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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


猫を追って☆
●オープニング【0】
 天川高校『情報研究会』――ここには放課後になると生徒に限らず、様々な人間の出入りがある。これには比較的オープンな校風の影響もあるが、OBの繋がりによる物も少なからずあるらしい。
「ねえねえ、知ってる? 最近、新市街で猫の姿を見かけないんだって」
 どこでそんな噂を聞いたのか、『情報研究会』会長の鏡綾女がそんな話を始めた。
「でも旧市街の方ではよく猫の姿を見るんだけど……変だよね?」
 綾女は首を傾げつつ話したが、よくよく考えてみるとそんなに変なことでもなさそうだ。
 普通に考えられるのは2つ。新市街に猫が嫌う要因があるのか、旧市街に猫が好む要因があるのかのどちらかだ。もちろん、そのどちらにも当てはまらない要因があるのかもしれないが……。
「疑問があったら、即調査。これがうちのモットーなんだよね☆」
 はあ、モットーですか。それは別にいいんですけど。
「という訳でぇ……調べてきてねっ♪」
 あのー……何が『という訳』ですか?
 仕方ない、噂に耳を傾けつつ調べてみようか……。

●探索【1B】
 日中の冬美原駅近辺――巳主神冴那は人通りを避け、ビルとビルの間に入り込んでいた。その手には何が入っているのか、やや大きめの籠を手にしていた。
 冴那は辺りに人の気配がないことを確かめると、その足を止めた。
「この辺で大丈夫……」
 すっとその場にしゃがみ込む冴那。愛おしそうに籠を一撫でしてから、静かに籠を開いた。それを待ちかねていたかのように、中から這い出してくる物があった――蛇だ。多数の蛇が、籠の中から這い出してきた。
「さあ……面白い物が見つかるとよいのだけれど……」
 そうつぶやいた冴那の足元を、蛇たちは静かに這っていた。
「お行きなさい。新市街と旧市街、各々に向けて……猫たちが旧市街へ集いし原因を探るべく……」
 蛇たちに指示を与える冴那。それを受けて蛇たちは四方八方へゆっくりと散らばってゆく。ある蛇は人の通れない穴へと入り込み、またある蛇は下水道へと入り込んでゆく。蛇たちは、人とは異なった視線から物事を見ようとしていた。
 やがて足元を這っていた蛇たちの姿がなくなったことを確かめた冴那は、おもむろに籠の中へ手を入れ何かを取り出した。それは先程までの蛇とは異なる蛇――蝮であった。
「何があるか分からないから……」
 手にした蝮を地面へ降ろす冴那。蝮はしばし冴那のそばをうろついた後、見えない所へその姿を隠した。冴那にとっての自衛手段であった。
 籠を閉じ、すっと立ち上がる冴那。相変わらず辺りに人の気配はない。
「さて……新市街に大蛇でもいるのかしらね……くす」
 笑みを浮かべる冴那。本人は冗談のつもりなのかもしれないが、その表情と口調からはそうとも思えない所が怖い所だった。
 冴那はその場を離れ、旧市街へと向かった。細い路地の多い旧市街には、噂通り猫たちの姿が多く見られた。塀の上でじっとしている猫やら、屋根の上で気持ちよさそうに丸まっている猫やらと様々である。殺伐とした雰囲気は感じられない。どちらかと言えば、穏やかであろう。
(呑み込みたくなるくらい可愛いわね……)
 冴那はそんなことを思いながら、目の前をのんきに歩いてゆく猫たちを見ていた。ふとその中の1匹と冴那の目が合った。驚いて足早に立ち去る猫。残った猫たちも慌ててその猫の後を追った。
「あら……驚かせちゃったかしら」
 冴那はさらに旧市街の散策を続けていった。

