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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


呪い人よ、こんにちは【完結編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『呪い人よ、こんにちは』――。
 金沢の神崎神社で発見された中年男の変死体。これが第1の事件だった。
 編集長の命により、変死体と『怨呪神社(おんじゅじんじゃ)』と揶揄される神社、温州神社(うんしゅうじんじゃ)の関連性を金沢に赴いて調べることになった一行。
 その最中、七森沙耶が浅野川に架かる梅ノ橋のたもとで別の中年男の死体を発見した。これが第2の事件だった。
 第1の事件での変死体は吉岡正樹(よしおか・まさき)、第2の事件での変死体は福島博樹(ふくしま・ひろき)。この2人に川田耕三(かわた・こうぞう)を含めた3人は共に不動産屋を営む仕事仲間であった。
 だがしかし、この3人は契約書を悪用して土地を騙し取ったりしていたことが調査の結果判明した。そして一連の事件を起こしているのは、この3人に復讐するためであることも……。
 一行は第3の事件を阻止すべく動き出した――。

●行動開始【1A】
 一行はめぐみの電話を受けて、即座に行動に移った。もはや一刻の猶予もならない。
「おいっ、携帯置いてってくれ!」
 その十三の言葉に、シュラインが自分の携帯電話を投げてよこした。

●写真【4A】
 さくらは沙耶と共にタクシーを捕まえると、大至急横森の家へ向かってもらった。今の時間帯は道路が混んでいるのだが、乗ったタクシーの運転手が裏道等に詳しいベテランだったため、上手く渋滞を避けて走ってもらうことに成功した。
 横森の家近くに着いた2人はタクシーにしばらく待ってもらい、横森の家を訪問した。
「何じゃ、昨日の娘かね。こちらは初めて見る顔じゃが……」
 ちらりとさくらの顔を見る横森。それでも沙耶が同行していたためか、訝る様子は見られなかった。
「お願いします、昨日の写真をもう1度見せてください!」
「何じゃと? いったいあんたらは何を……?」
 頭を下げて頼む沙耶の姿に、横森は目を丸くした。
「私からもお願いいたします。事情はお話しいたします。悲しき呪詛を断ち切るためにも……ぜひ」
 さくらも深々と頭を下げた。横森はしばし思案していたが、
「……入んなさい」
 と言って2人を家の中へ上げてくれた。
 2人は横森と墓前に事情を説明した。すると横森は次第に難しい顔付きになっていった。
「何と多恵ちゃんがなあ……知らぬこととはいえ、わしにも責任がある……」
 横森はそうつぶやき、押し入れからアルバムを取り出してきた。
「何に使うかは聞かん。必要な写真を持ってゆきなさい……あそこの家族全員とで撮った写真もあるはずじゃ」
「ありがとうございます。それではお借りいたします」
 再びきちんと頭を下げるさくら。沙耶もそれに倣う。
「礼はいらぬ。その代わり、多恵ちゃんを止めてくれ。あの娘の手を、これ以上血で濡らしちゃいかん……」
 ぽつりつぶやき、頭を振る横森。2人は必要な写真を借り受けると、横森の家を後にした。
 タクシーに戻る前に、十三に電話をかけるさくら。冴香――多恵の居場所を知るためだ。すると何と多恵は温州神社に居るらしく、そちらへ向かった者も居るとのことだった。
 2人はタクシーに戻ると、運転手に温州神社へ向かうように頼んだ。

●行かなくちゃ【5B】
 さくらと沙耶は温州神社の手前でタクシーを降りると、徒歩で温州神社へ急いだ。境内の直前、足を止めるさくらと沙耶。沙耶の身体がぶるっと震えた。
「霊気が……」
 ぼそっとつぶやく沙耶。さくらが小さく頷いた。
「悪霊が集まってる……」
 沙耶はそう言って頭を振った。霊能力を持つ沙耶にとって、この空気はかなり苦痛であった。
「私だけで行きましょうか?」
 さくらが沙耶を気遣った。だが沙耶は首を横に振った。
「行かなくちゃ……多恵さんを止めるって約束したんですから」
 笑顔を見せる沙耶。その息は荒くなっていた。
「……そうですか。では、先程の手筈通りに」
 互いに頷き合う2人。タクシーの中で話したのだが、2人の思惑は上手く一致していたのだ。
 2人は境内ぎりぎりの場所まで近付くと、作戦を実行することにした。悪霊の気配が消えたのは、その直後のことだった。

