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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


猫を追って☆
●オープニング【0】
 天川高校『情報研究会』――ここには放課後になると生徒に限らず、様々な人間の出入りがある。これには比較的オープンな校風の影響もあるが、OBの繋がりによる物も少なからずあるらしい。
「ねえねえ、知ってる? 最近、新市街で猫の姿を見かけないんだって」
 どこでそんな噂を聞いたのか、『情報研究会』会長の鏡綾女がそんな話を始めた。
「でも旧市街の方ではよく猫の姿を見るんだけど……変だよね?」
 綾女は首を傾げつつ話したが、よくよく考えてみるとそんなに変なことでもなさそうだ。
 普通に考えられるのは2つ。新市街に猫が嫌う要因があるのか、旧市街に猫が好む要因があるのかのどちらかだ。もちろん、そのどちらにも当てはまらない要因があるのかもしれないが……。
「疑問があったら、即調査。これがうちのモットーなんだよね☆」
 はあ、モットーですか。それは別にいいんですけど。
「という訳でぇ……調べてきてねっ♪」
 あのー……何が『という訳』ですか?
 仕方ない、噂に耳を傾けつつ調べてみようか……。

●猫又【1E】
 日中の旧市街を悠々と歩く、青い目の黒猫が居た。時々立ち止まっては、きょろきょろと何かを探すようにしていた他は何の変哲もないように思われる黒猫だ。だがその黒猫はただの黒猫ではなかった。この黒猫、今は正体を隠しているが本来は尻尾が二股である。そしてこのような猫を人々は普通こう呼んでいる――猫又と。
 猫又、黒鉄無音仁は本来の姿で旧市街を歩いていた。無音仁という名は交通事故死した飼い主の名だ。本名はもちろん別にある。
 旧市街を歩く無音仁の視界には猫たちの姿が入っていた。塀の上でじっとしている猫やら、屋根の上で気持ちよさそうに丸まっている猫やらと様々であった。だが不思議だったのは、そのほとんどが複数で居たことだ。
 無音仁はその猫たちの中から珍しく単独で居た猫、なおかつ美形の雌猫に目をつけ、近付いていった。
「あら、あなた見かけない顔ね?」
 雌猫の方が先に話しかけてきた。無音仁は間髪入れずにその雌猫に眼力をかけた。雌猫の身体がビクンッと震えた。
「どうして新市街に近付かず、旧市街に集まるのかな?」
 雌猫にそう暗示をかける無音仁。
「だって……お姫様が寂しがってるんだもの……」
 雌猫はたどたどしく答えた。無音仁はさらに問いかけた。
「お姫様って誰?」
「城址公園に居る……お姫様……夜寂しがってるの……慰めなきゃ……」
(そのお姫様やらを慰めるために、猫たちが集まっている?)
 無音仁は雌猫の言葉からそう推測を立ててみた。強制的に猫たちを旧市街へ呼び寄せている感じはしなかった。となれば、猫たちが自主的に集まってきていると考えるのが妥当だろう。
 無音仁は雌猫への暗示を解くと、足早にその場を離れていった。

●逢引【2A】
 夕闇迫る駅近く、ビルとビルの間に1人の少女の姿があった。黒髪美形の少女だ。恐らく女子高生といった所か。
「先輩遅いな……」
 ぽつりつぶやく少女。そんな少女の前に、1人の少年が姿を現した。養老南である。
「お待たせニョ……ボクの素敵な後輩、無音仁ちゃん」
 くすりと妖し気な笑みを浮かべる南。少女が嬉しそうな顔を見せた。
「あっ、南先輩!」
 猫のごとく南に飛びついてゆく少女。いや、実際は少女ではない。黒鉄無音仁が少女の姿に化けているだけだ。
「ちゃんと調べてきたニョ。噂通り新市街には猫ちゃんたちは少なかったニャ」
 無音仁の髪をすうっと撫でながら南が言った。
「こちらも収穫ありですよ、先輩♪ どうやら猫たちは、城址公園に居るらしいお姫様を慰めるために集まってきたみたいです」
 無音仁が南の胸元に頬擦りをした。
「夜に慰めてるみたいだから、それまで少し待たないと……んふっ……南先輩の匂い〜♪」
「夜ニョ? だったら……まだ時間はある訳ニャ……ふふっ」
 再び妖しく微笑む南。そして腰元につけていたマタタビを1つ引きちぎり、無音仁の鼻先へ持っていった。
「あっ! 先輩、マタタビは反則ですよぅ……うにゃ……ふにゃぁ〜ん……」
 正体が猫又だけあって、無音仁にはマタタビが見事に効いたようだ。とろんとした目付きで無音仁は南の顔を見上げた。
「無音仁ちゃん、可愛いニャ……」
 くすくすと笑いながらも、南の唇は無音仁の首筋へとゆっくりとに近付いてゆく。
「解決前のお楽しみニョ……」
「ふにゃぁ……南せんぱ〜い……ゴロゴロゴロ……♪」
 暗転――。