●報告【3B】
 旧市街の小さな公園――月明かりに照らされたベンチに冴那は座っていた。時刻は夜11時。
「そう、やっぱり……」
 冴那の首に複数の蛇たちが巻き付いていた。調査結果を聞いているのだ。
(城址公園に近付く程に猫が多い……)
 蛇たちの報告は噂の内容を裏付けるのみならず、新たな情報をもたらしていた。それは冬美原城址公園に近付くにつれ、猫たちの姿が多く見られるというものだった。
「……あたしが目視したのと一致ね……」
 冴那も城址公園の近くでは猫が多いと感じていた。その時は単なる偶然かと思ったが、複数の蛇たちが同じ報告を返してきたのだから、偶然とも思えない。
(城址公園に何かがあるか……それとも居るのかしら……?)
 そんなことを冴那が考え始めた時だ。別の蛇が冴那の前に報告に現れた。
「あら、あなたは何を見てきたの……?」
 冴那はその蛇を愛おしそうに手に取った。さっそく報告をする蛇。冴那の眉がピクンと動いた。
「……猫たちが一斉に動き出した……?」
 こんな時間になって動き出すとはどういうことか、しかも一斉に。
「方角は……? そう、そうなの……城址公園なのね……」
 蛇の報告によれば、猫たちは城址公園に向かって移動しているという。
「あたしたちも行きましょう……城址公園に」
 冴那はすっとベンチから立ち上がった――。

●冬美原城址公園【4】
 夜11時過ぎ――1人の青年が城址公園のそばへやってきていた。
(ここに何が……?)
 七森拓己は一斉に歩き出した猫たちの後を追って城址公園までやってきたのだ。入口に差しかかった所で、別方向からすうっと長い髪の女性が姿を現した。
「あれ? 先日の?」
 拓己はその女性の顔を知っていた。女性――巳主神冴那がその声に振り向いた。
「あら……あなたも猫たちを追って?」
「そうですけど……」
「なるほど、奇妙に思っていた人間は他にも居たということか」
 2人の会話にまた別の人間が割り込んできた。振り向くとそこには涼やかな表情をした美青年、宮小路皇騎が立っていた。その後ろにはまた別の青年が居た。紅い瞳のバーテン、九尾桐伯である。2人共長い髪を束ねていた。2人も城址公園へ向かう途中で偶然出くわしたのだ。
「ともあれ猫たちを追いましょう。詳しい話はそれからですよ」
 桐伯が皆を促した。4人は入口をくぐり、緩やかな坂を登っていった。猫たちは足を止めることなく歩いていた。あちこちから集まってきているのだろう、猫たちの数は増え続けていた。
 4人が坂を登り終えると、そこには先客が居た。何やら言い争っている5人組が居たのだ。
「あんな……何でうちの行く先々にあんたが居んねん!」
「今日は知らないニャ。単なる偶然ニョ〜」
 不機嫌そうな緑の瞳の少女に対し、ニヘラと笑みを浮かべる銀髪の少年。南宮寺天音と養老南が言い争っている場面だった。
「落ち着きましょうよ〜。皆、お友だちなんですから〜」
 黒髪かつスタイルのよい少女、海堂有紀が2人の間に入ってなだめていた。
「南先輩、早く確かめに行きましょうよ〜」
 南の腕に自らの腕を絡めていた少女、黒鉄無音仁が急かすように言った。
「ふふ……他にも居たみたい」
 冴那がぼそっとつぶやいた。あの5人も自分たちと同じく猫たちを追ってきたのだろう。
「おや、あれは……」
 皇騎は目の前の5人の中に、先日とある事件で関わった少女、藤井明子の姿を見つけて驚いた。ただあの時に比べ顔色もよく、元気そうなので皇騎は少し安心した。
 そのうちに5人の方も、後からやってきた4人に気付き話しかけてきた。やはり目的は同じようだ。
 総勢9人となった一同は、さらに猫たちの後を追った。そして9人は目にした。
 月明かりの下、所狭しと集まっている猫たちの姿を。そしてその中央に居る、ウェーブのかかった金髪の少女の姿を――。

