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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


真夜中を駆け抜ける
▼オープニング
最近、ニュースで話題になっている不思議な事件があった。
それは、タクシーの運転手が深夜、自分のタクシーの中で絞殺されるという事件である。
何件か同じ事件が起きているが、場所はいずれも東京の八王子市内。
タクシー会社に恨みを持つ者の犯行だという見解もあり、タクシー会社から草間の所に依頼が舞い込んだ。
「しかし痕跡ひとつ残さない殺人っていうのは…本当に犯人は人間か?」
凶器は不明、目撃証言も一切ない。
草間は何人かの腕利きの調査員を集め、調査に向かわせることにした。

▼PM4:30
問題のタクシー会社《N交通》は、JR八王子駅から、やや離れたところに存在する。
東京都下では屈指の大都市である八王子は、大勢の人で賑わっている。
制服を着た学生や、アルバイトでティッシュを配る男女、そしてスーツに身を固めたホスト風の男たち。
その中を、異色の組み合わせのカップルが歩いていた。
女性の方は――というより少女なのだが、緩いウェーブのかかった蒼銀色のロングヘアと、紅い瞳をしている。
そして、この世のものとは思えないほどの白い肌。
彼女は、名を慧蓮(えれん)・エーリエルといった。
外見は小学生か中学生のようだが、これでも500年は生きている。
その慧蓮を護るように横を歩くのは、黒のタートルネックシャツに黒のパンツという、いたってシンプルな服装の男性である。
顔立ちが整っており、道行く若い女性が必ずといっていいほど振り返るのだが、慧蓮の姿に気付くと首を傾げてしまう。
兄妹でもなければ親子のはずもなく、いったいどんな関係なのだろうか?と――。
ふたりが《N交通》に到着すると、1台のバイクが止められていた。
たしかこれは、高校生に人気のある車種だったはずだ。
「先客かしら?」
独り言のようにつぶやいて、慧蓮と斗南は《N交通》の事務所を訪ねた。
「御免下さい。草間興信所の者ですが――」
「ようこそ……お待ちしておりました」
一瞬、慧蓮の容貌を見て、目を丸くした男性社員だったが、斗南のほうをメインの調査員だと勝手に納得したのだろう。
彼女たちにソファをすすめてくれた。
「草間さんから電話をいただきましてね。今日は全部で4名の方がいらっしゃるとか」
「4名?」
草間は斗南の数も入れたのだろうか。
本来、斗南は『猫』であり、この人型は仮の姿である。
慧蓮と斗南だけでは2人にしかならない。あとはバイクの持ち主と、まだ見ぬ誰かであろう。
「ええ。今、宮沢さんという方がタクシーを調べてくだっているんですが」
男性社員が言うと同時に、制服姿の少年が事務所に入ってきた。
宮沢正宗(みやざわ・まさむね)、17歳。私立の進学校に通う、高校生である。
「どうでしたか?」
男性社員に問われ、正宗は無愛想に答える。
「今夜、タクシーに乗せてほしいんですが」
「な、何かまずいタクシーがありましたか?」
「いえ、そうではありません…でも、タクシーに乗っているのが何かと便利だと思うので」
ちらりと正宗は慧蓮たちに視線を送り、それから男性社員に視線を戻した。
「わかりました。乗れるかどうか、ちょっと聞いてみましょう」
慌てたように言って、男性社員は奥の部屋へ走っていく。
興信所の関係者だけになったところで、正宗はポツリとつぶやいた。
「今夜狙われるタクシーがわかった」
「本当に?」
正宗は、1日に3回だけ未来を見ることが出来る。
自分がいる場所の未来だけに限られてしまうが、たった今車庫を見てきたところ、明日の朝には『消えて』しまうものが1台あったのである。
「じゃあ、そのタクシーをマークすることにしましょうか、斗南?」
慧蓮は、隣に立ったままの斗南に提案した。
幸い、斗南は免許も車も持っている。車は慧蓮が買い与え、免許は裏から手を回して取得したものだ。
だが斗南は、首を振って拒否の意を示す。
どうやら『嫌な予感がするから嫌だ』と言いたいらしい。
「でも、それ以外に何か手だてがある?」
慧蓮が言ったその時、爆音をとどろかせて、事務所の表にバイクが到着した。
正宗が窓から顔を覗かせると、黒のカワサキを停めている人影が見えた。
「興信所の『4人目』の方かしらね」
「………」
慧蓮の問いを、正宗は無言で肯定した。
すぐにその『4人目』は事務所内に姿を現す。
「よう。あんたたちも、草間興信所の人かい?」
ヘルメットを脇に抱え、ライダースーツに身を包んだ華奢な人物。
C.D.S.――コンプリート・ディテクティヴ・サービスを生業としている、依神隼瀬(えがみ・はやせ)であった。
黒髪に、めずらしい金の瞳。どこからどうみても『美少年』だが、れっきとした女性である。
「ええ。私は慧蓮・エーリエル。それから、こちらは斗南よ。どうぞよろしくお願いしますね」
「こりゃ丁寧にどうも。俺は依神隼瀬っていうんだ。そっちの少年は?」
「…宮沢正宗」
短く答えた正宗に、隼瀬は肩をすくめてみせると、慧蓮の方に向き直った。
「会社の人は?今までの事件の現場を聞こうと思って、わざわざ来たんだけど」
「もうすぐ戻られると思うわ」
慧蓮の回答どおり、それから大して時間をおかずに、男性社員が戻ってきた。
「すみません、営業に出すタクシーに乗せることは出来ないと、上から言われてしまって…」
「決まりね、斗南」
やはり、斗南の車で追跡するしかないようだ。
「宮沢さん、あなたもご一緒しない?」
慧蓮が声をかけると、しばらく悩んでいた正宗だったが、結局はうなずいた。
そして隼瀬は男性社員をつかまえて、これまでの事件についての詳細を聞き出し始めた。
彼女は、最後に事件があった場所に行って、待ち伏せてみるつもりなのである。
「じゃ、また後であったら、その時は宜しくな」
軽く手をあげて慧蓮と正宗、そして斗南を送り出し、隼瀬は、八王子市の地図にチェックを入れ始めた。

