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同居人をさがして
------<オープニング>--------------------------------------
「しばらく一緒に暮らしていた男が、大切な指輪を持ち逃げしたんです。捕まえて取り戻してください」
草間は三十代の妙齢の美女にそう切り出され、しばらく返答にこまった。こほん、と空咳し、
「えー……、うちは、ですね。そういう『普通の』依頼はちょっと……」
「はい、存じております。―――これが探し人です」
依頼人は全く聞く耳をもたず、写真をとりだし、テーブルにのせる。
写真に写っているのは二十代とみられる青年。胸には猿を抱いている。
「これが、一緒にくらしていた男です」
と、指差したのは―――猿。
がぜん草間は納得した。
「ああなるほど! こちらはあなたの使い魔か何かですか?」
「はい。新しく契約に成功し、従えたのですが……、儀式が不完全だったようです。私の大切な指輪を持って逃げてしまいました」
「どちらにいるのか、心当たりなどはおありですか?」
「はい。あの子は、上野公園、池袋駅、うちの近所のペットショップの三箇所が気に入っていました。戦闘的な気分の時は上野公園で野生の動物とバトル、人恋しいときは池袋駅で通行人に可愛がられ、お腹がすいたときはうちの近所のペットショップで。そのどれかにいると思います。
どうか見つけ出し、指輪ともども連れ帰ってください。それが駄目でしたら、指輪だけでもお願いします」
依頼人はそう区切り、頭をさげた。
≪好敵手との出会い 1−B≫
好敵手と書いて、とも、と呼ぶ。
水野想司(みずのそうじ)はそのような相手を長い間待ち望んでいた!
そして遂にめぐりあったのである。
場所は上野公園。
相手の名前、不明。年齢、不明。体つき、小柄。顔……同族にとってはハンサムかもしれないが人間の水野には美醜の判別は不可能。
そう、遂にめぐり合えた好敵手はひとではなかった。
水野は初めての出会いを思い起こす。
上野公園には強い野生の動物がたくさんいる。なんせ文字通り人間技ではない跳躍力、敏捷性、嗅覚。水野は日々そんな彼らとバトルを繰り返し、自分の腕を磨いていたのだ。
「僕より強いヤツに会いに行く……」というのが水野の口癖だった。
動物達はなにかしら「水野より強い」部分を備えていた。どれほど努力しても水野には空は飛べず、犬のような何でもわかる嗅覚もない。しかし、戦いを重ねるうち、水野の敏捷性は空をとぶ鳥を飛ぶ前に捕まえることができるようになり、犬が水野の発見に気づいて逃げ出す前にその体にふれることができるようになった。かくて水野想司は欲求不満に陥ることになる。
「戦う相手が欲しい!僕は全力を出して……戦いたい!」
そんな彼の前にある日、救世主のような強敵が現れた。それは猿の姿をした猿ではない生き物であり、吸血鬼ハンターの一員として、常ならざるものとの格闘を繰り返してきた水野にはその生き物が尋常な猿でないことはすぐにわかった。けれどもまた、別の事もわかったのである。
―――この猿は、好敵手をさがしている!
初めて対峙したとき、猿の目は雄弁にそれを物語っていた。
「ふふふ……。僕とキミは求めているものが似ているようだ。僕には分かるよ、だって似たもの同士だもの♪ さあ戦おうっ」
そして水野は負けた―――。彼の輝かしい戦歴のなかで、初めての惨敗だった。
しかしそれで落ち込むなどとは思いもよらない。
「や、やっと求めていた存在があらわれた……!」
そう、全身ずたぼろにされながらも、彼は喜びの涙を流していたのである。
傷を治療し、鍛え、再び上野公園へ行く。
そんなことがこれまで二回繰り返された。どちらも水野の敗北である。
けれど全開の敗北によって、遂に勝利へのシナリオは打ち立てられた。後は勝利をつかみとるのみ!
