉の席につくことなどありえない、と、そういうことである。
咆哮。
迸る水流!
やはり問答無用というわけか!
武神が前方に手をかざす。
水が直進性を失い飛び散った。
彼の特殊能力である無効化だ。
たとえ神が放った力でも、放たれた後であれば打ち消すことができる。
「行きますよ!」
「はい!」
それぞれに武器を構えた嘘八百屋とさくらがダゴンに斬りかかる。
正直、長期戦になれば人間たちに勝機はない。
曲がりなりにも相手は神だ。
間断のない攻撃で圧倒するしか戦いようがなかろう!
だが、肉迫する二人に向かい、再び水流が襲いかかる。
極限まで細く凝縮された高圧のウォーターガンだ。
直撃しては命に関わる。
大きく跳び下がる二人。
と、ダゴンの躰が巨大な炎に包まれた。
咄嗟にさくらが出した狐火だ。
水棲生物ゆえに、火焔には弱いはず。
だが、妖神が一つ躰を振っただけで、狐火がかき消される。
さくらが唇を噛んだ。
やはり間合いが遠すぎる。
せめて、相手に触れることができれば、直接体内に炎を送り込めるのだが。
「さくらさま! 剣の力をお使いください!」
金髪の美女の思考を読んだように、嘘八百屋が怒鳴る。
瞬間。
さくらの脳裡に天啓が閃いた。
天叢雲。別名、草薙の剣。
焔に囲まれた日本武尊は、この剣で風を巻き起こし難を逃れたという。
ならば‥‥。
正眼に構え、鋭く振り下ろす。
確実な手応え!
生まれたばかりの疾風がダゴンを襲う!
が、瞬間的に妖神がつくった水の壁と衝突し相殺される。
だめか‥‥。
やはり人間の技で神に対するのは無理なのか。
絶望の黒い染みが、さくらと嘘八百屋の内心を蚕食していった。
「さくら」
唐突に、武神が呼びかける。
戦闘中だというのに、落ち着いた声だ。
無言でパートナーを見る。
すると、調停者は中天にかかる満月を指さした。
否、その手の意味するところは‥‥。
「判りました」
「では、私が囮を勤めましょう」
さくらと嘘八百屋が口々に言う。
何の説明もされていないのに、武神の意図するところを察したのだ。
「俺はバックアップだ。二度目はないからな。一撃で決めるぞ」
凄まじいまでの笑みを浮かべ、武神が宣言する。
「行きます!」
まず嘘八百屋が動いた。
ダゴンの至近に躍り込む。
彼の武器は短刀である。最接近しなくては意味がないのだ。
むろん、敵も黙って接近させたりはしない。
水流が鞭のように、槍のように襲いかかる。
だが、
「無駄だ」
武神の声とともに無害な水と化す。
バックアップと言ったのは、そういうことである。
武神自身は攻撃に参加せず。防御と指揮に専念するのだ。
小賢しく動き回る男たち。
不快感を示すように、ダゴンが再び吼えた。
このときダゴンは気が付いていたであろうか。三人目の姿が戦場から消えていることに。
「‥‥終わりです」
その声は、妖神の頭上から聞こえた。
驚いたように見上げるダゴンの額に、白く美しい掌が触れる。
同時に響き渡る絶叫。
妖神の体内で、炎と疑問が燃え盛っていた。
どうして人間ごときが、突然上空に出現するのだ?
もちろん、妖神は知らない。
さくらが「真下」に向けて疾風を発生させ、反動によって空中に舞い上がっていたことを。
崩れ落ちるように膝をつく邪神。
ひらりと、さくらが地上に舞い降りた。
風になびく金色の髪。
武神がゆっくりと近づいてくる。
「‥‥人間には、神のような力はない。しかし、神を倒すための叡智がある。俺と桜が愛すこの国を汚すことは断じて許さん。たとえ神でもだ」
静かな、だが断固たる宣言だった。
猛々しい冷静さ、と表現すれば、より事実に近いだろうか。
「永久(とこしえ)に瞑れ。邪神ダゴン」
言葉とともに、武神の両手が白く輝き出す。
解けることのない封印。
永遠の呪縛。
やがて、邪神の躰は砂のように風の中に消えてゆく。
多くの謎を残したまま‥‥。
「‥‥終わりましたね」
嘘八百屋が、調停者に声をかける。
「本当にそう思うか?」
ちらりと嘘八百屋をを見た後、調停者は視線を転じた。
闇のように蟠る山並みが目前に迫っている。
「いいえ。でも、ひとまずは終幕でございます」
雑貨屋も武神と同じ方向を見た。
「第一幕の、ですね?」
さくらも倣う。
と、三人が見つめる遙か前方で、微かに気配が動く。
「‥‥去ったようでございますね‥‥」
代表する形で、嘘八百屋が言った。
軽く頷く男女。
彼らは気付いていたのだ。遠方から、戦いを観察する視線があったことに。
だが、さすがに視線の主が残した、
「所詮ダゴンではこんなものか。やはり、あの方々の復活を急ぐしかあるまい」
という言葉を聞き取れたものはいなかった。
戦士たちの健闘を讃えるように、月が柔らかな光を投げかけていた。
終わり
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0173/ 武神・一樹 /男 / 30 / 骨董屋『櫻月堂』店長
(たけがみ・かずき)
0086/ シュライン・エマ /女 / 26 / 翻訳家 興信所事務員
(しゅらいん・えま)
0134/ 草壁・さくら /女 /999 / 骨董屋『櫻月堂』店員
(くさかべ・さくら)
0143/ 巫・灰慈 /男 / 26 / フリーライター 浄化屋
(かんなぎ・はいじ)
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■ ライター通信 ■
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たいへん長らくお待たせいたしました。
「邪神」お届けいたします。
今回は二部構成となっており、アメリカと日本で同時に物語が進行しています。
楽しんでいただけたら幸いです。
☆コマーシャル☆
クリエイターズルームのダウンロード販売(300円)に、新しい作品をアップしました。
界鏡線「札幌」の番外編です。
新山綾の過去のお話です。
前編は札幌を舞台に、後編は東京が舞台となります。
まだ前編のみの公開ですが、よろしかったら覗いてみてくださいね。
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