▼PM11:30
いったん草間興信所に戻って湖影華那(こかげ・かな)を乗せ、その車は八王子を走っていた。
宮沢正宗(みやざわ・まさむね)が未来を見た、『明日の朝にはタクシー会社からなくなっているはずの車』を、彼らは追跡している。
助手席には慧蓮(えれん)・エーリエル。運転しているのは慧蓮の相棒、斗南である。
後部座席には、華那と正宗が座っていた。
正宗は、流れゆく景色を窓からぼんやり眺めている。
すっかり夜も更け、時刻は深夜に差しかかろうとしていた。
膝の上に置いた護身用の刀『正宗』――家から持ち出したものだ――が、振動で揺れた。
「一体、いつまで走れば良いのよ」
退屈そうに、華那は欠伸をする。
「もうそろそろ…ではないかしら?」
クスクスと慧蓮は苦笑し、前方のタクシーに視線をやった。
彼らは八王子の市外から外れ、人気の少ないところにやってきている。
ちょうど、タクシーはひとりの女を乗せているところだった。
「タクシーといえば、乗せた女がいつの間にか…っていうのがありがちよね」
あごに指を這わせ、独り言のように華那はつぶやく。
慧蓮が考えるには、交差点の親子連れ幽霊のような目撃談が定番なのではないかと思ったのだが、斗南の反応を見る限り、これは華那の見解が当たりかもしれない。
何かを敏感に感じとって、斗南の放つオーラがピリピリとしはじめている。
女を乗せて走り出したタクシーを、彼らは再び追跡し始めた。
後部座席からも鋭く視線を送り、変な動きがないか、常に監視する。
「ちょっと、やばいんじゃない?」
言いながら、華那が腰を浮かせた。
タクシーの動きが変だ。
左右にだんだんと蛇行しはじめている。
「いけないわ!斗南、早く…」
タクシー車内で、女性客が後部座席から乗り出すようにしているのがハッキリと見えた。
運転手の首を、長い髪で締め上げている!
斗南はアクセルを踏み込んだ。
早くタクシーを止めなければいけない。