「今度こそ最後の決着だよね? ともよ!」
足取りも軽やかに、水野想司は夜の上野公園へと向かう―――。
≪上野公園 2≫
近ごろ、上野公園付近では奇妙な噂が頻発していた。
いわく、夜、風に乗って野生動物たちの悲鳴が聞こえる。
いわく、その中にはヒトの悲鳴も混ざっている。
いわく、上野公園を夜歩きながら上を見上げたら何か黒い影が上空をよぎるのが見えた。
そしてここからは噂ではなく、「事実」になる。
昼間でさえ、上野公園に生息する無数の動物たちは異様なほど騒がしく、人が隣の道を通るたび、声をあげた。そしてその異様な様子を恐れて、上野公園に近寄る人間はめっきり減った。―――とくに、夜は。
午後8:00pm。
その上野公園を闊歩する、一つの人影があった。
陽は既に落ち、広大な公園の各所につけられた街灯はなんとも頼りない。昼間は人の心を安らげ、癒してくれる緑の樹木は夜の世界にあっては巨大な闇がとぐろを巻いているようにしか見えず、風のざわめきとともに人の心を波立たせた。季節は初夏の六月。
ねっとりと高い湿度の空気に覆われた公園内を歩いているのは、まだ義務教育を終了していないと思われる小柄な人影である。
膝丈まである長い白のコートを羽織り、この蒸し暑い空気の中、詰襟をきちんと留め、前をきっちり留めている。コートの裾からは同じく白のズボンが見えるばかりで、口元から不気味な呟きをもらしているところからも、どう見ても尋常な人間ではない。
実際に、彼は最近上野公園近辺で噂されるようになった怪異の噂の張本人……の片割れであった。名を、水野想司という。
「ふっふっふっふっふ……」
水野はずんずん奥へと進んでいく。ずんずんと。
絶えることのない含み笑いをもらしながら。
―――不気味であった。
一方、樹上から見下ろし、その少年の姿を見て舌打ちを漏らしているのは、小さな青大将をまるでブレスレットのように右手首にまきつけている巳主神冴那である。細く引き締まった体、女性のなかでは際立って背が高く、二十代後半の女ざかりの豊満な肉体は、艶麗とも言うべき大人の女の魅力あふれていた。
「今の上野公園に……。大した度胸ね。何の用だか知らないけれど、邪魔、よねぇ……」
無表情に、くつくつと喉を鳴らすように笑い、視線を戻した次の瞬間、冴那はあの少年の姿が消えている事に気がついた。どこへ行ったかと首を巡らせた瞬間―――
「僕に何か御用ですか?」
「きゃあ!」
冴那は危うく木から滑り落ちるところだった。
真円の月をバックにケープ姿の水野の姿が映える。まるで少女のように繊細な顔。しかし、枝上にまっすぐ立ち、風で衣がはためいても微動だにしないその姿は、彼が尋常な世界に棲む人間ではないことを告げていた。
―――いつのまに。
冴那は唇をかむ。いったい、どうやったらこの木々が生い茂り、葉も盛夏の六月に、葉ずれの音一つさせることなく木に登り、自分の背後に立つことができるのだ?
水野のように、足裏という非常に少ない接点だけでは自分の体重を制御できない冴那は枝にこしかけ、幹を手につかんだままの姿勢で体をねじって後ろを向いた。
「あなたは―――一体何者なの?」
その質問に、水野は全く脈絡のない返答をした。
「名刺、ありますか?」
「……は?」
ぽかんとしてしまう冴那を前に、もう一度水野は繰り返した。
「名刺、あります?」
「あ、ええはい」
冴那はぎくしゃくと頷き、懐から名刺入れを取り出して一枚差し出す。
そこには、
水月堂店主
巳主神冴那
と書かれていた。
水野はその名刺をひっくりかえし、裏には何も書かれていないことを確認し、ぼそり、と。
「―――三十点」
「……なんですって?」
冴那の瞳は左目しかない。右目は長く垂れ下がる髪によって隠されていたが、その目がすう、と細まった。冷たい冷気があたりに満ちる。
「ああすみません、僕ついつい思ったことが口から出ちゃうタチで。業種も書いてなければ電話番号も店舗の住所も書いてないし……、ほんとにこれで営業する気あるんですかっていう名刺ですね、ははは」
初対面の人間にここまで言われて怒らなければそちらの方がおかしい。
