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暴郷の想い（日刀・静）
調査コードネーム：暴郷の想い
執筆ライター ：周防きさこ
調査組織名 ：ゴーストネットＯＦＦ
募集予定人数 ：１人〜５人
------＜オープニング＞--------------------------------------
投稿者 えんどうマメ 投稿日2002/5/09・23：14
この掲示板は不思議なことに興味のある方がご覧になっていると思います。
ですので、皆様の知識をお貸しください。
当方、ある家を探しております。
四方を木の壁で囲まれ、また木の門がありました。
門からは砂利の坂道が続いていて、玄関に至ります。
外観としては典型的な日本家屋、ただしかやぶきではなく瓦屋根です。
壁の穴から、竹やぶと小川が見えました。田んぼの水路かもしれません。
なぜこんなカキコをしたかというと、私がその家に1週間ほど滞在したからです。
朝、その家で突然目がさめました。どうやってきたのかも憶えておりません。
数日を過ごした後、気が付いたら会社のエレベーターの中に立っていました。
私の妄想かもしれませんし現実かもしれません。
ですが、情報を募集します。有力な方はお礼も惜しみません。
どうしてもあの家にもう一度戻りたいのです。
皆様のレスをお待ちしています、またメールでも結構です。
質問があればどんどんしてください。
当方、関東近郊なら出向いて御話を聞かせていただくこともできます。
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レスをつけますか？
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投稿者 えんどうマメ 投稿日2002/5/15・2：51
皆さん、沢山のレスありがとうございました。
こんなにいただけるとは思いませんでした。
私と似たような体験をされた方がいるなんてびっくりです。しかも、噂もあるそうですね。
皆さんの協力のおかげで、大まかな家の位置がわかりました。
私は社会人なので調査に行くことができません。
体験者様、興味のある方、代わりに調査に行っていただけませんか？
もちろん謝礼は出します。足代もなんとかします。よろしくお願いします。
詳しいことが知りたい方はメールをください。
------5/18 多摩郊外 １１：１３--------------------------------------
「皆さん、笑ってくださ〜い」
多摩郊外。穏やかな田畑が広がり、人家もまばらな場所だ。
駅からレンタカーで一時間という場所である。
そこに都会の香りの漂う一団がいるのだ、背景から浮いている。
しかも一人、ピクニック気分の青年がいた。
征四郎は地蔵の前に全員を並ばせ、デジタルカメラで記念撮影をした。
基本的に写真は好きじゃない。静は意識せずレンズを目で殺していた。
「……で、征四郎。お前しか『家』の場所を知らないんだ。教えてもらう」
「ええ。そのお地蔵さんです」
全員は一気に後ろを振り返った。
「先に言ってください」
冷静に由希は言い放ち、地蔵の丸いざらざらした頭や色の落ちたよだれかけを調べる。
「何もないわ。ただの地蔵よ」
「でも匂う。お地蔵さんじゃなくて、もっと右のほう」
今日子が地蔵と近くにある桜の木の間を指差した。
人狼の鋭敏な感覚が時空のほころびを嗅ぎ取ったのだ。
お互いのパートナーを務めていたのだ、静には説明をされなくても何をするべきか解っていた。
腰に刺していた長刀を静が抜く。研ぎ澄まされた刀は、氷のように太陽の光を映す。心地よささえ感じる重みが指先から脳へと伝わってきた。
指し示された部分に、刀を振り下ろす。何もないただの空間に、だ。
「え？！」
切り裂かれた空間がじわじわと広がる。ぱっくりと開いた傷口から木で作られた門がのぞいた。
一番初めに敷地に足を踏み入れ、気が急いているかもしれない、と思った。
------5/18 地図にない家 １１：１５--------------------------------------
たしかに依頼人の説明どおりの家だった。
入り口からは飛び石が続き、ゆるい坂道になっている。左右に松の木やさるすべりなどが生えている。
「どの木も手入れがされてますね」
「いいところですねぇ〜」
調べに来たことも忘れて、征四郎はほっとした。