●単なる少女が1人【6A】
「これで終わり……はあっ!!」
 多恵は強く叫ぶと、高らかと白い布を掲げた。そして笑みを浮かべたが……その表情は一瞬にして変わった。
「……違う! 何か……違う!!」
 目を見開いたまま、多恵は頭を振った。
「何が違うのかしら?」
 多恵の背後からシュラインが声をかけた。振り返る多恵。そこには疲労の色が見えるシュライン、ライティア、そして亮一の姿があった。悪霊の気配はもう感じられない。
「悪霊は全て片付けました」
 ライティアが静かに言い放った。そして亮一を見る。シュラインも同じく亮一を見た。小さく頷く亮一。亮一は次に何をすべきか、十三の言葉と共に悪霊との戦いの最中2人に伝えていたのだ。それは大きく2つ――白い布の破棄と、多恵の身柄確保だ。特に後者の比重は大きかった。
「くっ……!」
 身構える多恵。だがその時だった。境内にきつねの姿が現れたのだ。
「妖狐……!」
 眉をひそめる亮一。一目見てその正体を看破した。
(だがこれは……)
 亮一はその妖狐の真の姿に気付いていたが、あえて口にしなかった。
 妖狐のそばに、もやもやっと映像が浮き上がってくる。それは紅蓮の炎に焼かれる若い男女の姿と、大蛇に身体の自由を奪われた老人の姿だった。
「お……お父さん、お母さん! それにお爺ちゃんまで……!」
 はっとする多恵。3人の姿は多恵の家族のようだ。
「貴女は己の恨みを晴らす為に肉親が生贄となっていることに気付いておらぬのか?」
 妖狐の口がゆっくりと動いた。
「貴女が悔い改め、誠にこの神社を守っていくと誓うなら、家族は助けるが如何?」
 辺りが沈黙に包まれた。多恵は唇を噛み締めている。
「……嘘。こんなの嘘! こんなことはないはず……ねえ、そうでしょう? 何とか言って!」
 多恵が家族に呼びかけた。
「多恵……もう止めなさい……」
 不意に女性の声が響き渡った。
「お……お母さん……」
 信じられないといった表情の多恵。白い布がだらんと下がっていた。亮一はその隙を見逃さなかった。
(今だ!)
 亮一は鳥型の式神を放った。目標は白い布――式神は白い布へ矢のように飛んでゆくと、白い布をくわえて奪い去った。
「ああっ!」
 多恵が慌ててももう遅かった。白い布をくわえた式神は、ライティアの前で白い布を落とした。
 白い布をつかんだライティアは、ポケットから取り出したライターで火をつけた。
「これで終わり……ですね」
 燃え上がる白い布。多恵はそれを呆然と見つめていた。その間にシュラインが多恵に向かって走り込んだ。
「この……っ!」
 シュラインの右手が、多恵の右頬を鋭く叩いた。乾いた音が境内に響き渡る。
「……もう呪いなんてできないわよね。でも……あんたには手がある、頭がある、足がある……動かしなさい。気持ち持て余してるなら私でも川田でも誰でもいい、殴れ。私が許す」
 シュラインがきっぱりと言い放った。
「さっき言ったみたいに被害者の声を集めて裁判やったっていい。やる気あるなら……私できるだけ金沢来て手伝うわ。どうする?」
 じっと多恵を見つめるシュライン。亮一もライティアも2人の様子を黙って見つめていた。
「うっ……ううっ……」
 多恵の目から涙があふれはじめた。そしてシュラインの身体を、両手で何度も何度も叩き始めた。
「うわああああああああぁぁぁぁっ!!!」
 何度も何度も涙を流しながらシュラインの身体を叩き続ける多恵。シュラインはただなすがままにさせていた。
 いつしか多恵の家族の姿は炎や大蛇の呪縛が解け、姿を消していた。謎の妖狐の姿と共に。
 多恵の泣き声だけが、その場に響き渡っていた――。

●裏側で【6B】
「答えを聞くまでもなかったですね」
 静かに微笑むさくら。沙耶が深く頷いた。2人は境内の外からずっと見ていた。多恵に幻影を見せたのはさくら、そして自らの身体に多恵の母親の霊を呼び入れたのが沙耶だ。見ての通り、かなりの効果があった。
 多恵の泣き声は、まだ聞こえていた。