「あ、あ、あ、あんたねぇっ!」
「あんた、じゃありません。水野想司です。あ、僕の名刺をどうぞ」
さいきん注目の怪異スポット、上野公園の午後八時に樹上に立つ男女二人が、不気味極まる動物たちの奇声をバックに礼儀正しく名刺交換。
そしてそのことに、場違いさや「それはないだろ」という突っ込みを感じていない二人だった。
「……人のことはさんざ言っておいて、自分はこう?」
水野の名刺は名前だけが書かれたシンプルなものだった。
「やだなー、あたりまえじゃないですか。あなたは営業の必要のある商店主ですけど、僕は単なる一介の学生なんですから。その内容は大きく異なって当然です。いろんな人に配る名刺に個人情報載せるなんて、そんな怖い。ところで、あなたの名前、これ何て読むんですか?」
「……みすがみ、さえな、よ」
「なるほど、冴那さんですねー。さて。こうして自己紹介もお互いすんだところで、本題にいきましょうか」
「―――そうね。かわいらしい外見に反してあなたが中々食えない子だってわかったことだし。私の望みは一つよ、水野クン。あなたがどこの誰かは正直なところ、どうでもいいの。私はここに仕事の依頼を帯びてきたけれど……、それはあなたには関係のないものだから。今日一日、上野公園から席を外してくれないかしら?」
「そーですねぇ☆ うーん。僕としてもここには仕事できたわけじゃ、ないんですよね♪ ですからまあいいですよ、と言ってさしあげたいんですけどー。あの、僕はここで決闘の約束をしているんですよ。今までの記録からいうと、二時間ほどで終わると思うんですが、それまで待つ、というのはどうでしょう」
「二時間ね……」
冴那はペールブルーのマニキュアつきの爪をかみ、すぐに結論を出した。
「交渉成り……」
二人の会話している間にも現在東京屈指のホラースポットと化している上野公園には動物の奇声が交錯していた。そのすべての声を打ち消すように、その時圧倒的な遠吠えが夜空に響き渡った。
最も早く反応を返したのは水野である。
「待ち合わせの相手が来ました! それじゃ!」
風のように二メートル強の高さから一気に地面まで飛び降りる。コートの裾が翻った。
無傷で着地し、疾走体勢に入る。
白い残像を残して少年は風と消え、それを見送った冴那はあることに思いついて手を振った。それにあわせ、そここでがさがさと葉ずれの音がなる。冴那の武器は、蛇である。
種類をとわず、この世のすべての蛇と意志を疎通させ、操ることができる―――それが冴那の能力だった。水月堂は爬虫類を取り扱う店であり、その店の商品のなかで場所柄を考え今回は毒なしのもの全てをこの上野公園に放ってあった。元々上野公園に生息していた蛇もふくめ、その数ざっと、二百匹。
冴那の依頼は指輪をとりかえすこと。その指輪の行方は猿のみが知っている。もしもその猿が、水野の「待ち合わせ相手」と同一だとしたら―――。
上野公園といってもその敷地は広大である。現在激しい戦闘が起こっている地域に配置しておいた蛇に偵察させたところ、その結果は、冴那の期待を裏切るものだった。
≪上野の格闘 3≫
上野公園の敷地は54万平方メートルに及ぶ。
水野と猿との戦闘現場に冴那が到着したのは、戦闘がはじまってから十分以上経ってからである。冴那は走るのがあまり得意ではないのだ。
開けた平地で、猿と水野は戦っていた。
猿は茶色の体毛をした、人間の子供ほどもある大猿だった。あきらかに、写真より大きい。激しい組み手争いをしていた水野は冴那の姿を見つけると無数の礫を放つ。それに猿がひるんだところで大きく背後に飛び離れて猿と距離をとった。
「冴那さん、何の用ですか。話はついたはずでしょう。僕の邪魔すると……、殺しちゃいますよ?」
本気だった。
女性にしては長身の冴那とまだ成長期の水野がそうして並ぶと、頭二つぶんほど差がある。その可愛らしい小柄な外見に似合わぬ顔が、ちらりとのぞく。
「私もそうしたいのだけれど、あの猿は盗人なの。あの猿から指輪を取り返すというのが私の役目。その後ちゃんと、きみに返すわ……安心して」
