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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


呪い人よ、こんにちは【完結編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『呪い人よ、こんにちは』――。
 金沢の神崎神社で発見された中年男の変死体。これが第1の事件だった。
 編集長の命により、変死体と『怨呪神社(おんじゅじんじゃ)』と揶揄される神社、温州神社(うんしゅうじんじゃ)の関連性を金沢に赴いて調べることになった一行。
 その最中、七森沙耶が浅野川に架かる梅ノ橋のたもとで別の中年男の死体を発見した。これが第2の事件だった。
 第1の事件での変死体は吉岡正樹(よしおか・まさき)、第2の事件での変死体は福島博樹(ふくしま・ひろき)。この2人に川田耕三(かわた・こうぞう)を含めた3人は共に不動産屋を営む仕事仲間であった。
 だがしかし、この3人は契約書を悪用して土地を騙し取ったりしていたことが調査の結果判明した。そして一連の事件を起こしているのは、この3人に復讐するためであることも……。
 一行は第3の事件を阻止すべく動き出した――。

●行動開始【1A】
 一行はめぐみの電話を受けて、即座に行動に移った。もはや一刻の猶予もならない。
「おいっ、携帯置いてってくれ!」
 その十三の言葉に、シュラインが自分の携帯電話を投げてよこした。

●守るべきは【1B】
(確かここの屋上は立入禁止だったはず、好都合だ!)
 部屋を飛び出し、屋上へと向かおうとする慶悟。それを沙耶が呼び止めた。
「待ってください!」
「何だ?」
「お願いです、神主の三浦さんを……守ってください!」
 沙耶の言葉に、慶悟は怪訝な表情を浮かべた。
「……どういうことだ?」
「すでに2人も呪殺しているのに、多恵さんに何も起きていないのはおかしいじゃないですか。でも三浦さんはやつれて入院を……」
「む……」
 慶悟は額に手をあて考え始めた。呪いの対象である川田と呪い返しの対象である冴香――多恵のことは頭にあったが、三浦への影響は失念していたのだ。
「……分かった。できる限りのことはしておこう」
 慶悟は沙耶に約束すると、屋上へと通じる階段へと駆け出した。

●形代【2C】
 慶悟は屋上に出ると、すぐさま式神を2体放った。
「雷が如く疾く行け! 急々!」
 屋上から速さだけを求めた鷹型の式神が、各々別の方角へ飛んでゆく。呪いの波動の出所と目的地、両方へ向けて飛んでゆく。一方は多恵、一方は川田へと。
 慶悟はそれを見送ると、さらにもう1体鷹型の式神を放った。これは三浦に向けての物である。
「人を呪わば穴二つ……事がどうであれ、これ以上死人を増やす訳にはいかない」
 強く唇を噛み締める慶悟。少し唇が切れたのだろう、口の中に鉄の味がした。
「最早手順を踏んでいる暇はない。古典的だが呪いをかわすのに一番手っ取り早い形代を作る方法を取る……俺はある意味専門職だからな。『血』は要らん」
 慶悟は自らに言い聞かせるようにつぶやいた。形代とはつまり身代わり人形のことである。それを作るには対象となる者の『身体の一部』と『名前』を用いる。そのために、慶悟は『身体の一部』――『髪の毛』を回収させるべく式神たちを放ったのだ。『血』があればもっと強固な形代にすることも可能なのだが……そんな暇はない。
「時間との勝負か……」
 そう、全ては時間という名の天秤の、微妙なバランスの上にあったのだ。

●儀【3C】
 ホテルの屋上で瞑想をしつつ式神たちの帰還を待つ慶悟。不意に両目を見開いた。
「戻ってきたか!」
 3体の鷹型の式神はほぼ同時に戻ってきた。慶悟は各々から髪の毛を受け取ると、素早く形代を作り上げてゆく。
(時間がない……!)
 速さを求めたので情報は断片的にしか入っていないが、三浦の容態が変化していたことは伝わっていた。三浦が吐血し、医師や看護婦が慌ただしく病室を出入りしていたのだ。
 時間との勝負の中、形代を作り上げた慶悟は、呪いや呪い返しの対象を本人たちから形代へ移す『儀』を早急に行った。後はこれらの形代が、呪いを全て受け切るかどうかだけである。万一、受け切れなかったその時は――。
「……考えまい!」
 慶悟は不吉な想像を振り払うかのように、大きく頭を振った。

●影で動きし者【6D】
 慶悟は形代の様子に細心の注意を払っていた。少しでも変化があれば、呪いが届いた瞬間に呪いと共に燃やしてしまう心積もりだったのだ。
(……来たか!)
 ピクッと慶悟の身体が動いた。最初に変化があったのは三浦の形代だった。変化があると共に、燃え上がらせる慶悟。次に変化があったのは川田の形代だった。こちらも即座に燃え上がらせる。2つの形代はたちまち灰となって消え失せた。
「残るは1つ……」
 多恵の形代を残すのみだった。時間が経過してゆく。それはほんの僅かな時間だったのかもしれない。だが、慶悟にはそれが永遠の時間のように感じられた。
 そして――多恵の形代に変化が起こった。
「これで最後だ!!」
 最後の1つ、多恵の形代を燃え上がらせる慶悟。多恵の形代は緩やかに燃えてゆき……灰となって消え失せた。
「さあ……どうだ……?」
 慶悟は大きく息を吐いた。すると携帯電話が鳴った。出るとそれは沙耶からだった。全員無事とのことだった。
 続いて十三から電話がかかってきた。こちらも全員無事とのことだった。
 最後、慶悟は式神を放って三浦の様子を調べに行かせた。結果、三浦も今は穏やかな様子であった。
「無事に終わった……な」
 慶悟は屋上でごろんと横になった。
「陰陽の法は事象を捉え操るが、人心を癒し救うことはできない……か。……辛いもんだ」
 溜息と共に、慶悟はそうつぶやいた。