●卯辰山展望台にて【7】
 3日後――一行は卯辰山の展望台に居た。ここからは金沢の市街が一望できるのだ。
「いい場所でしょう? 向こうに見えるのが日本海で……」
 一行と一緒に居てためぐみが説明する。傍らには葛葉の姿もあった。
 事件後、状況が落ち着くまではということで、一行は金沢に留まっていた。その間に色々と知らなかった事実が出始めていた。
「けっ、贈賄かい……市会議員、県会議員、おまけに国会議員まで疑惑が出てきてやがる……こりゃ強ぇ訳だ。何かありゃ、揉み消しやすいしよぉ」
 十三が地元の新聞を手に、吐き捨てるように言った。
 川田は翌日に警察へ向かった。今までやってきたことの全てを話すために。贈賄の話はそこで出てきたことだった。
「一大スキャンダルですね。贈賄だけでなく、他の件でも捜査が始まるそうです。件の交通事故も、車に細工をしていたと自供しているそうですから。ただ土地を取り戻すのは難しいようです……ともあれ川田に罪を償わせることができるだけでも、まずはよしとしておきましょう」
 亮一が静かに言った。仕事柄警察の上層部の人間と面識があるので、色々と話を聞き込んできていたのだ。
「川田の様子はどうだって?」
「おとなしいそうですよ。ただ、留置場で何やらうなされているそうですが」
 十三の質問に亮一が答えた。
「レポートはどうされるんですか?」
 さくらが尋ねた。心配そうな視線だ。
「碇さんにはこの3日間で書き上げてファックスで送っておきました。……ああ、多恵さんの名前は伏せていますからご心配なく。もっとも、3人の悪行は余すことなく記しておきましたが」
 その亮一の言葉を聞き、さくらは胸を撫で下ろした。
「それにしても、『た・な・か・さ・え・か』と『さ・か・な・か・た・え』……アナグラムだったのね」
 シュラインがぽつりとつぶやいた。3日間の間に、ふとそのことに気付いたのだ。
「あのままでよかったのかな」
 ライティアが誰ともなく尋ねた。慶悟は煙草をくわえたまま無言で市街を見下ろしていた。ソネ子も同様に市街を見下ろしている。
「呪いは法で裁けない……でしょ。警察へ突き出しても、立証できるのは脅迫罪くらいでしょう。それに未成年……色々と考えたらね、これが一番よ」
 一行は思案の末、多恵を警察へ突き出さなかった。その代わり、生きて全ての罪を償うことを約束させた。罪を抱えたまま、生き続けることを選ばせたのだ。
「三浦さんも居ますから……きっと大丈夫ですよ。これから何があっても……」
 笑顔で言う沙耶。沙耶は昨日、1人で三浦の病室を訪れていた。そしてこう頼んできたのだ。『多恵さんを守ってあげてください』と。三浦は笑みを浮かべそれに頷いていた。
「あの……」
 葛葉が細い声で言った。
「今度はその、普通の旅行で……金沢に遊びに来てください。その時はご案内しますから」
「そうそう、金沢に悪い印象持たれたまま帰ってほしくないですし……」
 葛葉の言葉に、めぐみが補足した。
「そうね、次は純粋に遊びで訪れたいわ。確か6月は『百万石まつり』もあるのよね……あ、1ヶ月違いで残念」
 シュラインがおどけるように言った。皆の間から笑い声が漏れた。
 展望台には5月の心地よい風が穏やかに吹いていた。全ての重苦しい空気をも運び去るかのように――。

【呪い人よ、こんにちは【完結編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0476 / ライティア・エンレイ(らいてぃあ・えんれい)
                 / 男 / 25 / 悪魔召喚士 】
【 0622 / 都築・亮一(つづき・りょういち)
                   / 男 / 24 / 退魔師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全21場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせしました、金沢を舞台にした調査の3回目、最終回をお届けします。高原は色々な意味で今回が一番大変だったなと思いました。話が入り組んでますので、ぜひとも他の方の文章にも目を通してみてください。
・細かい理屈は抜きにして、今回の呪いの仕組みを説明しておきましょうか。まず携帯電話で対象の位置を捕捉しています。これは省略することも可能ですが、呪いの確実性を上げるために行われました。携帯電話のなかった昔は別の何らかの手段で対象の位置を捕捉していました。次いで、乙女の証のついた白い布を使って呪う訳ですが、この際乙女の証をつける手伝いをした男の生気なりを削ってゆくことになります。そして、白い布が焼失等で失われた際には術師へ反動が来る……と。
・当初高原は救いのない結果で終わるんじゃないかと思ってたんですが、皆さんの行動で何とかなったようですね。正直、高原は全員死亡という展開も想定していましたから。
・多恵は三浦と共に温州神社を守ってゆくようです。生きて罪を償うために。
・草壁さくらさん、12度目のご参加ありがとうございます。多恵に幻影を見せたのはよかったと思います。本文を見ていただければ分かりますが、いわゆる相乗効果という奴ですね。実はさくらさんの行動が一番時間がかかっています。横森の家へ行くのが時間かかっていますので。ですが、結果的にはちょうどいい時間になりましたね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。