●冬美原城址公園【4】
 夜11時過ぎ――1人の青年が城址公園のそばへやってきていた。
(ここに何が……?)
 七森拓己は一斉に歩き出した猫たちの後を追って城址公園までやってきたのだ。入口に差しかかった所で、別方向からすうっと長い髪の女性が姿を現した。
「あれ? 先日の?」
 拓己はその女性の顔を知っていた。女性――巳主神冴那がその声に振り向いた。
「あら……あなたも猫たちを追って?」
「そうですけど……」
「なるほど、奇妙に思っていた人間は他にも居たということか」
 2人の会話にまた別の人間が割り込んできた。振り向くとそこには涼やかな表情をした美青年、宮小路皇騎が立っていた。その後ろにはまた別の青年が居た。紅い瞳のバーテン、九尾桐伯である。2人共長い髪を束ねていた。2人も城址公園へ向かう途中で偶然出くわしたのだ。
「ともあれ猫たちを追いましょう。詳しい話はそれからですよ」
 桐伯が皆を促した。4人は入口をくぐり、緩やかな坂を登っていった。猫たちは足を止めることなく歩いていた。あちこちから集まってきているのだろう、猫たちの数は増え続けていた。
 4人が坂を登り終えると、そこには先客が居た。何やら言い争っている5人組が居たのだ。
「あんな……何でうちの行く先々にあんたが居んねん!」
「今日は知らないニャ。単なる偶然ニョ〜」
 不機嫌そうな緑の瞳の少女に対し、ニヘラと笑みを浮かべる銀髪の少年。南宮寺天音と養老南が言い争っている場面だった。
「落ち着きましょうよ〜。皆、お友だちなんですから〜」
 黒髪かつスタイルのよい少女、海堂有紀が2人の間に入ってなだめていた。
「南先輩、早く確かめに行きましょうよ〜」
 南の腕に自らの腕を絡めていた少女、黒鉄無音仁が急かすように言った。
「ふふ……他にも居たみたい」
 冴那がぼそっとつぶやいた。あの5人も自分たちと同じく猫たちを追ってきたのだろう。
「おや、あれは……」
 皇騎は目の前の5人の中に、先日とある事件で関わった少女、藤井明子の姿を見つけて驚いた。ただあの時に比べ顔色もよく、元気そうなので皇騎は少し安心した。
 そのうちに5人の方も、後からやってきた4人に気付き話しかけてきた。やはり目的は同じようだ。
 総勢9人となった一同は、さらに猫たちの後を追った。そして9人は目にした。
 月明かりの下、所狭しと集まっている猫たちの姿を。そしてその中央に居る、ウェーブのかかった金髪の少女の姿を――。