走りながら出した冴那の命令により、上野公園中にちらばっていた蛇はこの地点目指して一斉に移動していた。言っている間も、先に到着した十数匹が猿をかこむようにとりかこみ這い登っていく。
「お猿さん。指輪をどこへやったの? 女の子のものを盗るなんていけないわね……。オイタが過ぎるとお仕置が怖いわよ……。苦しいでしょう。蛇はどんどん増えるわ。上野公園中に配置した蛇がどんどん集まってくるから。蛇って結構俊敏なのよ? 泳げるし、跳ぶし、隠れるのが上手でどこからでも現れるし……ね。指輪をどこへやったの早く言った方が身の為よ?」
戦いの推移を冷静に見つめて、水野が言った。
「―――無理ですね」
「なんですって?」
そう冴那が聞き返した瞬間、夜の闇につつまれた辺りが明るくなった。
そして同時に、猿の体にまとわりつき締め上げていた蛇たちがぼとぼとと落ちていく。その音にならない悲鳴を確かに冴那は聞き取った。
猿の全身が燃えていた。
「蛇は低温動物。炎には弱い。おまけにこの広大な上野公園中に配備したということはそれだけ蛇が分散されているということ」
冷静な水野の声がひびく。
闇を炎が追い払い、明るさをました空間で、猿が無言の凄みをもって冴那たちを見る。不動明王の光背のように炎を全身にまとわせたその姿は、圧倒的な存在感をもって、今この場に君臨していた
蛇と炎を身にまとった猿では、戦いの相性は最悪に、近い―――。
水野は冴那を見上げ、ぽんと手を打つ。にっこり笑った。
「じゃ、こうしましょう。泥棒はたしかにいけないことですし、仕事の履行も重大かつ大事なことです。僕があの猿をやっつけますから尋問はあなたに」
冴那もうなずく。
「おまかせするわ。―――炎を身にまといながらなぜあの猿は燃えないの? ……あれは本当に使い魔なの?」
それは質問というより一人言だったが、黒手袋で猿に近づいていく水野は振り返らずに答えた。
「あれは元は魔物でしょうね。それも相当力のある上位の。それを調伏し使い魔に仕立て上げた力量には感服します。……ぜひ一度、お手合わせ願いたいです♪」
水野は最後の一言でおちゃらけに戻ると、猿に向かっていく。
「やあ愛すべき好敵手よ!」
猿の面前に立ち、水野はほがらかに言った。
「君ほど強い相手と出会ったのは僕の少なくない戦闘経験のなかでも久しぶりだ。だから今日で会えなくなるのは非常に寂しいよ」
うきうきした様子で話す水野を猿は動かず注視している。
「これまで楽しかったねぇ。うんうん。僕は三度、君にやぶれた。一度目の敗退は油断から。二度目の敗退は君の能力を知らなかったから。でも。三度目の敗退は君の能力をさぐるためさっ。君の敗因は、ただひとつ。それは、人間のガクシュウノウリョクを甘くみたということ!」
水野はさっと三本のナイフを懐から引き抜く。猿との間合いは人間の足で十歩強。猿の敏捷さとバネなら三歩。
炎を身にまとう猿も素早く構えた。
水野はつづけざまにナイフを投げうつ。白い線は二本が足へ。一瞬おいて一本が腹へ。二本がフェイント。それで猿があとずさるコースを想定した本命の腹への一本は猿の行動によって無に帰す。猿は二本の足元へのナイフを後ろにさがることで避けるのではなく人間には不可能な準備行動なしの横への跳躍によってかわすと無手となった水野に突進した。素手で炎の猿にふれただけでも人は大やけどを負ってしまう!
がきん、と金属音がなった。水野の目が何かを見出し見開かれる。
足元をねらった二本の白い線はフェイント。一本は単なる石だった。三本のナイフ―――それをわざわざ猿に見せ付けた時から戦いの伏線は始まっていたのだ。水野は無手ではなく、石のかわりに残した一本のナイフで猿の拳を受け止めた。本来ならばそのナイフは油断して突進してくる猿の胴体をカウンターの形でえぐっているはずだった。しかし突進してくる猿は人間ならざる動体視力で水野の手に刃物を見つけると素晴らしい判断力で自分の体に急制動をかけ、炎の拳をくりだしたのだ。
その拳はなんとか受け止めたがナイフは一本。横合いからもう片方の拳がせまる!