真剣に意見を述べていた由希が睨む。
「水の音がするな」
耳に心地よい独特の音色が、木々の揺れる音の間に編まれるように流れてくる。
静は玄関から左に続く小道を見た。
「悪いが、俺は探しものがある。別行動させてもらおう」
「あたしも！」
今日子と静は全員に挨拶をし、小道を進んだ。
小道は家を囲むように続いていて、それから庭園の観賞用の道へとつながっていた。
「……昔、静くんが来たことある家？」
「まだわからない。子供のときだったからな」
一つ一つ、部品のような記憶だけは鮮明だった。それなのに大切なパーツが足りないように、一つの記憶として成立しない。
あの時妹に差し出した柄杓の感触や、汲まれた清水、水面にきらめく太陽の光―――。
手を伸ばしても届かない影のように苛々が増えていく。
「あのさ、私―――」
後ろを歩いていた今日子の足音が止まった。
「大丈夫だ。きっと呪いは解ける」
「……うん。ありがとう」
今日子の右足が小石を蹴った。
「あ、ほらこっちから音がするよ！」
一瞬沈んだよな表情が見え隠れしたが、自分の気のせいだろう、と静は思った。
それよりも今は。
丁寧に手入れのされた日本庭園には、小川が流れていた。道を進むと朱色の橋がある。
橋の上で二人は川をながめた。
「静かだね」
「呼んだか？」
「違うよ。静かだなーって。東京に帰るの嫌になっちゃうね」
「依頼人はたまたま開いていた穴に落ちたのだろうな」
「帰りたくなくなるのも当然かな……あ、頼子ちゃんいないからダメ？」
「今日子！」
「冗談でーす」
踊るような足取りで、今日子は橋を渡って行った。
くったくのない笑顔だ。
あんな苦しむ呪いに犯されながら、どうして笑っていられるのだろう。
------5/18 庭園中央 １１：２４--------------------------------------
川はそのまま庭園の中央にある池に流れ込んでいた。
池は風格のある石で飾られ、錦鯉がゆったりと泳いでいる。
「鯉こく……」
今日子は水面を見て呟いた。
水面に映し出された今日子の姿が、醜く膨張した。
「きゃっ！」
悲鳴に、静は今日子を庇うように前に立った。
池の水の運動は止まらず、重力に反して空中に飛び上がった。一滴の雫も飛ばず水は一団となって二人に襲い掛かる。
静は刀で両断したものの相手は水。大したダメージではないようだ。
二つに分かれた水は静を左右から囲んだ。
「きりがないなっ！」
いくら攻撃しても敵の数が増えるだけだ。こちらの体力が持たない。
アメーバのように忍び寄ってくる水に、鋭い爪が突き刺さった。
今日子の左手が、獣のものに変化している。関節が歪み、獣毛に覆われていた。
人狼の能力である。
細いなで肩から伸びるのは対照的に荒々しい腕。不釣合いで悲しい姿だった。
「合流した方が良さそう」
背中に今日子の体温を感じる。静と今日子はお互いに背中を預けるような隊列になる。
「突破する」
低く、静が呟いた。
二人は同時に土を蹴った。呼吸も思考も相棒同士、同化する。
相談の必要はない。自分たちを取り囲んでいる、屋敷がわの水に突っ込んだ。
このまま−−−静が呟いたとき。
「あ……」
今日子の足が止まった。
何か大変なことに気づいたように、大きな瞳をより大きくする。
その一瞬の隙を水達は見逃さなかった。
水は時として鉄の刃よりも鋭い切れ味を見せる。細くしなった水流が、今日子の右かたから斜めに走った。
「……っ！」
ぱっと赤い華が空中に咲く。
「今日子！」
「大丈夫……浅いし」
鋭い裂傷は、鋭ければ鋭いほど治りも早い。今日子は傷口を腕で圧迫した。
「許さんっ！」
「静くん……落ち着いて。この人たちは悪くないの」
人……？ 静は回りの水を睨んだ。
「私、静くんより化け物に近いでしょ？ だから、この人たちの気持ちがわかる……。
この人たちは、私たちと同じ。この屋敷に来て、体を食べられちゃっただけの人。
本体は……」
貧血のせいか、今日子は瞳を閉じた。
静は今日子を抱き上げ、その場を離れた。元来た道を戻り、門まで走る。
今日子を休ませるため門に寄りかかるように座らせた。
横にさせるともっと出血がひどくなるだろう。
誰かの足音に、静は上着を今日子の体にかえけた。
彼女の左腕は未だに獣のままだったからだ。
「どうしたんですか？」
足音の主は、由希、雪姫、慶悟だった。
「怪我をしただけだ。こいつならすぐ治る」
「静、手伝え。俺はこの家をなんとかする。その間に後ろの−−−」