●猫たちの集う理由【5】
 集まっていた猫たちは、代わる代わる少女の前にやってきた。クラシカルなドレスに身を包んだ少女は猫たちを抱き上げようとするが、その手はするりと猫を通り過ぎてしまう。
「幽霊だ……!」
 拓己が短く言葉を発した。
「けど変やなあ……噂では聞いとったけど、ここに出るのはお姫様の幽霊ちゃうんかったやろか?」
 首を傾げる天音。どう考えても、目の前の幽霊がお姫様だとは思えない。
「恐らく明治維新直後に冬美原に住んでいた外国人の娘さんでしょう。当時の人間が彼女の装いを見て、お姫様のようだと感じたのが転じた可能性もありますね」
「……そういえば、お姫様の幽霊が複数居るという噂もあったな」
 解説する桐伯の言葉を、皇騎が補足した。
「人ならざるものが正体としても……事情は聞かなくてもよいのかしら?」
 冴那が皆に静かに言った。確かにまだ詳しい事情は判明していない。一同は静かに少女に近付いていった。猫たちは自然と道を空けていった。
「誰です!」
 一同に気付き、身構える少女。
「我々に敵意はありません。ただ事情を聞きたいだけですよ」
 皇騎がすっと両手を上げ、敵意のないことを示した。他の者もそれに倣う。
「……そうですか」
 安堵する少女。一同は両手を上げたまま少女のそばへ歩いていった。
「最初にお聞きしますが、あなたが冬美原に来られたのは何年です?」
 両手を降ろし、桐伯が最初に尋ねた。
「1880……何年でしょう。父の仕事の関係で英国よりこちらへ来たのは」
 少女は思い出しながら静かに答えた。
「しかし病に倒れた私は、この地で亡くなりました。以来こうして1人きり……」
 月を見上げる少女。遠い祖国である英国に思いを馳せているのだろうか。
「ですがつい最近のことです。猫たちが、私の存在に気付いたのは」
「気付いた、とは?」
 拓己が尋ねた。
「分かりません。ただ気付いた時には、猫たちが自然と集まってきてくれたんです。まるで私を慰めてくれるかのように……。次第にその数は増えていきました」
「そうか……だから猫たちが旧市街に集まってくるようになったんだ!」
 これでようやく謎が解けたと、嬉しそうに拓己が言った。
「強制……した訳じゃないのね?」
 冴那がじっと少女を見つめた。少女は静かに首を横に振った。これを信じるならば、どうやら猫たちは自主的に集まってきたようだ。
「しかし、このまま猫たちが旧市街に集中するのはどうかと思う。今はまだしも、今後何があるか分からない」
 皇騎がぐるりと周囲を見回して言った。多数の猫たちが一同を見つめている。
「はい、私もそれは心配していました。これ以上冬美原の皆さんに迷惑をおかけする前に、何とかしないといけませんね……」
 目を伏せる少女。そこに有紀が1歩進み出た。
「あの〜、ずっと1人きりだったんですよね〜?」
「え? ええ……そうです」
「じゃあ、私とお友だちになりましょう〜」
 にっこりと有紀が微笑んだ。
「えっ!? でも私は……見ての通り幽霊で……」
「そんなの関係ないですよ〜。こうしてお話できているんですから〜」
 にこにこと言葉を続ける有紀。
「あの……」
 少女が何か言おうとした時だった。周囲の猫たちが、一斉に鳴き出したのは。それはまるで『よかったねー』と少女を祝福するかのようであった。
「……ありがとうございます」
 少女はぎゅっと目を閉じると、一同に対して深々と頭を下げた。明子がそれを見て涙を浮かべていた。
「これで一件落着……なんやろか?」
 首を傾げる天音。
「原因が分かったんですから、よしとしましょう。後は猫たちに自分たちの場所へ戻るよう、彼女が説得してくれれば何とかなるでしょうから」
 桐伯が笑みを浮かべて言った。きっと猫たちも少女の言葉なら聞くであろう。
「あの〜、お名前教えていただけますか〜?」
 有紀は少女に名前を尋ねた。
「私はアリス……アリス・キャロットです」
 笑顔を見せて少女――アリスが答えた。
 それからアリスと歓談する一同。猫たちは周囲でその姿を見守っていた。いつしか南と無音仁の姿はその場から消え去っていた――。

【猫を追って☆ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0464 / 七森・拓己(ななもり・たくみ)
                   / 男 / 20 / 大学生 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 15、6? / 高校生/男娼 】
【 0626 / 黒鉄・無音仁(くろがね・なおひと)
    / 男 / 30代? / 「黒鉄堂」店主兼「花の黒鉄」店主 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全15場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、猫たちがいっぱい居る今回の物語をお届けします。そろそろ噂が機能し始めたかなと高原は感じているのですが、いかがでしょうか? 冬美原ではオープニング文章のみならず、噂等にも仕掛けが施されているのでどうぞご注意ください。
・ほのぼのとした終わり方になり、高原も胸を撫で下ろしています。ちなみに明子とアリスですが、人物一覧のコンテンツに近日中に追加すると思います。どうぞお楽しみに。
・黒鉄無音仁さん、猫のことは猫に聞くのが一番でしたね。よかったと思いますよ。とりあえず夜は長いですので……。それからバストアップ参考にさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。