水野はそれを待っていた。
素手の左手で炎をまとった拳をうけとめると、猿に驚愕が走る。その隙を水野は見逃さなかった。両手が開いて、がら空きの胴体に、鋭い裂帛の気合とともに、拳を叩き込んでいた。
猿は後ろ向きにどうっと倒れる。
闇を照らしていた炎は消えた。
水野は息とともに、全身から力を抜く。
「……えーと、指輪だっけ」
ぽりぽりと頭をかいて、さきほど戦闘中発見した猿の指にはまっていた赤の石の指輪を剥ぎ取った。 冴那が近づきたずねる。
「水野クン、大丈夫なの? あなた、手……」
「ああ、へーきですよ、ほら」
と水野は手を示す。黒手袋にはススはついていたが、こげた様子もない。
「人間の学習能力を甘く見ちゃいけませんってことですよ。耐熱手袋ですコレ。そしてこのコートの下にも」
白いコートの下には、ダイバーのスウェットスーツのように、体にぴったりした服があった。
「なるほど、このお猿さんの敗因は、自分の能力を水野クンに知られてしまったこと。そして私の敗因は、このお猿さんの能力をしらなかったことね」
「で、これが探していた指輪ですか?」
水野から指輪を受け取り、冴那は頷いた。
「ありがとう。この猿私だけじゃ、捕獲できたかどうか……。さて、このお猿さん、どうしましょうか……。蛇の生餌にちょうどいいサイズだと思ったのに、これじゃ、ちょっと大きいわねぇ。ぶつぎりにしましょうか」
水野の顔が初めてひきつった。
無表情でさらりという冴那の本気を感じ取ったのだ。
「それは……ちょっと。殺すのは勿体無いですよ! この猿強いですよ〜、すごいやつです! 使い魔ってさっき言ってましたね。ご主人のところに連れて行ったらいいんじゃないですか?」
≪仕事の終わりに 4≫
依頼人は、高級マンションの一室に住んでいた。
彼女が指輪をはめ、手をかざすと猿の体はあっという間に小さくなっていく。
やがてあの写真にのっていたような小猿の姿に戻った。
「ありがとうございます、巳主神冴那さん、水野想司さん。指輪だけでなくこの子まで連れ戻してくださって」
にっこり、と彼女は笑った。
「この子は水野さんのご推察のとおり、元は魔物です。師が調伏し、私に譲ってくれました。ヴィーヴル、という魔物です」
「ヴィーヴルっ!」
冴那が声をあげた。
「結構有名な魔物だそうですが……、ご存知なんですか?」
「フランス地方にすむと言われるドラゴンの一種です。あくまで昔話や伝承としてしか、知りませんけど。巨大な蛇の体に蝙蝠の翼を持ち、普段は地下世界に暮らしていますが、地上に出現するときは体全体が炎になるといいます。すごい人ですね、あなたの師匠という方は……」
「ええ。―――ですから彼は、動物を使い魔に仕込んだわけではありませんの。だからペット禁止のこちらのマンションではこんな風に……」
再び指輪をはめた手をかざすと、小猿は人間の男にかわる。
同席していた草間は得心がいったように頷いた。
「あ……それで『この男』と」
「はい。同居している間の標準フォームはこの姿でしたから。ペット禁止のマンションって、ホント不便ですわね」
ほほほ、と依頼人の女性が笑う。
どこか脱力感をさそうその笑い声が、事件の終わりを告げた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
池袋駅グループ
0666/雫宮・月乃 / 女 /16 /犬神(白狼)使い
0086/シュライン・エマ/ 女 /26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0442/美貴神・マリヱ / 女 /23 / モデル
0554/守崎・啓斗 / 男 /17 / 高校生
0702/ 北一・玲璃 / 女 /16 / 高校生
上野公園グループ
0376 / 巳主神・冴那 / 女 /600 / ペットショップオーナー
0424 / 水野・想司 / 男 /14 / 吸血鬼ハンター
ペットショップグループ
0475 / 御上・咲耶 / 男 / 18 / 高校生
0476 / ライティア・エンレイ / 男 / 25 /悪魔召喚士
0493 / 依神・隼瀬 / 女 / 21 / C.D.S.
0046 / 松浦・絵里佳 /女 / 15 / 学生
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、初めてお仕事させていただきました、杉浦明日美です。今回公園グループは二人ということで、お互いよくからんで何とか依頼を解決することができました。
実はプレイングのお仕事をするのはコレが二度目。しかも一度目はお一方だけでしたから……、お気に召していただければいいな、とびくびくしております。
それではご依頼いただき、ありがとうございました。
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