●卯辰山展望台にて【7】
 3日後――一行は卯辰山の展望台に居た。ここからは金沢の市街が一望できるのだ。
「いい場所でしょう? 向こうに見えるのが日本海で……」
 一行と一緒に居てためぐみが説明する。傍らには葛葉の姿もあった。
 事件後、状況が落ち着くまではということで、一行は金沢に留まっていた。その間に色々と知らなかった事実が出始めていた。
「けっ、贈賄かい……市会議員、県会議員、おまけに国会議員まで疑惑が出てきてやがる……こりゃ強ぇ訳だ。何かありゃ、揉み消しやすいしよぉ」
 十三が地元の新聞を手に、吐き捨てるように言った。
 川田は翌日に警察へ向かった。今までやってきたことの全てを話すために。贈賄の話はそこで出てきたことだった。
「一大スキャンダルですね。贈賄だけでなく、他の件でも捜査が始まるそうです。件の交通事故も、車に細工をしていたと自供しているそうですから。ただ土地を取り戻すのは難しいようです……ともあれ川田に罪を償わせることができるだけでも、まずはよしとしておきましょう」
 亮一が静かに言った。仕事柄警察の上層部の人間と面識があるので、色々と話を聞き込んできていたのだ。
「川田の様子はどうだって?」
「おとなしいそうですよ。ただ、留置場で何やらうなされているそうですが」
 十三の質問に亮一が答えた。
「レポートはどうされるんですか?」
 さくらが尋ねた。心配そうな視線だ。
「碇さんにはこの3日間で書き上げてファックスで送っておきました。……ああ、多恵さんの名前は伏せていますからご心配なく。もっとも、3人の悪行は余すことなく記しておきましたが」
 その亮一の言葉を聞き、さくらは胸を撫で下ろした。
「それにしても、『た・な・か・さ・え・か』と『さ・か・な・か・た・え』……アナグラムだったのね」
 シュラインがぽつりとつぶやいた。3日間の間に、ふとそのことに気付いたのだ。
「あのままでよかったのかな」
 ライティアが誰ともなく尋ねた。慶悟は煙草をくわえたまま無言で市街を見下ろしていた。ソネ子も同様に市街を見下ろしている。
「呪いは法で裁けない……でしょ。警察へ突き出しても、立証できるのは脅迫罪くらいでしょう。それに未成年……色々と考えたらね、これが一番よ」
 一行は思案の末、多恵を警察へ突き出さなかった。その代わり、生きて全ての罪を償うことを約束させた。罪を抱えたまま、生き続けることを選ばせたのだ。
「三浦さんも居ますから……きっと大丈夫ですよ。これから何があっても……」
 笑顔で言う沙耶。沙耶は昨日、1人で三浦の病室を訪れていた。そしてこう頼んできたのだ。『多恵さんを守ってあげてください』と。三浦は笑みを浮かべそれに頷いていた。
「あの……」
 葛葉が細い声で言った。
「今度はその、普通の旅行で……金沢に遊びに来てください。その時はご案内しますから」
「そうそう、金沢に悪い印象持たれたまま帰ってほしくないですし……」
 葛葉の言葉に、めぐみが補足した。
「そうね、次は純粋に遊びで訪れたいわ。確か6月は『百万石まつり』もあるのよね……あ、1ヶ月違いで残念」
 シュラインがおどけるように言った。皆の間から笑い声が漏れた。
 展望台には5月の心地よい風が穏やかに吹いていた。全ての重苦しい空気をも運び去るかのように――。

【呪い人よ、こんにちは【完結編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0622 / 都築・亮一(つづき・りょういち)
                   / 男 / 24 / 退魔師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全21場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしました、金沢を舞台にした調査の3回目、最終回をお届けします。高原は色々な意味で今回が一番大変だったなと思いました。話が入り組んでますので、ぜひとも他の方の文章にも目を通してみてください。
・細かい理屈は抜きにして、今回の呪いの仕組みを説明しておきましょうか。まず携帯電話で対象の位置を捕捉しています。これは省略することも可能ですが、呪いの確実性を上げるために行われました。携帯電話のなかった昔は別の何らかの手段で対象の位置を捕捉していました。次いで、乙女の証のついた白い布を使って呪う訳ですが、この際乙女の証をつける手伝いをした男の生気なりを削ってゆくことになります。そして、白い布が焼失等で失われた際には術師へ反動が来る……と。
・当初高原は救いのない結果で終わるんじゃないかと思ってたんですが、皆さんの行動で何とかなったようですね。正直、高原は全員死亡という展開も想定していましたから。
・多恵は三浦と共に温州神社を守ってゆくようです。生きて罪を償うために。
・真名神慶悟さん、10度目のご参加ありがとうございます。今回は見事に裏方ですが、その判断は正しかったと思います。形代は何とか呪いを受け切ったようです。形代がなかったら、また違った展開になっていたかもしれません。特に三浦の結果が。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。