▼PM11:45
黒のカワサキにまたがった依神隼瀬(えがみ・はやせ)のエアガン、ダブルイーグルが、タクシーのタイヤを撃ち抜いた。
一発ではたいした威力ではなくとも、同じ箇所に何十発も連続して撃つことによって、タイヤをパンクさせるほどの威力を発揮する。
高校時代まで住んでいたアメリカで、銃の腕は『これ以上ない』くらいに磨いてきた。
前輪をやられたことによって、制御の利かなくなったタクシーに、『借りた』バイクで駆けつけた真名神慶悟(まながみ・けいご)が術をかける。
くわえていた煙草を吐き捨てると、運転しながら器用に懐から符を取り出すと、子鬼型の式神を召喚した。
式神はタクシーの動力系に干渉し、徐々にスピードを落としていく。
さらに懐から取り出したライターに火をつけて放り投げ、
「我火気奉じ難退けたり!往く道は悉く固め封ず!」
路面を這う炎が、さらにタイヤをバーストさせた。
それにより、タクシーは道路をすべるようにして減速していく。
隼瀬が、タクシーの中にいる怪しい女性に向かってエアガンを撃つと、女はガラスを突き破って外へ飛び出してきた。
そこへワインレッドのゼファーを走らせて、紅臣緋生(べにおみ・ひおう)が到着した。
タクシーを追跡していた車から降りてきた慧蓮(えれん)・エーリエルが、水の魔法を使い、タクシーの炎を鎮火させる。
そのタイミングを見計らって、緋生はバイクをタクシーに横付けすると、気絶している運転手の頬をパチパチと叩いた。
「ちょっとオッサン!大丈夫!?」
「う、うう…」
なんとか運転手は無事なようだ。
「まったく、ずいぶん手荒な真似するじゃない」
首を絞められたのと、パンクした衝撃と、どちらのダメージが大きいのか判ったものではない。
そのころ、謎の女と草間興信所一行は、戦闘に入っていた。
慧蓮同様、追跡者から降りてきた宮沢正宗(みやざわ・まさむね)は、護身刀『正宗』を抜き放ち、女と対峙している。
湖影華那(こかげ・かな)も、商売道具でもある『鞭』をダラリと垂らし、臨戦体制だ。
「凶器は髪の毛、しかも人外の者――これでは痕跡など残るはずもないな」
バイクを停め、ノーヘルだったために煽られた髪をかき上げ、慶悟はつぶやいた。
女の正体は、『タクシーに乗ったはずの女が、途中でいなくなる』という怪談が生みだした、妖怪なのである。
「なんでこんなことしたのか…なんて聞いても無意味かな、こいつは」
エアガンを構えて、隼瀬が肩をすくめた。彼女の視線の先で、緋生が凄絶な笑みを浮かべる。
「いいじゃん、とっとと逝かせちゃえば」
「そうね。話が通じないっていうなら、容赦しないわよ」
ピシャリと華那の鞭が地面を叩いた。
初対面から仲の悪かった彼女たちだが、こういう時だけは気が合うようだ。
「キシャァァァァアッ!!」
妖怪が、鋭く呼気を吐きながら飛びかかってきた。
その先には正宗が、剣を構って立っている。
剣道部に所属しているだけあり、正宗は素早い足さばきで妖怪をかわすと、『正宗』を上段に振り上げた。
が、妖怪の髪が伸び、『正宗』を絡めとる。
「ちっ…」
小さく舌打ちし、髪を切り裂こうとする正宗だが、ものすごい強度であるため、なかなか切ることができない。
「斗南、宮沢さんを助けてあげて」
慧蓮が命じると、斗南が手のひらから炎の塊を放った。
慧蓮は水、斗南は炎、それぞれ相対する属性の魔法が、彼らの最大の武器である。
「グェッ」
潰れたカエルのような声をあげて、妖怪は跳びずさった。
どうやら炎が弱点のようである。
「女王様とお呼び!」
華那の、霊力をこめた鞭が妖怪の顔面を襲った。
続けて隼瀬のエアガンが、妖怪の肉体をぶち抜く。こちらも霊力がこめられているので、妖怪はひとたまりもなく地面に転がった。
そして、転がった先で待ち構えるは緋生。
じっと、妖怪の血走った目を見つめて、動き封じの術をかける。
力の行使のあと、激しい頭痛が襲うので、できるだけ使いたくない手だてなのだが――今は邪眼』の力を全開にしていた。
「今だよ、真名神ッ」
「承知」
慶悟は両の手を妖怪に向けると、念を込めて真言を唱え始める。
「オン・マリシエイ・ソワカ!!」
手のひらから放たれた光の矢――摩利支天法・光の調伏矢――が、妖怪を吹き飛ばした。