どすん、どすん、と近づいてくる足音を慶悟は指した。
足音とともに強烈な妖気が肌にぶつかってくる。
「アレなんとかしろ」
「解った」
「中にまだ征四郎さんが」
「……殺しても死なないだろ。あいつ」
刀を抜いた静と、呪符を構えた慶悟はそれぞれ散っていった。
静の行動は冷静だったが、頭の中ではどす黒い怒りの感情が暴れ回っていた。
------5/18 地図にない家 １１：２７--------------------------------------
玄関まで走ると、引きずるようにして魔物が現れた。
「イケニエ……ケ？」
静は答えず、切っ先を向けた。
こいつが本体なんだな、と今日子に心の中で問い掛ける。
返事がないのが寂しかった。
「テキ……」
魔物が言葉を紡ぐ度に、ごぼっと嫌な音がする。喉になにか詰まっているのだろうか。
骨と皮しかない３ｍほどの体躯、引きずるほど長いぱさついた髪。前髪も腰まで伸びている。
全身から腐臭が湧き出していた。
静は、髪の毛が逆立つ感覚を憶えた。怒りが頭から零れそうだった。
「……殺してやる」
戦闘上の駆け引きや組立て方など、思考に残っていない。
ただ目の前の敵を切り払うことしか考えられなかった。
一歩、踏み出す。魔物は足を止めた。
静の全身から放たれる殺気を感じ取ったのだ。
足元を蹴った。踊るように。
魔物の懐に入り、腹に刀を突き刺す。ぐっと引いて肉を裂いた。
「ゴノヤロウッ！！」
体を折り曲げ、魔物が静の首元に喰らいついた。
己の痛みなど念頭に無い静にとって、どんな攻撃も無力だった。
貫いた刀から破魔の力を注ぎ込み、そのまま上へ薙いだ。
腹から左右に切られた魔物は、噴水の様に生暖かい液体を吹き上げた。
「オメコソ、マモノデネェカ………」
魔物は静を爪の剥がれた指先で指した。
そしてその場に崩れ落ち、二度と動かなかった。
------5/18 静の自宅 １７：１８--------------------------------------
「気がついた？」
静が目を開けると、見慣れた天井だった。
「首の怪我案外酷くてね、タクシーで先に先に帰らせてもらったんだよ？」
ベッドに横たわる静を今日子は覗き込む。
「お前、怪我は？」
「人狼の再生力はすごいのです。静くんよりもね」
額をぱちん、と叩かれた。
「お夕飯作ってあげるね。何が食べたい？」
「……ワンタン」
「うん」
エプロンをつけながら、今日子はキッチンへ行った。
材料を細かく切り刻み皮へと包んでいく。
「あのね、静くん。もう少し自分の体もかわいがったほうがいいよ」
今日子のワンタンを作る動きが早くなる。照れ隠しをしているのかもしれない。
「静くんの体、心配してる人だっているんだから……聞いてる？ 静くん？」
返事がないのでベッドを見ると、静は寝息を立てていた。
「もうっ！」
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業 ／ 所持アイテム】
0664／葛城・雪姫／女性／１７／高校生／筆記用具
0425／日刀・静／男性／１９／魔物排除組織ニコニコ清掃社員／今日子嬢（同行者）
0489／神無月・征司郎／男性／２６／自営業／デジカメ
0692／高坂・由希／女性／１７／高校生／大型ライト
0606／レイベル・ラブ／女性／395／ストリートドクター／筆記用具
0389／真名神・慶悟／男性／２０／陰陽師／懐中電灯
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■ ライター通信 ■
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日刀様以外の方ははじめまして。周防きさこです。
プレイングからレイベル様は海外出張されました（笑）
それぞれの章に時刻がありますので、全員分を読んでいただけると嬉しいです。
同時刻で色々イベントが起こっていますので。
それぞれの視点で物語が語られてます。
気に入った点や至らなかった点など、ご感想いただければ踊ります♪
二度目のご参加ありがとうございました。
今日子さんの性格違ったらごめんなさい（汗）
探している杓子は見つかりませんでしたが、この家に井戸はあった様子です。
他の方が発見なさってます。
またお会いできることを願って。 きさこ。
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