●猫たちの集う理由【5】
 集まっていた猫たちは、代わる代わる少女の前にやってきた。クラシカルなドレスに身を包んだ少女は猫たちを抱き上げようとするが、その手はするりと猫を通り過ぎてしまう。
「幽霊だ……!」
 拓己が短く言葉を発した。
「けど変やなあ……噂では聞いとったけど、ここに出るのはお姫様の幽霊ちゃうんかったやろか?」
 首を傾げる天音。どう考えても、目の前の幽霊がお姫様だとは思えない。
「恐らく明治維新直後に冬美原に住んでいた外国人の娘さんでしょう。当時の人間が彼女の装いを見て、お姫様のようだと感じたのが転じた可能性もありますね」
「……そういえば、お姫様の幽霊が複数居るという噂もあったな」
 解説する桐伯の言葉を、皇騎が補足した。
「人ならざるものが正体としても……事情は聞かなくてもよいのかしら?」
 冴那が皆に静かに言った。確かにまだ詳しい事情は判明していない。一同は静かに少女に近付いていった。猫たちは自然と道を空けていった。
「誰です!」
 一同に気付き、身構える少女。
「我々に敵意はありません。ただ事情を聞きたいだけですよ」
 皇騎がすっと両手を上げ、敵意のないことを示した。他の者もそれに倣う。
「……そうですか」
 安堵する少女。一同は両手を上げたまま少女のそばへ歩いていった。
「最初にお聞きしますが、あなたが冬美原に来られたのは何年です?」
 両手を降ろし、桐伯が最初に尋ねた。
「1880……何年でしょう。父の仕事の関係で英国よりこちらへ来たのは」
 少女は思い出しながら静かに答えた。
「しかし病に倒れた私は、この地で亡くなりました。以来こうして1人きり……」
 月を見上げる少女。遠い祖国である英国に思いを馳せているのだろうか。
「ですがつい最近のことです。猫たちが、私の存在に気付いたのは」
「気付いた、とは?」
 拓己が尋ねた。
「分かりません。ただ気付いた時には、猫たちが自然と集まってきてくれたんです。まるで私を慰めてくれるかのように……。次第にその数は増えていきました」
「そうか……だから猫たちが旧市街に集まってくるようになったんだ!」
 これでようやく謎が解けたと、嬉しそうに拓己が言った。
「強制……した訳じゃないのね?」
 冴那がじっと少女を見つめた。少女は静かに首を横に振った。これを信じるならば、どうやら猫たちは自主的に集まってきたようだ。
「しかし、このまま猫たちが旧市街に集中するのはどうかと思う。今はまだしも、今後何があるか分からない」
 皇騎がぐるりと周囲を見回して言った。多数の猫たちが一同を見つめている。
「はい、私もそれは心配していました。これ以上冬美原の皆さんに迷惑をおかけする前に、何とかしないといけませんね……」
 目を伏せる少女。そこに有紀が1歩進み出た。
「あの〜、ずっと1人きりだったんですよね〜?」
「え? ええ……そうです」
「じゃあ、私とお友だちになりましょう〜」
 にっこりと有紀が微笑んだ。
「えっ!? でも私は……見ての通り幽霊で……」
「そんなの関係ないですよ〜。こうしてお話できているんですから〜」
 にこにこと言葉を続ける有紀。
「あの……」
 少女が何か言おうとした時だった。周囲の猫たちが、一斉に鳴き出したのは。それはまるで『よかったねー』と少女を祝福するかのようであった。
「……ありがとうございます」
 少女はぎゅっと目を閉じると、一同に対して深々と頭を下げた。明子がそれを見て涙を浮かべていた。
「これで一件落着……なんやろか?」
 首を傾げる天音。
「原因が分かったんですから、よしとしましょう。後は猫たちに自分たちの場所へ戻るよう、彼女が説得してくれれば何とかなるでしょうから」
 桐伯が笑みを浮かべて言った。きっと猫たちも少女の言葉なら聞くであろう。
「あの〜、お名前教えていただけますか〜?」
 有紀は少女に名前を尋ねた。
「私はアリス……アリス・キャロットです」
 笑顔を見せて少女――アリスが答えた。
 それからアリスと歓談する一同。猫たちは周囲でその姿を見守っていた。いつしか南と無音仁の姿はその場から消え去っていた――。

【猫を追って☆ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0464 / 七森・拓己(ななもり・たくみ)
                   / 男 / 20 / 大学生 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 15、6? / 高校生/男娼 】
【 0626 / 黒鉄・無音仁(くろがね・なおひと)
    / 男 / 30代? / 「黒鉄堂」店主兼「花の黒鉄」店主 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全15場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、猫たちがいっぱい居る今回の物語をお届けします。そろそろ噂が機能し始めたかなと高原は感じているのですが、いかがでしょうか? 冬美原ではオープニング文章のみならず、噂等にも仕掛けが施されているのでどうぞご注意ください。
・ほのぼのとした終わり方になり、高原も胸を撫で下ろしています。ちなみに明子とアリスですが、人物一覧のコンテンツに近日中に追加すると思います。どうぞお楽しみに。
・巳主神冴那さん、4度目のご参加ありがとうございます。ファンレターありがとうございました、多謝。ある意味面白い物が見つかったのかもしれませんね。あ、猫たちはのんきでした。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。