▼AM0:10
深夜の草間興信所。
珍しくこれまでの事件のファイルなどの整理をしながら、草間が煙草をふかしていた。
そこへ入る1本の電話。
「はい、草間興信所……ああ、慧蓮か」
事件は妖怪による怪奇事件で、調伏に成功したとの報告だった。
「ご苦労だったな。もう遅い、帰ってゆっくり休んでくれ」
気にかけていた事件だっただけに、無事解決の報告は嬉しい。

草間は最新の依頼書を取り出すと、『解決済』の印を押した。

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■      登場人物(この物語に登場した人物の一覧)     ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神慶悟(まながみ・けいご)/男/20歳/陰陽師】
【0487/慧蓮・エーリエル(えれん・―)/女/500歳/旅行者(兼宝飾デザイナー)】
【0490/湖影華那(こかげ・かな)/女/23歳/SMクラブの女王様】
【0493/依神隼瀬(えがみ・はやせ)/女/21歳/C.D.S.】
【0566/紅臣緋生(べにおみ・ひおう)/女/26歳/タトゥアーティスト】
【0665/宮沢正宗(みやざわまさむね)/男/17歳/学生】

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■              ライター通信               ■
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大変お待たせいたしました。
『真夜中を駆け抜ける』をお届けいたします。
今回の依頼は大成功です。
みなさん、調査の方法が上手くバラバラになっていたので、多方面から調査をすることができました。
時間があったら、他のPCさんの作品を読んでみると、さらに物語に広がりが生まれるかもしれません。
なにより、私の依頼に参加していただけたことを、心より嬉しく思います。
今後とも、もっと良い作品を書けるように努力いたしますので、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。
ご意見、ご感想、また「ここはもっとこうして欲しかった」など、どんな些細なことでも構いませんので、何かありましたらお気軽に、テラコンかクリエーターズルームよりお手紙をいただければと思います。

▼慧蓮・エーリエルさま
2度目のご参加ありがとうございました。
…というより、いつもありがとうございます、と言うべきでしょうか(笑)
今回、唯一車を運転できるのが斗南氏だけだったので、参加していただけてとても助かりました。
都合により始めから終わりまで人型でしたが、いつかしゃべり方も教えていただければ、ぜひ話していただきたいと思います。
慧蓮嬢も、良いプレイングをしていただけたので、活躍させてあげられたかな?と思いますが、いかがでしたでしょうか。
気に入っていただけていると嬉しいです。
戦闘シーンをじっくり描写できなかったのが心残りですが、それはまた次の機会に。
それでは、また御縁がありましたら、よろしくお願いいたします。
本当に、どうもありがとうございました。